逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー   作:エアジャガーる

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少女達の懸想

「トレーナーさんの理想のウマ娘は、私の……サイレンススズカのゴーストですか?」

 

 再び車に乗って、高速道路に入った頃。

ラジオが1日のニュースを報じ始めて退屈になって、つい切り出してしまった。

今日は、どうにも余計なことをつい聞き出そうとしてしまう。

 

「今はそこが目標であっても、そこが君の到達点だとは思わない。それをぶち抜こうとしているウマ娘が、君の他にもいる限りは」

 

 他のウマ娘……

思い当たるのはざっくりと二人。

ダイワスカーレットと、マヤノトップガン。

 

 ダイワスカーレットが桜花賞で明確に挑戦状を叩き付けてきたのは、阪神JFで前を走る自分の姿を見てしまったかららしい。

要約すると本物の私より前に行くことで、その幻想を祓いたいのだと言っていた。

そんな理由で挑まれたのは、なんだか少し腹が立った。

自分からは絶対に負けてなんかやらない。

ダイワスカーレットが見た幻想の私なんか、私がぶち抜いてやる。

そう思ったけど、口には出せなかった。

私が怒る以上に、当時はダイワスカーレット自身が追い詰められていたから。

そして京都から戻ってきた時に会った久しぶりのダイワスカーレットは、明らかに自信に満ちていた。

そして、何度か走って明らかに速さの質が変わったように思う。

どう変わったのかは、わからないけど。

タイキシャトルとは違った手強さを感じたのは確かだ。

トレーナーさんは何も言わないけど、こうして特訓に連れ出したのはダイワスカーレットのこともあると思う。

私が振り切らなければいけないのは、しばらくその姿を見ない内に、ダイワスカーレットの見た私の幻想ではなく、ダイワスカーレット自身になったのだと思う。

 

 そして、マヤノトップガン。

最近、マヤノトップガンが自分を見る目が少し変わったような気がする。

弥生賞で2人で出走と聞かされた時、何かがおかしいと思った。

マヤノトップガンは練習で絶対に私の前を走らなくなったのだ。

具体的には必ず、後ろから差しに来るようになった。

明確に“遊び”が減ってきたのがわかる。

ホープフルステークス前よりも、更に明確になってきた。

弥生賞で私とマヤノトップガンが同時出走する話を切り出した時、勝ったほうのわがままを聞くと言ったトレーナーさんの言葉から察するに、マヤノトップガンがきっと何かを言い出したんだと思う。

 

「トレーナーさん、私とマヤちゃんのどっちが勝つと思いますか?」

 

 トレーナーさんは間違いなく困るだろう質問だ。

それでもつい、聞いてしまった。

後悔するより先に、トレーナーさんの口が動いた。

 

「スズカ」

 

「……えっ」

 

「なんだ、不満か?」

 

「いや、もう少し迷うと思って」

 

「迷う余地がない」

 

「だってマヤちゃんのことも、ちゃんとトレーニングするんですよね?」

 

「もちろん、その上でだ。言っておくがここで気を抜いたり変に迷ったりしたらマヤが間違いなく勝つから油断するな。君にもマヤにも肩入れしないようにしてるんだ、これでも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マヤノ、最近なんか思い詰めてる?」

 

 この数日で明らかにマヤノトップガンの態度というか空気というか、何かが大きく変わった。

トウカイテイオーが皐月賞でのリベンジを宣言した時ではなく、更にそのあとに。

トウカイテイオーは、さすがに我慢出来ずに聞き出そうとした。

自分のリベンジ宣言ではない理由で、マヤノトップガンが明らかに険しい顔でベッドに寝転がって天井を睨んでいるのは、少し思うところがある。

完全に、マヤノトップガンの眼中に自分がいないのだ。

 

「テイオーちゃんには関係ないことだよ」

 

「マヤノからしたらそうだと思うけどさ。ボクとしては面白くないんだよねー。いちおう、クラシック路線でのライバルだよ?ボク」

 

「スズカちゃんとマヤ、走ったらどっちが勝つと思う?」

 

「え?そんなの……マヤノじゃないの?」

 

 マヤノトップガンから出たのは、意外な質問だった。

マヤノトップガンが言ったのはおそらく、次の弥生賞でぶつかるサイレンススズカのことだ。

普通ならマヤノトップガンに決まってる。

確かに、見た限りサイレンススズカは速い。

けど、次に弥生賞であたる時の話なら、マヤノトップガンが勝つと誰もが思うだろう。

弥生賞と同じコースで走るホープフルステークスで勝っている上に、日頃からサイレンススズカと一番バトルしているのは他ならぬマヤノトップガンなのだ。

対するサイレンススズカは、メイクデビューこそ中距離だったが、そのあとの勝利した重賞2つ、片方はGⅠではあるもののマイル戦しか走っていない。

 

 誰だってコース慣れの差、練習状況、どちらもマヤノトップガンが有利と見る。

 

 それが、マヤノトップガンは明確に警戒するほどサイレンススズカを意識している。

この、ボクよりもだ。

 

「テイオーちゃんから見ても、やっぱりマヤが勝つと思うんだ?」

 

「マヤノは、そう思ってないの?」

 

「うん。だからこそ、勝たないといけないの」

 

 信じられなかった。

マヤノトップガンが、サイレンススズカを警戒するどころか、サイレンススズカに勝てるとすら思っていないことに。

溜め息を吐いたマヤノトップガンが見ているサイレンススズカは、ボクの見ているサイレンススズカと別人みたいだ。

ボクが勝たないといけない相手は、どうやらマヤノトップガンだけじゃないらしい。

 

「そっか。サイレンススズカって、そんなに凄いんだ」

 

 

 

 

 弥生賞の出走申請締め切り。

その直前に1人のウマ娘が申請を出した。

その名は“トウカイテイオー”。

 

 そして、弥生賞の待つ3月はすぐにやってきた。




さぁ、弥生賞まで跳ぶわよ!(SB20超越)
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