逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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ホープフルステークス

『年末の中山に新星が集う、ホープフルステークス!クラシッククラス一年の激闘、その口火を切るのは誰だ!?冷たい風の吹く中山レース場、本日の天候は晴れ、バ場状態は良での発表です』

 

時間になり、ゲートにそれぞれが収まっていく。

おそらく、これが最後の有馬記念より前のホープフルステークスだ。

誰も彼もが、勝ちに来ている。

 

『堅実な走りの3番人気、3番ナイスネイチャ。メイクデビュー戦では破れるも未勝利戦で圧勝してここに来た2番人気マチカネフクキタル、7枠13番での出走です!』

 

そして、当然のアナウンスが響く。

 

『一番人気を紹介しましょう!10番、トウカイテイオー!』

 

観客席がテイオーコールに沸く。

ルドルフの再来、クラシック三冠最有力と目されるだけある。

そのテイオーコールに包まれた中山、そのコースの1番ゲートで頬をむにむにとマッサージしながら、マヤノトップガンは出走の時を待つ。

フユミからの指示は「勝ってこい」。

マヤノトップガンにとっては、この言葉には大きな意味がある。

 

『ゲートイン完了、出走の準備が整いました……』

 

構えたマヤノトップガンのまぁるい目が、わずかに細くなる。

ゲートが、開いた。

 

『スタートです!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハナは2番と11番の競り合い、その後ろにトウカイテイオー、外から14番、2バ身空けて9番、その後ろナイスネイチャ、内5番、後方に8番、並びまして外からマチカネフクキタル、その内マヤノトップガン。そして後方集団が追走。序盤から間延びした縦長の展開です』

 

「始まったね」

 

「マヤノトップガンはずいぶんと出遅れたようだな。内枠での出遅れとは、大きな痛手だと思うが?」

 

「さぁ?どうだろうね。このレースは波乱を呼ぶ招き猫がいるから」

 

「貴様の賭けたマヤノトップガンは、その招き猫の後ろだが?」

 

男はビンの口からまた王冠をあっさりともぐように外して、残りのオレンジジュースを飲む。

 

「波乱はどこからでも起きるさ」

 

「フン、言っておくが着順で先だったほうが勝ちだからな?どっちも2着以下だからドロー、などとは言わさん」

 

指で弾かれた王冠が、また音を立ててエアグルーヴの目線の高さまで飛ぶ、そして落ちる。

 

「言わないさ。信頼がないねぇ」

 

「貴様の言動は、ターフの上にいる時しか信用ならん」

 

「ひどい言い種だ。君は本当に私に担当をやらせたいのかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘタだなぁ、キミタチ」

 

不敵に笑いながら、先行する二人の後ろをトウカイテイオーは走る。

外側の11番がやや前なのは、トウカイテイオーが二人を抜くためには大外を回るしかない状況を作るためだ。

そして、それを塞ぐために14番が斜め後ろにピタリと付いた。

大外を回ろうとしたら前に出て、そのまま斜行で失格を取ろうというわけだ。

2番は多少は遅くなってでも内ラチのギリギリを塞いでいく。

外目には二人の競り合いにしか見えないが、その実は三人がかりでの対テイオー共同戦線だ。

しかしそれは折り込み済み。

ここが中山ということを忘れている。

ストレートの最初の坂を登り切る前。

そこでトウカイテイオーは外に出た。

14番はまだ最初の坂上がりの最中。

11番がトウカイテイオーの動きに気付いて外に膨らむ。

 

はい、掛かった!

 

トウカイテイオーは11番が膨らんだ内を容赦なく突く。

2番は内ラチギリギリを攻めていたので速度が足りない。

前に出ていた11番がラインを戻そうにも、目の前には既に次のコーナー。

強引に戻せば減速は免れない。

 

トウカイテイオーは2番と11番の間に差し込み、そのままコーナーのヒルクライムに並んで入る。

坂と動揺で速度の乗らない二人を置き去りに、トウカイテイオーは前に出る。

そしてそのままコーナー出口の下り坂を一気に駆け降りた頃には、2バ身差を付けていた。

 

『2番と11番の競り合いの間を突いた!ここで先頭がトウカイテイオーに変わります!コーナーを抜け、先頭はトウカイテイオー!』

 

トウカイテイオーは、あとは好きに走るだけ。

後ろに遅れた14番、無駄に膨らんだ11番と内ラチの2番を壁に後続を引き離して、自分はサラッと走って1着でゴール。

実に簡単で、シンプルなレースだ。

 

三人組はせいぜいトゥインクルシリーズGⅠ出走ウマ娘の意地でガンバってくれたまえ、ニッシッシッ。

 

トウカイテイオーにとって、このレースは既に決着したものだ。

あの三人が早々に諦めて壁を崩すようなら、最初からこんなところに来るわけがない。

つまり、自分のところに届く前にあの三人の壁を抜かなければそもそも勝負にもならないのだ。

残り1200mの間に後続が四苦八苦する間に、こちらは好き放題に走ればいい。

これで、負ける理由など……どこにある?

 

 

 

 

 

 

 

「派手に仕掛けるわねー。さすが主人公だわ」

 

ナイスネイチャは、トウカイテイオーの派手な早仕掛けに感心しながら走る。

アッサリと包囲を破ったトウカイテイオーに、三人が無理な追走を仕掛ける様子はない。

まぁ、あんな包囲網はテイオーにしか抜けないわ。

今からあそこに後ろから飛び込んだら、あの三人はきっと意地でも通さない。

自分から仕掛けるなら、あの三人がテイオーに逆襲するためにフォーメーションを崩さざるを得ないタイミング。

最後の直線?

違う。

今、まさに登り坂でやられたのに中山の最後の直線で仕掛けても、差しきれずテイオーに逃げられる。

 

テイオーの蓋をするのは、競り合いが出来るもうひとりがいないと話にならない。

 

あー、やだやだ。

他力本願になってる。

これじゃ、本当にモブじゃん。

少しは脇役なりに意地ってものを見せたいじゃん。

 

さて、自力で勝負するには……

前を走る9番を少し動かしますかね。

 

『ナイスネイチャ、外からジリジリと進出を始めた!』

 

ナイスネイチャは少しずつ外から前を走る9番との距離を詰める。

ジリジリと寄せつつ、あくまでも追い抜かず、半バ身前に出る。

ちらっと目線だけを9番に向ける。

そして、目が合った瞬間に一歩分だけ前に出る。

9番が慌てた顔をした。

 

『おっと、9番がここでナイスネイチャをかわして前に出る!その外から、ナイスネイチャが続く!』




アンケートは23時30分に締め切りますねー。

ホープフルステークス、2着を当てましょう!

  • 1番マヤノトップガン
  • 10番トウカイテイオー
  • 3番ナイスネイチャ
  • 13番マチカネフクキタル

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