白兎は理想を抱え、幻想へと走る   作:幻桜ユウ

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第五話

 

 

 

 ベル達は現在、ダンジョンの入り口ーーバベルの塔の前に立っている。

 

 「じゃあ、ベル行きましょ!」

 「アリーゼさん。その調子で行ったら、二十階層まで持たなーー行っちゃいましたか」

 「全く、アリーゼは・・・」

 

 アリーゼはウキウキした感じで走って行った。ベルはアリーゼを止めようにも間に合わなかった。リューはアリーゼの行動に頭を抱えている。

 

 アリーゼさんはレベル3だし、ちょっとやそっとじゃ疲れないとは思うけど、日帰りのつもりだし、僕も少しボコボコにするつもりだから、心配だな。←それは心配とは言わない。

 

 すると、急に僕の身体に悪寒が駆け巡った。天高くから見下ろされ、魂の質を測ってくる無遠慮な視線が僕に向けられている。

 

 こんな視線を送ってくるのは僕が知る限りただ一人。フレイヤ様しかいないだろう。正直、これまでも何度かあったが、今日はいつも以上に奥底まで見てくる。

 

 何かあったのだろうか? つまらないが故の暇潰しか、それともーー

 

 『決してありえない未知への興味』か。

 

 しかし、このままだと『鏡』を使ってまで、ダンジョンの中を覗きかねない。

 

 少し『酔って』いてもらおう。

 

 転生のお陰で自分の魂というものを自覚できた。自分の魂に意識を向けて、一瞬だけ魂の輝きを強くした。

 

 方法は簡単だ。『理想』を強く抱けば良い。純粋な想いであればあるほど、魂は白く輝く。他ならないフレイヤ様が言っていたことだ。前世のという言葉が付くが。

 

 どうやら、上手く行ったようだ。視線が途切れた。

 

 そんな一瞬とも言えるやり取りをしていると、アイズが小首をかしげながら、尋ねてきた。

 

 「どうかしたの? ベル?」

 「ん。何でもないよ」

 「そう。『今は』何も聞かないけど、何かあったら言ってね。じゃないと、何かしちゃうかも」

 「う、うん」

 

 えっ、なんかアイズ怖い。ヤバい。リヴェリアさんの言った通り、本当に僕のそばに置いておかないと何かしでかす可能性が高い!

 

 ベルはアイズから逃げるようにダンジョンへと向かった。

 

 だから、ベルは分からなかった。アイズは上を見て、「ふふっ」と笑っていたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕達は二十階層に着いた。

 

 此処は『異端児(ゼノス)』の件で訪れて、『竜女(ヴィープル)」のウィーネを異端児の隠れ里に連れてきた。まさにこの場所で異端児達と手合わせ程度だが、戦闘を行った。

 

 僕はこの場所に来ると、何とも言えない気持ちになる。此処で異端児達と会えたが、今の状況では絶対に会うことはできない。ウラノス様やフェルズさんに認めてもらえていないから。

 

 何ともどかしいことか。前世では完全に人類と異端児達が手を取り、一種の平和が作られた。『アイズ』の為にもこれは絶対に避けて通れない道だ。

 

 すると、アリーゼさんが口を開いた。

 

 「よし! では、始めましょうか! 打ち合わせでは私とベルの一対一だけど、変わらずかしら?」

 

 僕はアリーゼさんのその言葉に同意を示そうとすると、アイズが待ったをかけた。

 

 「私も戦いたい」

 「アイズも? じゃあ、どうしようかしら、リューも入れて二対二にすべきかしら?」

 

 その言葉にアイズは首を横に振って、否定を示す。

 

 「一人ずつが良い」

 「それって、三つ編みかしら?」

 「アリーゼさん。それを言うなら三つ巴ですよ」

 「そうとも言うわね!」

 「そうとしか言いませんよ」

 

 だが、なるほど。当初の予定とは違うが、それはそれで良い特訓になるかもしれない。

 

 「僕は良いですよ」

 「ベルが良いなら、私もイイケド・・・」

 

 アリーゼは思っている。「この子、どれだけ戦いたいのかしら?」と。

 

 「じゃあ、始めよっか」

 「うん。リューさん。始まりの合図をお願い」

 

 僕はスキル『幻想』を使い、『ヘスティアナイフ』を作り出した。

 

 「分かりました。それでは、よーい始め!」

 

 リューさんの合図で一斉に動き出した。

 

 最初にベルの前に来たのはアリーゼだった。

 

 「本気で行くわよ!」

 「はい!」

 

 ベルはアリーゼの連続攻撃をヘスティアナイフで防御あるいは回避し続けた。

 

 すると、ベルの後ろからアイズが奇襲してきた。

 

 ベルは身体を捻って、紙一重で回避した。

 

 「アイズ、ちょっと攻撃鋭くない?」

 「ん。気のせい」

 「いや、絶対気のせいじゃない!」

 

 いつもの模擬戦より攻撃が苛烈になっている。速さ重視のスタイルでも、防戦一方になってしまう。

 

 現在、ベルはアリーゼとアイズの二人から同時に攻撃をされ続けている。

 

 「ちょっとお二人さん? 何か手を組んで僕を倒そうとしているように感じるのだけど?」

 「気のせい」

 「気のせいよ!」

 「アッハイソウデスカ」

 

 ベルは二人の攻撃を捌きまくっているせいか、体勢を崩した。二人は好機とばかりにその隙に飛びついた。まるで、餌を目の前にぶら下げられた馬のように。

 

 「『オールフォース』」

 「ッ! 『聖なる風よ(テンペスト)』【エアリエル】」

 「『アガリス・アルヴェシンス』」

 

 ちょっと二人とも本気過ぎではありませんかねぇ!

 

 「はあ!」

 「ふっ!」

 「くっ!」

 

 二人の強くなった攻撃を魔法の制御に頭を回しながら、捌き続ける。難易度は先程の比ではない。

 

 そこからは長かったような短かったような。そうして戦闘していくうちに制御は最適化され、意識しなくても暴発はしなさそうだ。

 

 「「「ハァ、ハァ、ハァ」」」

 「これで最後にしましょう」

 「ええ、そうね」

 「ん」

 

 三人は一触即発の状態で睨み合う。

 

 何処からか、ぽちゃん、という音が聞こえた瞬間三人は一撃を繰り出した。

 

 「「「ハアアアアァァァァ!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その攻撃の末、三人の内一人だけ立っていた。

 

 それはもちろんーー

 

 「ふっふっふっ。さすがは超絶美少女の私ね!」

 

 アリーゼである。

 

 ベルとアイズは地に倒れている。意識はあるようだが、どちらも動けないといった感じだ。

 

 「ベル、アイズ。お疲れ様です。回復薬です。動けないようですので飲ませてあげますね」

 「あはは、お願いします」

 

 リューはベルを上半身だけ起こして、回復薬を飲ませた。

 

 ちなみに、リューさんは典型的なエルフなので肌の接触を嫌う。だけど、アリーゼさんや僕は大丈夫らしい。前世からの疑問だが、どんな基準なのだろうか?

 

 なので、リューさんはアイズに触れることができないので僕を先に回復させ、僕がアイズに回復薬を飲ませることになる。

 

 「アイズ、口を開けて?」

 「口移し」

 「何処で覚えてきたの? そんな言葉・・・。とにかく、それはダメ。そういうのは大きくなって好きな人とするんだよ?」

 「私はベルが好きだよ?」

 「んっんん!? もう、良いから飲みなさい」

 「む〜」

 

 アイズは不満一杯だが、しっかり回復薬を飲んだ。

 

 ・・・帰ったら、リヴェリアさんと相談しよう。

 

 そうして、僕達は地上へと戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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