逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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サトノレイナスゥーッ!!!!!!(府中の方言でお待たせしましたの意味)
ブラックドラゴンこと乳ジャージーのイベント回したりドーベル2凸まで頑張ってました。
1日更新をサボった報告は以上です。


やってきた者と帰ってきた者のエチュード

「遅いぞー!フユミ!」

 

「出走レースは午後だろう?昼から顔を出す必要はないハズだが?」

 

「レース前の仕上がりも、ちゃあんと観せたかったんだよ。後ろの娘達が、電話で言ってたお前の今の担当か?」

 

 京都レース場、腕を組んでふんぞり返り仁王立ちするウマ娘の像が立つ入り口で、フユミ達を待っていたのは、革のトランクバッグを片手に持ってブラウンのスーツに身を包んだ体格のいいバタ臭い顔の中年男性だ。

朝から府中を出て淀まで電車に新幹線にと乗り継いでの旅は、それだけでも疲れる。

京都まで行ってすぐ帰るのも、もったいないからと、フユミはサイレンススズカとマヤノトップガンも伴って来た。

このまま泊まり込んで2日ほど淀で走らせるつもりだ。

 

「あの、この方は……?」

 

「彼はイーサンジュニア、海外を飛び回って有望なウマ娘をスカウトして回ってるURA直属のスカウトマンだ」

 

「その呼び方はやめろ。はじめまして、お嬢さん達。私はアイザックだ」

 

「あ、はじめまして。サイレンススズカです」

 

「はじめまして!マヤノトップガンだよ!」

 

 バタ臭い顔の男アイザックはサイレンススズカとマヤノトップガンと握手していく。

 

「ところで、トレーナーさんはなぜシンザン記念がある今日、ここに呼ばれたんでしょう?」

 

「それについては、これから付いてきてもらえるかな?実際に見てもらったほうがいい。フユミだけじゃなく、君達にも関わりのある話だ」

 

「待て、勝手に彼女達を巻き込まないでほしい。決まってもないどころか、受けるつもりもない話だ」

 

 アイザックはフユミの言葉に、ニッと笑う。

フユミが何を言い出すか、わかりきっていたかのように。

 

「実物見てからも同じこと言えるか……試してみるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、京都に?」

 

あちこちに絆創膏や包帯をしたダイワスカーレットは、部屋に戻るまでまるで姿を見なかったサイレンススズカのことをウオッカに訊いたところ、思わぬ答えが返ってきた。

 

「ああ、トレーナーが京都に用だからついでにちょっと京都で走り込むんだってさ」

 

 冬の砂浜でカゴを背負って手にしたハサミでゴミ拾いしながら走り込んだり、森の中をフルフェイスヘルメットの天狗に追われたり、ライフジャケット着せられたと思ったら急流の中をハルヤマの乗ってるカヌーと併走させられたり、上から伸びる妙に太い鉄の鎖1本を掴んで崖を登ったり、石段をきっちり段差の数を数えながら登り降りしてるのに毎回毎回数が合わないことに恐怖したり、やっと登った山の頂上で座禅したり石を積んだり、年末年始を返上していろいろやって帰ってきたダイワスカーレットは、サイレンススズカに新年の挨拶をしようとしたが、本人が不在なら仕方ない。

果たして本当にこれで脚が速くなったのか、サイレンススズカとの併走で確認したかったのだが……

 

 

「入れ違いじゃ、仕方ないわね……久しぶりにスズカ先輩と走ろうと思ったけど……」

 

「野良レースしたいなら、俺とやろうぜ?らしくもねぇ山籠りしてきたんだろ」

 

「自分を鍛え直したい、って言ったら意味のわかんない修行させられたのよ。レースどころかターフすら久しぶりだから、ちゃんと走っておきたいの」

 

「よし、やろうぜ。俺もただ食っちゃ寝して正月過ごしてた訳じゃねぇとこ見せてやるよ」

 

 ウオッカにとっては二週間ぶりの張り合いのあるルームメートの帰還だ。

ウオッカは年末年始をサイレンススズカのジョギング感覚の走り込みに振り回されたり、マヤノトップガンに前でひたすら邪魔されたり後ろからつつかれて遊ばれたり、ダイワスカーレットに負けてないトレーニングをしたのだ。

一時期の追い詰めていたダイワスカーレットではなく、今の明らかに一回りは力を付けてきたダイワスカーレットがどう走るのか、沸き立たないと言えば嘘になる。

挑まれたダイワスカーレットは、いつものムキになって突っ掛かってくる表情をしなかった。

ウオッカに向けた表情はどことなく、余裕を感じる表情だった。

 

「いいわよ。どのみち、あんたともやりあわないといけないし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タイキ、待たせたな。言ってた奴を」

 

「ザァックッ!後ろの彼がトレーナーさんデスカー!?」

 

 アイザックが控え室の扉を開けた瞬間に、中から廊下にまで飛び出した影がフユミを壁まで押し込むように抱き付く。

一瞬でフユミの「ぐえ」という声すら置き去りにした。

 

「……そうだ。今、お前が絞め落としかけてるのがお前のトレーナーだ。離してやれ」

 

「オォッ!ソーリーッ!大丈夫デスカー!?」

 

「と、トレーナーさん!?」

 

 飛び付いたウマ娘がそのままフユミの肩を掴んでブンブンと揺する。

サイレンススズカがあわてて割って入ってなんとか、フユミから引き剥がしてようやく、そのウマ娘の姿をちゃんと見る。

 

「トレーナーさん、大丈夫ですか?」

 

「……すまん、身体の強さにはそんなに自信がないんだ。で、君が日本に来たというウマ娘か?」

 

「イィッエーェスッ!!!タイキシャトルデース!!!よろしくお願い、シマース!!!」

 

 フユミは締め上げられたり揺さぶられたりしてフラフラになりながら、タイキシャトルを名乗るウマ娘の姿を改めて見る。

身体の線は太め、しがみつかれた時に気付いたがかなりの筋肉質。

体格もかなりしっかりしている。

瞬発力とパワーはかなりのものだろう。

しかし、問題がある。

 

「……よろしくお願いされるとは、一言も言ってないんだが……」


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