アルフィアお義母さんに一通り話し終わり、もう帰る時間になった。
「お義母さん。また会いましょう」
「・・・ああ、そうだな」
「では」
僕は先に教会を出ようとした。
すると、お義母さんが僕の手を取った。
「どうしたの?」
「・・・いや、すまない。何でもないんだ」
何でもないような顔をしていない。
もしかして、寂しいのかな?
「はあ、全く。仕方のない人ですね。これをどうぞ」
「これは?」
僕は眼晶(オクルス)を加工したネックレスをあげた。
効果は通常通り、通信型魔道具。
ただ、違うのは情報をオクルスを通じて、頭の中で交換するという点だ。
それを説明したら、とても驚かれた。
「凄いな。こんな魔道具を作れるとは」
「作るとは言っても、既製品のオクルスをスキルを使って変化させただけだから、あまり凄くないんだけどね」
「いや、それでも凄いぞ」
「う、うん」
「とりあえず、これでベルと連絡を取れるのか?」
「まあね。僕にも都合があるから、絶対とは言えないけど」
「分かった。ありがとうベル」
アルフィアお義母さんは女神顔負けの笑顔を浮かべ、感謝してくれた。
待って待って! めっちゃ美しいから! 耐性が下がってる僕には辛いから!
「こ、これで良いかな?」
「ああ、すまないな。引き止めてしまって」
「そう思うなら、『こっち』に来る?」
「うっ。いや。行かない」
めっちゃ揺らぎまくってるじゃん。
今ならさっきの仕返しできるか?
「ねえ、お義母さん。ちょっと顔こっちに近づけて」
「ん? ああ」
お義母さんが膝を折って、僕に顔を近づけた。そして、僕はお義母さんの耳元でこう言った。
「お義母さんが『そっち』にいるならーー」
ーー僕がアルフィアをそこから奪ってみせるから。
「っっ!?!?」
お義母さんは顔を真っ赤にして僕から離れた。
うんうん。美人なお義母さんが照れるのは可愛いね。
「じゃあね。お義母さん」
僕は今度こそ、教会から出た。
「あれは、ズルいぞ。ベル」
まだ、顔が赤い。さっきまでの子供なベルではなく、大人で男としての魅力を充分に纏っていた。
私は現役時代では、『才禍の怪物』などと恐れられていた。
そのためか、私に近づく男なんていなかった。(あのゼウスのような変態共は別として)
だから、私は男と関係を持ったこともなければ、興味も無かった。
そして、今、こうしてベルの男の魅力に当てられ、私の心は完全にベルに偏ってしまった。
色恋沙汰とは無関係であったため、一気に堕ちてしまった。
私は今、変な顔をしていないだろうか?
多分だが、これをかつての仲間を見られてしまえば、揶揄われるに違いない。神には「甥に惚れるのはヤバいな」とか言われそうだが、お前らが言うなと言いたい。
全く、ベルは誰にでもああやってるんじゃないだろうな?
あんな事されれば、大体の女性は簡単に堕ちるぞ。
それこそ神でさえもだ。
「あれで、一途だというのだからタチが悪い。前世では沢山の女を泣かせたのだろうな」
だが、今世はどうだろうか?
本人は一途のつもりだそうだが、それ以上に愛を欲する傾向が見られる。
神フレイヤ辺りが騒ぎそうだが、どうだかな。
とりあえずは良いだろう。私はベルの家族なのだ。私がずっとベルの側にいても何も言われないだろう。
着々と進むベルの家族ハーレム。
そして、今ここで言おう。
家族だからといって、血が繋がっている必要があるのか?
いや、無い!
ならば、家族が十人ぐらい増えたって問題ないだろう!
そうだろう! みんな!
↑誰に言ってんだこいつは。
翌日ーー
今日も今日とて、街を散歩中。
そしたら、今日はーー
「フレイヤ様がお呼びだ。ついて来てもらおう」
・・・『猛者』オッタルさんに会っちゃった。
「まぁ、良いですけど。どこに行くんですか?」
「『戦いの野(フォールクファング)』だ」
「うぇっ!?」
何で、そっち!? 嫌な予感しかしないんだけど。
僕はオッタルさんについて行き、〈フレイヤ・ファミリア〉の本拠地『戦いの野(フォールクファング)』の館に着いた。そして、フレイヤ様の自室に着き、オッタルさんは扉をノックし、報告した。
「ベル・クラネルを連れて参りました」
「ありがとう。オッタル。中に入って良いわよ」
「失礼します」
「し、失礼します」
一応礼儀として、僕も一声かけながら中に入った。
「よく来てくれたわね。ベル」
「まぁ、暇だったので。あと、『魅了』を使うのやめて下さい」
僕がフレイヤ様にそう言うと、フレイヤ様は頬を膨らませて、
「・・・本当に効かないのね」
フレイヤ様は会う度に僕に『魅了』をかけてくる。最初から効かないと言っているのに全く止める気配がない。
「まぁ、別に良いわ。私が言いたいのはこの前、貴方が私に向かってしたことよ」
この前というと、あれかな。酔わせたやつ。
「いや、いくら何でも、あれは見過ぎです。あれで止めなかったらダンジョンの中まで見る気だったでしょう?」
「・・・そんな事無いわよ」
「そう言うなら、こっちを見て言ってください」
フレイヤ様は僕の問いに顔を背けて答える。
うん。嘘ですね。僕でも分かる。
「今まで通りであれば、気になりませんでしたが、あれはダメです。普通に身体中に悪寒が走りました」
「む〜」
「そんな顔してもダメです」
フレイヤ様は何というか外見と中身が一致してない。外見は麗しい美女なのに中身はまるっきり少女である。
「見るだけが嫌なら、暇があれば、こうしてお話もしますし」
「・・・本当に?」
「貴方、神ですから嘘なら分かるでしょう?」
「そうね」
「というか、暇ならば、『姿』を変えて、街に出てみては?」
「何故、貴方がそれを知っているのかはさて置き、それは良い案ね」
・・・後ろでオッタルさんがギョッとする気配を感じる。
諦めてください。どうせ、この柱はやります。
「そうねぇ。ミアの酒場の店員になろうかしら? その前に変える『姿』を見つけないとね〜」
何だかごめんなさい。シルさん。ヘルンさん。
今はまだ会ってない二人に謝る。
「今日は良い事を聞けたわ。ありがとうベル」
「ええ、まぁ。それなら良かったです」
フレイヤ様がとても楽しそうだ。これからフレイヤ様に関わる人には頑張ってもらおう。僕は知らない。