逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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物凄くアンケートがハナ差の猛レースだったので、折衷案でフユミの過去語りダイジェスト版が始まります。
過去編きちんとやるとクッソ長いし、オリ娘だらけなのでこの作品の主旨じゃないので、別作品にする機会があればそっちで書きます。
なおそれでも長いので、過去語りがうざかったら「浸りすぎーーー!!!」とこのページを殴り飛ばして次に飛んでください。


幻のゴーストレコードを追え!

「僕にとって、サイレンススズカは……一番の仮想敵だった。絶対に、勝たねばならぬ存在だった」

 

周囲の全員が、フユミの言葉に絶句した。

ウマ娘本人が他のウマ娘をライバル視することならわかる。

実際、ダイワスカーレットは同室のウオッカと張り合っていることが多い。

だが、トレーナーが一人のウマ娘を打倒したいという発言をするなど、この場にいる者全員が聞いたことがないものだ。

しかし、それを言ったフユミは、淡々としていた。

 

「僕の担当した三人は、本当に優秀だった。二人が同時にデビューしていたら、ティアラとクラシック三冠を僕の率いるチームで独占出来ていたと、今でも確信している。もう一人も、その二人に追随する優駿になると思っていた。三人は仲が良くてな。三人は全員が同じチームになることを希望していた。得意な距離も違うから路線もかち合うこともなかったから三人同時の担当を、僕は引き受けた」

 

「フユミトレーナー、どうして三人を引き受けたんだ?新人で三人は身に余る人数だ」

 

ハルヤマは至極当然のことを訊く。

当然だ。

普通なら新人が三人も相手に指導出来るとは思えない。

 

「あの時、三人の優駿の才覚に僕の目が眩んでいた。夢を見ていた。そして僕は未だ、あの時に夢見た未来を忘れられていない。今だって、これが醒めれば消える悪夢であればと願うよ。だが、これは現実だ。僕が立っていたトレセン学園は現実だった。それを、サイレンススズカが思い出させたんだ」

 

フユミは懐かしむように、ゆっくりと語る。

ここから先は、言ってしまえば、断片的にしか語られていない真相のほんの一部だ。

 

「模擬レース、そこに僕は担当の一人を送り出した。今でも思い出す。芝1800、出走は16人。スタートで飛び出したサイレンススズカを最初、僕は見誤った。レースを知らない奴がいたものだと呆れた。だが、それが間違った認識だとサイレンススズカ1人が突入する最終コーナー前で気付いた時には、僕に出来ることはなかった。詰めるにはあまりにリードが大きかった。気付いた彼女は懸命に追走したが、それでも差し切るにはまだ彼女の下地が足りていなかった。結果はコーナーで置き去りの大差。別にそれはいい。これから鍛え直せばいいだけ。まだ担当トレーナーもいないウマ娘にここまでの大敗は想定外だったが、ここはトレセン学園だ。どんな優駿の芽がそこかしこにあっても不思議はない。サイレンススズカを除けば他には力強く勝っているのだから問題ない。僕はそう、思っていたんだ」

 

「でも、担当していたウマ娘はそうじゃなかった?」

 

「最初の一人目は、そこで欠けた。去る時に言われた言葉は今でも覚えてるよ。忘れはしない。『柵の向こうにいるトレーナーより、前を走る遥かに遠くの背中のほうが信じられる』……重い言葉だった」

 

理事長とたづなさんは、その言葉に顔をしかめた。

トレーナーにとって、その言葉がどれほど重いかは、今更問うまでもない。

ハルヤマも、ダイワスカーレットから言われたら……と想像して身震いした。

ダイワスカーレットも、そこまで言い放ったウマ娘のことを思って俯いた。

そしてマヤノトップガンは、明らかに怒っていた。

 

「なんで!?どうしてその娘はトレーナーちゃんにそんなこと言うの?マヤわかんないよ!」

 

「マヤ、それはな」

 

「だってトレーナーちゃん、その娘に勝ってもらいたかったんだよね!?なのになんで!?マヤわかんない!」

 

「マヤは……強い娘だな」

 

フユミは怒っているマヤノトップガンを膝に載せて、頭を撫でて宥める。

 

「そこから、あとは櫛歯が欠けるようだった。クラシック級で避けたとしても間違いなくシニア級で当たるだろうサイレンススズカのゴーストを追って、残りの二人には少し重めのトレーニングを組んだ。本人達も、ターフを去った最初の一人の分まで、と乗り気だった。模擬レースの戦果も上々。そして、一人目が去ってから三度目の模擬レースで二人目がサイレンススズカとぶつかった。ハッキリ言えば、完勝だった。サイレンススズカは4着でこちらは1着。ただ、僕達には虚しい勝利だった」

 

「俺がスカウトしたあとのことだな。当時、サイレンススズカにラップタイムの維持と足を溜める走りを教え込んでいた頃だ」

 

フユミの言葉に、ハルヤマが答える。

ハルヤマにしても、苦々しい期間だった。

レースの走り方がわかってくれれば、先頭で逃げ切るという無理をしなくても、簡単に勝てるだけの足がある。

なのに、それが出来ない。

この弱点をどうするか、ずっと考えていたと思う。

サイレンススズカは1人で走る分にはペースキープもスパートのタイミングも問題ない。

だが、それがレースだと上手く行かない。

どうにか克服したい弱点として、課題になっていた。

 

「あの時のサイレンススズカを見て、二人は憤った。僕だって思うところはあった。だが、いつかはあのサイレンススズカが間違いなくやってくる。それは僕達全員の共通認識だった。だから、僕達はその日から見えないサイレンススズカの影を追い始めた。サイレンススズカが覚醒してからでは遅い。その前に、サイレンススズカを倒すだけの足を求めた。あの時の僕達は間違いなく、掛かっていたのだろう。そしてある夜に、僕のところに電話が鳴った。緊急搬送先の病院から、ね」

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