逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

58 / 212
マヤノトップガン、リミットオフ

ホープフルステークス

GⅠ 中山 芝 2000 内 16人

 

年末の中山で始まるクラシッククラスの鐘を鳴らすジュニアクラス最後の関門。

一年のレースは中山に終わり、一年のレースは中山から始まる。

スタート地点の目の前にいきなりの坂、そして山なりのコーナーバンクからの下り坂を抜けると平坦なストレートからのコーナーに入り、そして窪地に入って一気に最初の坂が牙を剥き、トドメを刺しに来る。

その弐撃決殺の山登りを越えた先のウイニングランを駆け抜ける者が勝者となる。

このホープフルステークスを征した者の多くが、クラシック路線ひいてはクラシッククラスそのものを征してきたデビューしたウマ娘に立ちはだかる最初の関門だ。

 

ちなみにお馴染み「中山の直線は短いゾ♡」で有名な中山レース場最後の直線の実際の距離は1ハロン半、310m。

数字ではそこまで短く感じないだろうが、実際にはその真ん中110mは高低差2m以上、勾配計算約2%の坂、勝者と敗者を隔てる断崖絶壁である。

 

なお、今回は秋川やよい理事長によるURAファイナルズの開催発表とそのスケジュール調整により、今後行われる年末最後のGⅠがホープフルステークスで完全に固定されることが決定したため、“年末最後の有馬記念をもう一度”のファンの声が殺到。

この年だけ、有馬記念とホープフルステークスが開催日を入れ換えることが決定した。

それ故に朝日杯フューチュリティステークスから週が空かなかったため、阪神ジュベナイルフィリーズとホープフルステークスにジュニアクラス有望株の出走が集中した。

けして、あとで日程見直してガバをやってたとかではない。

断じてない。断じネスないのである。いいね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マヤ、これが何かわかるかな?」

 

「わぁあああっ!ネズミさんの遊園地のチケットだぁ!」

 

パドックに出る前の地下通路、マヤノトップガンの頭を撫でながらフユミがピラリと内ポケットから出したのは二人分の、中山から直線距離はそこそこ近くて、実際に行くとちょっと遠い夢の国のワンデーパスだ。

 

「マヤが1着なら、明日はこのチケットでデート。負けちゃうと……」

 

「負けちゃうと……?」

 

「2枚ともスズカが貰っていく」

 

「えぇっ!?」

 

サイレンススズカは突然、巻き込まれた。

騒がしいところは苦手だから、間違いなく自分からは行かないところなのに。

 

「やだやだやだぁ!マヤ勝っちゃうもん!ネズミさんの遊園地行くんだもん!」

 

「よし、じゃあ……1着で勝ってくるのを、待ってるぞ。誰の目にもわかる勝ち方で勝ってこい」

 

フユミはジャケットの内側にチケットをしまうと、マヤノトップガンの頭を撫でる。

 

「わかったぁ!待っててね!」

 

走ってパドックに向かうマヤノトップガンを見送ったあとに、サイレンススズカはじっとフユミの顔を見る。

 

「あの……トレーナーさん」

 

「……悪かった。マヤに発破かけるのに巻き込んで」

 

「いえ……そのチケット、本当に用意してるとは思いませんでした」

 

「こういうのを嘘にすると、恨みが深いからな。ちゃんと用意しておくさ。おかげで出費が痛い痛い。すまんが、明日はマヤとデートに付き合わないといけないから休みだ。すまないな、スズカ」

 

「いえ、たまには私も気分転換してきます」

 

トレーナーさんはなんだかんだで、マヤノトップガンの勝利を決め付けてると言っていい態度だ。

そうなるだけの根拠はある。

この一週間、マヤノトップガンのトレーニングだったハズなのに、気付いたら自分がトレーニングされていたサイレンススズカは、少しだけため息を漏らす。

マヤノトップガンの現状確認に近いトレーニングの時点でも、凄まじいものだった。

正直に言えば、付き合っていた自分のほうがゾッとする時も多々あった。

マヤノトップガンとのレースとなったら、勝てるかわからない。

もっとも、そうなることはないのだけど。

トレーナーさんは私とマヤノトップガンとの同時出走はメリットが何もないから考えていない、と言っていた。

つまり、マヤノトップガンと自分が同じターフを走ることはないのだ。

それが少しだけ、寂しいのはなんでだろう。

 

「さ、観客席に行こう。マヤに追われたり追ったりしたことはあっても、マヤが追い回す様子を見たことはないだろう?いつも、どうやってマヤが後ろから来るのか、遠巻きに見るのもいい経験になる」

 

地下通路から観客席へと向かう彼が、考えて立ち止まっていた私のほうを向く。

 

「そこでぐるぐる左回りしてるよりは、学ぶものがあるぞ?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「スカーレット、お前は出なくてよかったのか?」

 

「何に?」

 

ダイワスカーレットは、トランクケースに荷物を詰め込んでいく。

寮に戻ってきて、一週間もしない内の旅支度だ。

 

「ホープフルステークス。滑り込み枠にお前なら間に合っただろ」

 

阪神ジュベナイルフィリーズから二週間後のホープフルステークス。

中距離戦はダイワスカーレットの得意なレースのハズだ。

滑り込み申請で、出走出来ただろうこのレースを、ダイワスカーレットはアッサリと蹴った。

 

「愚問よ。アタシはまだ、半端なの。ホープフルステークスには、そのレースのために完璧に仕上げてきた連中が集まっているハズだわ。半端なアタシじゃ、太刀打ち出来ないほどね。だから完璧なアタシを、チューリップ賞までに仕上げる。そして、完璧なアタシとして桜花賞に挑むの」

 

バタン、とトランクケースを閉じる。

ホープフルステークスの日から、学園は冬休みになる。

ダイワスカーレットは、トレーナーとどこかに修行の旅に行くらしい。

どこに行くのかは、ウオッカも知らない。

 

「じゃ、アタシは行くから。よいお年を」

 

「お……おぉ、また来年な」




というわけで、今回のアンケートでトトカルチョのコーナーです。

今回のホープフルステークス、ずばり二着は誰でしょう!

※決着は既に全部決まってるのでアンケートの結果で変わることはありません。

ホープフルステークス、2着を当てましょう!

  • 1番マヤノトップガン
  • 10番トウカイテイオー
  • 3番ナイスネイチャ
  • 13番マチカネフクキタル

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。