「えっと。落ち着いた? アルフィアお義母さん」
「ああ、ありがとう。ベル」
アルフィアお義母さんは僕に抱きついたまま、僕の頬を撫でる。
とても心地良い。僕は思わず目を細めて自分から撫でられに行く。
アルフィアお義母さんは僕のその様子に微笑を浮かべると、僕を抱きしめて、立ち上がり椅子に座った。僕は対面座りでアルフィアお義母さんの膝に座る。
座る前にアルフィアお義母さんが着ていたローブを取っていたため、黒いドレスが現れた。
ええ、ここまで言えば、分かるでしょう?
僕の身長的に今、目の前にアルフィアお義母さんの胸がある。
ヤバいヤバいヤバい! 5歳だから体は反応しないけど! それでも中身は歳取っているから! 最近は精神が体に引っ張られているからか、簡単に反応してしまう!
すると、アルフィアお義母さんはそんな僕の状態を不思議に思ったのか、聞いてきた。
「どうした? ベル。そんなに顔を赤くして」
「いや、えっと、ジツハデスネ・・・」
少年説明中・・・・・・
「・・・という訳なんです」
「なるほど。つまり、私の体に欲情していると?」
「してませんよ!?」
何言ってるのお義母さん!?
「ふふっ。冗談だ。だが、恥ずかしいという割にはお前の手は私の体を離さないようだがな」
「・・・あまり虐めないで、お義母さん」
「お前が可愛いのが悪い」
「むぅ〜」
「よしよし」
アルフィアお義母さんは僕の頭を撫でる。そんな事しても許さないもん!
そんな意思に反して、僕の体ははアルフィアお義母さんの愛を求めるのだから、精神がさらに幼くなっていると自覚せざるを得ない。
「良かった。メーテリアに続き、お前まで居なくなってしまったら、私は壊れてしまうかもしれない」
この時の僕はあまり顔に出さずともアルフィアお義母さんに会えた事が嬉しかったのだろう。
普段なら絶対言わないような事を言ってしまうまでに。
「・・・お義母さんはやっぱり『そっち』に行っちゃうの?」
「・・・ああ、それが私の使命だからだ」
僕が何を言っても、もうお義母さん達は止まらない。
早い早い早い! まだ三年前なのに、『約束』が早い! お義母さん達と戦いたくないのに! 一緒に居たいのに!
気づけば、僕の目からは涙が出ていた。
「やめて。やめて。僕のために世界から消えないで」
「すまないな。お前は優しい。その優しさからお前は私とザルドには剣を向けられないかもしれない。お前のその『迷い』はとても優しい。だが、お前は、お前だけは忘れてはならない。『理想』とは皆が持っているものだと。他ならないスキルに現れる程の『理想』を抱えるお前はわかる筈だ」
「・・・うん」
「お前が持つ『理想』を叶えたいならば、私の『理想』を超えてみせろ」
「・・・」
「だが、気にする必要はない」
「え?」
「計画ではまだ三年もある。それまではいくらでも会えるさ」
「そう・・・だね」
分かっている。これは今のような状況ではなく、『敵』としてという事だ。
僕は決めかねている。まだ迷っている。自分の在り方を。
「目標はまだ定まっていない・・・か。焦るな。お前は確実に強くなる。私やメーテリアの血を引いているんだ。弱いわけがない」
「ふふっ。自分でそれを言うの?」
「ああ、言うともさ。だから、立ち上がれベル・クラネル。自分を信じろ」
「もうっ。こういう時でも僕を強くさせようとするの?」
「当たり前だろう。〈ヘラ・ファミリア〉だったら、そもそも、甘えも許されないからな」
「ひえっ!」
う〜ん。もし〈ゼウス・ファミリア〉や〈ヘラ・ファミリア〉が今もあったら、僕はどうなっていたのだろうか?
ひたすら、団員達に打ちのめされる?
いや、そもそもどちらのファミリアに入るのだろうか?
「ふふっ。元気は出たか?」
「まぁ、うん」
「そういえば、この後予定はあるのか?」
「えっ? いや、無いけど」
「ならば、ここでお前の今までの冒険を聞かせてくれ。お前の英雄譚を聞きたい」
「うん。良いよ」
僕は『眷属の物語(ベル・クラネル)』を開いた。
これは、一人の少年が一人の少女のための『英雄』になるまでの話。
私はなんと幸福なのだろうか。
メーテリアを失い、病気が体を蝕んでいく時に、ベルが現れた。
聞けば、ベルは前世で『英雄王』と呼ばれ、あの「黒き終末」を乗り越えたとのことだ。
ああ、私達の犠牲は無駄ではなかった事を証明された。
そして、ベルは私の『絶望』を消し去る希望となってくれた。
もはや、私には憂いはない。
喜んで、この身を次代の英雄達の礎へと捧げよう。
ああでも、こうして会えたベルに別れを告げるのは心苦しい。
この子はとても優しい。例え、私が『悪』に身を堕としても、この子は私が死ねば、泣いてくれるだろう。苦しんでしまうだろう。
それは嫌だな。ベルの為に在りたくても、ベルを泣かせたいわけではない。
こうしてみると、別の生き方があったのではと思ってしまう。
考えれば考える程、私の決意は揺らいでいく。
それを考えるのを辞めなければならないのに、どうしても考えてしまう。
ふっ。笑いたければ、笑えば良い。
この私でさえも、もし、ベルの前に立てば、決意は揺らぎ、ベルに手を出すことはできなくなるかもしれない。いや、きっと出来ないのだろうな。
本を開き、物語を語るこの少年はとても年相応で、輝いている。
この後の思考はもう、覚えていない。
もし、叶うのならば、私を救ってくれベル。