白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第二十六話

 

 

 「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 「あの話……?」

 「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス! 最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

 

 アイズはベートが何を言わんとしているのか、理解した。

 

 

 「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出していった?」

 「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に上っていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていったやつ! こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ〜」

 

 ティオネの確認にベートはジョッキを卓に叩きつけながら頷く。

 

 ベートは酔っている影響か、次々に口が回る。

 

 当然、白い少年の話題が出た。

 

 何故かは分からない。でも、ふつふつと私の中で煮え滾る何かがあった。

 

 これは、怒り? あの白い少年を傷付けるような発言に対して? 

 

 どうして、私は一度しか会っていない白い少年にこうまで心を乱しているのだろう? 

 

 これは、一体何? 

 

 リヴェリアが私の様子を見て、ベートを静かに非難する。

 

 少し、心が軽くなったような気がする。

 

 でも、『気がする』だけだ。

 

 皆が彼を笑う。そして、取り残された私はついぞ、足元の愛剣に手にかけようとした時、

 

 

 『ダメですよ。そんな物騒な事をするのは』

 

 

 ふと、そんな声が聞こえて来た気がした。

 

 私は顔を上げ、声の主を探す。

 

 すると、見つけた。カウンター席に座り、片方の目をこちらに向けている白髪赤瞳の少年。

 

 

 『僕は大丈夫です。ですが、もし、そこに居たくないのであれば、こっちに来ますか?』

 

 

 迷い子の様になっていた私にはその提案はありがたかった。

 

 私は席を立ち、少年の下へと向かう。

 

 

 「おい、アイズ! って、アイズ?」

 

 

 後ろから何か聞こえるが今の私に余裕はない。

 

 私は追い縋るようにその少年近くに来た。

 

 そして、私はこの子に問う。

 

 

 「君の名前は?」

 「僕はベル。ベル・クラネルです」

 「ベル。うん、ベル。私はアイズ。アイズ・ヴァレンシュタイン。アイズって呼んで」

 「よろしくお願いします、アイズさん」

 

 

 酒場はワッと盛り上がる。

 

 「あの【剣姫】に男だと!?」「いやでも、今のやり取り明らかに初対面だぞ!?」「まさか一目惚れなのか!?」「というか、あのガキは一体誰だ!?」と沢山の声が聞こえてくる。

 

 だけど、そんなのはどうでも良い。

 

 

 「ベル」

 「はい。どうかしましたか?」

 「頭、撫でても……良い?」

 「へっ? まぁ、良いですけど。どうぞ?」

 「ん、ありがとう」

 

 

 私は差し出された頭を撫でる。

 

 おお、モフモフ! 癒される。ずっと触っていられる。

 

 思わず、抱きしめそうになると、

 

 

 「アイズ。止まれ」

 「あうっ」

 

 

 私はリヴェリアに頭を叩かれた。いつの間にか、私の後ろに来ていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕は驚いている。

 

 アイズの悲痛な表情を見て、思わず助け舟を出したが、まさか本当に来るとは思わなかった。

 

 そのまま流れるように自己紹介を終え、アイズは僕の頭を撫でたいと言ってきた。

 

 アイズ、本当に頭を撫でるの好きだよね。

 

 そして、アイズが少し身じろぎしたと思うと、どうやらアイズはリヴェリアお姉ちゃ──リヴェリアさんに叩かれたようだ。

 

 

 「コホン。アイズ、その少年は誰なのだ? お前の反応から察するに先程の話に出てきた少年だと思うのだが」

 「うん。そうだよ。ベル・クラネルって言うの」

 「あはは。初めまして、ベル・クラネルです」

 「ふむ。こちらこそ初めまして、リヴェリア・リヨス・アールブだ。先程は済まなかった。身内の暴走を止めることができなかった」

 「私からもごめんなさい」

 

 

 リヴェリアさんとアイズが謝ってきた。僕は慌てて頭を上げさせる。

 

 

 「謝罪は受けとります。ですが、私は気にしていませんし、貴方達もあまり気にしなくて大丈夫ですよ?」

 「すまない。ありがとう」

 

 

 すると、奥からフィンさんが来た。

 

 なんか凄い顔が真っ赤で若干フラフラだけど、大丈夫なのかな? 

 

 

 「僕は【ロキ・ファミリア】の団長のフィン・ディムナ。僕からも、【ファミリア】の代表として謝る。団長でありながら、皆の暴走を止めるどころか、僕も君を笑ってしまった。本当にすまなかった」

 「ああ、はい。分かりましたけど、フィンさん。フラフラですけど、大丈夫ですか?」

 「あはは、ちょっと飲まされてね。でも、大丈夫だよ。ありがとう」

 

 

 明らかにちょっとじゃないような。

 

 すると、リヴェリアさんが大声で言った。

 

 

 「ベート! お前も謝れ」

 

 

 すると、ベートさんが嘲笑の声で返す。

 

 

 「はっ! どうして俺が雑魚なんかに頭を下げなきゃいけないんだ? 俺は事実を言っただけだ! 馬鹿にされるのはそいつが弱いからだろうが!」

 

 

 リヴェリアさんは頭を抱える。苦労人だなぁ。お姉ちゃんもいつかはこうなるのだろうか? 

 

 僕はリヴェリアさんに声をかける。

 

 

 「リヴェリアさん。僕は大丈夫ですよ。謝罪は貴方達から受け取っていますし、僕が弱いのも事実ですから」

 「あのバカが本当にすまない」

 

 

 すると、今度はアイズが話しかけてきた。

 

 

 「ベル。今度、会おう?」

 「え? まぁ、良いですよ」

 

 

 アイズのこの発言に僕とアイズ以外が驚愕した。

 

 

 「チッ! おいっ! トマト野郎! テメェ調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 

 

 ベートさんはヅカヅカと僕の方へと来て、僕の胸ぐらを掴み上げる。

 

 

 「ぐっ!」

 「はっ! テメェのような雑魚じゃあ、アイズと釣り合うわけがねえ!」

 

 

 そして、ベートさんは僕を店の外へと放り投げ、ベートさん自身も店の外へ出た。

 

 僕は受け身を取り、すぐに大勢を立て直す。

 

 そして、ベートさんは蹴りを放ってくる。

 

 それを見ていた人達は皆が想像した。

 

 少年が血祭りに上げられる姿を。

 

 だが、アイズは何となく分かっていた。ベルの強さを。

 

 

 「ッ!」

 

 

 一瞬のぶつかり合いだった。

 

 大勢の人はその動きに理解が出来なかっただろう。

 

 理解できたのは第一級冒険者のみ。

 

 ベルはベートの蹴りを当たるか当たらないかぐらいのギリギリで避け、そのままベートの鳩尾を殴り、雷を放出した。

 

 

 「ガッ!」

 

 

 ベートさんは地に伏し、ベルは立っていた。

 

 現在のベルの心情としては

 

 や、やってしまったあああああああああああ! 

 

 やってしまった! よりもよってアイズの前で力を見せてしまった。

 

 まずいまずい。発動するか分からないけど、【眷属冒険譚(メモリア・フレーゼ)】! 

 

 世界の記録を塗り替える! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様子を見ていた二人組がいた。

 

 

 「ねぇ、お姉ちゃん。あれって【眷属冒険譚(メモリア・フレーゼ)】だよね?」

 「ええ、そうね。偶然中の偶然だったけど、やっと見つけたわ」

 「私達を置いて行った罪は重いわよ? 『お父様』?」

 

 

 

 

 

 


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