急いでセーフ!
今回から非ログイン状態でも感想を書けるようにしました!!
あれから三ヶ月が経ち、無事に退院した雨乃と野槌蛇は会社で通常業務を行っていた。
ある日の朝、出勤した雨乃が視線を向けると鍋さん含む会社の先輩達がテレビ型魔道具から流れるニュースを視聴していた。
『ククルカン』
その映像には鳥と蛇が混ざったような獣人が鮮明に描かれており、その人の手腕がよくわかる。
『目撃者の証言から描かれたこの個体は上層部がコードネームを付けた魔獣となり、依然として行方をくらませており近々指名手配の手続きを――……』
「まだ見つかんねーのかコイツ」
「なー」
「もう死んでんじゃね?」
ニュースに描かれた獣人に対して呆れたり、暇そうに見たりする会社の先輩達の後ろで雨乃は内心冷や汗をかいている。
……すっかり、大ごとになってしまった。
あの後、雨乃と人間に戻れた野槌蛇は口裏を合わせて夜遅くトイレから病室に帰ってくる最中に壁の破壊音に驚き、慌てて外に避難、道中でブリッジワームに襲われてた母親と娘を見つけ、ブリッジワームの隙を見て救出し、病院に帰ってきた虚偽のストーリーを作成した。
幸いにも母親は覚えておらず、娘も二人の説明を了承して秘密にしてくれる事となって口裏を合わせ、無事に納得されて安堵した。
ククルカンの正体が野槌蛇翼であることを雨乃は秘密に匿っている事に少しだけ罪悪感を覚えるが、短い間で野槌蛇が善人だと知り、判明したら日本中の魔法使いに追われる身になってしまう事に頭を軽く抱える。
「あ、そうだ雨乃……君とタスクにこれ、届いてるよ」
上司が机から大きめの茶封筒を二枚取り出し、雨乃に見せる。雨乃はそれを見た瞬間に緊張感を持つ。
「勝手に見ちゃったけど、二人とも合格してるよ。彼、早番で魔道具の実験してるから持ってってあげて」
勝手に見た事について上司に色々言いたい事がある雨乃だが、それよりも優先する事の為に一度抑え、上司から封筒を貰ってすぐにオフィスを出た。
向かうのは社内にある魔道具の実験室。
前は防犯対策として監視カメラを設置していたのたが、不注意によりカメラが溶け、現在はカメラが届くまで防犯対策は窓の鉄格子しかない。
目的地の実験室の扉に雨乃は手をかけ、勢いよく扉を開けた。
「先輩……!! 通りました! 一次試験!!」
雨乃の言葉に作業してた野槌蛇の手が止まり、驚いた表情でゆっくりと振り向いた。
「マジで?」
ただし、件の鳥と蛇が混ざったような獣人の姿で……
「だから何で丸出しなんだよ!!」
「ぐはっ!?」
雨乃は勢いよくドロップキックで野槌蛇を蹴り、野槌蛇は勢いに耐えきれず仰向けに倒れた。
「いてて……え? ちょっと朝から元気じゃない? これが若さ?」
「顔顔!! あんた状況わかってんのか!?」
痛む箇所を押さえながらゆっくりと立つ野槌蛇に雨乃が獣人姿を指摘する。
「やべ、いまだに気付かない内に出ちゃうんだよな……」
気付いた野槌蛇は手足を元に戻し、顔を洗うかのように顔を濡れタオルでゴシゴシと拭く。
「これでよし!」
「戻ってねーよ!!」
人の姿には戻ったが、口だけ魔獣のままでしまらない姿に雨乃は野槌蛇を叱る。
「今もそこでニュースを見たぞ!! もっと自覚を持てよ!!」
「わかったわかった。悪かったよ」
激しく叱る雨乃に押され、野槌蛇は口を元に戻しながら雨乃の言葉に反省する。その姿に雨乃は呆れながらもう一つの茶封筒を野槌蛇に渡した。
「……ハァ……はいこれ、先輩の分」
「いやー、よかったよかった」
予想よりも反応が薄いことに雨乃は首をかしげた。
「……もっと喜ぶと思った」
「いつもオレが落ちるのは二次だから」
「何でドヤ顔?」
呆れながらも雨乃は三ヶ月前に野槌蛇が魔獣の姿から戻る際に言った言葉を思い出し、複雑な心境を吐露した。
「……で、本当にやる気かよ? そんな体で続き受ける気か?」
「大丈夫! 上手~く隠すから!」
「説得力ねぇ!!」
野槌蛇は自信満々に言うが、また口が魔獣になっていた事に気付かない様子に不安を覚える。
「書類と筆記の一次と違って二次試験は魔法使いだらけだ……バレたら即殺処理の可能性だって……」
「それでも、受ける」
無理しないように今回は二次試験を見送ろうと雨乃は遠回しに言おうとするが、野槌蛇は自身の覚悟が決まっているのか即答する。
「あれから三ヶ月……色々試したが元に戻る方法は見つからねぇし、逆に馴染んできたように思える。魔法使いになるには動くのに遅すぎた……オレにとって28歳で受ける今回の試験が……事実上のラストチャンスだ」
そう言うと、野槌蛇は手の平を見つめて閉じたり開いたりを繰り返す。それは自身の中に眠る魔獣の対する力の恐怖か、それともトラウマのように刻まれた過去の呪縛か……いずれにせよ雨乃は野槌蛇の胸中に渦巻く想いを察する事はできないが、彼の悲痛な表情と瞳に宿る覚悟は人一倍大きい事に気付けた。
野槌蛇は雨乃の視線に気付き、先程のような表情を消しておおらかに笑った。
「……それにオレが指名手配の魔獣だとバレても、バレた時が二級以上なら上層部でも切り捨てるのは難しいハズだ……実際、指名手配を取り下げられた実例があるしな」
「……わかった。けど先輩に何かあっても俺は先に進む」
野槌蛇の言葉に雨乃は野槌蛇をサポートしない事を宣言する。それは見捨てるという残酷な言葉だが、二人はその言葉の真意を理解したのか深く触れなかった。
……やるからには、ライバルだ。
言外に言われた言葉に野槌蛇は力強く雨乃を見つめる。そして側にあった未開封のスポーツドリンクに手を伸ばし、ペットボトルのフタを開けようとする。
しかし、開かない。
少しだけ力を入れる。
しかし、開かない。
もう少しだけ力を入れる。
しかし、開かない。
優しく力を入れる。
しかし、開かない。
「フタ
「前言撤回、やっぱダメ!!」
最終的に魔獣になってペットボトルのフタを開けることになった野槌蛇。その様子に雨乃は先程の安堵が一気に不安になって押し寄せてきた。
「待って! 大丈夫だから! 本番では上手く隠すから
「マジでどうなっても助けないからな!! あと、誰がダーリンだ!!」
「ウボワァ!?」
無駄に甲高い声でチャンスを乞うククルカンになった野槌蛇を雨乃は強く握った拳を野槌蛇の脳天にめがけて振り下ろして一撃で地面に叩きつけた。
少しだけマシになったのかやや不機嫌な状態で実験室から退室した。
「……プハーッ! よかったぁ、オレだけ落ちてたら先輩として立つ瀬が無さすぎたぜ」
遠退く足音を聞き、離れた事を理解した野槌蛇は大きく大の字で仰向けになった。気合いを入れるのか両手で顔を挟むように叩いた。
「よし、リベンジマッチだ」
魔獣から人の姿に戻り、残りの作業を片付けるようにテキパキと動き始めた。泣いても笑っても残りの日数で自信が出来る最大限を後悔しない為に動いた。
――□■□――
10日後。
会社の車に乗り込んだ野槌蛇と雨乃はコンビニで軽めの朝食を取りつつ目的地に向かって車を走り出してた。
向かう場所は魔法使い選抜入学試験二次東京会場――私立間門高等学校。
「すげー……これが私立間門高等学校! ネットの写真や画像で見るよりも大きい……!」
「ここは表向き民俗学等を学ぶ施設だが、裏は魔法使い達の本拠地と併設だからな。有事の時には連携して魔法使いを全国に派遣してるんだ」
到着時に大きく
……それだけに――……
「やっぱり魔法使いが多いな」
「四級が殆んどだが、二級や三級がチラホラ……こんな所で変身したら、ひとたまりもないな」
「ビビってもしゃーねぇ。行きますか」
気合いを入れて校舎に歩み出す野槌蛇。雨乃も野槌蛇の後をついて行こうとした瞬間、嫌な気配を感じ、バックステップ踏む。
その直感は的中し、輪っかのようなモノが飛んできて野槌蛇は上半身を拘束され、雨乃は避ける事ができた。
「な、なんだぁ!?」
「先輩、大丈夫ですか!」
「あーあ、避けられちまった」
残念がる声が聞こえ、二人が振り向くと右手にYの字の形をした銃を持った柄の悪そうな金髪でモヒカンの男が現れた。
「雨乃! モヒカンだ! 世紀末にいそうなモヒカンだ! オレ、マンガ以外で見たことねぇ!!」
「そこじゃねぇだろ!! 何しやがる!!」
「いや~……今年の試験は過去最大になりそうだから、少しでもオレ様の合格率を上げたいから急用で来れなくなって欲しいんだよね」
場違いな事に興奮する野槌蛇をツッコミながら雨乃はモヒカン男から目的を聞き、目の前の男が自分達の夢を妨げる存在だと認識した。
「先輩、少し待ってろ。すぐにカタを付ける」
「弱い犬ほど、よく吠えるよね~」
雨乃はボクサーのように軽くステップを踏みながら拳を構え、モヒカン男はYの字の形をした銃を構える。一触即発の空気が流れ始め、二人が動こうとした瞬間――……
「ねぇ、何してるのよ」
第三者が現れた。
その人物は長い赤髪で先端辺りを緑のリボンでまとめており、目の色は紫、町中で十人中十人が振り返るスタイル抜群の女性だった。しかし、腰に二振りの刀が携えており、普通の女性じゃないことがわかる。
「なんでここにおじさんがいるのか知らないけど」
「……おじさん? 誰が? オレ?」
「そう。あなたよ、おじさん」
「は? は?」
女性の言葉に野槌蛇は一瞬理解できなかったが、徐々に理解すると体の内側から沸々と赤い怒りが燃え上がった。
「おじさんじゃないですぅ!! まだ28歳ですぅ!!」
「おじさんね」
「おじさんだな」
否定するも女性とモヒカン男に即答で否定される。
「そうなの!? そうなの?」
「そうだな」
ショックを受け、雨乃に確認するも即答で肯定されて落ち込む野槌蛇。緩んだ空気で隙を見つけたのかモヒカン男が女性に銃を向けて撃った。
しかし、女性の目にも止まらぬ抜刀が飛んでくる輪を斬り落とした。
「き、斬り落とした……」
「て、テメェ何者だ!」
軽々と輪を斬り落とした様子から彼女が只者じゃない事を理解した雨乃とモヒカン男。二人の様子を見て、女性は芯の先まで艶やかな赤髪を揺らし、腰に片手を付けてこちらを見た。大人びた視線も含めて、細身で華奢な身体からは想像できない威圧感を感じる事が出来た。
「受験番号1100番……
女性――
「それより、一つ聞きたいのだけど……おじさん、なんか魔獣くさくないかしら?」
怪訝な表情で野槌蛇を見る鈴剣。その言葉に二人はギョッとするが、落ち着いて答えようとする。
「そ、そそそそ、そ、そりゃおま、なんせおれ、オレ達は……なぁ! 雨乃!!」
「そ、そうそう!! お、俺達は魔獣の解体作業の仕事してるから!」
「あら、そうなの?」
露骨に慌てる野槌蛇を見ていられなくなった雨乃がフォローする。幸いにも鈴剣は納得する表情を見せた。
「オレ様を無視してんじゃ――……」
蚊帳の外にされた事に怒りを覚えたモヒカン男が銃を構えた瞬間、いつの間にか輪の拘束を抜け出した野槌蛇が銃口を掴んだ。
「な!? お、お前いつの間――……」
「どんな理由だろうが魔法使いになっても構わねぇが……無害な人に
驚くモヒカン男の言葉を遮るように静かに言う野槌蛇。銃口を掴みながらゆっくりとモヒカン男の耳元に近付き――……
「……――ブッ飛ばすぞ。クソガキ」
人柄のよい彼から程遠いドスの効いた重い言葉がモヒカン男に響いた。そんな野槌蛇を鈴剣が驚愕の目で見る一方、こっそり一部だけ魔獣化して力ずくで拘束を解いたと顔に手を当てる雨乃。
「じゃ、邪魔なんだよ!! うざってぇ!!」
口だけではないと思ったモヒカン男は銃口を掴んだ野槌蛇の手を振り払ったモヒカン男は、キレるように言って、そのまま尻尾を巻いた犬のように小走りで去っていった。
……こっわ、キレる世代かよ……鍋さんからハッタリにも使える脅し方教えてもらって良かった……
そんな二人の心境を知らず、実はビビりまくりの野槌蛇は二人の視線を感じて、震える感情を押し殺した。
「あなた、どうやって拘束を……」
「……受験番号2451番、野槌蛇翼だ。覚えとけ、じょーちゃん!!」
鈴剣の言葉を遮り、名乗る野槌蛇。宣戦布告と受け取った鈴剣は不敵に笑った。
「……あらそう。挑戦状と受け取っておくわ……野槌蛇翼、くん」
そう言って、鈴剣はサバンナのライオンの如く威風堂々と校舎へ歩んでいった。その姿に気を引き閉める野槌蛇だが、肩に重々しい手を置かれて青ざめる。ゆっくりと後ろを振り向くと、ハイライトを失くした瞳で雨乃がこちらを見ていた。
「さっそく、力使ったな?」
「ヒッ!?」
自身がモヒカン男に言った言葉よりも重いドスの効いた声にビビる野槌蛇。
「いや、でも、その、けどホラ、うまーいこと見えない部分だけの変身ですし……」
「そういう問題じゃねぇ!!」
しどろもどろに言い訳をする野槌蛇。まるで悪い事がバレた子供のような姿に雨乃は呆れながらも指摘する。
「大きな音がしたが、何かトラブルか?」
「いえ! なんでもありません!!」
警備していた魔法使いが来た事に二人は敬礼し、早歩きで校舎へ急いで移動した。
「次、使ったら、強制送還だからな」
野槌蛇の耳元で静かに呟かれ、野槌蛇は自身の行動にショボンと落ち込んだ。
魔法使い選抜入学試験二次東京会場。
後に――……過去最難関と評されることとなる二次試験が始まろうとしていた。
今回から非ログイン状態でも感想を書けるようにしました!!(二回目)
ネットマナーを守って楽しくデュエルしようぜ!!(違うそうじゃない)
次から、次からドュルドュル出したいです……安西先生……!!