心地良いような、何だか寒いような。
「ールーん!」
どうやら僕はうつ伏せになっているようだ。というか、上半身が裸になっている。
「ベ──ん!」
さて、そろそろ起きなければ、僕を呼ぶ声がする。
「ベル君!」
僕は目を開け、背中に乗る神物を見た。
「神様?」
「全く、ステイタス更新中に寝るなんてね。そんなに疲れてたのかい?」
うん。間違いない。間違いなく僕が知るヘスティア様だ。
「すみません。それで、ステイタスはどうなったんですか?」
「……すまないベル君。今日は口頭で言ってもいいかい?」
「? はい。構いませんけど」
一体どうしたのだろうか? 何か気になることでもあるのだろうか?
そして、僕は基本アビリティの値を聞き、『いつも通り』魔法もスキルも発現していない事を聞いた。
つまり、今の僕はレベル1で時間は大体アイズに会った後、【
まぁいいか。神様はいつも僕の事を思って行動してくれている。別に問題は無いだろう。
「じゃあ、神様。もう夕飯の支度しましょうか? ジャガ丸くんパーティーでも、流石にそれだけじゃあ物足りないですよね?」
「うん、ベル君に任せるよ」
「はーい」
そして、僕は懐かしいキッチンへと向かった。前世じゃあ、簡単な料理しか作れなかったけど、『経験』はしっかり覚えている。材料を余す事なく使い、限りない美味しさを作る。
ヘスティアはどこか懐かしむような雰囲気を出しながらキッチンに向かうベルを見て、自分の記憶を思い返す。
「一体何なんだこれは?」
ベル・クラネル Lv.1
『力』I 77→82
『耐久』I 13
『器用』I 93→96
『敏捷』H 148→172
『魔力』I 0
【魔法】
【ファイアボルト】
・速攻魔法
・付与魔法に変化可能
・昇華時、『神雷』と『聖火』を纏う
【ディア・アルゴノゥト】
・召喚魔法
・速攻魔法
・『雷霆の剣』『炎の魔剣』を召喚
・追加詠唱式『笑おう! 例えどんな苦難があろうとも! 紡がれるは喜劇! 暗黒の世界を照らす希望の光! 神々よご照覧あれ! 私が、始まりの英雄だ!』
・『雷霆の剣』を『神雷の剣』、『炎の魔剣』を『聖火の魔剣』に昇華
・自動的に【
【スキル】
【
・【英雄の試練】【
・【
・【ファイアボルト】昇華可能
・【
【原点回帰:
・自分の
・自分の
・絶望に屈さず、希望を掲げる限り効果持続
異常。
はっきり言わなくても分かるほどの
正直、ベルが寝ていてくれて助かった。
これを見た時に尋ねられていたら、絶対に誤魔化せなかった。
「ベル君。君は一体、どうしたんだい?」
女神はたった一人の
今、僕はダンジョンにいる。
【英雄の試練】が始まり、二日目。
さっき、前世と変わらず、メインストリートで
何故か、前世の時よりも押しが強かった。
確かに前世と比べてみると、魂の輝きは増したかもしれませんが、そんなに食い入るように見られると困るんですがと言えるほど、押しが強かった。
今日の夜は酒場──『豊饒の女主人』に伺う事を伝えると、やっと離してくれた。
朝から相当疲れてしまった。
とりあえず、夜ご飯の分のお金を稼がないと。『豊饒の女主人』で出される料理は味はとても美味しく、そして高い。値段と美味しさが釣り合っている酒場なのだ。
……今日の夜は確実に荒れる。そのためにも少しでもお金を稼がなければ。
……ちゃんと
とりあえず、今回の探索で分かったのは意外と『身体』と『精神』のズレが小さかった事だ。
ズレの解消で一日潰れる事を覚悟していたが、一時間くらいで終わった。
あと、何故か【ファイアボルト】や【
もしかして、神様はこれに疑問を持ったのかな?
今回の稼ぎは約一万ヴァリス。
階層の浅さと戦闘のスローペースから判断しても、相当な金額だと言えるだろう。前世じゃこれの半分以下だった筈だし。
夕刻。教会の隠し部屋へと戻った。
「神様ー? ただいま帰りましたー!」
返事はない。
「まだ、バイトなのかな?」
すると、机の上に紙がある事に気づいた。その紙を取ってみると、
『すまないベル君。何日か部屋を留守にして、少し友神の所に行ってくる』
置き手紙のようだった。
何日か留守に?
ガネーシャ様のパーティーって明日じゃなかったっけ?
それともヘファイストス様の所に行くのかな?
無理しなきゃいいけど。
僕は不安を押し殺して、『豊饒の女主人』へと向かった。
すっかり日は落ち、早朝の人気の無さとは打って変わって、酒場を中心に盛り上がっている。
前世は店を見つけるの苦労したなぁー。
弦楽器や管楽器の演奏に心が躍り、道行く人々は足を進める。
そうして歩いていると、『豊饒の女主人』に辿り着いた。
そして、僕は中に入った。
「あっ! ベルさん来てくれたんですね!」
シルさんは店に入った僕に気づき、僕の元に来た。
……その瞬間、沢山の男性冒険者が僕を睨んできた。
うっわー。すっごい帰りたい。
「来ましたよ。約束ですからね」
「はい。ありがとうございます。いらっしゃいませ」
シルさんは澄んだ声を張り上げる。
「お客様一名入りまーす!」
(いつも通りだな〜)
酒場っていちいちそう言う事言う店だったかな? と前世でも同じ疑問を持って、僕はシルさんにカウンター席に案内される。場所も前世と全く同じ隅っこだ。
僕は案内された席に座り、店主──ミアさんが話しかけてきた。
「アンタがシルのお客さんかい? ははっ、冒険者のくせに可愛い顔してるねえ!」
「あはは……」
前世と全く変わらない事を言われ、苦笑いを浮かべる僕。
「何でもアタシ達に悲鳴も上げさせるほど大食漢なんだそうじゃないか! じゃんじゃん料理をだすから、じゃんじゃん金を使ってってくれよぉ!」
「シルさん?」
僕は側にいるシルさんを見る。
「……えへへ」
ああ、ダメだ。この人本当に変わらない。
「……僕の【ファミリア】は貧乏ですから、ちょっとだけですよ」
「ふふ、ありがとうございます」
僕はカウンターに向き直り、パスタを頼んだ。酒は断った。の筈なのだが、
うん。前世もそうだったけど、何で聞いたの?
少年食事中……
「楽しんでますか?」
「はい。とても賑わっていて、良いお店ですね」
笑顔の絶えない酒場。それってだけで、とても良い店だ。僕も似たようなものを追い求めるから、凄いと思う。
そうして、シルさんと談笑していると、十数人規模の団体が店に入って来た。
それは──【ロキ・ファミリア】。都市最大派閥の一つ。勿論その中にはアイズもいた。
今世の僕は【ロキ・ファミリア】の団員。今、こうした状況はとても寂しく思う。
だが、今の僕は【ヘスティア・ファミリア】の団員。神様を裏切ることはできない。
そうしている内に【ロキ・ファミリア】の人達は騒ぎ出した。
僕はまだ残っているパスタを食べ始め、食べ終わると、一人の獣人の青年──ベートさんが大声を上げる。
「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」