逃がさないスズカと逃げるマヤと逃げられないトレーナー 作:エアジャガーる
『先頭はジョバンニスコール、並んでクロノステイシス、その内ズーランバランス、2バ身離れて外からエアグルーヴ、内バジュラファング、その外並んでダイワスカーレット。ここまでが先頭集団となっております。7番手リシャーデンポート、その内アバランチライダー、続いてエターナルソード、後方レッドライダース、外クレーターメーカー、1バ身後方にジョークルホープス、内めを突いてワイルドファイア、その後方アーマゲドン、その外ウオッカはこの位置にいる。続いて1バ身後方にエメラルドティアー、その内ガルマアタック、出遅れ最後方にハウリングナグラとなっております』
エアグルーヴは4番手に、その後ろにダイワスカーレットが外から続く。
レースそのものは序盤はスローな展開となった。
内枠から二人が飛び出し、外からエアグルーヴが蓋をする形で始まり、そのエアグルーヴに追随して一人挟んでダイワスカーレットが付く。
ウオッカはやや後方ではあるものの、全体的には固まった状態だ。
先頭のジョバンニスコールは早い段階からの逃げ寄りの作戦を立てることが多いが、今回は1枠1番からのスタートということもあってか、3枠からのクロノステイシスが並ぶのを待ったかのように軽いスタートをした。
観客席が意外だったのは、ダイワスカーレットが先頭二人を追わずに5番手バジュラファングの後方という位置で留まったこと。
そして、エアグルーヴがかなり前気味に付いたことだ。
「先頭の二人、ちゃんと走ってないな。ダイワスカーレットをマークするつもりだったんだろう」
「どういうことだ?」
「今回負けてフリー枠になった時に不利が付くのはエアグルーヴよりダイワスカーレットだ。エアグルーヴはいちおうサウジと阪神JFで2着を2回しているしな。フリー枠のレートならダイワスカーレットのほうが低い。ここでダイワスカーレットを蹴落としておけば、自分達が掲示板内に収まるだけで桜花賞の有力バが減る。クロノステイシスもジョバンニスコールもオープン戦を勝っているから、フリー枠でのレート比べならダイワスカーレットに勝てる。ついでにウオッカはマークしたところで阪神JF勝利のレートだけで桜花賞に乗り込めるから無駄。必然的にレート的に蹴落としやすいダイワスカーレットを蓋するつもりだったんだろう」
フユミは膝の上のマヤノトップガンのほっぺたに指で“の”の字を書きながら中継を見る。
エアグルーヴの後ろにダイワスカーレットという構図に、現場の観客席は困惑していることだろう。
ダイワスカーレットはもっと、前のめりなレースが得意なハズだ。
エアグルーヴはもっと、後ろから差しに行くスタイルが得意なハズだ。
「ダイワスカーレットはスタートの時点でスローなレース展開に気付いたな。エアグルーヴを前に置いたまま、そこからの進出をしないまま最初のストレートを流すつもりだ」
「いつものように前に出ていたら、ジョバンニスコールとクロノステイシスに絡まれていたか。はははははっ!あぶないあぶない!」
「エアグルーヴも先頭二人並んだのを見た時点で、脚を踏み込むのをやめた。病み上がりでも、レース勘は鈍っていないらしい。女帝もさるもの引っ掻くもの、か」
「あんなゆっくり走って、あとで疲れないんでしょうか?」
「疲れるだろうな、自分のペースじゃなければ。レースに勝つのと速く走るのは必ずしもイコールではない、ということもある。ましてや、今後のレートとかまで絡むと自分が1着を取るより大事な結果もあるケースもあることが、たまにある。スズカには無縁なことだが」
サイレンススズカが首を傾げたところを、フユミは頭を撫でる。
レースはあまり動かず、ほぼそのままで阪神レース場お馴染みの大コーナーへと入り込む。
内ラチを丁寧に回るジョバンニスコールに対して、クロノステイシスは少し外に膨らみながらも内をほとんど空けずにコーナーを抜けた。
「なかなかスローなレースだ。ジョバンニスコールが内をキッチリ閉めてるから、開いた間を抜けての進出は無理。外側から抜きにかかるしかないが……」
ジョバンニスコールもクロノステイシスも余裕のあるペースだ。
抜きにかかれば当然、抵抗するだろう。
コーナーでこの競り合いは、仕掛けたほうが不利だ。
つまり、中盤戦も大きく動かずに流れていく。
勝負はこの時点で最終コーナーからの直線勝負に持ち越された。
つまり、退屈なレースになるということ。
「最終直線まで動かんな、これ。おやつを食うなら今のうちだ」
「珍しいな」
ウオッカはレース展開の見やすい後方外側からダイワスカーレットの位置を見る。
先頭集団の最後方、外側ではあるものの、ダイワスカーレットが精神的には嫌いそうな位置取り。
コーナーに入って、やや下がってきたので後続集団の先頭というほうが近い。
コーナーで大きく息を入れるダイワスカーレットがここで下がってくるのは必然的だが、それにしても普段より下がっている。
強気の先行策を打つ普段のダイワスカーレットからは信じられない位置取り。
阪神の大コーナーの半ばで、後ろが動き出した。
見物をしているのは、ここまでらしい。
『コーナー中盤、先頭は変わらずジョバンニスコール。その外にクロノステイシス。エアグルーヴはズーランバランスの前に出て現在3番手。最後方からハウリングナグラが大きく外に出て進出。ウオッカも前に出始めた。後続集団が大きく動き始めた。ダイワスカーレットは現在7番手、抑えたままです』
ジョバンニスコールとクロノステイシスは一瞬並んだあと、ジョバンニスコールが前に出た。
逃げきりにかかるつもりの動き。
対するクロノステイシスも追従して、最終コーナーに向かう。
その後ろからエアグルーヴがズーランバランスを引き離して、加速する。
リシャーデンポートがダイワスカーレットの前から、バジュラファングを抜いてエアグルーヴを追走。
ズーランバランスの内をバジュラファングが並ぶ。
『先頭はジョバンニスコールのまま、勝負は最後の直線へと突入する!クロノステイシス、外から様子を見守る。エアグルーヴが一気に上がってきた!仁川最後の直線、最初の直滑降に飛び込んでいく!』
今年の夢はクロノジェネシスでしたね。
モブ娘と名前がだだ被りしたんじゃが。