白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第四十三話

 

 

 

 

 ──エルピスside──

 

 

 「ハァッ!」

 

 

 リューが『アルヴス・ルミナ』をエルピスに向かって振る。しかし、エルピスは全く動かずに微笑んでいた。

 

 

 「なっ!? 当たらない!?」

 

 

 そう、リューの得物はエルピスの身体をすり抜けた。それはまるで雲を掴むかのように。

 

 

 「そう驚く事じゃないよ。『陽炎(かげろう)』というものをしっているかい? 原理なんて一から説明するのは面倒だから、単純な例を出そうか。そうだね、『焚き火』とかはどうかな? 焚き火の上はよく空間がゆらゆら揺れている様に見えるだろう? あれと同じさ。私が扱う『聖火』は広い目で見れば『火』と同じ。それによって、私の位置を君達に誤認させているのさ。まぁ、そんなに強い訳じゃない。そもそも『火』というか『熱』がなければ成立しない物だからね。だから──」

 「そもそも、『火』を吹き飛ばせば良い──よね?」

 

 

 アイズは風を剣の周りに超高速で回転させ、エルピスに迫る。

 

 エルピスはアイズの言葉に正解だと示すようにその場から離れ、迎撃態勢を取る。

 

 アイズはエルピスの迎撃の気配から、今踏み込むのは危険と判断し、エルピスとリヴェリアの間に立つ。

 

 リューとアイズは挟撃の位置にて、エルピスの行動に警戒する。リヴェリアとレフィーヤはいつでも援護に入れるように、既に支援魔法の詠唱を済ませた。

 

 エルピスはその様子を見て、余裕に構える。

 

 「あっ」とエルピスはそういえばと思い出したかのように声を出す。

 

 

 「このままじゃ街に被害を出してしまうし、君達も本気を出せないか。ならば、決戦に相応しい戦場(フィールド)にご招待しよう。『私の世界』へ」

 「「「「なっ!?」」」」

 

 

 そして、この街から5人の気配が消えた。

 

 

 

 ◾️◽️◾️◽️◾️

 

 

 

 ──ベルside──

 

 

 アイズに封印された【ステイタス】の状態で街を走る。

 

 すると、突如5人の気配がこの街から消えた事に気づいた。

 

 

 「もしかして、エルピスの仕業? いつの間に、そんな芸当ができるように……。びっくりだよ。本当にいつできるようになったんだか」

 

 

 エルピス──オリンピアの一件以来、話す事ができなかった。何らかの奇跡によって生まれた『ヘスティア・ナイフ』の擬人。いや、ある意味『擬神』かな?

 

 僕は苦笑しながら街中を走る。

 

 

 「『森羅万象に願う。我が扱うは万物の根源。我が(あだ)の全てを破壊せよ』」

 「ッ!? アイルズ!?」

 

 

 僕の前後左右上下にて空間が歪んだ。《ジ・オリジン》の発動予兆だ。

 

 僕はすぐさま上の『歪み』だけを手刀で破壊し、近くの建物の屋根へと跳躍する。すると、その包囲網から抜け出した瞬間、空間が破裂した。大した音は鳴らなかったが、それは破裂した空間が小さいだけで、空間が破裂した時点で相当な破壊力を持っている。

 

 屋根に足をつくと、目の前にいるアイルズに目を向ける。

 

 アイルズは白黒の双剣(ディザスター)を装備し、赤い瞳からは紅い光が迸っている。アイルズの《精霊の奇跡》による器の強制昇華は、春姫さんの《ウチデノコヅチ》とは違い、その効果は瞳に表れる。小さい強化から大きい強化にかけて、光は濃い(あか)になっていく。

 

 今のアイルズは僕が知る限りの最高の強化をしている筈だ。

 

 そして、アイルズが強化できる最高のレベルは──

 

 

 「行くよ。お父様」

 「良いよ、僕がいない間成長した君の姿を僕に見せてくれ」

 

 

 アイルズはその紅い眼光すらも置いていくほどの速さで僕に迫る。そして、碌な防御をしていなかった僕の体に十字を刻みつける。

 

 その速さはついぞ()()()1()0()へと迫る。

 

 そう、アイルズの最高強化はレベル5つ分。レベル5のアイルズが最高強化をすれば、レベル10と同等になる。

 

 本来、そこまでの強化をすれば、『器』と『精神(こころ)』がバラバラになり、むしろ強化前よりも弱くなる。

 

 しかし、忘れてはいけない。アイルズはもともとレベル10なのだ。今は『僕』という存在に引っ張られてレベル5になっているだけなのだ。つまり、『強化』というよりは『回帰』なのだ。レベル10のアビリティをアイルズが使いこなせない訳がない。

 

 僕の負けは必至。レベル1つ分ならまだしも、レベル5つ分も差があるのだ。これで勝てる方がどうかしてるだろう。

 

 ……()()()()()()()

 

 

 「ふふっ」

 「? お父様、楽しそうだね?」

 「うん、楽しいともさ。だって、君の成長をこの目で見られるんだ。親として、とても楽しいのさ」

 

 

 そうだ。勝つ? 負ける? ()()()()()()()()()()()

 

 僕は父親だ。アイルズに勝つ必要はどこにもない。必要なのはアイルズの成長を見届ける事。僕がすべきなのは、アイルズの全てを引き出すことなのだ。

 

 だから──

 

 

 「隙ありです! お父様!」

 

 

 僕の背後から、赤青の双剣(アストライア)が煌めく。

 

 重心が後ろに寄っていた僕には背後からの攻撃を避けることはできなかった。だから、僕はそれを甘んじて受け入れた。

 

 

 「うっ、よくお義母さんから離れられたね。アリアドネ」

 「よく言いますよ。アルフィアさんに私だけを通すように言ってあったのはお父様でしょう?」

 「私達が全力を出せるのは一緒にいる時だから、でしょ?」

 「よく気づいたね。とは言っても分かりやすかったか。アイズには悪いけど、娘達の成長は僕だけ見させてもらうよ」

 

 

 最後の戦いが今この時をもって幕を開けた。

 

 

 

 

 


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