逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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その女、狂暴につき

「下で他のウマ娘に絡まれた?」

 

「はい。振り切るのに邪魔で、リュックを投げてしまいました……」

 

「あぁ、うん。別にそれはいい。どうせ水を入れたポリタンクしか入ってないし……」

 

「ダァアラッシャアアアアアアアッッッ!!!」

 

 フユミがリュックを捨てたことをしょんぼりと謝るサイレンススズカの頭を撫でようとしたところに、奇声を挙げながら飛び蹴りで突っ込んでくるウマ娘の脚を、間に割って入ったグランマが掴んで、そのまま投げ飛ばす。

 

 ドグシャァアアアッ!といい音をしながら駐車場に投げ飛ばされたウマ娘がそのまま転がって起き上がる。

 

「いってて……何すんだよ、ばーさんっ!」

 

「その娘は私の客だよ。手出しすんじゃない」

 

「……なんだ、ばーさんの客かよ。で、そのばーさんの客は何しにこんな時間までずっとこの山道を攻めてたのか、理由を聞きてぇんだが?」

 

 白髪のウマ娘が埃を払いながら、フユミ達のほうに歩いてくる。

同時に、坂の下からもウマ娘達が集まってきた。

サイレンススズカが振り切ったのはこのウマ娘達だろうか。

 

「ただのトレーニングだ。邪魔なら帰るが」

 

「いいや、帰せねぇなぁ。ヨソ者がこの山道を好き放題に走り回って、登りとはいえ地元の奴がチギられてんだ。タダで帰せるわけねぇだろぉ?」

 

 長身で白髪のウマ娘がフユミに突っ掛かる。

フユミとほとんど同じ目線で顔を近付けて睨み付けている。

対するフユミは、物凄く冷めきったような目をしている。

サイレンススズカは、今のフユミの目に見覚えがある。

ホープフルステークスのレース後に控え室でミスタークラウンと話していた時の、あの目だ。

 

「……嘆かわしい。グランマが寂しがるわけだ。これじゃグランマがずっと“グランマ”なのも納得だ」

 

「ンだとぉ!?」

 

 グランマがグランマのまま?

グランマって、おばあさんって意味では?

いったい、どういうことなんだろう。

とりあえず白髪の体格のいいウマ娘が、フユミのシャツの襟を掴むくらいには侮辱的な発言らしい。

それでもまだ、フユミは表情ひとつ変えない。

 

「グランマ、僕達はそろそろ帰るよ。スズカもカンは掴んだみたいだしな」

 

「あたしゃあ、帰してやりたいんだがね。そこの跳ねっ返り共はどうやらそうじゃないらしい」

 

 そんな状況でも口調の変わらないフユミの言葉に、グランマは肩を竦める。

出入口のほうには五人組が囲い、長い白髪をパイナップル縛りにしたガタイのいいウマ娘は、フユミのシャツの襟を布が引っ張られてるのがわかるほどの音で掴んで、それぞれフユミ達を逃がさないように張っている。

白髪のウマ娘がフユミを一方的に睨むような睨み合いの中、金髪のウマ娘が気付いたようにサイレンススズカに指差した。

 

「姉御!ソイツのジャージ、どっかで見たと思ったらトレセンの奴っすよ!」

 

「トレセン?船橋の奴か!てめーら、フラワーラインであれだけ後ろから突き回してやったのに、性懲りもなくまーた養老橋を跨ぎやがったのか!?」

 

 白髪のウマ娘は青筋立ててヒートアップしていく。

どうやらここにいるウマ娘はトレセンが相当に嫌いらしい。

 

「トレセンの奴ってことは、ちったぁ走れんだろ?アタシと勝負しやがれ!二度と養老橋を渡ろうなんて思えなくしてやらぁ!」

 

「断る。誰も得しない」

 

「ンだコラァッ!ノリのわからねー奴だなぁ!海にぶちこんでアナゴのエサにしてやらぁ!」

 

 フユミに殴りかかろうとした白髪のウマ娘の前に、サイレンススズカが無言で割って入る。

 

「……走りますよ」

 

「スズカ」

 

「あなた、私より速いと思ってるんですよね?」

 

「当たり前だコラァ!あたしゃあ、この山道の」

 

「なら、走ります」

 

「おい、スズカ」

 

 白髪のウマ娘の言葉を無視して、サイレンススズカは走ると言い出した。

眉をひそめて、苛立ちの籠った目付きで。

サイレンススズカは、明らかに怒っている。

 

「私は走るのだけが得意なんです。それを疑われたままでは、帰れません」

 

「……はぁ、わかった」

 

「おいコラ無視すんな!」

 

 明らかに怒っているサイレンススズカの態度に、フユミは内心で頭を抱える。

この白髪のウマ娘は、サイレンススズカの地雷をピンポイントに踏み抜いた。

その証拠に、サイレンススズカは肘や膝のプロテクターをフユミに断りなく勝手に外していく。

普段はおとなしいのに、走ると言い出すと絶対に意思を曲げない。

こうなったサイレンススズカを止める方法を、フユミは持ち合わせていない。

 

「スズカが走りたいなら、仕方ない。走るのは、登りからの往復か、下りからの往復か、登り下りの片方だけか?」

 

「好き勝手言いやがる……登りからの往復だ!」

 

「姉御!そいつは!」

 

 フユミのシャツの襟から手を離した後の白髪のウマ娘の言葉に、金髪のウマ娘が慌て始める。

本当に、サイレンススズカが意固地になってなければ走る意味がない。

サイレンススズカが走ると言い出したらまず聞かないから、フユミは今更になって止めないが。

 

「グランマ、止めてやんなくていいのか?」

 

「止めてどうこうするなら、最初から突っ掛かるものかね。ボーヤが止めないなら、私も止めないわ。どうせなら、日が落ちてギャラリーが集まってからにしな。そのほうが決着もハッキリしていい」

 

 五人組がグランマの言葉にどよめく。

こちらとしては、サイレンススズカの脚の疲労を抜ける時間があるのはありがたい。

フユミとしては、そもそも走らせるメリットを、まるで感じないのはさておき。

 

「スズカ、夜の山道は暗いから気を付けるようにな」

 

「はい」

 

 気付けば五人組は白髪のウマ娘を囲んで説得していた。

サイレンススズカは既に走る気満々だから、今更止めてもサイレンススズカは一人で走ってしまうだろうに。

 

「いや待ってくれよ!姉御!よりにもよって登り往復なんて!」

 

「そうだよ!さすがにマズいって!」

 

「考え直してくれよ!」

 

「いいや、登り往復だ。他でやるならアタシは降りる!あとソイツ殴る!」




一晩でショックなことが立て続けに起きたので寝てる場合じゃねぇ……とバクシンした。ゆるして。
私はそこそこ長い連載中のウマ娘カテ作品としてまだまだがんばるからよ……
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