逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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特殊タグの使い方が、少しずつ身に付いているように感じます。
特殊タグの存在、忘れないようにしないと……


たたきつけろ!挑戦状

アタシは、小さい頃からママが大好きだった。

いつも日が出るかどうかの内に家を出るママを、頑張って早起きして見送るのが習慣になって、早起きが得意になった。

いつも夜七時半に帰ってくるママのために料理も覚えた。

いつも一緒に晩御飯にして、お風呂に入って、ママの子守唄を聴きながら夜九時に寝るのが小さな頃のアタシの幸せだった。

学校の行事や授業参観には、忙しいのに必ず来てくれた。

その日はママと一緒に家に帰れるのが、嬉しかった。

アタシが勉強を頑張ると、ママが褒めてくれた。

スポーツテストでいい結果を出したのが認められてトレセン学園への推薦が来た時、ママがとても喜んでくれた。

その頃には、アタシはママに喜んでほしいのと同じくらい、自分が一番になりたくて頑張っていた。

レースなら、間違いなく一番が誰かがハッキリわかる。

トレセン学園に来るのを選ぶのに、迷いはなかった。

もちろん、凄い人はたくさんいた。

でも、負ける気なんてなかった。

 

あの日までは。

 

下り坂でエアグルーヴ先輩が内から入ってきた時、負けたくなくて競り合った。

そして上り坂まであと二歩のところで、外からアイツが急に顔を出してきた。

ムチャクチャで、ふざけてて、雑で、あと勉強は不真面目で、でもレースにだけは真剣で、いつもいつもアタシの後ろから外側に顔を出してくるルームメート。

 

こんな時に、と思った。

負けたくない!

負けたくないのに!

二歩目の足が、出なかった。

左右から挟まれて、抜け出すために脚をどこに持っていくかを、考えてしまった。

ほんの一瞬の躊躇いで、前が閉じた。

手を伸ばせば、そこにいたハズのアタシの背中が、遠い。

一番のアタシは、そこにいるのに。

一番のアタシの背中は、アタシの姿から遠退いていく。

アタシの前に仁川の坂を駆け上がる背中は、アタシのよく知る別の背中と被って見えた。

 

 

 

 

 

 

そこにいる一番のアタシの姿は

 

サイレンススズカだった。

 

 

 

 

 

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……クゥッ……ウゥッ!」

 

最後のコーナーを抜けたストレート入り口の下り坂。

一回、アタシの後ろを走っただけなのに、二回目に普通に併走していたら、スズカ先輩はアッサリと前に出る。

追えば追うほど、スズカ先輩が遠退く。

脚が、上がらない。

スズカ先輩が最後の上り坂に脚を踏み出すと、アタシとの差がますます開く。

下り坂を飛び込みきれてない?

違う。

スズカ先輩のペースにそもそも付いて行けてない。

アタシが上り坂を上がった頃には、流して外側で息を整えていたスズカ先輩が待っていた。

 

「初めて走ったけど、ここのストレートは大変ね」

 

そう言っているスズカ先輩は楽しげで、息が上がっているアタシと同じところを走っていたとは思えない。

仁川の坂を隔てて、自分とスズカ先輩の間に壁を感じる。

すぐそこなのに、届かない。

 

「スカーレット?」

 

「スズカ先輩……アタシ……」

 

悔しい。

認めたくない。

そもそも、スズカ先輩は関係ない。

それなのに、スズカ先輩の顔が見れない。

 

「どうしたの?」

 

きょとんとしたスズカ先輩の顔。

ゴール板を越えるといつもこうだ。

レースをどうやって勝つか、自分がどうやったら速く走れるか、どうやったら負けないか、そんなことをああだこうだと考えて走っているアタシとは、根本的な違いを感じてしまう。

 

エアグルーヴ先輩が言ったことが、改めて心に突き刺さる。

 

「お前はスズカにはなれない」

 

その通りだ。

理想のアタシの後ろ姿が、自分からスズカ先輩に変わった瞬間に、気付いてしまった。

悔しい。

悔しいッ!

 

「スズカ先輩……アタシ、負けたくない」

 

「うん」

 

スズカ先輩を困らせてしまうと思う。

そもそも、スズカ先輩の予定もあるのに、フユミトレーナーにも迷惑だろう。

それでも、アタシはそうしたい。

 

「スズカ先輩、お願いがあります」

 

 

 

 

 

 

阪神ジュベナイルフィリーズの結果は、ダイワスカーレットにとってはかなりつらいものだろう。

エアグルーヴが内にいなければ、ウオッカに差されても返せた。

ウオッカがいなければ、外からの引っ掛かりもなくエアグルーヴと競り合って勝っていた。

ダイワスカーレットの脚は、それが出来る強さがあった。

最後の坂上がりの第一歩、その躊躇いでダイワスカーレットは負けたのだ。

その一歩が前に出ていたならば、ダイワスカーレットが勝っていた。

 

サイレンススズカだったら、どうだっただろうか?

 

必要なことは競り合いでどれだけ意地を張れるか、だろう。

次の方針は決まった。

 

「トレーナーさん」

 

「ん、おかえり。仁川の坂はどうだった?」

 

考えていたら、サイレンススズカとダイワスカーレットが帰ってきていた。

サイレンススズカの表情には、仁川の坂に苦しんだ様子はない。

隣にいるダイワスカーレットが、意を決したような表情で、サイレンススズカの一歩前にいる。

 

「仁川の坂は確かに難しいですが、あと何度か走れば掴めると思います」

 

「そうか。それで……何かあったか?」

 

「フユミトレーナー、お願いがあります」

 

「僕に?ハルヤマにじゃなく?」

 

ダイワスカーレットが頭を下げてきた。

担当ではない僕に、何を頼みたいのか。

朝日杯の観戦だったら別に好きにすればいい。

ホープフルステークスの滑り込みキャンセル待ちなら、ハルヤマに頼むべきだろう。

何を頼みたいのか、どうにも読めない内に、ダイワスカーレットは口を開いた。

 

「はい。スズカ先輩と……桜花賞を走らせてください!」

 

「桜花賞を?」

 

「はい。フユミトレーナーにも予定があるのは知ってます。それを担当でもないアタシのお願いで曲げてほしい、なんて有り得ないワガママなのは承知してます!それでも、アタシはスズカ先輩と……サイレンススズカと戦わないと……きっと一番のアタシになれないんです!お願いします!」




※ダスカちゃんはメインヒロインではないのでタグ入りしません
ダスカちゃんのファンの聖地なら他にあるからね!検索妨害になっちゃうからね!
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