白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第四十話

 

 

 

 

 

 宴会が始まってまだ30分も経っていないが、ベルは酔わされている。それはもう、絶対酔いが醒めず、かつ絶対寝ることのないレベルで酔わされている。ちなみにその状況を作り出せるアルコールの度数を考えたのはアイズである。魂が繋がっていることを良いことにベルの耐性を研究し、絶妙な技術を以て、特製『酒酔白兎』を作った。

 

 ぶっちゃけ、技術の無駄遣いである。

 

 さて、飢えた()に酔わされた哀れな白兎(少年)は──

 

 

 「お母しゃん! あのね! ベル、頑張ったんだよ! 好きな女の子ができて、その子を守る英雄になれたんだよ!」

 「よく頑張ったわね。私は貴方の事を誇りに思うわ」

 

 

 幼児(前世)退行していた。

 

 前世の記憶が表に出ているベルは前世の時に考えていた『いつか、お母さんに会えることができたら言おうと思っていた事』を言っているのである。

 

 メーテリアはベルの頭を撫でながら、ベルを労う。

 

 メーテリア自身ベルの前世は【英雄の試練】の影響で知ってはいるが、しかし知っているだけであって、経験しているわけではないのだ。今までのベルの苦労は計り知れないということしか分からない。だからこそ思うのだ。今世では苦労以上の幸福を得て欲しいと。

 

 それはアイズ達も同じ気持ちである。

 

 決して、酔ったベルが見たかっただけではないのだ。

 

 そういえば、とメーテリアはベルに質問があったことを思い出して、今も自身の胸に顔をうずめている我が子に尋ねた。

 

 

 「ベル。姉さんが付けてるネックレスってベルがあげたの?」

 「ーッ!? ゴホッゴホッ!」

 

 

 メーテリアの何気ない問いに、静かに酒を飲んでいたアルフィアはむせて、周りの女性陣達の雰囲気はピシッという音が聞こえそうなくらいの冷気を纏っている。そんな事は意に介さず、ベルはその空気にさらなる爆弾を乗せていく。

 

 ベルは記憶の奥底を手繰り寄せながら、思い出したかのように大声で言うのだ。

 

 

 「うん! そうだよ! 二年前にね! ()()()()()と別れる時、寂しそうだったから連絡手段としてあげたの!」

 「〜〜〜ッ!?!?///」

 

 

 ベルの唐突な呼び捨てと若干の黒歴史を暴露されたことによる羞恥によって顔を真っ赤にするアルフィア。

 

 メーテリアは私も呼び捨てにされてみたいわ、とか、姉さんはずるいわなんて考えていて、後で頼んでみようかしらと小声で言っていたのを普段なら気づくはずだが動揺のしすぎで隣にいたアルフィアは全く聞こえなかった。

 

 次はアイズがやって来た。

 

 

 「ねえねえベル。私のところにもおいで」

 「わっ!? アイズ? あれ? 小さくなったの? あっでも精霊だもんね。身体はある程度は変えられるよね」

 「うーん。やっぱり記憶は前世寄りになってる? まぁいっか。おいで、ベル。ギューッてしてあげるから」

 「えへへ〜。アイズ〜。愛してるよ〜」

 

 

 ベルはアイズに抱きつき、愛の言葉を囁く。

 

 アイズはベルの言葉に頬を少し朱に染めて、ベルを強く抱きしめる。

 

 

 「ねえねえアイズ。アイズは僕のこと好き?」

 「うん、好きだよ。ずっとずっと、そしてこれからも」

 「えへへ」

 

 

 ベルはアイズの言葉に満足したかのように顔を緩ませ、さらにアイズの体に身を擦り寄せる。

 

 アイズとしては前世で恋人だった時はベルはよく甘えてくれたが、結婚してからは甘やかす方に力を入れていた。そして、アイズ自身もそれに甘えていた為、特に不満はなかったのだが、ある日気づいたのだ。気づいたというより教えてもらったという方が正しいのだが。

 

 ベルの祖母の当たるヘラ様。

 

 ベルと私が結婚した後、ゼウス様と一緒に祝福に来てくれた。その時、ゼウス様が妙にボコボコだった様子を除けば、貴婦人のような神様だった。

 

 ヘラ様はゼウス様と夫婦だった為、色々嫁としての作法というものを教えてもらった。ただ、浮気性に対するお仕置き方法とかは明らかにいらなかったと思う。当時の私はそれに振り回されて、危うくベルにあんな事(拘束)こんな事(監禁)をしそうだった。

 

 正直、ベルが私の事を一日中愛してくれなければ止まらなかっただろう。まぁ、次の日には腰が砕けてベッドからまともに動けなかったけど。というか、ベルは平気だったのよね。発情兎というか野獣というかベルは本当に底なしだった。何がとは言わないけど。

 

 うーん。まぁそんな事があってか、ベルはヘラ様に対して若干恐怖心を抱いている。唯一大丈夫だったのはベルの母と義母の話だけだった。その話だけはベルはヘラ様の話を素直に聞いていた。その話の後はよく窓の外を見て物思いに耽っていた。その様子にどことなく寂しさを感じたのは気のせいではないだろう。

 

 だから、私はベルに言ったのだ。

 

 『小さい時からベルがいてくれたら良かったのに』と。

 

 私の思惑通り、ベルは私の為に過去に遡る方法を模索した。その為にフレイヤ様の所に行ったのは少し思うところがあったが、フレイヤ様は特にベルに何もしなかったので、目を瞑ることにした。

 

 そう、ベルが過去を遡ったのは私がそう仕向けたから。アリアドネやアイルズ、レフィーヤも過去を遡ったのも私が誘導した。そして、皆がベルの『恋人』ではなく、『家族』を望むのも私がそう誘導したからだ。

 

 全てはベルの為に。『私の英雄』でいてくれたベルに幸福であって欲しいから。私に縛られて欲しくないから。

 

 ベル、今世は貴方が望むままに生きて。貴方には幸福になる権利がある。

 

 

 

 

 

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