白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第二話

 「ベルたん・・・・・・一体何してきたんや?」

 「何と言われましても、いつも通りダンジョンの二十階層でアイズと鍛錬してました」

 

 僕とアイズはレベル2の冒険者であるが、ペアで二十階層に行けるほどの強さを持っている。理由は単純で、僕のスキルと同じ様なスキルをアイズも持っているからである。前世では、レベル9になった時に得たと聞いたが、その上位互換とも言えるスキルが今のアイズに備わっている。

 

 ちなみにであるが、いくら二人で二十階層まで攻略できると言っても、僕たちは子供であるため、保護者としてリヴェリアさんがついてきてくれている。アイズは「勉強から逃げられない・・・」と言っていたが、勉強しない方が悪いので、特に擁護はしない。アフターケアはするが。

 

 「それにこのままでは、ランクアップもできませんから、それぐらいが丁度良いんですよ」

 「でもな〜。ウチとしてはあんまり二人に無理してほしくないんやけどな〜」

 

 ランクアップーーすなわち『偉業』の達成。神々が認める偉業を成し遂げた時、ランクアップすることができる。ベタなもので言えば、自分よりも強い敵に勝つことだ。例外は除き、一人で強敵に勝つことはできない。だからこそ、冒険者はパーティーを組んで強敵に挑むーー『冒険』をするのだ。

 

 例外というのは、僕やアイズの様にステイタスの限界突破をしている様な時だ。流石にレベルが二つ上の相手は限界突破していてもほぼ無理に近いものだ。しかし、レベルが一つ上ならば、限界突破のステイタスで一人でも強敵の撃破ができる。事実、僕は前世でレベル1でありながら、レベル2にカテゴライズされるミノタウロスを単独撃破し、ランクアップした。

 

 「すみません。でも、強くなるためには時間を無駄にしたくないんです」

 「・・・・・・君の言う『最悪の未来』を回避するためにかい?」

 「・・・・・・はい」

 

 『最悪の未来』ーー前世でも体験することは無かったある出来事。ゼウスファミリアとヘラファミリアのレベル7冒険者がオラリオを襲ったあの事件。僕の叔父や義母(叔母と言ったら怒られるから)とも言えるザルドさんとアルフィアさんが神エレボスと共謀し、オラリオを破滅の一歩手前まで追い込んだ。真相としては二人と一柱は当時のオラリオの冒険者の成長を促し、英雄の礎となり、命を落とした。それを僕は阻止する。あの二人は絶対に死なせない。できる限りのことはしてきているし、あの二人の『病気』を治すとまでは行かなくても、延命させるものは見つかった。僕は絶対に確かめなければならない。あの二人が僕のために行動しているのかという事を。

 

 僕は『幻想』に走らなければならない。その悲劇と惨劇を『喜劇』にするために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく、ロキ様とフィンさんと話していると、扉がコンコンとノックされた。フィンさんが「どうぞ」と言うと、扉が開き、リヴェリアさんと首根っこを掴まれたアイズがいた。

 

 「ただいま帰った」

 「お疲れ様。何処にいたんだい?」

 「じゃが丸くんを買いに行ってたぞ。見つけるのは簡単だった」

 「・・・・・・む〜」

 

 リヴェリアさんがフィンさんに報告していると、アイズが「離して」と言わんばかりに唸っている。可愛い。

 

 「全く。ベルのところに行ってこい」

 

 リヴェリアさんがそう言い、手を離すと、アイズは猛スピードで抱きついてきた。いくら同じレベル2でもその速さで来られるととても痛い。

 

 「ベル〜。慰めて〜」

 「はいはい。よしよし」

 

 僕はアイズのご要望通り、優しく頭を撫でた。アイズは「えへへ〜」といった顔でとても幸せそうである。僕もとことん甘いな〜と思いながら、ロキ様が近づいてきた。

 

 「ぐへへ〜。アイズた〜ん! ウチにも抱きついてきてもええんやで〜」

 「斬りますよ?」

 「アッハイスミマセン」

 

 ロキ様も懲りないな〜。これがずっと続いているのだから、神様らしいなと思う。

 

 「そうだ。ロキ。アイズのステイタス更新もしてくれ、その間にベルのステイタスを見る」

 「ああ、分かったで〜」

 「アイズ。ちょっとだけだから離れて?」

 「うん・・・。分かった」

 

 明らかにショボンとした顔で離れていったアイズ。とても愛らしいのだが、今は我慢しなければ。

 

 「どうぞリヴェリアさん」

 「ありがとうベル。ふむ。アビリティはトータルで200以上上がったか。『敏捷』は・・・・・・もはや何も言うまい。発展アビリティは上がらずか」

 「そうですね。もうすぐランクアップできそうです」

 「そうだな。技と駆け引きは私達以上。アビリティの貯金もあって、レベル3は軽く下せるだろう」

 

 うん。リヴェリアさんは私情を挟まず、客観的な意見から僕の戦闘力を分析してくれている。僕の予想と同じだったし、なんだか嬉しい。

 

 「ん? なんだか、嬉しそうだな」

 

 そんな僕の気持ちを見抜いたのか、優しく微笑みながら、僕の頭を撫でる。とても気持ち良い。思わず目を細め、自分から撫でられに行く。

すると、背後からとんでもない圧がきた。後ろを見ると、ステイタス更新を終えて、ニコニコ笑顔のアイズがいた。普段ならば、愛らしいで済むのだが、目の前のアイズからは「浮気はダメだよ?」とでも言わんばかりの圧を放っていた前世のアイズと全く同じ気配を感じる。そして、僕の袖をチョンチョンと引っ張る。「こっちに来なさい」とでも? 逆らうのはダメな気がして、大人しくアイズに引っ張られて、部屋を出た。

 

 「ベルは大変だね」

 「アイズたんかわええなぁ。あ、これ、アイズたんのステイタスや」

 「ああやってずっとベルのそばにいてくれるなら、私も楽なのだが。ああ、ありがとう」

 

 そんな会話が執務室から聞こえてきた。なんて他人事なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタイン Lv.2

 

 『力』 SS 1082→SSS 1192

 『耐久』 SS 1024→1082

 『器用』 SS 1058→1097

 『敏捷』 SSS 1165→1245

 『魔力』 SS 1031→1094

 

 精霊 H

 

 《魔法》

 【エアリエル】

 ・付与魔法

 ・風属性

 ・詠唱式『聖なる風よ(テンペスト)』

 

 【精霊の奇跡】

 ・回復魔法

 ・【エアリエル】発動時、効果上昇

 ・詠唱式『母なる風よ、どうか私に力を貸して』

 ・自分が最も愛する者の為に使用する時、蘇生魔法に変化可能

 

 《スキル》

 【精霊姫】

 ・怪物種に対しアビリティ超高補正

 ・自身の愛する者の為に戦う時アビリティ超高補正

 ・自身の愛する者と魂を繋ぐ

 

 【英雄王妃】

 ・早熟する

 ・想いが強くなる程効果上昇

 ・自身が最も愛する者といる時想いはさらに強くなる

 

 

 




 皆様お気付きかと思いますが、アイズも前世の記憶持ちです。ついでに前前世のアリアドネの記憶も所持しています。しかし、ベルはこのことを知りません。相変わらずの鈍感野郎です。

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