逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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おまたせしました。バクシン本舗です。


ミッドナイト・ラン

「スズカ、足を出して」

 

「はい、お願いします」

 

 山頂の駐車場から車で下りてきて山道の麓、スタート地点となる登りの入り口の脇で、フユミはサイレンススズカを椅子に座らせて、サイレンススズカの足から履いていた靴とソックスを脱がせる。

踵を片手で持ち、伸ばした足の甲を爪先から足首までを手で撫でたあと、足首を少し曲げて土踏まずの縁を親指で少し強めになぞったあとに、足裏を親指で圧していく。

指の付け根から下を、特に念入りに。

 

「靴、替えるからな」

 

「はい」

 

 包装から出した新しい少し薄手のソックスを履かせて、踵と爪先にぴたりと嵌めたあとに、脇に置いていた箱を開けて、中から新しい靴と少し厚い中敷きを出す。

中敷きを一度、足裏にピタリと合わせたあとに、新しい靴の中に差し込み、サイレンススズカの足に履かせて靴紐を縛っていく。

 

「登りはそのまま同じ感覚で走れるだろうが、下りは最初の数歩に違和感があると思う……まぁ、慣れたら速く走れるハズだ」

 

 もう片方の足も同じように靴を嵌めて、靴紐を縛ったあとに、今日既に走り倒して脱いだ靴を、箱の中にしまう。

フユミはここまで、一度も笑うことがなかった。

サイレンススズカは、思う。

笑ってない時の彼のほうが、やはり彼の素なんだと。

 

「コーナーの要所要所に電灯が点いているが、日が落ちた山道だ。気を付けるようにな」

 

「はい」

 

「なんだよ、さっきからよぉ。シンデレラに靴を履かせる王子様かァ?」

 

「王子様、か……」

 

 後ろからの芦毛のウマ娘の言葉に、フユミがすっと目を閉じると、いつもの笑顔に戻したフユミがそちらへ振り向く。

 

「物語の最後、シンデレラにガラスの靴を履かせたのは王子様だが……12時を過ぎて魔法が解ける時間を迎えたハズなのに置き去りのガラスの靴がそのままだったのはなんでだと思う?」

 

「簡単な答えじゃねぇか。ガラスの靴をガラスの靴だと思っていたのはシンデレラだけだった。そもそも魔法すらなかった。本当はカボチャの馬車なんかなくて、ドレスだって埃を払っただけで、靴は革靴のまま、シンデレラは実のところ踊りひとつで王子様をメロメロにしていたって訳だぁ。どーよ?これでも、ペローとグリム兄弟ならしこたま読んでるんだぜ?」

 

 芦毛のウマ娘が腕を組んで自慢げに言う。

学生の身で翻訳ではなく原文を読んでいるというのなら、確かに自慢になるだろう。

 

「そこまでわかってるなら、今の僕が王子様ではないことは百も承知のハズだ」

 

「確かに……魔女か鳩かっつーたら、鳩だな。お前」

 

「それなら、爪先と踵を切り落として両目を抉られることにならないように気を付けるんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しくない、かぁ……」

 

 風呂上がりの寝巻き姿でベッドに寝転び、天井を見上げながら、ダイワスカーレットは呟く。

マヤノトップガンが言った言葉を、ダイワスカーレットは思い出す。

 

“スズカちゃんとしか、もう楽しくないの”

 

 それを言ったマヤノトップガンは、笑っていた。

笑っていたハズなのに、寂しそうだった。

ホープフルステークスのマヤノトップガンの走りを観ていて、あれでマヤノトップガンの実力を疑問視することは出来ない。

自分がもし阪神ジュベナイルフィリーズからそのまま滑り込みで連戦していたとして、あれほど狙い澄ました一差しを自分はどうにか出来たとは思えない。

トウカイテイオーが弱かったなんてことはない。

ナイスネイチャだって、レース運びは磐石そのもの。

マチカネフクキタルは……よくわかんないけどなんか凄い。

それだけのウマ娘を相手に、マヤノトップガンはアッサリと勝ってしまった。

勝敗は、ほんの一瞬だった。

あんな鮮やかに勝たれては、こちらの立つ瀬がない。

普段からサイレンススズカを相手に併走しているマヤノトップガンからしたら、スローペースもいいところのレースだったのだろう。

 

 楽しくない。

 

 レースに対してそんな感想を抱いたマヤノトップガンが、ダイワスカーレットには、空恐ろしく思えた。

勝つか負けるか、苦しくとも戦い抜いて、走りきって、そうやって一番をもぎ取ってきた自分とは、何もかもが違うのだと思い知らされた。

少なくとも、勝ったから負けたからという感想ではなく、レースそのものを楽しくないと言ったのだ。

クラシック三冠を取りに行くことを公言して憚らないトウカイテイオーよりも、よほど怖いものに見えた。

走りたいがままに先頭を好きに走ってそのまま勝つサイレンススズカと、どっちが怖いのだろうか。

 

「おーい、スカーレット。眉間、スゲー皺になってんぞ」

 

「うっさい」

 

 隣のベッドでバイク専門誌を広げているウオッカに言われて、壁のほうを向く。

ティアラ路線を選んだことに、安堵している自分がいる。

そんなことが認められなくて、気付けば指が鳴るほど握り込んだ拳に力が入る。

何を安堵しているんだ。

自分はサイレンススズカどころか、そこでバイク専門誌を観て一人で盛り上がっているウオッカにも、エアグルーヴにも勝っていないというのに。

 

 思い上がるな。

まだ、私は何も手にしていない。

悔しいけど、自分はまだステージに上がれていないのだから。

だから、まずは勝たなきゃいけない。




スズカさんの足書いてたらうまだっちしちゃったので更新が遅れました。

あたしゃもともとエロ物書きなのじゃよ……
ガイドラインがなかったらとっくにスズカさんでうまだっちでうまぴょいな見せられないよを禁則事項してピーしてニョホホイする文章書いてたのじゃよ……
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