逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー 作:エアジャガーる
「トレーナーちゃーんっ!」
「おかえり、マヤ。言い付け通りに“勝って”きたな」
ウィナーズサークルでフユミは走ってきたマヤノトップガンを抱き上げて褒める。
お姫様だっこされてるけど、あれ確かサウジアラビアロイヤルカップの時もお姫様だっこされたような……
サイレンススズカは思い返して、恥ずかしさに顔を手で隠す。
マヤノトップガンは、はしゃぎながら手を振ってるけど、自分は確かトレーナーさんにしがみついていたような……
あれ、自分のほうがもしかして恥ずかしいことになっていたのでは?
ウィナーズサークルまで付いてきたことを、サイレンススズカは物凄く後悔した。
「いいぞー!やれやれー!」
「マヤノちゃんかわいいぞー!」
「次もお姫様だっこやれよー!」
あれ?
勝つとお姫様だっこされるの?
次のレースは、確か私の番じゃ……
恥ずかしさに目が回る。
結局、マヤノトップガンのアピールが終わるまでサイレンススズカは自爆で恥ずかしいままウィナーズサークルに顔を隠して左回りすることになったが、それがスレでgifで貼られて使われ続けることになったのをサイレンススズカが知ることはない。
「マヤちんだいしょーりーっ!ぴーす!」
「なんでだよー!マヤノの気配はどこにもなかったのにー!」
「あー、お腹を叩くな。キドニーブローはキツい」
ライブのあと、控え室に入った瞬間にボコボコとトウカイテイオーにお腹を叩かれた男は、少し青ざめてお腹を押さえながらトウカイテイオーを制止する。
「なんで!ボクはちゃんとネイチャとフクキタルを見て、伸びそうなネイチャに蓋して逃げ切るところだったのに!マヤノはどこにもいなかったのに!」
「マヤノトップガンならコーナーを抜けたところで既にテイオーの後ろにずっといたぞ」
「えっ?」
無理を言って急いで用意してもらったパトロールビデオの動画をタブレットで再生する。
問題の最終コーナー。
トウカイテイオーはわざと内を一人分空けて、内から伸びてきたらステップして塞ぐ構え。
トウカイテイオーの外はコーナーで膨らんで飛び出した分のロスがあるから坂まで逃げ切ればあとは末脚の差で勝つ。
つまり、この時点でトウカイテイオーは完全にレースを支配していた。
ただ一人、トウカイテイオーが捉えていなかったナイスネイチャとマチカネフクキタルのさらに少し後ろ、ちょうどトウカイテイオーの背中、真後ろにいたマヤノトップガン以外は。
坂に入った瞬間にトウカイテイオーはナイスネイチャの前を塞ぐように内にずれた。
僅かに外が開いた。
マチカネフクキタルが坂を残った末脚で上がろうとする横を、マヤノトップガンがまっすぐに上がる。
ナイスネイチャはマヤノトップガンとトウカイテイオーに完全に前を塞がれた。
マチカネフクキタルはマヤノトップガンを塞ぎにかかるが、それより先にマヤノトップガンが前に出てしまった。
そしてマヤノトップガンが出たそこは、トウカイテイオーの真横。
トウカイテイオーは内に逸れたが、マヤノトップガンはほぼまっすぐに坂を上がった。
無意識で内によれたトウカイテイオーと、ほぼまっすぐに走ったマヤノトップガン。
どちらが速いかは、言うまでもない。
「マヤノがこんな末脚してるなんてボク知らない!なんで!?先週の合同練習の時はこんな走りしてなかった!」
「私達はマヤノトップガンに騙された。いや、フユミトレーナーにか……どっちにしても、騙されたのは一緒だ」
男はトウカイテイオーに、内ポケットから出した紙を渡す。
先週の合同練習での、模擬レースの記録だ。
「なにこれ?先週の模擬レース?」
全部で7回やって、トウカイテイオーが4回勝って、マヤノトップガンが3回勝った。
トウカイテイオーはハッキリと記憶している。
「まずはマヤノトップガンが1着だったタイムのところをよく見てみろ」
「芝2000を2:12、2:08、2:10……それがなんなんだよぉ!」
「次はテイオーが勝ったタイムを見てみろ」
「見なくても覚えてるよ!2:04、2:06、2:10、2:09……2:04は自慢のタイムなんだぞ!」
やはり、トウカイテイオーは気付いていない。
いや、マヤノトップガンは気付かせていない。
「今日のマヤノトップガンの記録は、2:03.2だ。この意味がわかるか、テイオー」
トウカイテイオーは頭を捻り、捻り、そして、どんどんと顔の筋肉から力が抜けて表情が消えていく。
「……まさか……まさかだよ?ボクは……ボクは……マヤノに手加減されてたの?」
「少なくとも、マヤノトップガンはあの日に2:05を切らないタイムで走っていた。真面目に練習をしていると思っていた私達は見事に騙された」
男はトウカイテイオーに、あまりにも残酷な推察を告げる。
どうか勘違いであってほしい、しかし、自分なら同じことをしたと堂々と言える手品の種明かしを。
「あの日、マヤノトップガンは“真面目に遊んでいた”んだ。私達に真面目に練習しているマヤノトップガンの姿を見せる遊びを、ね」
あり得ない。
あり得ない。
走る度にマヤノトップガンの走りはメチャクチャだった。
かなり後ろから猛追してきたけど逃げ切られたり、大逃げの真似をしてガス欠したり、自分の走り方がまるでない。
ただ走ることすら下手なんじゃないかと思った。
あのマヤノトップガンが、全部が。
全部が、嘘。
「気付いた時には、マヤノトップガンの前のトレーナーが出張していた上になんとか探し出した資料は数も少なく見つけた資料も古く、なんの参考にもならなかった……そのせいで確証は一切ない。だが、それが1番……って、おいっ!待て!」
みなさんも私も忘れ気味ですが、この作品はバクシン的単純娯楽二次創作です。