白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第四十二話

 

 

 

 

 

 「さーて! そろそろ皆あったまって来たかー? じゃあ始めちゃうでー! 名付けて『ドキッ☆美少女、美女だらけの大冒険。ベルを一番満足させられるのは誰だ!! ポロリもあるかも』決定戦!」

 

 

 まーた訳わからない催しを始めたよ。うちの主神様は。

 

 ベルは溜め息を吐き、アルフィアに抱き付く。

 

 

 「どうした? ベル」

 「お義母さんに甘えたい年頃だから」

 「そ、そうか。それより、ベル。何やら、凄い睨まれているように感じるのだが」

 「気のせい気のせい」

 

 

 いや、本当に気のせいにしたい。正直、現時点で一番安心できるのはアルフィア義母さんの所だけである。

 

 さっきのロキ様の言葉で目の色を変えた女性達が、一斉にこっちを向いたのだ。思わず身の危険を感じ、アルフィア義母さんの後ろへと逃げた。

 

 アルフィアは自分の後ろに飛んできたベルを撫でつつ、ベルと自分に向ける冷や汗を感じる。

 

 そんな様子を知ってか知らずか、ロキは更なる爆弾を投下していく。

 

 

 「ルールは『住民に迷惑かけない事』! 危険じゃないなら、なんでもええ! それじゃ、開始ッ!」

 

 

 開始の合図と同時に、アルフィア以外のベル'sハーレムとベルは動き出す。

 

 深夜の逃走劇が今始まった!

 

 

 ◾️◾️◾️◾️◾️

 

 

 ベルは逃げる。オラリオの上空を駆け抜けて。

 

 

 「ロキ様め! こうなること分かってててやりましたね!? ああもう! ストッパーが誰も機能してない!」

 

 

 ベルは【ファイアボルト】で付与した脚で空を走る。その後ろを各々の方法で追いかける女性。

 

 

 「待ちなさーーい兄さーーん!」

 

 

 妖精の羽を作り出し、空を飛ぶレフィーヤ。

 

 

 「すみません、ベル。捕まえさせてもらいます!」

 

 

 【ルミノスウィンド】を体に纏い、同じく空を飛ぶリュー。

 

 

 「最近甘えてくれなかったからな。今回は本気で行くぞ」

 

 

 魔法円(マジックサークル)を空に展開し、どうやってかそれを足場にするリヴェリア。

 

 見事な妖精三人娘である。

 

 ねえ待って!? 貴方達そんな事できたっけ!? 全然記憶にないんだけど!?

 

 ベルは雷霆の剣を召喚し、雷の力でさらにスピードを上げ──ようとしたその時、

 

 

 「させると思う?」

 

 

 下の方から暴風が吹き荒れる。ついでに剣は粒子レベルに分解され、

【ステイタス】の大半を封じられた。

 

 こんな事ができるのは──

 

 

 「──アイズ!」

 

 

 下を確認すると、建物の屋根の上でこちらに手を振るアイズがいた。

 

 よく見ると、何かを呟いているようだ。

 

 

 『そのままで良いの? 落ちちゃうよ?』

 

 

 その言葉を理解すると同時に体は地面に引っ張られる。

 

 【ファイアボルト】の付与が切れ、空中に浮かべなくなったのだ。

 

 

 「ちゃっかり【ステイタス】まで封印して! 全く抜かりない!」

 

 

 ベルは落下中に、数十パターンの逃走方法を頭の中でシミュレートす

る。その中で最も逃走成功の確率の高い方法を選択する。

 

 それでもほぼ一桁なんだよなぁ!?

 

 ベルは内心で悪態を吐きながら、とりあえずステイタスの一部を無理やり解放する。

 

 解放できたのは『アビリティ』のみ。【魔法】と【スキル】は強固過ぎて無理だった。

 

 ベルはなんとか取り戻した身体能力で地面に着地する。

 

 

 「そう簡単に」

 「逃げられるとは」

 「思わない事だな」

 

 

 ベルを囲むように、レフィーヤ、リュー、リヴェリアも着地する。ついでに近くの建物の屋根上にはアイズがいる。

 

 絶対絶命な状況。しかし、ベルはそんな状況でも何度も潜り抜けて来た。その絶大な『幸運』によって。

 

 自身の向けられる()()の視線を感知し、状況打開する一声を上げる。

 

 

 「エルピス!」

 「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃーん!」

 

 

 ベルの声に聖火(ウェスタ)の如き赤い髪をしたアルテミスの姿をした者が現れる。

 

 

 「エルピス! 今まで何処にいたのか凄い疑問ではあるけど、とりあえずこの場を頼むよ!」

 「任せてくれベル。私はずっと君と旅をして来たんだ。アイズには劣るかもしれないが、私も君の片割れとして君を守ってみせるよ」

 

 

 ベルはその場をエルピスに任せて、走り去る。当然、四人もベルを追いかけようと動き出すが、そうは問屋が下ろさなかった。

 

 エルピスは自身の周りに金色の粒子飛び交う炎の領域を展開し、四人の行手を阻む。

 

 

 「さて、諸君。これでも私は亜神なんだ。そう簡単に通れるとは思わない事だ」

 

 

 まさに『神らしい』雰囲気を纏い、『聖火』と『月』の力を顕現させるエルピス。

 

 今、この時。『英雄達の大宴会』の最初の戦いが始まった。

 

 

 ◾️◾️◾️◾️◾️

 

 

 ベルは街中を駆け抜ける。そして、ベル'sハーレム達もそれに追従するように街中を走る。

 

 

 「さーて、ベル! 捕まえさせてもらうわよ!」

 「団長殿。最初から派手に動きすぎだ。後で倒れるぞ」

 「問題ないわ! だって、私は天才美少女のアリーゼ・ローヴェルだもの! キラッ☆」

 「ほらっ! アリーゼ、輝夜! 早く行くよ! ベルに逃げられちゃう!」

 「アーディ! 待って!」

 

 

 ベルは後ろから聞こえて来る声を聞かなかったことにしたくなった。

 

 現在後ろを追いかけるのはアリーゼ、輝夜、アーディの三人。会話には参加していなかったが、他にもアミッド、ヘイズ、アリアドネがいた。

 

 回復役が出揃っていやがる!

 

 普段の言葉使いが乱れるほど、状況が怖すぎる。まるで、ダンジョンの深層で生活できそうなメンバーである。

 

 このメンバー相手では絶対逃げ切れないため、もう一つの『幸運』を引き寄せる。

 

 ベルは懐から『眼晶(オクルス)』を引っ張り出す。

 

 

 「義母さん!」

 

 

 ベルがそう言った瞬間、チリンと軽い鐘の音がした。

 

 その鐘の音と共に、アルフィアが現れる。

 

 

 「ここは私に任せろ、ベル」

 「うん! お願い!」

 

 

 ベルはそのまま走ってその場から消える。

 

 やがて、アリーゼ達がアルフィアの前に着く。

 

 

 「さて、小娘共。ここを通りたくば、私を倒してから行け」

 「……レベル9。悪いけど、押し通らせてもらうわ」

 「その意気だ。簡単には終わってくれるなよ?」

 

 

 エルピス達とはまた違った場所で二つ目の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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