白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第十一話

 

 

 

 何だか、この後の未来を悟ってしまったが、そんなものはポイッと捨てて、戦闘に集中する。

 

 さて、どうするか。僕もアイズも攻撃と防御を同時に行なっているため、膠着状態に陥っている。

 

 左肩、右脇腹、首、左足、胴、右腕。

 

 アイズは身体の色んな場所をランダムに攻撃してくる。だが、視線、重心、狙う場所の関係性の無さから剣の動きを予測し、自分の短剣を合わせる。

 

 普通なら、さらにフェイントを加えて、攻撃を複雑するものだが、当初の目的通り『調整』を意識しているからなのか、この状況から変わらない。

 

 「アイズ? どうしたの?」

 「ん。『調整』が微妙。このまま続けても、少ししか調整出来なさそうだけど、これ以上力を出すと、庭がめちゃくちゃになっちゃう」

 

 僕達は戦闘を続けながら、会話する。全く手を緩めずに。

 

 アイズの懸念することは分かる。僕達ももうレベル3の冒険者だ。本気を出せば、庭が吹っ飛ぶ。まぁ、魔法やスキルを使わなければ、なんとかなるかもしれないが。

 

 「ここで終わる?」

 「嫌、まだ戦っていたい。というより、この後来る『説教』から逃げたい」

 「いや、長引いたら逆に怒られない?」

 

 うん。絶対に怒られるネ。

 

 「ここで止めておいた方が良いんじゃない?」

 「うっ。そうだね」

 

 そうして、僕達は『調整』を終えた。

 

 それを見計らったかのように母さんと・・・・・・笑顔でいっぱいのリヴェリアさんが来た。

 

 ひっ! 怖い! 笑顔なのに目元が暗い!

 

 「えと、あの、お姉ちゃ「ん?」ナンデモナイデス」

 「さて。お前達。覚悟はできているかな?」

 「覚悟って言っても、私達悪いことはしてないもん」

 「ちょっ!? アイズ!? その発言は火に油を注ーー「ほーう? どうやら説教されたいようだな?」ああ、もうダメか」

 

 どうやら、お説教コースに決まったようだ。アイズは分かっていないようだが、リヴェリアさんが心配しているのは『技術』の高さと身体能力の高さのバランスだ。僕達は身体能力はレベル3であるが、『技術』に関しては多分だが、『武神』タケミカヅチ様のような神様は除いて、世界で最高峰と言っても良いだろう。つまりは、身体能力が技術に追いつかなくて、体に異常が出るのではと心配しているのだ。

 

 ちなみにアイズの『調整』が上手くいかないのはそういった原因がある。だが、本人は全然気が付かない。

 

 仕方ない。説教を通じても分からないようなら、僕から言っておこうか。そういうのは自分で気づくべきだと思うが、周りを心配させては元も子もない。

 

 「全く。ベルはしっかり理解しているようだからまだ良いが、アイズ、お前は全然理解していないようだな。座学を開いてやるから、こっちに来い!」

 「や!」

 「はーい。アイズちゃん。逃げちゃダメよ?」

 

 リヴェリアの鬼気迫る様子にアイズは逃げようとするが、母さんに捕縛される。

 

 レベル3がレベル5二人に勝てないのは道理だ。

 

 「ベル! 助けて」

 「後でいくらでも慰めてあげるよ」

 「ベルーーーーーーーーー!!!」

 

 アイズは母と姉に連れて行かれた。

 

 合掌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はリヴェリアとメーテリアさんに強制的に連行され、リヴェリアの座学部屋まで連行された。

 

 私は椅子に座り、二人に聞いた。

 

 「それで? ベルに聞かれちゃまずい話でもあるの?」

 「さっきの態度からは想像できない程の変わりようだな・・・まぁ、良い。ベルについて聞きたいことがあってな」

 「ベルについて? 何が聞きたいの?」

 「ああ、ベルは何故あんなに『不安定』なんだ?」

 

 『不安定』ーー何が不安定なのかと聞かれると答えるのはただ一つ。

 

 『理想』と『幻想』の『迷走』だ。

 

 全てを救う英雄という『理想』と私だけの英雄という『幻想』をベルは持っている。

 

 それ即ち『矛盾』だ。人間らしいと言えば、人間らしいのだが、ベルのそれは度が過ぎている。

 

 ベルの記憶だけならばマシだった。幻想しか抱かなかったはずだから。しかし、ベルはアルゴノゥトの記憶も持っている。それが不味かった。アルゴノゥトの全てを救いたいという『理想』が強く心に根付いてしまった。

 

 それでベルの心は『不安定』になっているのだ。

 

 そういったことを二人に伝えた。

 

 「つまり、ベルが記憶を取り戻した時点でこれは避けては通れない道だったわけか。それならそれで早く相談して欲しかったものだが・・・」

 「無理。ベルは自覚してないし、私も『今』はどうしようもないと思っているから」

 「『今』は・・・か。ちゃんと対策を考えているなら良い」

 「ふふっ」

 「「??」」

 

 メーテリアの微笑に私とリヴェリアの二人が首を傾げる。

 

 「いえ、ごめんなさいね。二人の様子が本当の親子みたいだからね」

 「そ、そうか?」

 「ん。リヴェリアは私のもう一人のお母さんだから」

 「ん!?」

 「ふふっ。そうよね。ベルも私に遠慮なく色々話して欲しいわ〜」

 

 ベルは私にどう甘えるべきか決めかねているようだからね〜っとメーテリアさんは付け足した。

 

 「大丈夫。少し時間はかかるけど、きっとベルはしっかり決断するはずだから」

 「ええ、そうね。あっそうだ! もし、ベルがみんなの英雄になることを決断したらアイズちゃんはどう思うの?」

 

 ふと、思いついたようにメーテリアさんが私に聞いてきた。

 

 ベルがみんなの英雄ーー『最後の英雄』を選択した時。私はーー

 

 「私はベルの隣にいる。ベルが例え、沢山の女の子を家族に迎えたとしても私はベルの一番であり続ける。だって、ベルのことが一番好きなのは私だから」

 「ッ! そうか。今のお前はとても良い笑顔をしている。お前はその調子でいろ」

 「うん。あっ。リヴェリア」

 「ん? 何だ?」

 「リヴェリアは今、ベルの姉という立場だけど、別にベルと恋人関係になっても私は何も言わないよ?」

 「なっ!?!? お、お前は、何を、言って!?」

 

 私の言葉にリヴェリアの顔は真っ赤になる。やっぱり、長い年を生きても生娘にはキツい話題だったかな?

 

 「メーテリアさん」

 「私も? 何かしら?」

 「メーテリアさんはベルと血が繋がっているけど、不完全蘇生魔法と『英雄の試練』の効果でほぼ生娘同然に戻っているのは知ってますよね?」

 「え、ええ。そうね。私もビックリしたけど、それがどうしたの?」

 

 メーテリアさんは若干嫌な予感しながらも私に聞いてきた。つまり私が言いたいのはーー

 

 「ベルと子を作っても私は何も言いませんよ?」

 「えっ!? いやっ、あのっ、えっと!?」

 

 メーテリアさんが珍しく慌てている。口調も少し崩れている。

 

 してやったり。先程の仕返しだ。

 

 アイズは悪い笑顔を浮かべ、二人はベルとの関係を妄想し、赤くなりながら、身体をクネクネしている。

 

 アイズは二人を置いて、ベルの所に向かうのだった。

 

 

 


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