“僕”は夢と共に繰り返す   作:猟奇的少年A

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 いきなりだけど聞いて欲しい。僕は変な“夢”を見るんだ。
 本来“夢”って言うのは現実と混ざらないよう忘れる物の筈なのに、まるで実際に起こった事の様に記憶の中に残っている不思議な“夢”。

 ある日はポニーテールを靡かせた小柄な少女に腕を引かれ、遊園地のアトラクションを制覇すると言う物。

 別の日にはカフェで3段もあるイチゴのタルトを共に頬張り、“退屈なくらいの──”なんて言って笑い合う物。

 他にもバス内で肩にもたれ掛かり幸せそうに眠る少女の“夢”だったり、何故か一緒に温泉旅館に泊まりに行くと言う物もあった。

 内容はどれも全く違う物だが共通点もある。
 それはウマ娘の選抜レースの前日に見ると言う事。これのお陰で僕はレースの日を忘れないで済む。今日だって昨日見た“夢”の事を思い出しながらここ(選抜レース会場)にやってきた訳だし。


 きっと、僕が見ている“夢”は『夢』なんかじゃ無い。
 こんな事を言うのは厨二病拗らせてんの?って言われそうだけど、僕はどこかで世界を繰り返しているんだと思う。選抜レースの観戦も、ウマ娘の育成も、彼女達との思い出も……その全部を。
 なんでこうなったのかは解らないし、きっとこの先も解ることは無いと思う。そもそも興味も無いしね。


 ただ一つ言えるとすれば───


「やだやだやだぁー! マヤもレースに出たいっ! 出してってばぁ〜!」


 ──きっと今回はあの娘に振り回されるんだろうね。


 逃げ回る彼女を慌てて受け止めながら、この先苦労するであろう自分へ「頑張れ」と無責任に鼓舞するのだった。


【ーー】回目、マヤノトップガン
【ーー】回目の邂逅


 

 

「わひゃっ!?」

「おっと…」

 

 

腕の中にぽふっと収まった山吹色の小柄な少女。パチパチとまばたきをして顔を見上げた少女は一瞬惚けていたのだが、理解が追いついたのかハッとして口を開く。

 

 

「ごめんなさい! 大丈夫!?」

「『僕』は平気だよ。君こそ大丈夫?」

「う、うん。受け止めて貰えたから……」

 

 

それは良かったと彼女を()()離すと彼女は明るい笑みを浮かべる。

 

 

「えへへっ。君、優しーね! もしかして新人トレーナー?」

「うん。君は?」

「マヤはね、マヤノトップガンって言って───」

 

 

マヤノがそこまで言った所で、先程まで彼女を追いかけていたレース係員が『僕』へと声を掛けた。

 

 

「ちょうどよかった! トレーナーさん、その子が勝手にレースに出ないよう見張って貰えます!? 頼みましたよ!」

「あっ、はーい」

 

 

ぺこりと頭を下げて背を向けた係員に返事をしながらマヤノの手を掴む。驚いたと言わんばかりに目を見開くマヤノ。

 

 

「ええぇーっ!? なんで『はい』って言っちゃうの!?」

「なんでって、あの人に頼まれたから?」

「もぉー、優しいトレーナーだと思ってたのに〜!」

 

 

そう言って項垂れるマヤノ。揉めていた理由はわからないが係員が言っていた「勝手にレースに出ないよう」との発言から察するに、マヤノは何らかの理由でレースの出走権が無いのだろう。

 

ここからだと選抜レースは見にくい。『僕』は掴んだマヤノの手を引いて観戦席へと向かうのだった。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

「よかったぁ、レース開始に間に合ったみたいだね」

 

 

空いていた席にマヤノを座らせて、その隣に腰を下ろす。

歓声でうまく聞き取れなかったが注目のウマ娘として“ナリタブライアン”の名前を出しているのはなんとか聞こえた。

 

各ウマ娘が一斉に駆け出し、その中でナリタブライアンが先頭集団に加わった所でつんつんと横腹を突かれる。

 

 

「ねーねー、つまんないからマヤとおしゃべりしてよ! なんかおもしろい話とかなーい?」

「面白い話かぁ。…いきなり言われても思い付かないや…」

「えぇー、つまんないー!」

 

 

特に代わり映えのしない毎日を過ごしていた『僕』はマヤノが求める面白い話という物が思い浮かばず唸っていると、コースの方を見たマヤノがぼそっと呟く。

 

 

「あの怖い顔のお姉さん、バンッて行きそー」

「えっ?」

 

 

マヤノが言った通り怖い顔のお姉さん(ナリタブライアン)が仕掛け、先頭集団の間を縫って前に出る。マヤノはこの展開を読み切っていたのだろうか?

 

 

「おぉっ、すごーいっ!」

 

 

ぶんぶんと尻尾を振りながら目を輝かせるマヤノ。彼女は何かに気づいたかの様に首を傾げる。

 

 

「今2番手のあの子……」

「…あの位置なら、タイミングさえ合えばナリタブライアンをけん制できそうだね」

 

 

しかも、けん制がうまく行けば自分の前ががら空きの状態で最後の直線に入れるかもしれない。

 

 

「うーん。いい感じの時にビュッて踏み込んで、あとはバビューン!って行けばなんとかなりそーなんだけど」

「ビュ? バビューン?」

 

 

独特な擬音に首を傾げているとマヤノが今だと呟く。コースでは2番手がけん制に失敗し、ナリタブライアンに前に出られていた。

でも、今のマヤノのタイミングは完璧だった。もしもあの2番手がマヤノだったら上手くけん制が出来ていたかもしれない。…ちょっと見てみたかったなぁ。やっぱりマヤノを連れて来ない方が良かったかも? でもどっちみちレースには出れなかっただろうし、こうやって一緒に観戦出来て良かったって思ったほうが良いかな。

 

 

「へっ? …マヤのことじーっと見て、どうしたの?」

「え?」

「もしかして……ヒトメボレってやつ!? きゃーっ☆ マヤってばモテモテ♪」

「…ある意味そうかも?」

「そっかそっか〜……って、へぇっ!?」

 

 

あっ、レースの決着ついたね。今回はナリタブライアンの圧勝、まぁ予想通りの結果だったね。

 

ナリタブライアンをスカウトしようと必死になっているトレーナー達を尻目に、『僕』は赤面してフリーズしてしまったマヤノを置いて観戦席を後にする。

 

 

「マヤノ、さっきのレースを完全に読み切ってたよね。偶然って訳でも無いだろうし、凄いよなぁ。…でも──」

 

 

きっとマヤノの凄さはあんな物じゃ無い。そう確証を持ってるあたり、“僕”は彼女の事を知っている。でも『僕』は彼女の名前以外なにも知らない。

 

 

僕はどこかで世界を繰り返している。今回は【変幻自在】ことマヤノトップガンのトレーナーとしてこの世界を生きるんだと思う。

 

今回はどこまで一緒に居られるんだろう。いつまで彼女に覚えていて貰えるんだろう。

 

 

“僕”はいつまで繰り返せば良いんだろう。

 

 

そんな事を考えながら、『僕』はレース会場に背を向けるのだった。

 





pixivの方にも投稿したけどちょっと足りない気がして書き足したバージョン。
続きは気が向いたら書くと思う。
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