逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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乙名史の問いかけ

「冬休みなのに、変わらない走り込みですね」

 

「スズカ本人が望んでいるので」

 

冬休み、本当ならこの時期は有記念や年末年始のレースに出るウマ娘でもなければ、トレーナー付きで練習することはない。

ましてや、ホープフルステークスが有記念より先に終わってしまった以上、ジュニアクラスはほぼ見当たらない。

記念組は既に中山に移動した以上、このグラウンドにいるのはフユミとサイレンススズカ、あとはウオッカとそのトレーナーくらいか。

まばらに自主練で走りに来た見知らぬウマ娘もいるが、ずっとコースを走っているサイレンススズカに後ろからまくられて逃げ帰ったり、サイレンススズカを追いかけようとしてはコーナーでちぎられたり、そもそもサイレンススズカに付いていけずに後ろからサイレンススズカに抜かれたり、散々な目に遭っている。

 

「で、記者さんはなんでここに?中山のお祭りの取材のほうが書き応えのある記事を書けると思いますが」

 

「そっちは編集長と若手が向かってますから。なにより、私はフユミトレーナーの番記者ですよ」

 

タブレットをいじるフユミの隣には、取材に来た乙名史が立っていた。

今日はいつものスーツ姿に、寒いのか長めのコートを羽織っている。

 

「……スズカの番記者だったハズでは?」

 

「編集部の方針が変わりまして。ホープフルステークスでのマヤノトップガンの勝利は強烈なインパクトがありましたよ。トウカイテイオーの動きを読みきった差し足。あれで、編集部の注目はサイレンススズカから、サイレンススズカとマヤノトップガンの担当であるフユミトレーナー、あなたに移りました」

 

「マヤはレースに勝つ理由さえあれば勝ってくる娘ですから。日頃からスズカとマトモにやり合える時点で、他とは立っているところが一段階違う」

 

「そのアピールの場に、弥生賞ですか?」

 

弥生賞の出走申請リストをさっそく見たらしい。

ウェブ版なら候補のウマ娘から逆引き出来るから、すぐにわかるか。

 

「サイレンススズカさんとマヤノトップガンさん……どちらが勝ちますか?」

 

「どちらが勝ってもいい、どっちも勝ってほしい、なんて世間受けするような答えはお望みではないようですね」

 

ズバリ核心に迫ってくる乙名史に、フユミは誤魔化すのを諦めた。

乙名史にこういう誤魔化しは時間の無駄だ。

 

「スズカとマヤの才能は両極端で、ターフを速く駆ける才能はスズカが圧倒的だし、レースを勝つための才能はマヤにクラシックで並ぶ者はほとんどないでしょう。弥生賞の結果は、今の僕から出せるレースの答えそのものだと言ってもいい。一番、現状の結果を知りたいのは他ならぬ僕なんですよ」

 

「なるほど、そして弥生賞からマヤノトップガンさんは皐月賞、サイレンススズカさんは桜花賞に進むことまでは発表済みですが、弥生賞の結果でこれが変わることはありますか?」

 

「そこは変わりません。どちらもそれぞれ二人が挑まれた勝負なので、弥生賞の結果に関わらず、そこを変えるつもりはないです」

 

「同門対決となると、BNWのクラシック三冠路線が思い出されますが、それを二人で行う可能性は、まだありますか?」

 

「ありません。ダービーとオークスは出してもどちらかのレースにどちらか、なんなら全面的に回避するほうが可能性が高いものとしておいてください。今期のダービートレーナーを進んで目指すつもりは、ありません。菊花賞と秋華賞も、理由は違えど出る可能性については同じです」

 

「……クラシック期をずいぶん投げますね」

 

「勝負はシニア、もっと言えば菊花賞と秋華賞のあとに待つエリザベス女王杯かジャパンカップから始めるつもりです。言うでしょう?ジュニアで神童、クラシックで才子、シニアではただの人。そして、彼女達のキャリアはシニアからのほうが長い。僕はそっちを大事にしたいんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか、ブライアン」

 

柔軟体操をしていたビワハヤヒデのもとへ、ナリタブライアンが来た。

中山レース場、最後の大舞台に着実にスターが集まってきた。

クラシック三冠を達成したナリタブライアンは前年、クラシック期でありながら有記念でビワハヤヒデと激突。

後ろのナリタタイシンやウイニングチケットをも押さえ付けて競り合うが、わずかにビワハヤヒデがハナ差で勝った。

そのせいで担当トレーナーはネット上で「レースは頭のでかさが勝敗を分ける」「やはり最後は頭」「頭を使え(物理)」と盛り上がったのを、ビワハヤヒデの耳に入れない努力を強いられた。

 

「姉貴、今年こそは勝つ」

 

「去年より一段と強くなったな。だが、私もこの日に備えてきた。今年も、私が勝つ」

 

「ハヤヒデェエエエエエエッッッ!アタシだって負けないぞォオオオオオオオッ!!!今年のグランプリウマ娘はッ!アタシだァアアアアアアアアッ!!!」

 

「うっさ……耳に響くからいきなり叫ぶな……」

 

怒号のほうからは叫ぶウイニングチケットと耳をふさいでいるナリタタイシン。

付き合いが長いせいですっかりウイニングチケットが叫ぶ前に耳を押さえる癖が身に付いてしまった。

 

「……どうだ、ブライアン。レースは楽しいだろう?」

 

「……そうだな。確かにそうだ」

 

ビワハヤヒデの言葉に、ナリタブライアンは静かに頷く。

野良レースでは、アマチュアではわからなかったが、ここなら楽しめる。

追う背中がある、背中を追われる、それがこんなにも楽しい。

明日は、年に一度のお祭りだ。




エアグルーヴとマヤちゃんのイベントだって!?やったー!SSRエアグルーヴサポがスピードアイコンでハヤテ一文字くれるって信じてるからな!もしくはマヤちゃんが賢さアイコンでコンセントでもいいぞ!

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