白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第十九話

 

 

 

 僕は『星屑の庭』に着き、お母さんが迎えてくれた。

 

 「あら? ベル。仕事は終わったのかしら?」

 「うん。あとは【ガネーシャ・ファミリア】に任せてる」

 「そう。お疲れ様。上がる?」

 「そうする」

 

 リビングに来ると、露骨に落ち込んでいるリューさんがいた。

 

 アストレア様がどうすれば良いのか分からず、あわあわしている。

 

 可愛い・・・じゃなくて、この状況をどうにかしないと。

 

 「リューさん」

 「・・・ああ、ベル・・・すみません。こんな姿を見せてしまって」

 「いえ、大丈夫です。それより何があったんですか?」

 

 僕はこうなった原因を知っているのに、何も知らないかのように振る舞っている。昔は嘘をつくのが苦手だった。でも、神の相手をしているだけで、対策は『できてしまった』。

 

 スキル『幻想』はそういった副次的効果がある。

 

 それはまさに『幻想』という名の通り、『思い込み』。

 

 事実が正誤関わらず、思い込みをすれば、『嘘』にはならない。

 

 いわば、神の目を誤魔化すスキルでもある。

 

 自分は決して神の人形ではないという意思表示だ。

 

 いや、そんな事はどうでも良いか。

 

 今はリューさんのことを考えなければならない。

 

 「・・・」

 「・・・話し辛い事ですか?」

 「・・・すみません」

 「謝らないでください。話した方が楽な事もありますが、無理して話す必要はありません」

 

 僕はリューさんを安心させるために、リューさんの横に座り、頭を撫でる。リューさんはビクッとしたが、拒む様子は無いし、周りから止めるような行動も無い。その状態で話すことにした。

 

 「大丈夫です。例え、何も話さなくても僕達は貴方の味方です。だから、安心して下さい」

 

 その言葉にリューさんは僕の撫でてない方の手をそっと掴んだ。その手はとても冷たく、震えていた。だから、その手を僕の頬まで持っていき、確かな温もりをその手に与えた。

 

 リューさんは少しずつ話し始める。

 

 「貴方の手は・・・とても温かい。貴方と初めて会った時を思い出します」

 

 僕とリューさんが初めて会った時ーー

 

 あれは僕がお母さんを【アストレア・ファミリア】へと預けた日のことだ。

 

 お母さんが『英雄の試練』を乗り越え、無事に生き返り、前世でお母さんとアストレア様が友人だったと聞いていたため、【アストレア・ファミリア】の方が良いと考えたのだ。・・・お母さんと離れるのは非常に心苦しかったが。

 

 今にして思えば、もう心が身体に引っ張られていたのかもしれない。

 

 そんな事はどうでも良いか。

 

 とにかく、その件で【アストレア・ファミリア】の所に行った時のことだ。

 

 お母さんがアストレア様と話している時、暇になった僕は帰るべきかと思っていた頃。

 

 アリーゼさん達が話しかけて来た。詳しく言えば、アリーゼさんとリューさんと輝夜さんの三人だ。

 

 アリーゼさんは僕を抱え、頭を撫でていて、輝夜さんは僕の頬をツンツンと突っついていた。リューさんは混ざりたい気持ちと止めなければならない気持ちの板挟みで困っていた様子がとても可愛らしかった。

 

 しかし、どうやら止める方に気持ちが傾き、エルフの潔癖症なんてなかった事のように僕をアリーゼさん達から奪った。

 

 アリーゼさん達があっとした感じで見ていたが、肝心のリューさんは頭に?を浮かべていた。僕も気づき、「あのっ、あのっ」と声に出すが、リューさんは「落ちたら危ないですよ。大人しくしてください」と言った。

 

 アリーゼさんは「リオン? その子抱いているけど、大丈夫なの?」と聞いていたが、変わらずリューさんは「大丈夫とは何ですか?」と小首を傾げていた。それに輝夜さんは「お前。かなりの潔癖症の筈だろ。その少年に触るのは大丈夫なのか?」と聞き、リューさんはやっと気づいたのか、「そういえばそうですね。改めて言われてみると、全然不快では無い。むしろ、とても温かくて心地が良い」と答え、さらに僕を抱きしめた。

 ええ、もちろんのこと、他の団員は「あのリオンが!?」や「もしかして、神々の言う『ショタコン』?」とか言っていた。後半は無いと信じたい。

 

 まぁ、そんなことがあったのだ。

 

 そのため、リューさんは事あるごとに僕に接触したがる。過度な事はしないが、それでも抱きついてくる。まぁ、僕は子供で、全然気にしていなかったし、前世でも似たようなことあったし。

 

 思わず僕も思い返したが、こうしてみると、中々におかしいものだ。

 

 そして、今の現状も。リューさんは触れている相手の心ーーというより本質に近いかもしれないがーーによって反応が変わる。下心があったり、普通の人であっても、拒絶してしまうらしい。・・・・・・この時点で殆どの男性は彼女に触れられないよなぁ。

 

 逆にとても真っ白な心を持つ人は拒絶しないとのことだ。前世でも触れたのはアリーゼさん、シルさん、僕、あとは僕とアイズの娘ぐらいだったかな? アイズはどうだったんだろう? あまりそこら辺の組み合わせは見てないんだよなぁ。

 

 さてさて、ここまで都合二秒。前世で鍛え上げられた思考加速。とてもくだらない事に使われる。どうせ、戦闘中じゃあ、防御や回避は身体が勝手に行うしなぁ。

 

 おっと、また思考が関係無い方に行ってしまった。

 

 とりあえず、今はリューさんの迷いを無くさないと。答えは出せなくても、自分の行いに迷いを持たなければ良い。思考停止と捉えられるかもしれないが、『今』はダメだ。これが終わった後にいくらでも悩んで欲しい。ここで確立すれば、これ以上の結果は無いわけだが。

 

 まぁ、やってみない事には変わらない。できるだけやってみよう。

 

 さあ、貴方はどんな結果を出すかな?

 

 

 


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