ベル達は現在、ダンジョンの入り口ーーバベルの塔の前に立っている。
「じゃあ、ベル行きましょ!」
「アリーゼさん。その調子で行ったら、二十階層まで持たなーー行っちゃいましたか」
「全く、アリーゼは・・・」
アリーゼはウキウキした感じで走って行った。ベルはアリーゼを止めようにも間に合わなかった。リューはアリーゼの行動に頭を抱えている。
アリーゼさんはレベル3だし、ちょっとやそっとじゃ疲れないとは思うけど、日帰りのつもりだし、僕も少しボコボコにするつもりだから、心配だな。←それは心配とは言わない。
すると、急に僕の身体に悪寒が駆け巡った。天高くから見下ろされ、魂の質を測ってくる無遠慮な視線が僕に向けられている。
こんな視線を送ってくるのは僕が知る限りただ一人。フレイヤ様しかいないだろう。正直、これまでも何度かあったが、今日はいつも以上に奥底まで見てくる。
何かあったのだろうか? つまらないが故の暇潰しか、それともーー
『決してありえない未知への興味』か。
しかし、このままだと『鏡』を使ってまで、ダンジョンの中を覗きかねない。
少し『酔って』いてもらおう。
転生のお陰で自分の魂というものを自覚できた。自分の魂に意識を向けて、一瞬だけ魂の輝きを強くした。
方法は簡単だ。『理想』を強く抱けば良い。純粋な想いであればあるほど、魂は白く輝く。他ならないフレイヤ様が言っていたことだ。前世のという言葉が付くが。
どうやら、上手く行ったようだ。視線が途切れた。
そんな一瞬とも言えるやり取りをしていると、アイズが小首をかしげながら、尋ねてきた。
「どうかしたの? ベル?」
「ん。何でもないよ」
「そう。『今は』何も聞かないけど、何かあったら言ってね。じゃないと、何かしちゃうかも」
「う、うん」
えっ、なんかアイズ怖い。ヤバい。リヴェリアさんの言った通り、本当に僕のそばに置いておかないと何かしでかす可能性が高い!
ベルはアイズから逃げるようにダンジョンへと向かった。
だから、ベルは分からなかった。アイズは上を見て、「ふふっ」と笑っていたことに。
僕達は二十階層に着いた。
此処は『異端児(ゼノス)』の件で訪れて、『竜女(ヴィープル)」のウィーネを異端児の隠れ里に連れてきた。まさにこの場所で異端児達と手合わせ程度だが、戦闘を行った。
僕はこの場所に来ると、何とも言えない気持ちになる。此処で異端児達と会えたが、今の状況では絶対に会うことはできない。ウラノス様やフェルズさんに認めてもらえていないから。
何ともどかしいことか。前世では完全に人類と異端児達が手を取り、一種の平和が作られた。『アイズ』の為にもこれは絶対に避けて通れない道だ。
すると、アリーゼさんが口を開いた。
「よし! では、始めましょうか! 打ち合わせでは私とベルの一対一だけど、変わらずかしら?」
僕はアリーゼさんのその言葉に同意を示そうとすると、アイズが待ったをかけた。
「私も戦いたい」
「アイズも? じゃあ、どうしようかしら、リューも入れて二対二にすべきかしら?」
その言葉にアイズは首を横に振って、否定を示す。
「一人ずつが良い」
「それって、三つ編みかしら?」
「アリーゼさん。それを言うなら三つ巴ですよ」
「そうとも言うわね!」
「そうとしか言いませんよ」
だが、なるほど。当初の予定とは違うが、それはそれで良い特訓になるかもしれない。
「僕は良いですよ」
「ベルが良いなら、私もイイケド・・・」
アリーゼは思っている。「この子、どれだけ戦いたいのかしら?」と。
「じゃあ、始めよっか」
「うん。リューさん。始まりの合図をお願い」
僕はスキル『幻想』を使い、『ヘスティアナイフ』を作り出した。
「分かりました。それでは、よーい始め!」
リューさんの合図で一斉に動き出した。
最初にベルの前に来たのはアリーゼだった。
「本気で行くわよ!」
「はい!」
ベルはアリーゼの連続攻撃をヘスティアナイフで防御あるいは回避し続けた。
すると、ベルの後ろからアイズが奇襲してきた。
ベルは身体を捻って、紙一重で回避した。
「アイズ、ちょっと攻撃鋭くない?」
「ん。気のせい」
「いや、絶対気のせいじゃない!」
いつもの模擬戦より攻撃が苛烈になっている。速さ重視のスタイルでも、防戦一方になってしまう。
現在、ベルはアリーゼとアイズの二人から同時に攻撃をされ続けている。
「ちょっとお二人さん? 何か手を組んで僕を倒そうとしているように感じるのだけど?」
「気のせい」
「気のせいよ!」
「アッハイソウデスカ」
ベルは二人の攻撃を捌きまくっているせいか、体勢を崩した。二人は好機とばかりにその隙に飛びついた。まるで、餌を目の前にぶら下げられた馬のように。
「『オールフォース』」
「ッ! 『聖なる風よ(テンペスト)』【エアリエル】」
「『アガリス・アルヴェシンス』」
ちょっと二人とも本気過ぎではありませんかねぇ!
「はあ!」
「ふっ!」
「くっ!」
二人の強くなった攻撃を魔法の制御に頭を回しながら、捌き続ける。難易度は先程の比ではない。
そこからは長かったような短かったような。そうして戦闘していくうちに制御は最適化され、意識しなくても暴発はしなさそうだ。
「「「ハァ、ハァ、ハァ」」」
「これで最後にしましょう」
「ええ、そうね」
「ん」
三人は一触即発の状態で睨み合う。
何処からか、ぽちゃん、という音が聞こえた瞬間三人は一撃を繰り出した。
「「「ハアアアアァァァァ!!!!」」」
その攻撃の末、三人の内一人だけ立っていた。
それはもちろんーー
「ふっふっふっ。さすがは超絶美少女の私ね!」
アリーゼである。
ベルとアイズは地に倒れている。意識はあるようだが、どちらも動けないといった感じだ。
「ベル、アイズ。お疲れ様です。回復薬です。動けないようですので飲ませてあげますね」
「あはは、お願いします」
リューはベルを上半身だけ起こして、回復薬を飲ませた。
ちなみに、リューさんは典型的なエルフなので肌の接触を嫌う。だけど、アリーゼさんや僕は大丈夫らしい。前世からの疑問だが、どんな基準なのだろうか?
なので、リューさんはアイズに触れることができないので僕を先に回復させ、僕がアイズに回復薬を飲ませることになる。
「アイズ、口を開けて?」
「口移し」
「何処で覚えてきたの? そんな言葉・・・。とにかく、それはダメ。そういうのは大きくなって好きな人とするんだよ?」
「私はベルが好きだよ?」
「んっんん!? もう、良いから飲みなさい」
「む〜」
アイズは不満一杯だが、しっかり回復薬を飲んだ。
・・・帰ったら、リヴェリアさんと相談しよう。
そうして、僕達は地上へと戻ったのだった。