舞台は整った。
これはもはや、『悲劇』でも『惨劇』でもない。
何処にでもあるような『喜劇』。
しかし、ただ一人の少年にとってはここが一番の『正念場』である。
さあ、新たなる英雄の冒険を見に行こう。
その幕が下がるまで・・・
僕は今、『黄昏の館』の食堂にいる。
ええ、現在朝食を食べています。
ちなみにアイズと食べています。
ええ、だからどうした、と?
どうして、そんな喋り方なのか、と?
ええ、簡単に言えば、現実逃避です。
この状況からの・・・!
アイズはパンをちぎって、僕の口元に出してくる。ある言葉と共に。
「あーん」
ええ、あーんをしてくるんです。
えっ? 羨ましいって?
知った事じゃないです。時々なら良いかもしれないし、僕も良いと思うんだけど。毎日はキツ過ぎる!
そう思って、アイズに止めるように言ったのだけど。
「やだ」
の一点張りだった。
それをさも当然かのように言うのだから、止めるのも面倒になってしまうものである。
「ベル? 食べないの?」
「タベマス」
僕は大人しく口を開け、パンを口に頬張る。
「おいしい?」
「オイシイ」
ただのパンに何言ってんだ?
ちなみにだが、僕とアイズは付き合ってるわけではない。うん。その筈なんだが、これは何だ?
依存? だが、不安定感は無いし、瞳に昏くない。
ちょっとどうしようかな? この前、リヴェリアさんに相談したら、「しばらくの間だけだ。大人しく受け入れてやれ」と言われてしまった。
・・・そう言われてから、地味に一ヶ月経っているのだが・・・。
僕は周りを見ると、他の団員達は一斉に顔を背ける。
ちょっ!? 助けて! 本当に!
そのまま僕はアイズにあーんをされ続け、今日の朝食を終えた。
「・・・お疲れ様。ベル」
「はいぃ。フィンさ〜ん」
「あ〜。よしよし」
僕はフィンさんに抱きつく、フィンさんは抱きついた僕を苦笑しながら、頭を撫でる。
「アイズは何処に行ったんだい?」
「・・・リヴェリアお姉ちゃんに連れてかれた」
「(流石に無視できなかったんだろうね)」
「どうしたんですか? フィンさん?」
「いや。何でもないよ」
すると、執務室の扉が開き、お母さんが入ってきた。
「そろそろ時間よ? もう少しで『敵』が来るわよ?」
「あぃ。頑張る」
「ああ、行っておいで。ベル」
「はい」
僕はスキル『幻想』を使い、武器と防具を整えた。
腰には短剣状の『雷霆の剣』と『炎の魔剣』。
防具は黒竜の素材で作られた服や外套。鎧ではなくても、黒竜の素材で作られているから、とても頑丈である。
「それでは、行ってきます」
ここはオラリオにある魔石工場の一つ。
言うなれば、『Gホイホイ』である。
「くそっ! 撤退だ!」
「『目的の物』は手に入れた! 全員散開! 一つでも多く、持ち帰るのだ!」
「全員、逃がすつもりはない。一人残らずお縄についてもらおう」
「くっ!」
「『
自分の足にスキルを使い、一気に加速する。
そして、数分後には誘い込まれた
そこに遅れて、【ガネーシャ・ファミリア】がやって来た。
その中から、【ガネーシャ・ファミリア】の団長の【
「凄いな。私達もそれなりに急いで来た筈なのだが」
「とりあえず、全員気絶させておきました。捕縛をお願いします」
「ああ、任された。捕縛を急げ! 付近の調査と警戒を怠るな!」
「「「「「はっ!」」」」」
【ガネーシャ・ファミリア】の団員達はシャクティさんの指示に従い、速やかに動き出した。
「ありがとう。ベル。面倒事を押し付けてしまって、本来ならば、君のような子供に任せるべきではないのだが」
「いえ、これも『作戦』の内ですから」
「・・・【
「? 何ですか? お気に入りって」
「ん? 知らないのか? 君は大体、【ロキ・ファミリア】の幹部達と行動しているという噂があってな。それが、そういう風になったという事だ。私もその様子は見たし、事実だと思っていたのだが・・・」
初めて聞いたのだが。いつの間にそんな噂が出たんだ?
「まぁ、今は良いでしょう。シャクティさん。今までの襲われた工場で『アレ』は無くなっていましたか?」
「・・・ああ、君の予想通り、『魔石の撃鉄装置』が無くなっていた。今、調べさせているが、この工場でも同様の物が無くなっているだろう」
「なるほど。やっぱり」
「「確実に
更に考察を続けていく。
「僕が気配を掴めないという事は何らかの魔法かスキルによって姿を消している」
「下っ端ではないという事はそれなりの実力者。痕跡が無いことが逆にその者の実力を表している」
「つまり、体術の『技』を磨いている者」
「レベル5以上は確実だ」
「こっちの『策』に乗って、下っ端が成功しようが、失敗しようが、関係無い。迷いなく捨て駒にするあたり、本当に
「ちょっとちょっと二人とも!?」
僕とシャクティさんで考察していると、後ろからシャクティさんの妹ーー【
「お姉ちゃん。気絶していた
「アーディ。ここにはベルしか居ないから良いが、あまり他の者がいる場でそう呼ぶなと言った筈だろう」
僕は良いの?
「アーディさん。こんにちは」
「うん。ベル君こんにちは。お疲れ様」
「はい。ありがとうございます」
「うんうん。ベル君はしっかりしてるね〜。よしよし」
アーディさんに会ったのは二年前。【アストレア・ファミリア】の紹介で。
そして、アーディさんは僕の頭を撫でながら、尋ねる。
「ベル君はこれからどうするの?」
「そうですね、少し寄りたいところがあるので、そこに行ってから、
「そっか。ベル君なら心配無いかもしれないけど、まだ
「はい。心配してくれてありがとうございます」
「うん。じゃあ、早く行って来なさい」
「では、また会いましょう」
「うん。バイバーイ!」
僕はアーディさんとシャクティさんと別れ、しばらくして路地裏に入った。
そこで、
「やあ、初めまして、君がベル・クラネルで合ってるかい?」
神エレンと会った。