逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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今回はインタビュー回みたいなものです


来年のことを語ると鬼が笑う

『激走!サイレンススズカの脱出劇!』

 

その見出しで後ろ寄りのページでサウジアラビアロイヤルカップのレポートが掲載されている月刊トゥインクルは、エリザベス女王杯の前にいつも通りに刊行された。

メインは天皇賞秋、菊花賞、秋華賞のレポートとエリザベス女王杯、ジャパンカップの記事ではあるものの、GⅢレースに過ぎないサウジアラビアロイヤルカップは先月号の特集もあり月刊トゥインクル読者からも注目されていた。

ジャパンカップ出走予定の海外選手も集まる時期でもあるので、この時期はいつもより倍の厚さの特別号となる月刊トゥインクルがいつもより分厚い状態で、他の目玉GⅠレースがある中でのGⅢレースを特集するという事態。

長年の月刊トゥインクル読者ほど、その意味を理解していた。

 

来年の月刊トゥインクルは、クラシックをサイレンススズカを軸足に置いて特集するという予告だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、年末からクラシック路線の展望をフユミトレーナーから聞き出そう、という企画でして」

 

月刊トゥインクル編集部の横にある応接室、そこにフユミは招かれていた。

いつもの勢いの凄い記者さんと、ハゲ頭におしりがつらい人向けクッションを嵌め込んだような髪型の中年太りのおっさんがそこにいる。

なんでチリチリアフロの髪にペグシルをいっぱい刺してるのかはわからないが、確か月刊トゥインクルの名物編集長だったと、フユミも記憶の片隅に覚えている。

 

「あまり、未確定なことは言えませんが……」

 

「構いません。あくまでも予定ですから」

 

「予定は未定、では答えにならないでしょう?」

 

「それだとさすがに困るので、こちらからの様々な質問に答えてもらい、こちらで予想したローテをフユミトレーナーに見てもらって、掲載許可が出たならそれを載せる形ですね。よろしいでしょうか?」

 

「正否までは言えないですが、それでよければ」

 

この日、乙名史記者は燃えていた。

いつもと同じく、胡散臭さのある微笑みを崩さない顔。

しかし、今はそれが仮面だとわかっている。

サウジアラビアロイヤルカップのウイナーズサークルで、サイレンススズカを抱き抱えていた時の真剣な顔を、乙名史記者は知っている。

あの顔を引き出すことが、今回のインタビューで一番の目的だ。

 

「まず、今回勝利したサウジアラビアロイヤルカップですが……出走した理由などはありますか?」

 

「冬に入る前に、サイレンススズカの実力をわかる人にはわかる形で御披露目したかったのがあります。注目度を高めてくれた月刊トゥインクルさんには感謝しています」

 

「女帝エアグルーヴを差し返しての勝利という強烈な内容に、当日はネット上でもだいぶ騒がれていましたね」

 

「あのレースはサイレンススズカを大きく育てました。そのレースが注目されるのは、喜ばしいですね」

 

「次のサイレンススズカのレースは朝日杯かホープフルかとファンの予想も白熱してますが、そこは決まっているのでしょうか?」

 

「年末の予定は決まっていて、サイレンススズカは朝日杯に出走予定です。ホープフルについては、正式に僕の担当になったマヤノトップガンを送り出します」

 

「フユミトレーナーの膝にいつも載ってる娘、で一部に有名ですが、いきなりホープフルですか?」

 

「はい、ホープフルステークスです。そこにマヤノトップガンを送り出します。そこからマヤノトップガンはクラシック路線に突入させるつもりです」

 

「マヤノトップガンがクラシック路線……そうするとサイレンススズカは競合しないように高速展開を見越したティアラ路線になりますか?」

 

「それに関しては、既にわかる人にはわかるようにターフ上にメッセージを出したつもりです。ここで言葉に出来るとしたらサイレンススズカはクラシック期よりも先のことを考えています、という感じですね」

 

わざとらしい笑顔が、より強くなった。

真意を読み取らねば、と乙名史は考える。

クラシック期よりも先を考える、つまりクラシック三冠路線やティアラ路線にサイレンススズカを出すつもりはないということだろうか。

中長距離を走る脚がないというのならわかるが、走らない理由が見当たらない。

 

「サイレンススズカがティアラ路線にもクラシック路線にも全く出ない可能性もあると?」

 

「必要があれば出走する、くらいの感覚です。名誉あるレースよりサイレンススズカの成長に必要なレースを、と思っています。もちろん、サイレンススズカが出たいレースがあればそれを優先しますが」

 

 

 

 

 

「んー、肩が凝るな」

 

首を回すと明らかに肩が固くなっている。

もともと凝り性ではあるが、今日は慣れない形のインタビューで疲れた。

最後に編集長が「このローテ予想を掲載してもいいか?」とオークスのみを回避してNHKマイルを触ったティアラ路線で予想を出してきた物に、最初はどう返事するか迷った。

読者ウケとか考えたのだろうが、もう一捻りあるとばかり思っていた。

そもそも、クラシックの内はサイレンススズカをじっくりと育てたいのでクラシックにしろティアラにしろ三冠そのものを予定していない。

ただ、当たらずとも遠からずという微妙なところだったので、掲載についてはオーケーを出した。

これを見たら、たまに合同でトレーニングしているダイワスカーレット辺りがひりつくだろうが、実際の予定ローテを開示すれば問題はないだろう。

 

インタビューを終えて月刊トゥインクル編集部のあるビルから出た、今の時点で4時を回ったところ。

今から飯田橋を出れば、なんとかトレーニングが終わる頃には帰れるか。

今日はこの取材の出張があるのでトレーニングは休みの予定だったが、ハルヤマがダイワスカーレットとの併走トレーニングを頼んできたのでサイレンススズカを預けている。

出来れば直接、様子を見ておきたい。

サイレンススズカには、まだまだ課題がある。




クラシック期で登場人物が出るレースは既に全部決まってるので、予想しながらお楽しみください。
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