そして、僕は目が覚める。
今度は59階層への遠征だそうだ。
今は
僕は他の団員から身を隠さなければならないため、フィンさんの天幕にお邪魔している。
ちなみに、51階層からの進攻に参加する選抜メンバーには僕の存在は教えられている。
とりあえず、僕は周辺を探索しながら、少し
そして、アリアドネとアイルズと合流した。
「二人とも、道中大丈夫だった?」
「大丈夫ですよ。これでもレベル10ですからね」
「でも、心配してくれるのは嬉しい」
二人は無傷でここまで来たようだ。お父さんとしては娘がとても成長していて感激です。
「予定通り、私達は
「うん。二人は精霊だから、この先に行かせるのは不味いからね」
「分かった。お父様も気を付けてね」
「ありがとう。アイルズ。お父さん頑張るからね」
僕は二人の頭を撫でて、テントへと戻った。
そこまでの道で何やら騒がしい大型の天幕があった。
ラウルさんやリヴェリアさんの声が聞こえる。
もしかして、リヴェリアさんがラウルさん達の緊張をほぐしに行ったのかな?
すると、リヴェリアさんがもう用が終わったのか、天幕から出てきた。
「おや? ベル・クラネルか。どうしたんだ? こんな所で」
「少し、体の状態を確認しながら、散歩ですかね」
「そうか。ほどほどにしておけよ? 明日は大変だからな。まぁ、心配はないだろうが」
「いえいえ、ありがとうございます。誰かから心配されるというのは嬉しいですからね」
「そうだな。アイズにも分かってほしいものだが……」
「あはは……」
リヴェリアさんの悩ましそうな顔を見て、僕は苦笑する。
この時のアイズはかなりの戦闘狂。
近頃は大分落ち着いてきたように思うが、それでも特攻する癖は直っていない。今は椿さんと話しているようだけど、色んな人から話を聞いて、自覚し、受け入れられたら、それもまた『強くなる』という事だろう。
日は昇らず、暮れもしない迷宮の奥深くで、時計の針だけが明朝の到来を告げる。
陣地に数多く立つ天幕が階層の薄闇と燐光に包まれる中、少女の手の中にある葉と樹の意匠が刻まれたエルフの銀時計が、ぱちんと蓋を締められた。
剣が、杖が、大双刃が、湾刀が、銀靴が、長杖が、大戦斧が、槍が。
輝きを放つ数々の武器が、多くの冒険者達に見つめられる。
本営に立つ
「──出発する」
静かな号令とともに、フィンさん率いる【ロキ・ファミリア】精鋭パーティは野営地を発つ。
前衛にはベートさんとティオナさん、中衛にはアイズとティオネさん、フィンさん。後衛にはリヴェリアさんとガレスさん。各配置にはサポーターが二名ずついる。僕と椿さんは中衛。これが今回の隊列となる。
前衛は何かぎゃーぎゃーと言い争っている。
ガレスさんはラウルさんを大声で張り飛ばしている。
意外だったのはレフィーヤさんが落ち着いている事だ。
レフィーヤさんがよく言っている『大木の心』をまさに実行している。その様子にリヴェリアさんは満足そうだ。
「さて、ここからは無駄口はなしだ。総員、戦闘準備」
やがて灰の大森林を抜け、現れた大穴にフィンさんが声を発する。
階層西端の壁面に空いた大穴をパーティ一同は静かに武器を構えながら、見下ろす。
長槍を携えるフィンさんは、告げた。
「──行け。ベート、ティオナ」
発進する。
ベートさんとティオナさんは風になって、急斜面を駆け降りる。
彼らの後に僕達は続き、未到達領域への進攻はここに開始された。
比較的順調に51階層を突破した。
しかし、問題はここからだ。
下からの狙撃を避けながら、そんな事を思い出す。
フィンさんの指示により、リヴェリアさんは防護魔法を用意している。
久しぶりにこの光景を見た。正直、レベル10を超えてから、何とも思わなくなったが、現在ランクアップを果たし、レベル2となった僕にとってはかなり怖い。一応、【ファイアボルト】を体に纏っている事で炎に対する耐性はしっかり上がっているが、それでも致命傷は避けられないだろう。
そんな事を考えていると通路の横穴から太糸の束がラウルさんに迫っていた。
ガレスさんが叫ぶもラウルさんは間に合わない。
しかし、一人の少女が後ろからラウルさんを突き飛ばした。だが、その少女は太糸に腕を絡め取られ、引き剥がされた。
「レフィーヤ!?」
ティオネさんの叫声が響く最中、レフィーヤさんを横穴に引きずり込むのは『デフォルミス・スパイダー』の太糸であった。
巨大蜘蛛のモンスターはレフィーヤさんを捕食しようとした時、地面からの砲撃に焼かれた。
糸に釣られて宙に浮いていたレフィーヤさんはそのまま階層に空いた大穴に、そのまま落下した。
不味い!
そう思ったのと、僕が動き出したのは同時だった。
「フィンさん! 僕が行きます!」
「頼む! ベル!」
フィンさんの声に押され、僕は縦穴の壁面を蹴って、直下に疾走する。
『──【ヴェール・ブレス】!!』
落下するレフィーヤさんと僕の全身を包み込む温かな緑光の衣はリヴェリアさんの防護魔法。
そして、
「【ファイアボルト】!!」
付与魔法をレフィーヤさんにかけ、炎に対する耐性を上げる。
そのまま、レフィーヤさんをお姫様抱っこし、
「【ディア・アルゴノゥト】!」
僕は自分の足下に『炎の魔剣』を召喚し、それを浮かせ、足場にした。
それと同時に大紅竜から砲撃が放たれる。
こちらに向かってくる大火球を『炎の魔剣』で防御。熱が来ないように、『炎の魔剣』で完全に吸収した。
「ベル・クラネル!
『竜の壺』の横穴から多くの竜が翼を打って飛翔してくる『イル・ワイヴァーン』。
全く、少しは手加減してほしい。
僕は召喚待機にしていた『雷霆の剣』を召喚し、雷を放出させる。
雷が次々とモンスターに衝突し、『アアアアアアアアアッ!?』と絶叫を上げるモンスター達。
『雷霆の剣』で
このまま下に行けるかと思ったが、次第に処理しきれなくなっている。
双剣の操作に手一杯の僕は唯一の対処法である詠唱ができない。
すると、そんな僕の焦りを感じたのか、レフィーヤさんは口を開く。
「ベル・クラネル! 私を壁まで投げ飛ばしなさい! 『並行詠唱』で殲滅します! 貴方はできるだけ私にモンスターを近づけさせないでください!」
「でも!」
「大丈夫です! 私を信じてください! 『兄さん』!」
『兄さん』。それを僕に呼ぶのはただ一人。
僕は思わず口角を上げてしまった。
「分かった! では、頼むぞ! 『フィーナ』!」
「はい!」
僕はレフィーヤを壁へと投げ飛ばし、双剣は手に戻した。
そして、詠唱を開始する。笑顔で声高々に。
「【笑おう! たとえどんな苦難があろうとも! 紡がれるは喜劇! 暗黒の世界を照らす希望の光! 神々よご照覧あれ! 私が、始まりの英雄だ!】」
レフィーヤは着壁した後、下方へと走り出し、詠唱を開始する。
「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】!」
そして、古代の兄妹は魔法を放つ。
「【ディア・アルゴノゥト】!」
「【アルクス・レイ】!」
僕の魔法は双剣を昇華させ、【
レフィーヤの魔法はその奥にいる
「やるじゃないか! フィーナ!」
「そっちこそ! アル兄さん!」
古代ではまともな連携なんてできなかった(主にアルゴノゥトが弱いのが原因だが)。しかし、兄妹の絆は初めての連携もぴったりにする。
僕はレフィーヤに向かう竜達の砲撃を全弾防ぎつつ切り落とし、レフィーヤは魔法を完成させ一気に殲滅する。
そして、僕はレフィーヤを再びお姫様抱っこし、レフィーヤに広範囲殲滅魔法の詠唱させる。
そして、僕達は深層域58階層に着地し、レフィーヤの魔法が火を吹く。
「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」
レフィーヤの【
【ロキ・ファミリア】の最高到達階層の58階層。
僕達は何とか下まで着くことができた。
「フィーナ。
「まだまだありますよ。少なくとも目の前の七体の
「それは良い。ならば、本隊に攻撃がいかないようにこっちで引きつけよう」
「はい!」
そして、僕は再び【
ゴォォン! ゴォォン! ゴォォン! ゴォォン!
僕はレフィーヤの前に立ち、降りかかる砲撃を切り裂く。
この位置を維持して、双剣と魔法による遠隔攻撃を行う。
僕の『神雷』と『聖火』は竜の装甲すらも貫く。
レフィーヤの魔法も竜の装甲を貫き、魔石を砕く。
そうして、
「ちょっと休憩させて欲しいかなーなんて」
「無駄口を叩かないでください! 兄さん」
「ちょっと当たり強すぎない!? フィーナさん?」
「口よりも手と足を動かしてください! 芋虫型は魔力に引っ張られるんですから! 私を守ってください!」
「兄だから、もちろんだとも! ただ、ちょっと疲れたというか」
「〜〜〜っ! じゃあ、後でアイズさんに膝枕してあげるよう頼みますから、頑張ってください!」
「よっしゃー! やる気が出たぁぁぁぁーーーー!」
レフィーヤは焦りと羞恥から顔を真っ赤にさせ、僕は疲れを感じさせないどころか全快の時以上の力でモンスターの大群に突っ込もうとした──その直後。
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!」
大吹雪の魔法が階層真北より放たれた。
芋虫型のモンスター達は悉くが氷漬けになった。
そして、氷像と化したモンスター達を矢のように飛んできた
すると、モンスター達は長い
こうして、僕達と本隊は合流した。
アイズ達女性陣はレフィーヤを、古参の三人は僕を労った。
「パーティが二分されたが、58階層を攻略できたか……幸先が良いのか悪いのか」
「多分、良い方だと思いますよ」
「いや、良くはないだろう」
リヴェリアさんの言葉に答えた僕の言葉にフィンさんは苦笑しながら、答える。
そういえば、気になっていることがある。
そう思い、僕はレフィーヤの元へ向かう。
そして、小声で話しかける。
「フィーナ。いつから私がアルゴノゥトだと気づいていたんだ?」
「兄さんがスキルを使った時からです」
「え? まじで?」
「はい。というか、私がスキルの影響を受けていなかったことに疑問を持たなかったんですか?」
「全然。凄いなぁって思ってた」
「全く。兄さんは昔から兄さんですね」
そうやって、僕達は笑い合っている頃、
遠くの方では、
「……ベル、レフィーヤ、仲良くなった?」
「どうやらそのようだな。しかし、いくら、二人で窮地を脱したとはいえ、近すぎる気もするが」
「アイズ、このままじゃ、ベルが取られるんじゃないかい?」
アイズが笑い合っている二人を見て小さく呟き、それを聞いたリヴェリアが分析し、フィンはアイズを揶揄う。
「……ベルはそんなんじゃないもん」
アイズがそう言って、プイッと顔を背けた。
その様子が可笑しくて、リヴェリアはクスクスと笑った。
アイズはそんなリヴェリアを見て、顔を真っ赤にしてぽかぽかとリヴェリアを叩く。
その様子を見て、パーティには和んだ空気が流れた。