「輝夜さん。そろそろ離してくれませんか?」
「嫌です。しばらく大人しくしていて下さいませ」
と言われても、そろそろ僕の羞恥心の限界が……。
正直、同じレベル5と言っても、アビリティ合計値や技術は僕が上だから、抜け出す事はできる。
しかし、あまり拒絶はしたくないため、大人しく離されるのを待つか、誰かに奪われるのを待つしか無いのである。
アリーゼさんは流石に痺れを切らしたのか、輝夜さんから僕をひょいっと奪った。
ほら、こんな風に。しかし、もちろん事態は好転しない。それどころか、むしろ悪い方に加速している。
アリーゼさんは僕をギューっと抱きしめ、スンスンと僕の匂いを嗅いでいる。輝夜さんは何か物足りなさそうな顔をして仕方ないかとため息を吐いている。
いや、あの、アリーゼさん妙なスイッチ入ってません? 僕の匂いなんて嗅いでも……。
「ん? アリーゼさん。何してるんですか?」
「ベル成分補給」
なんじゃそりゃ。
あれ? 体の奥がムズムズするような?
あっ、やばい。なんか僕の表面じゃなくて、奥深くを嗅ぎ取ろうとしているような気がする。
アリーゼさん待って待って待って!? それ以上はダメ! やばい、僕の体に徐々に快楽が……。この人まさか、僕に対する特攻性を持つ【スキル】でも入手したんじゃ無いだろうな!?
あ、ちょっと意識が朦朧と……。
そして、僕が意識を飛ばしそうになると、直前にリューさんが救助してくれた。
これはこれで妙に苦しい。快楽で気絶しそうになった瞬間に意識が戻されると、『焦らしプレイ』とも言えるもので、マジできっつい。
僕はまだ火照った顔を冷ましながら、アリーゼさんに問う。
「はぁっ、はぁっ、アリーゼッ、さんっ。一体、僕に何したんですか?」
「ご、ごめんねベル。思わずスキルを使っちゃった」
「どんなスキルを得たんですか……」
「え、えっと、あはは……」
「それは私が説明しましょう」
「ちょっと、リオン!?」
アリーゼさんが中々に説明を渋るので、リューさんが説明してくれるようだ。
リューさんから聞いたのは昨日アリーゼさんの【ステイタス】更新をしたときに発現した【スキル】についてだ。
そのスキルとは【
名前でもうすでにツッコミどころ満載だが、効果もおかしい。
効果は白兎への愛の大きさに応じてアビリティ超高補正だそうだ。
おい待て、何故『白兎』限定なんだ。
いや、僕の事なんだろうけど、『恩恵』にまで白兎扱いされるのか僕は。
いや、そんな事はどうでも良いが、問題なのはアリーゼさんの僕への愛がすでにヤバい域に達している気がする。
リューさん曰く、一人で
頭痛が痛い……。前世のアイズ以上にヤバい。一体どれだけ補正が働いたんだ……。
うん。どんどん僕の周りが化け物染みて行く。
しかも、大体が僕が関わっている。
うん。言い訳のしようもない。
正直、
もはや、茶番と化している戦い。
そこにあるのは約束された戦い。
役者は出揃った。
明日はオラリオ史上最大の喜劇の幕が上がる。
主役はベル?
いいや違う。
主役は皆だ。
さあ、笑ってやろうぜ。
逃げ惑う人々は無く、泣き叫ぶ人々も無く。
今、ここには英雄の器のみが現れている。
ベル、アルフィア、ザルド。
世界最強の冒険者達は『正義』と『悪』の戦いを始める。
今、僕は完全装備だ。
『神雷の剣』と『聖火の魔剣』に【英雄の試練】にてフィンさんとアイズから貰った
僕の目の前にはアルフィア義母さんとザルドさんがいる。
僕達は互いを見つめ合いながら、一定の距離を空けて佇んでいる。
そして、大鐘楼が鳴った。
ザルドさんが最初に動いた。
僕はザルドさんの黒い大剣を神雷の剣をもって受け流す。
僕はすかさず聖火の魔剣を振り下ろすが、ザルドさんは黒い大剣を素早く引き戻し、僕の攻撃を受け止める。
流石はレベル8。レベル3つ分の間は中々埋められない。
しかし、それだけでは終わらない。
「【
アルフィア義母さんから放たれる音の嵐は僕を切り裂こうと迫ってくる。
僕は勘と予測でそれを斬る。
うっわ。【
しかし、そちらの方に意識を割いたため、隙ができ、ザルドさんはそれを見逃さない。
瞬間、黒い光が僕の前を横切った。
無論、横切ったのはザルドさんの黒い大剣。
ギリギリ避けたのは良いものの、
やっぱり
動きのキレが凄まじい。もはや、視界は使い物にならない。
ならば、
僕は目を閉じて、視覚に通っている神経を視覚以外の四感に回した。
よって、四感は強化され、僕はさらに集中する。
怒涛の斬撃と無慈悲な音の嵐。
僕は触覚と聴覚をフルに使い、その全てをいなす。
いや、いなせていない。僕の防御と回避を掻い潜った攻撃は悉く僕の体に傷をつける。
それにアルフィア義母さんが【ジェノス・アンジェラス】の詠唱を始めている。
このままでは負けるだろう。しかし、これで諦めるような人間ではない。
さあ、始めよう。これから紡がれるのは喜劇だ。
「【笑おう! 例えどんな苦難があろうとも!】」
「【箱庭に愛されし我が運命よ砕け散れ。私は
「【
僕とザルドさんは『並行詠唱』で斬り結び続ける。
集まるのは膨大な魔力。
都市一帯を全て無に帰す程の力の集合。
さすがにそれは不味いので、僕は『聖火の魔剣』を地面に突き刺し、周囲に聖火の結界を張る。
名前を付けるとするなら……そうだな。
ヘスティア様の神殿から名前を取って──『
僕は『神雷の剣』を両手で構えて、力を収束させる。
「【紡がれるは喜劇! 暗黒の世界を照らす希望の光!】」
「【代償はここに。罪の証をもって
「【貪れ
僕達は離れ、『最後の一撃』に全てを注ぎ込む。
「【神々よご照覧あれ! 私が始まりの英雄だ!】」
「【哭け、聖鐘楼】」
「【喰らえ、灼熱の牙!】」
そして、その【魔法】は完成した。
「【ディア・アルゴノゥト】」
「【ジェノス・アンジェラス】」
「【レーア・アムブロシア】」
僕は『
神雷を纏う斬撃が。
全てを滅ぼす音の嵐が。
灼熱の如き斬撃が。
三つの『最後の一撃』は3人の中央でぶつかり、絶大な光と音が周囲を包み込んだ。
視界が元に戻り、そこに立っていたのはただ一人。
そう、ベルだ。
ベルが立っていた。
ベルはフラフラになりながらもしっかり立ち、右手に持つ『神雷の剣』を天高く空に掲げた。
その瞬間、うおおおおおおおおおおお! と歓声が上がった。
その歓声を聞き、ベルは気絶した。
ベルは意識を落とす最後に何か柔らかい所に捕まったような、そんな気がした。
戦闘シーンが適当?
当たり前だろう。だって、戦闘シーンはオマケで大事なのは次だからね。
だって、『英雄達の大宴会』だからね。