「さて、流石に武器がないとね」
ベルはそう呟き、右手を前に出す。かつての形を『幻想』し、その形を顕現させる。
「久しぶり、『
ベルは目を閉じて、『ヘスティア・ナイフ』に額を付ける。『ヘスティア・ナイフ』に刻まれた『
今までの『出会い』が僕に貸してくれる。
「『ヘスティア様』『アルテミス様』、そして『
赤色の光、金色の光、青白色の光が『ヘスティア・ナイフ』の刀身に集まる。やがて光は『収束』し、『
「行くよアリアドネ、アイルズ。君達の成長を僕に見せておくれ」
「「ッ!!」」
アリアドネとアイルズはベルの唯ならぬ威圧感に警戒態勢に入る。既にアリアドネはアイルズの《精霊の奇跡》によって『器の強制昇華』されており、青色の瞳からは紅色の光が迸っている。
実質レベル10の二人に対し、未だレベル5のベル。本来なら勝負にもならないし、実際ベルの【ステイタス】は二人には遠く及ばない。今もそれである事に変わりはない。
そうであるはずなのに、ベルの雰囲気は常軌を逸する程の威圧感を纏っていた。ベルほどでは無くても『英雄』の資格を持っている自分達でさえ、本物の『
よく
『良い? アリアドネ、アイルズ。僕はね、『英雄』の素質なんて無かったんだよ。アイズ達みたいな強者の才覚なんてものは、僕は持っていなかったんだ』
『でも、皆さんはお父様の事を『英雄』とおっしゃられていますよ。人も、神も、世界がお父様を認めています』
『そうだね、確かに僕は『英雄』だ。でもね、昔の僕は『英雄』になりたかったけど、僕は『英雄』になるための素質は何も持っていなかったんだ』
『……仮にお父様の言う事を真実だとして、では、どうしてお父様は『英雄』になる事ができたのですか』
『一言で言うなら、そうだなぁ、『出会い』かな? 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違いじゃなかった』から僕はここまで来れたんだよ』
『『?』』
『ふふっ、ちょっと難しかったかな? 大丈夫、『ダンジョン』に限定しなくても『出会い』というのはどこにでもある。二人もいつかは分かるよ』
二人はそれを今同時に思い出した。
『出会い』
それは、お父様を英雄たらしめたもの。
その体現者が、今、私たちの目の前にいる。
私たちは今、その人と戦おうとしているのだ。
私たちの『想い』を示すために。
「行こう、アイルズ」
「うん、お姉ちゃん」
アリアドネは『アストライア』を、アイルズは『ディザスター』をあらためて構える。
そして、二人は走り出す。
ベルに赤色の剣と黒色の剣が迫る。その速さはまさに光と同等。限界まで昇華されたその攻撃は動体視力には捉えきれない。
しかし、
事前にベルは二人が走り出した瞬間に、『ヘスティア・ナイフ』を横に一閃した。
すると、二人の剣は弾かれ、ベルに攻撃が当たることはなかった。
「(攻撃が誘導された!? わざとアイルズとタイミングをずらして攻撃したのに、ついお父様の隙に飛びついてしまった!)」
「(だからこそ、私たちの得物を一撃で弾ける位置に誘導された上に、攻撃の手を緩めさせて弾きやすくした!)」
いつかのアイズが『
さらに、
「【ファイアボルト】」
これもまた、本当に偶然だった女神との『出会い』が、その『
今回使った【ファイアボルト】は本物とは違い、『
かつてのオリンピアでの一件によって、『聖火』の権能の一部を扱えるようになった。とは言っても、ヘスティアの『本物』には遠く及ばない。そもそも、今は『聖火の眷属』ではなく、『道化の眷属』だし。
ん? 『道化』?
ベルは何かを思いついたかのように、ニヤリと笑う。
折角だ。此度は『
「アリア、フィーナ、ユーリ、ガルムス、リュールゥ、オルナ、エルミナ。かつての仲間達よ、今宵は楽しい『宴』だ! 君達も楽しく笑っていることだろう! だが、まだこの馬鹿騒ぎは終わらない!」
ベルの後ろに七つの光の球体が生まれ、その七つの球体は三人を取り巻くように離れた位置で円環状に並ぶ。すると、光は立ち昇り、
「では始めよう! 我が娘達よ、思う存分に来るがいい! 私は、いや『私達』はその全てを受け止めよう!」
ベルは大きく息を吸い、高らかに、天まで届くくらいの声で宣言する。
「さあ、『喜劇』を始めよう!」