二人に換金を任せて、僕はギルドの外で待っていると、
「ベル?」
「アイズさん?」
アイズに会った。
あっ、やばいどうしよう。
僕はすぐさま、二人に念話を飛ばした。
『二人とも、そのままギルドの中にいて』
『? どうしたの? お父様』
『・・・今、アイズといるんだ』
『えっ? お母様と?』
『・・・会っちゃダメなの?』
『ダメという事はないけど、その代わり関係は隠さなければいけないよ?』
『じゃあ、お母様の目の前でお父様の恋人のフリをしても良いって事?』
『いや、なんでそっち方面? 普通に僕が弟で二人が僕の姉で良いと思うんだけど』
『お父様が弟。それも良いかも』
『そうですね。私達はお父様と行動する以上、何度も遭遇することになるでしょうし、今のうちに会っていた方が良いかもしれません』
『問題は二人の容姿だよなぁ』
『思いっきり、お母様に似ていますからね』
『一応、精霊だし』
『その精霊の力を使って、上手く容姿を変えられない?』
『『無理。まだ、そこまでできません』』
『そっかあ。まぁ、良いよ。二人ともおいで。でも! しっかり設定は守ってね』
『『はーい』』
この会話、僅か一秒。
魂が昇華した人達にとっては造作もない事なのだ。
さて、アイズの方に意識を向けようか。
「アイズさんはどうしてここに? ダンジョン帰りですか?」
僕の問いにアイズさんは首を横に振る。
「えっと、ちょっと用事があって。ベルはダンジョン帰りなの?」
「はい、そうですよ。今、仲間の二人が換金に行っているので、僕はここで待っているんです」
「そうなんだ」
「おや? 噂をすればなんとやらですね。来たみたいです」
あくまで自然体を装い、あたかも偶然のように二人が来た。
アリアドネの方から口を開いた。
「ベル。お待たせしました。換金は終わりましたよ。っと、もしかして、お話の途中でしたか?」
アリアドネはアイズの方へ向き、確認を取る。
アイズはアリアドネに驚きながらも、答える。
「ん。いや、大丈夫です。えっと、貴方は?」
「これは失礼しました。【剣姫】様。私はアリアドネ・クラネルと申します。こちらは妹のアイルズ・クラネルです」
「よろしくお願いします。アイルズ・クラネルです」
「こちらこそ、よろしくお願いします。アイズ・ヴァレンシュタインです。えっと、アイズって呼んでください」
うんうん。どうやら、大丈夫のようだ。
すると、アイズが僕に尋ねてきた。
「えっと、ベル。クラネルってことはもしかして・・・」
「ああ、はい。二人は僕の姉です。確か、二人ともアイズさんと同じ歳ですよ」
「はい。弟がお世話になりました。姉として、感謝を申し上げます」
「あっ、いえ。どちらかと言うと、こっちの方がお世話になったので」
どうやら、馴染めたみたいだ。
良かった。『今ここにいるアイズ』は二人の母親ではないにしろ、関係が良くないのは見たくないのだ。
でも、そろそろ日も暮れる。
アイズにも用事があるみたいだし、会話は終わらせないと。
と思ったのだが、三人が仲良く談笑をしている所を見ると、そんな気も薄れてしまうものである。
流石に日も暮れ、心配になって見に来たのかリヴェリアさんが来た。
リヴェリアさんはアリアドネやアイルズに驚いていたが、「すまないな」と言って、アイズを引っ張り、『黄昏の館』へと帰っていった。
帰り際に、アイズが「今度は二人きりが良いな」という発言にリヴェリアさんは「もっときちんと教育すべきだったか」と呟き、アリアドネとアイルズは「この時からお母様はお母様だったんですねぇ」と意味の分からない事を言っていた。
「さて、帰ろうか。二人とも。夕食を準備しようか」
「あっ、私も手伝います」
「私も」
「ありがとう。三人で用意しようか」
「「はい!」」
僕達は夕飯の献立を考えながら、帰宅したのだった。
「なあ、アイズ。感じたか?」
「うん。あの二人から精霊の気配がした」
「確か、あの二人はベル・クラネルの姉だったよな?」
「うん。私もそう聞いたし、事実、似ていた気がする」
「だが、ベル・クラネルからは精霊の気配はしないと?」
「うん。もしかしたら、上手く隠しているのかもしれないけど」
「もし、精霊だとして、それも人の形を作り、今まで生きていたとするならば、あの強さも頷ける」
「うん。そうだね・・・」
「どうしたアイズ? 随分と浮かない顔だな」
リヴェリアは私の顔を見て、そう聞いてくる。
「そう思う?」
「ああ、とても残念そうな顔をしている。もしや、あの少年に惚れたのか?」
「分からない。でも、別れる時、すごく寂しくなって、ベルと離れるのが一瞬耐えきれなかった」
「ふーむ」
リヴェリア自体、恋愛経験はないため、これだと断定はできないが、殆どの確率でこれは『恋』だと思う。
なるほど、そうだとしたら、あの少年に感謝しなくてはな。
『人形姫』とも呼ばれるアイズがあんなに感情豊かになっているのだから。
強さも申し分ない。彼ならば、アイズの側にずっといてくれるだろう。
まぁ、まだ、少年がアイズに好意を持っているのか定かではないが。
しかし、興味は持っているだろう。
でなければ、殆ど初対面の相手に自分の頭を触られるのを許容できるわけがない。
美の女神とかなら話は別だろうが。
それに私もどこか彼に惹かれている気がする。
彼の親しみを帯びた視線はどことなく安心感を与えてくれる。
家族として接されているような気分だ。
【ファミリア】も種族も違うのにだ。
全く不快さを感じさせない彼の態度にはおそらくだが、万人が魅了される筈だ。
頑張るんだぞ。アイズ。敵は多そうだ。
保護者は娘の未来がどうか幸福であるようにと願う。
ーーさて、そろそろ良いでしょうか
ーー遊びはお終い
ーー次からは本当の試練
ーーこれまでにないほどの難易度の高さ
ーー彼はどうするでしょうか?