白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第三十三話

 

 

 目の前が真っ暗だ。

 

 僕は意識が覚醒すると、真っ暗な空間にいた。

 

 ここは何処だろうか。

 

 とりあえず、体は動かせるみたいだから、歩いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらい歩いただろうか? 

 

 数秒? 数分? 数時間? 数日? 数ヶ月? 数年?

 

 最早、そんな事も分からないぐらい僕の体感は狂っていた。

 

 それでも、僕は歩みを止めない。

 

 これが試練だと分かっているからだ。

 

 これは僕の精神面における試練。

 

 真っ暗で、一人で、ただ歩く事だけの試練。

 

 今の僕にとっては全然辛くないのだが、何せずっと歩いているのだ。

 

 流石に暇になってきた。

 

 そこで、僕はちょっと昔を思い出す事にした。

 

 ちょっと昔と言っても、転生のちょっと前のことだが。

 

 今にして思えば、あの時の僕は何処かおかしかった。

 

 たまたまアイズの願いを聞いた僕が、たまたま転生する方法を見つけ、たまたまフレイヤ様にそれが見つかって、たまたま特訓をさせてくれて、特訓が終わると同時にたまたま転生する時間だった。

 

 こうしてみると、中々に踊らされている気分になる。

 

 そして、この試練によって、アリアドネ、アイルズ、フィーナと会うことができた。

 

 どうやら、フィーナはアリアドネ達と同じように試練の世界に生まれた存在ではないらしい。本人から、僕と同じ世界から来ていると言っていた。

 

 ただまあ、「前世も前前世も兄さんと一緒でしたよ?」と言われたのはかなり驚いたが。

 

 その上、「アリアドネちゃんとアイルズちゃんは貴方()に置いてかれて寂しかったようですよ?」と言われた。

 

 その発言と試練の時に見た夢の内容。

 

 それらから、完全な『黒幕』を発見する事ができた。

 

 それに、今のこの状況。

 

 僕と魂が繋がったアリアドネ、アイルズ、レフィーヤは僕の所に来ていない。

 

 この世界に干渉できるのは僕含めて二人のみ。

 

 そして、僕が【ロキ・ファミリア】の団員である事。

 

 他派閥間の恋愛は禁止されている事。

 

 つまり、僕をここまで来させたのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『アイズ』、君だったんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おめでとう、ベル。【英雄の試練】は突破できたよ」

 

 

 そこには僕が知っている9歳のアイズが笑顔でいた。

 

 いつもの無表情さは無く、前世でも見た表情の豊かさ。

 

 ああ、そうか。

 

 君はずっと僕の側にいたんだね。

 

 全く、そんなに遠回しな手段じゃなくて、別に直接的に言えば良かったのに。

 

 

 「君は僕を疑似的に神に至らせるために、これを企てたんだね?」

 「うん。そうだよ。これは私の我儘。ずっと貴方と一緒に生きていたいから。私はほぼ完全に精霊になったから、寿命という概念からは外れたけど、ベルは人間だから」

 

 

 ああ、全く。僕の妻は本当に可愛い。

 

 本当に可愛いから、何でも許してしまうんだ。

 

 

 「確かに疑似的に神に至れば、僕は死ぬ事は無いし、年を取ることもない。となれば、あの二人の発展アビリティも何となく予想がつく」

 「ふふっ。娘達の発展アビリティの『神聖』は神に近づくという効果。当然、私も持っているし、精霊ってだけじゃ問題はあったから」

 「だから、さっき『ほぼ完全』って言ったんだね。ってことは、僕も試練突破したら、発現しているのかなぁ。というか、そもそも【魔法】も【スキル】も既に結構変わっていたけど」

 

 

 アイズは「ふふっ」と笑う。

 

 そういえば、

 

 

 「今、この状況って、エレボス様達に見えてるの?」

 「一応ね。何なら、今呼び出す?」

 「お願い」

 「はーい」

 

 

 アイズは軽く指を振ると、僕から見て、右側に三人が現れた。

 

 三人は急に見ていた風景に自分達が来たから、驚いている。

 

 

 「驚いた。まさか、このような空間があるとは」

 「ああ、そうだな。俺も初めて見たぞ」

 「神である俺すら知らない物って何だよ……」

 

 

 アルフィア義母さんはあまり開くことのない両目をしっかり開けて、驚きを口にする。

 

 ザルドさんはこの空間なら周囲を気にせず戦えそうだとか言ってる。

 

 エレボス様はどうやら疲れたようだ。しかし、僕に聞かなければならない事があるため、すぐに顔を引き締める。

 

 

 「試練の様子は見させてもらった。最早、お前は英雄である事に疑いはない。よって聞こう。英雄、お前の『正義』とはなんだ?」

 

 

 僕は何も悩む事はなく、即答する。

 

 

 「僕の『正義』は『理想』。『夢』も『綺麗事』も『幻想』も、全てを実現してみせる『英雄』。僕は家族を、仲間を、大切だと思った人達を、皆を救う『英雄』になりたい」

 「たとえ、偽善者だと罵られても?」

 「はい。僕は偽善を善にし、不可能を可能にし、『理想』を成し遂げる事が、自分の『正義』です」

 

 

 僕はハッキリとそう答えた。

 

 アイズは僕の考えにうんうんと頷く。

 

 エレボス様はクックックと笑っている。

 

 それをアルフィア義母さんが諌める。

 

 

 「おい、エレボス。笑いすぎだ」

 「クックック。いや、すまない。嬉しかっただけさ。喜べ、二人とも。彼は『本物』だ。『本物の英雄』だ」

 「お前に言われなくとも、分かっている」

 「あっはっは! やはり、『アイツ』とは全然似ていない!」

 「何度言わせるつもりだ、ザルド。ベルはメーテリアに似ているんだ。あんな屑の一欠片もベルに入っているわけないだろう」

 

 

 アルフィア義母さん……。本当に僕のお父さんが嫌いなんだね……。

 

 まぁ、僕も会った事もない父を庇う事はできないし、そもそも良い話を全然聞かないんだよなぁ。

 

 

 「おっと、そろそろ俺達は戻るとしよう。お前の真価は理解した。次はオラリオの真価を計りに行く。ではな、英雄。次は戦場で会おう」

 「受けて立ちます。あっそうだ。僕達が勝ったら、後できっついお仕置きが来ると思っていて下さいね?」

 「……非常に嫌な予感がするが、まぁ良い」

 

 

 そうして、この空間からエレボス様が消えた。

 

 

 「よし、ベル! 戦場では俺と戦え! 試練でお前が戦っている時からウズウズしていたんだ。約束だ」

 「あっ、うん。ザルドさんは本当に変わらないね……」

 

 

 ザルドさんが消えた。

 

 

 「ベル」

 「どうしたの? お義母さん」

 「私とも戦うぞ」

 「はい?」

 「私を差し置いて、ザルドがお前と戦うのは気に食わないんだ」

 「お義母さん……」

 「だから、私に勝って、私を奪ってくれよ? 私の英雄(ベル)?」

 「……ッ!///」

 

 

 アルフィア義母さんは最後に僕の耳元で囁き、消えた。

 

 この前の仕返しかな? 思わず反応しちゃった。

 

 そして、僕は赤くなった顔を戻しながら、アイズと向き合う。

 

 いつの間にか、アイズの姿は前世のような少し大人びた女性にまで成長していた。

 

 

 「アイズ」

 「なに?」

 「さっきはああ言ったけど、それでも僕は『アイズの英雄』を辞めるつもりはないからね?」

 「ふふっ、分かってるよ。貴方は私が欲しいんだもんね?」

 「……あまり、そういうのをさらっと言わないで」

 「ふふっ、ごめんね。でも、可愛いよ、ベル」

 「ムー」

 

 

 僕は再び顔を赤くしながら、唸る。

 

 すると、アイズは僕を抱きしめた。

 

 

 「アイズ?」

 「貴方は一人じゃないよ。たくさんの人が貴方を愛してくれる。だから、大丈夫だよ」

 「……ねえ、アイズ」

 「ん? どうしたの?」

 「もしかして、今世で自分に好意を向けている人達ってさ、アイズが結構関係しているんじゃない?」

 

 

 そう言った瞬間、アイズは体をピクッとさせた。

 

 確定だな。これ。

 

 

 「な、何の事か分からないわ?」

 「そうかそうか。正直に言ってくれたら、あっちに帰った時に甘えさせてあげようと思ったのに」

 「全部、私がそうなるように企てました!」

 「素直でよろしい」

 

 

 まぁ別に、洗脳とかじゃなくて、そうなりやすいイベントを作っただけで、見事にその選択肢を取ったのは僕なんだけどね。

 

 

 「それに、娘達と妹を連れてきたのもアイズでしょ?」

 「そうね〜。三人は特にベルの事を好いていたし、ベルにとっても良いかなぁって思って」

 「まぁ、良かったけどさ。わざわざ、三人を悲しませて、こっちに来るように仕向けたのは、やったのは僕じゃなくても罪悪感が……」

 「ふふっ。貴方があっちに戻ったら、もれなく娘達は来るわよ? レフィは今、学区の筈だからいないと思うけど」

 「妹に会うのはまた別の機会にとっておくよ。そろそろ戻ろうか。僕達が戻らないと世界は止まったままだし」

 「そうね。じゃあ、またねベル」

 「またな、アイズ」

 

 

 そうして、僕達もこの空間から出たのであった。

 

 

 

 


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