白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第二十二話

 僕とアイズは【ディアンケヒト・ファミリア】の本拠地(ホーム)である治療院に着いた。

 

 

 「というか、アイズ。いつの間にアミッドさんと散歩の約束してたの?」

 「昨日、ベルが私を置いて『仕事』に行っていた時、街で偶然会って、アミッドが疲れたような顔をしていたから、休息を取らせようと思って」

「う、うん」

 

 

 何だか、前半の言葉ににものすごい棘があるような……。気のせいにしておこう。それが良い。

 

 それにしても、アイズが人を気遣えるようになるとは。僕、少し感動しています。

 

 そんな事を考えていると、急にアイズがジト目で僕を見てきた。

 

 アイズのジト目って中々に可愛いんだよな。前世の時とか、感情豊かになったお陰で様々な表情を見せてくれるようになった。その中でも、何処から学んで来たのか、ジト目というものを覚えてきた。最初は「ジトー」って言いながらやっていた様子を見て、可愛すぎて死ぬかと思った。

 

 

 「……私だって人を気遣うぐらいはするよ?」

 「分かってるよ。アイズは優しいからね」

 

 

 僕が頭を撫でて誤魔化すと、アイズはとても心地良さそうな顔で僕の手にスリスリと頬擦りをしてくる。

 

 そういう所だよ! そういう所が可愛すぎるんだよ! 

 

 想像してみろ諸君。9歳の少女が自分の手に頬擦りをするのだ。萌え死ぬに決まっているだろう! 

 

 すると、奥からアミッドさんが出てきた。とても複雑そうな顔で。

 

 

 「……時間になって来てみれば、お二人は何をしているのですか?」

 「あ、アミッドさん。数日ぶりですね」

 「ん、アミッド。アミッドも混ざる?」

 

 

 アミッドさんは僕の挨拶に「そうですね。寂しかったです」と答え、僕は「あはは……。すみません」と苦笑し、アイズの提案には頬を赤くしながら「け、結構です!」と返した。アミッドさんって、この時からあまり変わらず、真面目だなぁと思った。

 

 アミッドさんは「コホン」と咳払いをし、話を進めた。 

 

 

 「それで、どうして、ベルさんがここにいらっしゃるのでしょうか? 昨日の時点では、私とアイズさんの二人でだったと記憶しているのですが」

 「ん。さっき、ベルも誘った。一緒に行く」

 「えと、アミッドさん。僕が来るのが嫌でしたら、僕帰りますので」

 

 僕の言葉にアミッドさんは急いで否定する。

 

 

 「い、いえ! 別に嫌というわけではありません!(むしろ、とても嬉しいのですが)よろしくお願いします」

 「はい。よろしくお願いします。アミッドさん」

 「じゃあ、行こっか」

 「そうですね」

 

 

 そうして、僕達は街へと出かけて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様子を見ていた女性がいた。

 

 

 「あれは、ベル君? あと、ヴァレンシュタインと『戦場の聖女(デア・セイント)』? これからお出かけなのかしらー? フレイヤ様に一応報告しておこうかしらー?」

 

 

 その女性は【フレイヤ・ファミリア】の回復役(ヒーラー)の一人、ヘイズだった。

 

 たまたま、神フレイヤに休息を取るように言われ、現在、私服でお出かけ中のヘイズ。

 

 三人の子供達の様子を見て、フレイヤ様に報告すべきか否かを迷っている。何故、迷うのかというと、ベルが『フレイヤ様のお気に入り』であるのだが、何もフレイヤ様だけではない。

 

 大体の上級冒険者や女神に大人気なのだ。かく言う私もベル君の事が好きだ。

 

 以前、アレンさんがベル君と模擬戦をした事によって、【フレイヤ・ファミリア】の団員達が更に苛烈な戦いをするようになった。それに比例して、私達回復役(ヒーラー)の負担も倍増し、そろそろ倒れそうになった時、ベル君がやって来た。

 

 その時、幹部以外の団員達は一斉にベル君に襲いかかったが、全員がベル君の手刀で気絶させられた。その時は既にレベル5になっていたが、それでも驚かざるを得なかった。襲いかかった団員達の中にはレベル4もいた。その団員ですら、手刀一撃で沈黙したのだ。それも、ベル君自身も団員達も一切の怪我をする事なく。

 

 そして、ベル君が私の下にやって来た。とても心配そうな顔で私を見ながら、私に話しかけた。

 

 

 「えと。大丈夫ですか、ヘイズさん?」

 「は、はいー。大丈夫ですよー。どうしたのベル君? フレイヤ様にご用事?」

 

 

 貴方のせいですよ! とは、流石に子供相手に言えなかった。

 

 

 「あっ、いえ。フレイヤ様にヘイズさん達が大変そうだから、手伝ってあげてと言われまして」

 「なるほど? ベル君は回復魔法を使えるの?」

 「まぁ、一応。派生ではありますが・・・」

 

 

 目眩がした。あんな戦闘能力を有していながら、派生と言えど回復魔法が使えるのだ。完全なオールラウンダー。正直、都市最強は団長じゃなくて、この子のような気がする。

 

 

 「あっ! とりあえず一週間程休んでいてください! その間は皆さんの『戦闘の相手』も『回復』も『ご飯を作る』のも僕一人でやるので!」

 「はいー?」

 

 今、この子はなんて言った? 私達の代わりをこの子が一人でこなすと? 到底信じられない。こんな子供が私達ですら過労死しそうな仕事に加えて、団員達の相手もすると言ったのだ。

 しかし、何故だろうか。荒唐無稽な話なのに、この子はさも当然かのように言うから、本当にやってしまいそうな気がする。

 

 よって、私は最初に一日だけ様子を見て、それによって決めようと思った。

 

 ・・・結論から言います。杞憂でした。

 

 朝早くから起きて、膨大な量の朝食を作っていた。正直、全然見えなかった。次々と料理が出されて、団員達はそれを食べていた。最初は「何故、あの兎のご飯を食べねばならんのだ」みたいな感じだったのに、一度食べてしまえば、団員達は「美味しい!」「おかわり!」などと言っていた。

 

 次は団員達との戦闘。多対一(もちろん一はベル君)で行っていた。ベル君には幹部達の攻撃ですら全く当たらず、無傷でいながら、団員達に気絶寸前まで追い込める体術で対応していた。ちなみにベル君は「すぐに気絶してしまったら、訓練になりませんからね」と笑いながら言っていた。本当に訳が分からない。

 

 しかも、体術で行っているため、大多数が怪我らしい怪我はなかったそれでも骨が折れている団員とかいたため、その団員には「大丈夫ですか?」と言いながら、回復魔法をかけていた。その団員は「あ、ありがとう」と戸惑いながらお礼を言っていた。私は思わず、ギョッとした。

 

 回復されるのを当たり前だと思っている団員がお礼を言っていたのだ。その言葉にベル君は「良かったです!」と言っていた。

 

 とても白い、純白の少年。他の回復役(ヒーラー)は街に出かけたり、部屋で休んだりせずに、私と一緒にベル君の働きぶりを見ていた。やっている事は何十人分の仕事なのに、笑顔を絶やさず、何の苦もないように振る舞う彼の有り様はとても尊かった。純粋で健気でとても真っ白な少年に私は惹かれて行った。

 

 だから、私はベル君を甘やかしたい。ドロドロになるまで、自分から甘えてくれるように私はベル君を甘やかしたい。

 

 最近は侍女長のヘルンも同じ気持ちらしい。彼女はフレイヤ様の感情等が流れ込んでいるため、ベル君への想いは人一倍だろう。

 

 さて、ベル君? お姉さん達を本気にさせちゃったんだから、責任、取ってもらいますよー?

 

 

 


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