白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第三話

 

 

 

 現在、袖を引っ張られ続けて、街を歩いています。周りからなんだか生暖かい視線が!

 

 「アイズ? 一体どこに向かってるの?」

 「アストレアファミリア」

 

 アイズは僕の問いに間髪入れず答えた。何か怖い! えっ何か怒らせることしたのかな!? 謝りたいけど、でも前世のアイズが「原因も分からないのに謝らないで」って言われたし、どうしよう・・・。

 

 アストレアファミリアに行くにしてもこのままなのは不味い!

 

 僕は意を決して、足を止めた。

 

 すると、僕が急に止まったからか、アイズは僕の方にバランスを崩した。僕はそっとアイズを抱えて、ゆっくり撫でた。

 アイズは一瞬ピクッとしたが、そのまま為されるがままになった。どうやら機嫌は直してくれたらしい。ん? 顔が真っ赤になった? 大丈夫かな?

 アイズはゆっくり口を開いた。

 

 「・・・ベル。ここ、大通りの・・・真ん中・・・だよ?」

 「へっ?」

 

 あっ! 

 僕は今いる場所を再確認しながら、周りを見ると、通行人が皆こっち向いて、生暖かい視線を向けている。

 

 僕は自分の過ちを確認し、一気に顔が赤くなってしまった。

 

 「ご、ごめん! アイズ、行こう!」

 「あっ」

 

 僕は早くその場から離れようとアイズの手を引っ張って、アストレアファミリアのホームに向かって走った。

 やらかした〜! あ〜これは怒られるかな〜。

 

 僕はチラッと後ろを見ると、アイズと目が合った。アイズは微笑んで、

 

 「ベル。時と場所は選ぼうね」

 

 と言った。その言葉に僕はさらに恥ずかしくなった。

 

 おかしいな〜。子供の頃のアイズってダンジョンしか考えていなかったって前世にリヴェリアさんから聞いていたんだけどな〜。僕がいるから? でも、そんなことで変わるのかな〜?

 

 アイズが前世からついてきていることに全然気が付かない鈍感兎のベルである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、アストレアファミリアのホームに着いた僕たち。ここに来た用は一つしかない。『ある人』に会いに来たのだ。

 

 その『ある人』とはーー

 

 「あら? ベル、アイズちゃん。いらっしゃい」

 

 ホームに入った僕たちを迎えてくれたのは白色の長髪で水色の瞳をしている女性ーー僕の母親のメーテリアである。

 

 さて、疑問に思う人がいるだろう。何故、メーテリアは生きているのかということに。

 

 それは数ヶ月前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祖父の墓石の前でしきりに泣いた後、僕は記憶を前世と前前世の記憶を思い出した。すぐさま行動した。後ろに立っていたロキ様に眷属してくれるように頼んだ。

 最初、ロキ様は渋っていたが、根気強く頼み込んだら、了承してくれた。

 ロキファミリアのホームで神の恩恵を刻んでもらい、ステイタスを確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 ベル・クラネル Lv.1

 

 『力』I 0

 『耐久』I 0

 『器用』I 0

 『敏捷』I 0

 『魔力』I 0

 

 《魔法》

 【英雄の試練】

 ・強化魔法

 ・対象は自分が英雄の素質があると思った者

 ・対象の負の状況を超えるための試練を出す

 ・詠唱式『英雄王の名において世界に命ずる。英雄の器に正義を注げ。英雄の炉に悪をくべろ』

 

 《スキル》

  【理想】

 ・早熟する

 ・理想を強く想う程、効果上昇

 ・想いは伝播する。

 

 【幻想】

 ・【理想】が限界へと至った時発動

 ・古き理想が燃えて、新しき理想が生まれる

 ・燃やされた理想は使用可能

 

 

 

 

 

 

 この魔法ならいけると確信した僕は早速使った。ロキ様に止められかけたが、静観することにしたようだ。

 

 「『英雄王の名において世界に命ずる。英雄の器に正義を注げ。英雄の炉に悪をくべろ』」

 

 対象はメーテリア。僕は母さんの話をヘラお婆ちゃんから聞いていた。しっかりと想像しろ。精神枯渇なんて考えるな。お前はできる筈だ。

 

 「【英雄の試練】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として、私は目が覚めた。

 

 「ここは一体?」

 

 周りを見回しても、草原しかない。

 

 「私は確か、ベルをゼウス様に預けて、病気で死んだはず」

 

 ならば、ここは死後の世界だろうか?

 

 「ベルは無事に成長できているかしら? ゼウス様に預けてしまったけれど、良くない知識を与えられていそうだわ」

 

 私は残してきたベルの心配をする。

 

 すると、突如声がした。

 

 ーー英雄の素質を持つ者よ。

 

 「誰かしら? 私には英雄の素質なんてないわよ?」

 

 ーー英雄の素質があるかどうかは貴方が決めることではない。貴方は選ばれたのだ。

 

 「選ばれた、ねぇ。一体誰にかしら?」

 

 ーー英雄の王に。

 

 「英雄の王。そう。もうそんな存在が現れたのね。それで、もう死んでしまった私に何か用なのかしら?」

 

 ーー貴方は生き返ることができる。

 

 「それは転生ということかしら? それとも蘇生かしら?」

 

 ーー蘇生だ。英雄の王は貴方に生きている事を望んだ。

 

 「わざわざ、私なんかを? 一体何故?」

 

 ーー私が知るところではない。貴方は生き返るか生き返らないのか、それを選択するだけだ。

 

 「そう。じゃあ、私は生き返らないわ」

 

 ーー何故?

 

 「何故も何も、私は人生に後悔はしてないもの。病死なんてどこにでもあることよ」

 

 ーー本当か? 本当に心残りはないのか?

 

 「ええ。ベルは私がいなくても成長していける。姉さんも分かってくれるわ」

 

 ーー貴方の蘇生を望むのは貴方の子であるのにか?

 

 「どういうこと? ベルが私の蘇生を? 英雄の王っていうのはベルのことなの?」

 

 ーーその通りだ。英雄の王は親を欲している。これは英雄の王の妻ですら、その欲を満たすことはできなかった。

 

 「ベルが私を? 私を欲しているの?」

 

 ーーお母さん!

 

 「ベル!?」

 

 ーーお母さん! お願い! 戻ってきて! 我が儘だっていうことは分かってる! でも、それでも僕はお母さんと一緒にいたい!

 

 ーーこれを聞いて、貴方はまだ生き返りたくないと言う?

 

 「・・・・・・いえ、そうね。あの子は泣いていたわ。泣いているのなら、慰めてあげるのが母親の役目よね」

 

 ーーならば、今一度、貴方の望みを聞こう。

 

 「私は生き返るわ。そして、母親としてあの子の側にいるわ」

 

 ーーその覚悟と想い、世界はそれを承諾しよう。今、この時をもって、英雄の試練は果たされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日ーー

 

 僕は目が覚めた。どうやら、魔法の行使で気絶したようだ。

 

 ん? 動こうとするが、何かがっちり抱かれて、全く動けない。

 

 とりあえず、抜け出そうと身を動かすと。

 

 「ひゃん!」

 

 女性の声が聞こえた。

 

 すると、拘束が緩くなって、上を見上げると、そこには僕の母親ーーメーテリアがいた。

 

 「ふふっ。おはよう、ベル」

 「ッ! お、おはよう、お母さん」

 

 僕はお母さんに抱きついて、思いっきり泣いた。

 

 「うっ、グスッ、ひぐっ、お、母さん」

 「よしよし。よく頑張ったね。ベル」

 

 お母さんは泣いている僕を何度も何度も撫で続けた。

 

 

 

 

 メーテリア Lv.5

 

 『力』 A812

 『耐久』 A803

 『器用』 S924

 『敏捷』 B756

 『魔力』 S978

 

 精癒D 

 

 《魔法》

 【ヒールブレス】

 ・範囲回復魔法

 ・詠唱式『命の息吹よ』

 

 【英雄の讃歌】

 ・範囲強化魔法

 ・詠唱式『希望の歌よ』

 

 《スキル》

 【英雄王の母】

 ・自分の子を支援する時、魔法の効果上昇。

 ・自分の子のステイタスを知ることができる。

 ・自分の子が死ぬまで、状態異常無効、不老不死となる。

 

 【正義の友】

 ・誰かを助けようとする時、アビリティ高補正。

 ・対象が大事であればあるほど、補正増大。

 

 

 





 メーテリアは完全に支援専門にしました。ちなみに病気はスキル英雄王の母で無効化。子が死ぬまで自分は見守り続けるというまさに母親らしいですね。
 余談ではありますが、メーテリアの蘇生はベルが転生する前にアイズの力を借りて、メーテリアの蘇生を試みました。(当時のアイズの魔法はベルにしか蘇生が作用しなかったため、ベルがその劣化版を模倣し、使用した)しかし、それは完全とはいかず、生き返る一歩手前までになりました。後はメーテリア自身が生き返る覚悟と想いを持たなければならず、そのためにベルは魔法を使用しました。

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