白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第二十話

 とりあえず、リューさんの部屋に移動した。

 

 リューさんが「貴方だけに話したいことがある」と言ったからだ。

 

 決して、やましい気持ちはないよ。本当だよ。

 

 「すみません。戦闘の後なのに、こんな事で引き止めてしまって」

 「大丈夫です。それに『こんな事』ではありません。大事な事ですから」

 「・・・ありがとうございます」

 

 リューさんはまだ、僕の手を掴んでいる。

 

 「・・・単刀直入に聞きます。貴方の悩みは神エレンによるものですか?」

 「・・・ッ!? 何故?」

 「そして、『正義』とは何かを問われましたか?」

 「ッ!? 何故、ベルが、それを?」

 「僕も先程、神エレンに同じ事を問われました」

 「ベルは・・・何と・・・答えたのですか?」

 

 リューさんは何かに縋るかのように、僕に問う。

 

 しかし、僕の返答はリューさんの期待を真っ向から裏切る事になる。

 

 「答えてないです」

 「・・・えっ?」

 「正確には神エレンから今は聞かないと言われただけですが」

 「そう・・・ですか」

 

 リューさんは再び項垂れる。

 

 僕が支えるのは良い。しかし、依存対象になるのはダメだ。それは、リューさんのためにはならない。リューさん自身が納得の行く答えを出すしかない。

 

 「リューさんは自分が思う『正義』が間違いだと思いますか? それを『悪』だと思いますか?」

 「いえ! そんな事は無い! 私の『正義』は決して『悪』ではない! 私はそれを間違いだと思って・・・いなかった・・・はず」

 「では、大丈夫です」

 「えっ?」

 「リューさんはもう分かっているじゃないですか。リューさんにはリューさんの『正義』があると」

 「・・・!」

 

 リューさんはハッとした様子で僕を見る。

 

 うんうん。良い調子かな?

 

 「僕にだって僕の『正義』があります。誰かにだって誰かの『正義』があります。『正義』の在り方とは一つではありません」

 「私の・・・私だけの『正義』がある」

 「あ〜。それはちょっと違います」

 「え?」

 「リューさんの『正義』はリューさんのものですが、決して一人ではありません。リューさんとリューさんの『正義』を信じる人がいます。僕はもちろん。アリーゼさん達やアストレア様。もしかしたら、街の人達も貴方を信じているかもしれません」

 

 そうだ。『正義』が一人一人違うからといって、それをその人自身だけで掲げる必要はない。人は一人では生きられない。それは『英雄』でも変わらない。

 

 「だから、諦めないでください。でも、そうですね。リューさんが折れたとしても、僕はリューさんの『正義』を信じます」

 「・・・・・・ベル。貴方は自分の行動を少しは客観的に判断した方が良いですよ」

 「はい?」

 

 おや? 予想していた返答とは全く違うベクトルの返答が来たぞ? 客観的? 一応、気を付けているつもりだけど。

 

 「貴方の言動や行動は沢山の女性を魅了させる。少し・・・いえ、かなり加減しないと本当に後ろから刺されますよ?」

 「何の話ですか!?」

 

 えっ、何!? 本当に怖い!? 前世から結構言われているから、一応、考えて行動している筈なんだけど・・・。

 

 「(だから、私は貴方が・・・いえ、やめておきましょう)それよりもありがとう、ベル。貴方のおかげで決断できました。私はもう迷いません」

 「それは良かったです。では、皆の所に向かいますか? 心配しているでしょうし」

 「そうですね。行きましょうか」

 

 そうして、僕達は皆がいるリビングへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あっ! アストレア様! ベルとリオンが戻ってきたわ!」

 

 リビングに着くと、アリーゼさんがそう言う。

 

 さっき、そう言った本人が言うのはなんだけど、本当に皆がいるんだ。とても仲間思いですね。リューさん。見てください。貴方を心配する人達がこんなにもいるんです。貴方は一人じゃない。決して一人で抱え込まないで。

 

 すると、真っ先にアストレア様が来た、

 

 「ベル。ありがとう。リューの相談に乗ってくれて。リューも元気になったみたいで良かったわ」

 「アストレア様・・・。心配をおかけしました」

 

 リューさんは頭を下げる。本当に生真面目だなぁ。そういう時はねーー

 

 僕はこっそりリューさんに耳打ちする。

 

 「ベル? これを言えば良いのですか?」

 「うんうん。謝罪よりもそっちの方が良いと思います」

 「分かりました。えっと、ありがとう・・・ございます」

 「・・・! ええ、どういたしまして」

 

 アストレア様が驚きながらも、微笑む。

 

 あっ。アストレア様の微笑みに当てられて、何人かの【アストレア・ファミリア】の団員達が気絶した。

 

 あらら。幹部達は気絶してないけど、大体が目を逸らしてる。まぁ、僕も目を逸らしているから、人の事を言えないんだけど。

 

 さて、そろそろ帰れるかな。

 

 と思った矢先のことだった。

 

 お母さんが何を思ったのか急にある事を提案して来た。

 

 「ねえ、ベル。今日、一緒に寝ましょう?」

 「はい?」

 「良かったわ〜。じゃあ、一緒にお風呂に入りましょう♪」

 

 あっ、もしかして、今の肯定だと思われた?

 

 「ちょっ、待って!? お母さん!? いくらなんでも、いきなりすぎっ!?」

 「だって、最近、全然甘えてくれないのだもの。じゃあ、強引にするしかないじゃない?」

 「待って!? その理屈はおかしい! ちょっ、助けて!? アストレア様!」

 「あら、じゃあ、私も入ろうかしら」

 

 追い討ちが来た! やめっ、やめてーーーーーー!!

 

 

 

 

 

 そうして、二人の女性に隅々まで洗われ、揉みくちゃにされた哀れな兎は次の日の朝、三人で寝ていた所をアイズに見られて、アイズも混ざり、結局、昼まで寝ていたとの事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 


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