逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー 作:エアジャガーる
前にガードレールと藪の壁が見えてくる。
S字のヘアピンコーナー、しかも折り返した今度は勾配がそのままキツい下り坂に化ける。
芦毛のウマ娘は大きく膨らみながら曲がってコーナーに入り込む。
あの速度で、あの歩幅のストライドじゃ、曲がりきれない。
そう思った瞬間に、ガンッ!と金属音がする。
ガードレールの曲がっているコーナー部分の側面、そこを走った!?
ガンッ!ガィンッ!と三歩目で飛び、路面に戻った。
「嘘でしょ……」
そんな方法で曲がっていくなんて、頭がどうかしてる。
自分が丁寧に入り口でインベタに入っても、そこから折り返した次のヘアピンでアウトに変わる。
負けられない!
そう思った瞬間に、勾配が内から外へと斜めに落ちて傾くヘアピンコーナーで、脚が、身体が、勝手に前に出たのに気付いた。
まるで、脚が勝手に転がったかのように、脚を軸にしたテコのように。
“慣れたら速く走れるハズだ”
ジグソーパズルの全部のピースが噛み合ったような感覚がする。
身体を前に倒し気味に、踵から足を出して、爪先に向かって体重を滑らせるように!
暗く見辛い下り坂の下に向かって、思いっきり飛び込むように!
コーナーの寄りたいほうに、身体を傾けながら!
最初のコーナーから次のヘアピンコーナーの間で、芦毛のウマ娘とラインがクロスする。
ヘアピンコーナーで身体が坂の下へ下へ、脚が進んでいく。
コーナーの外のほうへと引っ張られる力から解き放たれたような。
身体の傾きを少しずらすだけで、走りたいラインをなぞれる。
わかった!これでやっと、思いっきり走れる!
「サイレンススズカがインに入った!」
「今日の課題は……合格点、だな」
サイレンススズカは普通に走れば、インベタの苦しいラインでS字ヘアピンコーナーを抜けて加速していく。
サイレンススズカはようやく、本来のスピードで下り坂を駆ける。
薄暗い山道、それも走りをコントロールしにくい下り坂。
無意識に感じている恐怖がある内は、しっかりと地面を踏んで走りたがる。
しかし、そうすると重心が前に行かず、歩幅は小さくなり、不自然なフォームになってどんどん走りが遅くなる。
そこで、踵を厚めにした靴の調整だ。
彼女が致命的にフォームを崩す前に、先に踵が引っ掛かって走りにくくなる。
登りでは爪先が薄めの走りやすかった状態からの落差で、踵が引っ掛かって走れないことに、サイレンススズカは相当イライラするだろう。
そうなればどこかしらで下り坂への怖さよりも、思うように走れない苛立ちが勝り、必ずフォームがいつもよりも更に突っ込み気味の前倒しになるタイミングがある。
その時に、あの靴にかかった真の魔法が効果を見せるハズだ。
「さて、あとはサイレンススズカのハイスピードダウンヒルだ。ゴールドシップ、だったか?あの芦毛のウマ娘がどれだけ追走出来るか……見物だな」
「なっ!んだとぉっ!!!」
S字ヘアピンコーナーの1つ目のコーナー、そこでガードレールを踏み台に曲がりながら突入して次の切り返しのヘアピンコーナーで踏ん張りながら大外を回り、駆け抜ける。
その隣で、右側にいる栗毛のウマ娘が前傾姿勢で信じられないほどの速度で切り返しのコーナーのインベタを突いて、ジェットコースターみたいにインを抜けて、先にS字のヘアピンコーナーをクリアしていく。
いったい、どうやったんだ!?
速ければ速いほど、身体が外に振り回されるこのヘアピンコーナーを、信じられない速さでインベタを走り出しやがった。
ここはそんなことが出来るようなコーナーじゃねぇんだぞ!
しかも、そのまま勾配が更に下に向くストレートにそれ以上のスピードで突入していった。
下り坂であのスピードじゃ、一度でもどこかで躓けば大変なことになる。
一度転べば勢いそのままに坂を転げ落ち、山肌にぶつかるか藪を突き破って崖下か、そのどちらかだ。
登り坂からターンして足に疲労が出てくる後半のダウンヒル、ましてや日が落ちて暗くなったこの時間。
不慣れなら怖くてたまらないハズだ。
だと言うのに、猛然と暗い山道をまるでなんの苦もなく突っ走っていく。
頭のネジが数本吹っ飛んでるか、何も考えてないか、どっちかとしか思えない。
いや、あの速度でちゃんと自分の走りをコントロール出来ているんだ。
その証拠に、じりじりと距離を離されていく。
アタシの得意なハズのダウンヒル、それで離されていく。
下り坂に対する突っ込みが、いつもより甘くなっている?
緩やかなカーブの、ほぼ最短距離を突き抜けてるのは同じハズなのに、まるで追い付けない。
前を走る栗毛のウマ娘の攻め込みに、このアタシがビビってる?
「んなわけあるかぁあああああっ!!!」
このバトルも決着寸前、最後のほぼ直角のクランクの1つ目で、栗毛のウマ娘はまるでコーナーの出口に前から引っ張られるように抜けていく。
ここで並べば、2つ目はイン側から膨らんで、そのままブロックしながら立ち上がりでラストのストレートを下りて、こっちの勝ちなんだ!
意地で同じように曲がろうとして、足裏がスリップする。
「げっ!」
滑った足がひび割れの段差で引っ掛かって、身体が跳ねる。
浮き上がった身体は、アウトへと飛ぶ。
「やっ!べぇっ!」
足を伸ばして、ギリギリで捉えたガードレールを踵で蹴り、後ろに引っ張られる身体を前に倒して、両腕を横に広げて、ガードレールの後ろに生える藪を掴んだのもあって、なんとかコースアウト寸前で引っ掛かった藪で道路から崖に落ちずに、藪を背もたれに倒れたような形で止まる。
ここの藪の茎が固くて助かった。
ただ、もうそこから走って追い付くのは、もう無理だ。
追っていたウマ娘の姿は見えない。
これは文字通りの、完敗だ。
「あっちゃぁ……負けたかぁ……」
ジェミニ杯、負けるのは貧乏人な自分が悪いのでそこはどうでもいいんです。
チームレース以上のテンポの悪さはなんとかならんのですか?