「ベル・クラネル。準備は良いですか?」
「レフィーヤさん?」
気がつくと、いつの間にか『黄昏の館』に居た。
もしかして、時間が飛んだのか?
だが、一応時間が飛んだ分の『記憶』──というか『記録』はあるみたいだ。
ふむ。アイズが24階層に
それで、ベートさん、レフィーヤさん、フィルヴィスさんと一緒にそこまで行く事になるのか。
なるほど。それなら、できるだけ急がなければ。
ただ、僕は三人と一緒に行くことはできないが。
「はい。大丈夫です」
「それは良かったです。その
「ありがとうございます」
僕の
「では、行きましょう」
「はい」
僕達は急いで24階層の
僕は今、18階層にいる。三人はここで情報集めをするみたいだが、僕は先に進む事にした。
レフィーヤさんとフィルヴィスさんはともかく、ベートさんは僕の言う事を聞く気がしないから。
──19階層
──20階層
──21階層
──22階層
──23階層
そして、24階層
「さて、当てもなく探す訳にはいかない」
だが、
「うっわ。なんて夥しい数のモンスター」
通路で行列を作っていたモンスター達は僕の気配に気づき、一斉にやってきた。
「悪いけど、手加減するつもりは毛頭ない。【ディア・アルゴノゥト】」
僕は『雷霆の剣』と『炎の魔剣』を召喚し、双剣を横に薙いだ。
剣から発せられる雷と炎は悉くモンスターを殲滅させた。
もちろん魔石を回収できるほどの余裕はないので魔石ごとだ。
「さて、モンスターの流れに逆らっていくべきかな。アスフィさんなら、そんな決断を取っていそうだし」
僕は【ファイアボルト】を唱え、身に纏い、身体能力を上げた。
僕が到着するまでなんとか生きててくれ。
僕は通路に蔓延るモンスター達を駆逐しながら、北の
しばらくすると、急に景色が変わった。
先程のモンスターの大群と同じぐらい気持ち悪いほどの緑肉の壁。
生きているかのように鼓動するその壁は植物とも言えるかもしれない。
僕は炎の魔剣を振って、その壁を焼いた。
後続もいることだし、再生能力を超えるほどの火力で焼き続けていれば、三人も分かるだろう。
待ってろ。
絶対に皆を死なせない!
僕は駆け出した。
分かれ道を的確に選びながら、走っていると、魔力の流れを感じた。
これは、魔剣か?
アイズが魔剣を使わない。
つまり、【ヘルメス・ファミリア】の団員達か。
どうやら、アイズと分断されたみたいだ。
アイズがあの
問題は【ヘルメス・ファミリア】の方だ。
この事件で沢山の犠牲者を出す事になる。
それは絶対に避けなければならない。
食人花を打ち破りながら、
【ヘルメス・ファミリア】を追いかける。
どうやら
僕は跳躍し、
急な乱入者に驚く【ヘルメス・ファミリア】の団員達。
危ないかった。もう少し遅れていたら、自爆されるところだった。
「大丈夫ですか? 皆さん」
「あ、貴方は?」
皆が驚く中、アスフィさんが対応する。
「話は後です。今は僕が貴方達の助っ人である事だけ理解してください」
「……分かりました」
「ありがとうございます。
僕は一方的にそう言うと、【ファイアボルト】を再び纏い直し、白髪の男へと向かった。
「お、おいっ! って行っちまった。アスフィ。あいつの事知ってるか?」
「いえ、知りません。ですが、確実に私より強い。【剣姫】と並ぶかもしれません」
アスフィは持ち前の賢さで白髪赤目の少年の戦闘能力を分析した。
そして、団員達に指揮をする。
「全員、しっかりと生き残りなさい! 年下の少年にこれ以上庇われるわけにはいきません!」
『おおおおおおおおおおおおおっっっ!』
アスフィはいつもならしない発破をかけた。
彼の顔と言葉が私たちに希望を与えている。
ならば、それを使わずして何が【
私は
僕は一気に白髪の怪人──いや、【
そして、『雷霆の剣』を振った。
雷を纏う斬撃が相手に襲う。
その攻撃を防御しながら、オリヴァス・アクトは僕に問う。
「ぐっ! 貴様何者だ!」
「ただのレベル1の助っ人です」
「そんな訳あるか! 私に傷をつけられる奴がレベル1な訳ないだろ! それに何故、身体の傷が再生しない! この身体は『彼女』に愛されているはずなのに!」
別に嘘は言ってないが、まぁ、僕も言われたら信じないか。
「はあ、貴方達の言う『彼女』がそんな高尚な存在な訳ないでしょうに」
「ッ! 貴様っ! 『彼女』を知っているのか!? あははっ! なるほど! 貴様が私達と同じなら貴様の話も分かってきたぞ!」
何を言っているのだろうかこの人は?
貴方達と一緒にしないでほしいのだが。
「そんな訳ないでしょう。たしかに僕は貴方達の言う『彼女』のことを知ってますが、僕は『怪人』でもなければ、貴方達のような『狂信者』でもない」
そして、僕は詠唱を開始する。
「【笑おう! 例えどんな苦難があろうとも! 紡がれるは喜劇! 暗黒の世界を照らす希望の光! 神々よご照覧あれ! 私が、始まりの英雄だ!】」
「ぐっ、貴様っ!」
僕はオリヴァス・アクトを蹴飛ばして、引き離し、魔法を行使する。
「【ディア・アルゴノゥト】!」
その言葉を皮切りに
ゴォォン! ゴォォン! ゴォォン!
ある所では、希望を照らし
「この鐘の音は!」
「ああ、力が湧いてくるような感じがするぞ!」
「今だ! 全力で押し返せ!」
また、ある所では、
「なんだこの音は?」
「チッ! おい! こいつら倒して早く行くぞ!」
「……(兄さん)」
またまた、ある所では、さらなる決意を産んだ。
「なんだ! 何が起こっている! ぐっ!」
「この音は、とても温かい。ベル、待ってて、すぐ終わらせるから」
「舐めるなァ! 『アリア』ァァァァ!」
味方には希望を、敵には絶望を与えるこの鐘の音はまさに英雄の如きのものだった。
「くそっ。いでよ! 『
大主柱に寄生していたモンスターの内、一体が蠢き、震え、毒々しい花弁を僕へと向ける。食人花とは比べ物にならない大きさのモンスターは例え、上級冒険者であっても戦慄せざるを得ない。
しかし、それは正史でのお話だ。
ここには誰がいる?
完全な
白き光を纏うその少年によって上級冒険者は誰一人として、絶望しなかった。
それどころか、その怪物に向かって、誰もが向かって行った。
僕は『並行蓄力』を続けながら、オリヴァス・アクトと対峙する。
ベートさん達も来て、巨大花は皆が押さえつけてくれているから、僕はこいつに集中する事ができる。
「くそっ! 何故だ! 何故私が! こんな餓鬼にぃぃぃ!」
「こんな事をしているからでは?」
僕は徐々に力と速さを加えながら、オリヴァス・アクトを追い詰めて行く。
そして、さらなる希望の登場だ。
突然、
そこから、赤髪の怪人が血を流しながら飛んでくる。
そして、吹き飛ばした本人は、
「お待たせ。皆」
「【剣姫】!」
「アイズ!」
荒れ狂う風を纏って、皆と合流した。
「ぐっ! 例え、【剣姫】が来ようとも、貴様がそれで巨大花を倒す間にお前だけは殺す!」
「何を勘違いしているんですか? 僕の【
「なんだとっ!?」
「巨大花は僕がいなくてもあの人達で倒せます。僕は貴方の介入を許さなければ良い」
「くそっ! 舐めるなァァァァ!」
オリヴァス・アクトの攻撃は更に苛烈になる。
しかし、僕はそれ以上の力で抑え込む。
そうして、一方的な戦闘を繰り広げていると、アイズが巨大花を一撃で葬ったようだ。
ならば、そろそろ良いだろう。
僕はこの部屋を確実に焼却するためにある人の力を借りることにした。
「レフィーヤさん! 【レア・ラーヴァテイン】をお願いします!」
「はい!」
そうして、レフィーヤさんは詠唱を開始する。
それを知った怪人達は止めるために食人花を使いながら、動くがオリヴァス・アクトは僕が、赤髪の怪人はアイズが。食人花は【ヘルメス・ファミリア】とベートさんとフィルヴィスさんが対応する。
そして、レフィーヤさんの詠唱の時間を稼ぎ続けて、数分。
「ベル・クラネル! 打ちます!」
「分かりました! これで終わりです」
そして、放った。
「【レア・ラーヴァテイン】!」
「『神雷の剣』! 『聖火の魔剣』!」
レフィーヤさんの【レア・ラーヴァテイン】は部屋中の食人花を悉く一掃し、僕の一撃はモンスターが寄生している大主柱をモンスターと一緒に滅した。
こうして、最初の試練は幕を下ろした。