後半 アイズ視点
宴が始まり、皆の調子も最高点だと言える頃ーー
ベルがメーテリアの所から私の下にトテトテと歩きながら、向かって来ていた。
正直、その可愛さに悶絶しそうだったが、そこは他の団員の手前、我慢した。
しかし、隠しきれてな(以下略)
「お姉ちゃ〜ん。ギューってして〜」
「あ、ああ。おいでベル」
私はベルを対面状態で膝の上に乗せて、ハグした。
ベルは普段、子供の欲らしい欲というものを表に出さない。今は酔っているせいか、かなり曝け出しているが。
これからも度々酔わせるか?
そんな事がふと頭によぎったが、すぐに霧散させる。
ベルはまだ子供だぞ! 体に悪すぎる!
それにしても、ベルは可愛いな。短い腕で私の背中に手を回し、小さい頭を私の胸の谷間に埋めている。とても愛おしい。ずっとこうしていたいぐらいだ。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「ん? なんでもないぞ」
どうやら、ベルに見透かされそうなくらい、顔が緩んでいたようだ。酔っていなければ、確実にバレていただろうが。
折角のことだ、普段じゃ、絶対はぐらかしてくるような質問をしてやろう。
「ベル。私のことは好きか?」
「うん。だ〜い好きだよっ!」
「ゴフッ! そ、そうか。どこが好きなんだ?」
「えっとね〜。しっかりと僕の事を見てくれる所!」
「そうか。私はいつもベルの事を見ているぞ」
「お姉ちゃんも? お揃いだ〜」
ん? 軽く告白っぽくなっている気がする。私も酔っているのか? 確かにベルの可愛さに酔ってはいるが。
というか、さりげなくベルが「お姉ちゃん『も』」と言ったぞ? もしかして、ベルも私のことを見てくれているのか?
そう認識するのと同時に私の顔が赤くなっていくのを感じる。嬉しさと恥ずかしさが入り混じった感情が頭の中を回る。
えっ? えっ? えっ? ベルが私のことを見ていた? いつも? もしかして、甘えたかった? 言ってくれれば良かったのに。いつでも甘やかしたのに。
「? お姉ちゃん? 顔が赤いよ?」
「ん。大丈夫だ。気にするな」
そんな私の心を知ってか知らずかベルは私の心配をしてくる。なんと可愛いことか。
だが、そろそろ離してあげた方が良いか。この子が大好きな『娘』が嫉妬を含む視線をこっちに送ってきている。
「ベル、そろそろアイズの所に行ってくるといい」
「うん! 分かった!」
ベルは私の膝の上から降りて、パァーとした笑顔のアイズの下へ向かった。
ベルの温もりは消えてしまったが、しかし、私は決意した。これからはしっかり甘やかそう、と。
私は絶賛、不機嫌モードである。
なぜならば、私の愛しいベルがメーテリアさんはまだしもリヴェリアにも甘えているのだ。私の所には来ずにだ。リヴェリアがベルの姉になったことは聞いたが、それでも羨ましいのだ。
すると、リヴェリアが私の視線に気づいたのかベルをこっちに寄越してくれた。ありがとうリヴェリア。リヴェリアならやってくれると信じてた。
「ベル、おいで」
「アーイーズ。今日も可愛いね」
「ふぇっ!?」
な、なんで!? いきなりそんな事を!?
びっくりして、変な声出ちゃった。・・・・・・何だかベルがいつもと違う。どちらかと言うと、前世のベルと同じような? それも恋人時代の時の意地悪ベルに似ている? というよりほとんど同じ?
「アイズ。ほら、よしよし可愛いね」
「うっ、う〜」
ベルが私を抱きしめながら、頭を撫でてくる。
う〜。どうして? ベルは甘えるんじゃなくて、甘やかしてくるの?
・・・・・・撫でられて拒絶してない私が言うのも何だが。
「ベル? 私にもベルを撫でさせて?」
「うーん。だーめ。しばらく、アイズを堪能できてなかったんだよ?今日ばかりは僕が主導権を握らせてもらうよ」
ベルはそう言いながら、私を押し倒す。すると、ベルは私の耳や首を甘噛みしてくる。
「あっ、ふぁっ、ベル、ダメッだよっ? そこっ、は、弱い、の」
「ふふっ。本当に可愛いねアイズ。ダメって言う割には拒絶はしないんだね」
「・・・・・・私がベルを拒絶できる訳ないもん」
「本当にそういう所だよ、アイズ。君の一つ一つの行動が愛しい。もっと、僕に見せて? あむっ」
「ひゃあっ!」
私は慌てて口を手で押さえる。
ベル!? 君は確か私が転生している事知らなかったはずだよね!? 扱いがまるで前世のソレと変わらないよ!? 嬉しいけど! 嬉しいけども!
「ああ、アイズ。君も何か要望があるかい?」
ベルが私に要望があるかを聞いてくる。
前世ならば、このまま愛してもらうけど、今じゃあ、そんな事できないし。
そうだ! この前の『口移し』の件があった!
「・・・して・・・欲しい」
「ん? もう一度言ってみて?」
「キス・・・して欲しいな?」
「おやおや。アイズから具体的な内容が聞けるとは思えなかったよ」
「んっ」
私は自身の唇を差し出す。すると、ベルも段々と私に顔を近づけて、唇が触れーー
「はい。ダメだよ、ベル。君達はまだ子供なんだから、そういうのは感心しないなぁ」
「あうっ」
フィンがベルを抱っこして離し、軽く叩いた。
む〜。あと、もうちょっとだったのに〜。
「アイズもだよ。そういうのはしっかり大人になってからだよ」
フィンは私にも苦笑しながら軽く叱ってくる。
「む〜」
「そんな顔してもダメだよ」
「・・・はい」
「よろしい」
「ベル、良いかい?」
「あう。分かった〜。フィンお兄ちゃん」
「「っ!?」」
ベルがフィンの事をお兄ちゃんと呼んだ。
ベル。まだ、酔ってるの?
フィンも驚きのあまりに固まってるよ。
「っは! びっくりした! これはすごい威力だね」
「フィンお兄ちゃ〜ん。ギュー」
「っ!」
「おやおや、さっきとはまた打って変わってだね。抱きついてくれるのはとても嬉しいのだが、離れてくれないかい? さっきからアイズの視線が怖いから」
「フィンお兄ちゃんは僕のことが嫌いなの?」
「うっ! そうじゃないんだ、ベル。後でいくらでも抱きついても良いから」
「・・・ほんとに?」
「本当だとも。『勇者』の名に誓おう」
「うん。分かった!」
そうして、ベルはフィンから離れた。
よし、このままだと神の言うところの『BL』展開になりそうだった! 背丈も似ているし!
すると、ベルが目を擦っている。
「うみゅぅ」
「ベル、眠い?」
「うん」
「じゃあ、一緒に寝よ? それくらい良いよね? フィン」
「ンー。まぁ、良いかな」
「許可も貰ったし、部屋に行こ?」
「うにゅ」
そして、私はベルと私の部屋のベッドで一緒に寝た。
ちなみにベルはこの宴の出来事を何一つ覚えておらず、団員達はベルを今後、酔わせようか割と真剣に考えていた。