さて、回想を終わろうか。
ベルとアイズはメーテリアに招かれ、アストレアファミリアのホーム『星屑の庭』のリビングにて、お茶をすることになった。
三人が椅子に座ると、二階から胡桃色の長髪と藍色の瞳をした女神ーーアストレア様が来た。
「あら? いらっしゃいベル、アイズ。『あの件』かしら?」
アストレア様の言う『あの件』というのはベルのランクアップの条件の一つである『魔法とスキルの完全理解』の『全使用可能属性の同時展開の完全制御』である。そのためにベルはアストレアファミリアに協力を要請しに来た。アイズはただの付き添いである。
「はい。アリーゼさん達は居ますか?」
「今はパトロール中ね。でも、もうすぐ帰ってくると思うわよ」
「では、待ってます」
「ふふっ。じゃあ、お茶を用意するわね」
「ありがとう。お母さん」
メーテリアは席を立ち、台所の方へ向かって行った。代わりにアストレア様が座った。
「それで? 今回は何階層に行くの?」
「今回は二十階層です。特に冒険者依頼(クエスト)もありませんし、あそこなら周りに気を使わなくていいので。アイズとの特訓もそこでしていますし」
「・・・・・・貴方達って本当にレベル2なのか時々疑問になるのよね」
「あはは・・・」
「モグモグ」
ベルは苦笑する。自分でも異常だということは分かっているからだ。アイズは出されたお茶に目もくれずじゃが丸くんを食べ続けている。
興味ないのは分かるけど、少しは話ぐらい聞いてもいいんじゃないかなぁ?
「強くなろうとするのは良いけど、無理はしないでね」
「はい。お母さん。そういえば、体調はどう?」
「ん? 元気よ。スキルのおかげか病気の影響は全く無いし、体力とかも戻ってきているから、そんなに心配しなくて良いのよ?」
「と、こう言ってますけど、アストレア様? どうなんですか?」
「買い出しとか家事全般を積極的にやっているわよ。たまにダンジョンにも行っちゃっているわよ」
「へぇ〜。ねぇ、お母さん」
「な、何かしら?」
ベルはメーテリアに視線を向けながら呼びかけると、メーテリアは視線を外しながら応答した。
「僕、言った筈だよね? 家事は許すけど、ダンジョンはダメだって」
「ダ、ダンジョンっていっても、6階層ぐらいまでよ? 戦わないと体が鈍っちゃうし。私だって一応レベル5なのよ?」
「ふ〜ん。そっか。お母さんは僕の言うこと聞いてくれないんだね」
「あ、ち、違うのよ!?」
ベルはわざとらしく悲しむとメーテリアが慌てて弁明する。
「た、確かにベルの言うことを守ろうとしたわ。でも、アリーゼちゃんが『私達が言わなければ、ベルにはバレないわ!』って言ってたから、それで」
はい。黒幕発見しました。今回の模擬戦での哀れな生贄が決まりました。
「メーテリア。ベルに良いようにされてるわね・・・」
「モグモグ」
アストレア様は苦笑し、アイズはまだ、じゃが丸くんを食べている。
すると、玄関の方から大きな声が聞こえてきた。
「アストレア様〜! メーテリア〜! 帰ったわ〜!」
「おや? どうやらベルとアイズもいるようですね」
帰ってきた二人の内、最初に言ったのはアリーゼ・ローヴェル。アストレアファミリアの団長で赤髪のポニーテールが特徴である。二人目はリュー・リオン。金髪で長髪のエルフであり、ベルがアイズと出会う前なら確実に一目惚れする程、ベルの好みにドストライクしたエルフである。
ちなみにそれを知ったアイズはリヴェリアに自分の耳をエルフに近づける方法を聞き、呆れられたのはここだけの話である。
「アリーゼさん。リューさん。巡回お疲れ様です」
「私のような超絶美少女には巡回なんて紅茶のさいさいよ!」
「アリーゼ。それを言うなら、お茶の子さいさいです」
「そうとも言うわね!」
「そうとしか言いません」
相変わらず漫才染みたやり取りをする二人。アリーゼさんはいい加減にちゃんと言葉と意味を知ってから使うべきだと思う。
「大丈夫ですか? お疲れでしたら、少し時間を置きますが」
「いえ。今回の巡回は特に何も無かったので、このまま行けます」
「分かりました。では、よろしくお願いします」
「ええ。任されました」
う〜ん。こうしていると、リューさんは完璧なのに、どうして時々、ポンコツになるんだろうか?
「アイズ? どうするの?」
「一緒に行く」
「そっか」
アイズは丁度良くじゃが丸くんを食べ終わり、立ち上がった。
四人でダンジョン二十階層へと向かった。
次回、『兎』対『剣姫』対『紅の正花』