白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第二十三話

 

 

 

 ブルッ!

 

 僕は不意に悪寒に襲われた。何だか、久しぶりに捕食されそうな兎の気分になってしまった。

 

 僕は周りに意識を向けるが、感じるのはリヴェリアお姉ちゃんの『見守り』の視線やヘイズさんの・・・・・・何だこれ? ちょっとよく分からない。好意? 庇護欲? ちょっと色々混ざり過ぎて、僕にはよく分からない。

 

 というか、リヴェリアお姉ちゃんは何してるんですか? わざわざローブまで着て姿を隠している。いや、普通の格好じゃエルフの人達に捕まってしまうだろうけど。

 

 まぁ良いか。そこまで気にする事じゃない。『見張り』ではなく、『見守り』だから、視線は柔らかい。何というか母親が子を、姉が弟を見ている感じがする。前者はアイズで、後者は僕かな?

 

 そうして、ずっと黙っているからか、アイズとアミッドさんが話しかけて来た。

 

 

 「どうしたの、ベル?」

 「どうかしましたか? ベルさん?」

 「ん? あぁいや、何でもないよ。気にする事じゃない」

 「? 分かった」

 「アイズさん・・・・・・妙に早く納得しましたね。まぁ、私も同感ですが」

 「ふふっ。それでどこに行くの?」

 

 

 二人は僕の言葉に何の疑問も無く、引き下がってくれた。まぁ、本当に気にしなくて良い事だし、知っても問題は無いと思うけど。

 

 そして、僕は二人に行き先を尋ねると、二人は同時に答えた。

 

 

 「「じゃが丸くん」」

 「・・・・・・アミッドさん? もしかして相当疲れてる?」

 

 

 ここで、アイズを入れないのは言わずもがな、アイズはどんな時でもじゃが丸をこよなく愛する。・・・・・・絶対にアミッドさん、アイズの言葉に釣られてしまった。それほどまでアミッドさんは疲れているんだろうなぁ。

 

 僕の言葉にアミッドさんはニッコリしたまま、

 

 

 「いえいえ、そんな事はありませんよ? ええ、別に何でも。ええ、闇派閥(イヴィルス)の治療にも駆り出され、ただでさえ冒険者達の治療でも大変なのに!」

 

 

 あ、なんかごめんなさい。基本的にその人達を助けているのは僕なんです。

 

 アミッドさんは表情を笑顔にしたまま、されど声は怒りを含みながら愚痴を言う。本当に申し訳ないです。

 

 

 「でも、アミッド。闇派閥(イヴィルス)の捕獲をしているのベルだよ?」

 

 

 ちょっ!? アイズ!? 何でそれを言うの!? 僕、怒られちゃうじゃん!

 

 しかし、アミッドさんの口から出たのは僕にとって意外な言葉だった。

 

 

 「分かってますよ、アイズさん。ベルさんは有名ですからね。私はベルさんを恨んでいる訳じゃないですよ? むしろ、敵であっても救いの手を差し伸べるような『優しさ』は美徳であると思います。私が言いたいのは争いをするから怪我するという事です。争うことなく、平和であれば、私達の仕事も少なくなるのにという事です」

 「・・・・・・本当にそうですよね」

 

 

 うん。本当にそうだよね。争いがない平和な世界ならば、僕はどうしているのだろうか? 家族と一緒に楽しく過ごしているのだろうか? だけど、こういった世界だからこそ、僕は今ここにいて、アイズに会い、恋に落ち、英雄になった。だから、僕は『今まで』は否定しない。僕は『これから』を変えていくべきだと思う。

 

 

 「・・・・・・湿っぽい話になりましたね。話題を戻しましょう」

 「うん。どこに行こっか」

 「そうだね。服屋はどう?」

 「定番ですね。私は良いと思います」

 「私も・・・良いと思う」

 

 

 そうして、僕達は服屋へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、僕は今、二人の試着を終えるまでリヴェリアお姉ちゃんと待っている。

 

 流石に一人じゃ暇だったので、リヴェリアお姉ちゃんを呼んで、話し相手になってもらった。

 

 

 「そういえば、リヴェリアお姉ちゃんは服は買わないの?」

 「私か? 私は贈り物が多いからな。特にロキからの。だから、別に買おうしなくても服はあるんだ」

 「あはは・・・でも、その贈り物の殆どって何か固い物ばかりだよね?」

 「ああ、そうだな。同胞達から貰うものは基本ローブかドレスだな」

 

 

 リヴェリアお姉ちゃんはハイエルフだから、エルフの人達にとっては崇拝の対象となっている。だから、王族としての衣装がよく届いてくる。

 

 うーん。そういうリヴェリアお姉ちゃんは美しいんだけど、もうちょっと『緩い姿』を見てみたいなぁ。

 

 

 「緩い姿か。たまには良いかもしれないな」

 「えっ? 心を読んだんですか?」

 「何を言っている? 普通に口に出していたぞ」

 「・・・本当ですか?」

 「ああ」

 

 

 僕は何やってんだ!? 感情の制御ができなさすぎだろ! あああああ! 恥ずかしい!

 

 

 「全く。普段、何かおねだりしてほしいと思っていてもお前は何も言わないからな。数少ないお前の要望だ。ちょっと買ってくる」

 「待って!? お姉ちゃん!?」

 

 

 ああ、リヴェリアお姉ちゃんも行っちゃった。

 

 すると、丁度入れ違いでアイズ達が試着室から出てきた。

 

 

 「ベル? リヴェリアが来てたの?」

 「えっ、ああうん。でも、服を買いに行っちゃった」

 「そう。私の服どう?」

 

 

 アイズの服は袖なしの紅色に明るい赤のピン・ストライプ柄のまるでいつかの学園の時の幼児化事件の時の格好だ。うん。めっちゃ似合ってる。

 

 

 「とても似合っているよ。まるで凛とした花のような姿だ」

 「ん。ありがと」

 

 

 おおよそ、9歳にかける褒め言葉ではない気がするが、何故かこれぐらい褒めないとアイズが満足しないのだ。

 

 アイズは少し頬を朱に染めながら、礼を述べると、次はアミッドさんが出てきた。

 

 

 「えっと、どうでしょうか?」

 

 

 アミッドさんは薄桃色のワンピース。髪はハイポジションでポニーテールにしている。清楚なイメージも合わさって、とても綺麗だ。12歳でこれは凄いな。ロリコンの人達が大喜びしそう。あっ。僕は違うよ?

 

 

 「とても綺麗だと思います。まさに聖女のような美しさを持っていますね」

 

 

 あっやば。つい、アイズと同じ感じで感想言っちゃった。

 

 

 「〜〜〜!///」

 

 

 ああー。アミッドさんが顔真っ赤になってる。12歳じゃまだあまり褒められ慣れてないか。

 

 すると、続いてリヴェリアお姉ちゃんも来た。

 

 いや、待って待って待って!? その格好はおかしくない? さっき緩い格好って言っていたよね!? 何でそんな完全な『デート服』なの?

 

 リヴェリアお姉ちゃんの格好は完全なデート服とも言えるもので、両肩を露出させた瑠璃色の服に少し長めの翡翠色のスカート。

 

 うん。めっちゃ大人の色香があって、男を本気で魅了しにかかっているとも言える格好。正直、似合い過ぎてて直視できない!

 

 

 「ベル。どうだ?」

 「・・・まず、それを緩い格好と言えるのかはさて置き、とてもお似合いだと思います。思わず、見惚れました」

 「ふふっ。そうか。ならば、着た甲斐があったというものだ」

 

 

 リヴェリアさんはクックと笑い、僕の頭を撫でる。

 

 ヤバい。とても今更だけど、美少女、美女に囲まれてる。

 

 精神保つかなぁ?

 

 

 

 

 


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