本作とは全く関係ないんですが最近大天使チエリエルの声優さんが大空直美だと気づいて驚愕しました。あのエンジェルボイスがタマモクロスと同じ声ってマジ?
それと本編ですが途中から何を書いてるのか分からなくなってきたので投稿です。
「あら、会長お疲れ様です」
「スズカか。うむ、今日も精が出るな」
シンボリルドルフの登場に一瞬の間があって、周囲から挨拶の嵐が巻き起こる。
ここは数ある練習会場の一つ。
いつもより人の数が随分多いのは気のせいではない。
飛んでくる挨拶の全てに笑顔と手振りで答えるシンボリルドルフにそっと近づくサイレンススズカ。
その顔は少しの困惑を載せていた。
「会長、キングちゃんとレースするって本当ですか?」
「……ああ、それで人が多いのか」
噂が飛び交っているらしいとその言葉で察する。
レース場には走らずに準備運動をしている者も多いが、脇で話し込んでいるだけの娘も多い。
観客席も生徒やトレーナーでちらほらと埋まっているのが見える。
不確定な情報―――噂の段階でこれなのだから注目度はかなり高いと言えた。
「その通りだ、さっそく今から申し込もうと思っていてな。
彼女らはこちらに来ているだろうか」
困惑の色を思案に変え、んゅと唸るサイレンススズカ。
それから言い辛そうに口を開けた。
「ちょっと待ってあげた方がいいかもしれません」
視線が示した先には仁王立ちする
ちょっと聞いてるの!だのまた高いコーヒー飲んで!だのそれなら食事にお金をかけなさい!だの、年ごろの娘らしからぬ説教が続いている。
ジャックの偏食は今に始まったことではないので矯正するのは難しいだろうが言い続けて一年半、キングヘイローが諦める様子はない。
そしてトレーナー室に積まれているカップラーメンがなくなることもない。
当初の遅刻への注意はどこへやら、である。
「ふふっ、元気なようで結構。血行も良いようだ」
「レースは決行ですか」
「ああ」
サイレンススズカのまさかの被せに盗み聞きしている数人のウマ娘が噴き出した。
ちなみにサイレンススズカは純度100%天然の発言である。
会長の抱腹絶倒激ウマギャグにも気づいていない。
ウマ娘だけに、なんてな。
「ではレースの邪魔になってもいけないので私は隣のレーンに行きますね」
「すまないな」
「いえいえ、キングちゃんにはいい経験でしょうし」
見学よりも走ることを優先したサイレンススズカの発言は実にいつも通りだ。
エアグルーヴを通してサイレンススズカとキングヘイローの関係を聞いていただけに少し肩透かしを食らった気分である。
激ウマギャグをスルーされたとかは関係ない。
「そうそう、一つだけ会長にアドバイスです」
「アドバイス? 聞かせてもらおうかな」
同年代からのアドバイスなど中々ない経験だ。
少々気持ちを弾ませながら耳を向ければいたずらっぽい笑みが返ってきた。
同性でも頬を赤らめてしまうような輝いた笑み。
夏合宿を終えてから表情の端々が輝くようになったサイレンススズカは順調にファンを増やしているらしいと聞いたが、嘘偽りではないようだ。
思えばこれほどしっかりとサイレンススズカと会話した記憶もない。
人当たりが良くなったのだろう、素晴らしいことだ。
「あんまりキングちゃんを舐めちゃ痛い目見ますよ?」
「む、舐めているつもりはないが……いや、折角の忠言だ、心しよう」
「うふふ、では失礼しますね」
そして輝く笑顔のまま行ってしまった。
舐めるなという忠言の真意がどこにあるかは分からないが、一層気を引き締めようと瞳を閉じる。
きっちり一秒。
目を開いたシンボリルドルフが長髪を翻す。
「ジャック・アトラス、並びにキングヘイロー。
約束通り、レースを申し込みに来たぞ!」
_____ヘイロー―――――
「レース? 私が? 会長と? なんで? ……ん???? どして?????」
「昨日の今日でお出ましとは、せっかちな女だ」
ジャックが話をまとめて戻ってきてもキングヘイローの混乱は収まっていなかった。
予め噂を聞きつけていればまだ気持ちの準備もできたであろうが、今日のお昼はカワカミプリンセスへのマナー講習として時間を使ったため、その類の情報を仕入れられなかったのがあまりに痛い。
取り巻きメンバーも心配そうに見つめてくる中、キングヘイローはぐるぐるお目々で自分のほっぺたを引っ張っていた。
ぷるんっ。
張りも弾力も一流のお肌だ。
ついでに痛いから夢じゃない。
「いつまで惚けている」
「???? どうして夢じゃないの?」
「いいから聞け。距離は1600、このコースをそのまま使う。
メンバーは二人のみ、サシでの一発勝負だ」
ぽくぽくぽく、ちーん。
「トレーナー、また貴方が何かやらかしたでしょう?」
「こちらが勝てば生徒会公認で特訓を続けられる、負ければトレーニングに制限を架せられる。分かったか」
「はぁ?」
どうしてそんな事態になっているのか、微塵も理解できないまま着々と準備が進められている。
気が付いた時にはレース用の蹄鉄シューズを履かされていた。
「レース展開だが、こちらが先行で引っ張る形が良いだろう。
最後の直線でよーいドンの差し勝負になればさすがに勝ち目がない。そうならんようにうまく逃げろ」
「って言っても会長は先攻もできるのよ? ピッタリ張り付かれたらどうするの」
「そうはならん」
「そう……分かったわ」
まるで意味が分からんぞ!という状態だが、レースをやるとなれば話は別だ。
ゴチャゴチャ余計なことを考えていないで気持ちをレースに向けるのが最優先。
パンと両頬を叩いて心機一転、思考を切り替える。
「仕掛けどころは?」
「任せる」
「他に注意点は?」
「プレッシャーにだけは負けるな」
「そう」
短い応酬で気持ちも切り替わった。
とりあえず今は会長に勝つ、それだけを念頭に置いて頑張ろう。
そんな風にして準備が整ったところにシンボリルドルフの声が差し込まれた。
「聞き忘れていたのだが、何秒欲しい?」
「は?」
すとんとキングヘイローから表情が消える。
柔軟を済ませて涼しい顔のシンボリルドルフは続けて問いかけた。
「そちらの得意な距離というだけでは足りんだろう、二秒か三秒と言ったところか」
「不要―――「舐めるのも大概にしなさい」
ジャックを押しのけてキングヘイローが立つ。
瞳にはもう火が入っていた。
無理もあるまい、まともにやれば大差で勝てると言われているのだ。
世代最強の一翼を担うキングヘイローにとってそれは侮辱以外の何物でもない。
「私はデビュー前のウマ娘じゃないの、クラシック級のウマ娘よ」
「そうだな、そして私はシニア級を牽引しているウマ娘だ」
本番のレースでも争う可能性がある相手だとキングヘイローが言えばその本番では大差で勝てると言うのがシンボリルドルフだ。
どちらにもプライドがある。
向かい合えば身長差は歴然。
女性の中でも背の高いシンボリルドルフと、未だ成長期のキングヘイローでは頭一つ分の差があった*1。
体の厚みも違う。
迫力という点ではどう贔屓目に見てもシンボリルドルフに分がある。
それでも一歩も引かないのがキングヘイローだ。
「レースに絶対はないわ」
「そうだな、そして順当ならば存在する」
「それを覆してこそウマ娘でしょう?」
「無冠の言葉では―――」
言葉はジャックの腕により遮られた。
今にも掴みかかりかねないキングヘイローを引っ張り出し、小脇に抱える。
「こちらは先行策で行く、そちらで勝手に手を抜いて調整すればよかろう」
「……すまない、言いすぎるところだった」
「構わん、多少のマイクパフォーマンスも仕込んでおらん俺の責任だ」
物理的に口を封じられ、スタート地点へと押し込められるキングヘイロー。
それでもゲートに入れられれば静かになり、集中してしまう。
不満の色は隠せていないが、こうなったらレースで証明してやるといったところだろうか。
興奮気味に尻尾が上下していた。
「舐めたら痛い目を見る、か……そうさな、驕っていたやもしれん」
思えば七冠の殆どが薄氷を履むが如しの勝利だった。
その一つ一つを精一杯積み上げてできたのが七冠という偉業だ。
わき目も降らずに勝利へと邁進していた自信もあるが、七冠を達成できたのは少なくない幸運があってこそ。
それを忘れ、年下相手にはハンデが必要などとどの口で言えたものか。
ましてや一度も戦ったことのない相手を勝負にもならない格下だと決めつけて。
驕っていたやも、ではない。
驕っていたのだ。
それを認め、瞳を閉じて一秒。
目を見開いたシンボリルドルフは悠然とゲートに身を沈めた。
「よかろう、手は抜かん。確実に差し切る」
「上等よ、そうじゃなくちゃ面白くないわ」
二人だけのゲート。
それは静かに開いた。
_____ヘイロー―――――
「速いですわ……!?」
「カイチョー! がんばれー!!」
後輩二人に連れられて観客席に来たスペシャルウィークは食い入るようにそのレースを見つめていた。
確かにメジロマックイーンの言うようにペースは速めだ。
先行するキングヘイローの後を悠々と追いかけるシンボリルドルフ。
二人の熱がここまで届いてきそうなほど目に見えない力でバチバチやりあっているのが分かる。
「これが……キングちゃんのバーニングソウル」
「サブトレはそういうらしいな、アタシらの世代じゃ覇道って呼ばれてたぜ。
そんで覇道を代名詞にしてたのがあのルドルフだ」
真剣な目で見つめるスペシャルウィークの横、気だるげな目で見降ろしているのがゴールドシップだ。
覇道に目覚めつつあるスペシャルウィークには二人の攻防が僅かながらに見えている。
先を行きながらプレッシャーを与え続けるキングヘイロー。
その覇道を切り裂くようにして紫電を纏ったまま追走するのがシンボリルドルフ。
質の違いは火を見るよりも明らかだ。
「年季が違う、ありゃ最後まで持たないんじゃね?」
「いいえ! キングちゃんはへこたれたりなんかしません!」
手に汗を握りながら二人を見るスペシャルウィークから反対側の観客席にいるのがエルコンドルパサーである。
静かに独り、その景色を見つめていた。
あのシンボリルドルフを相手にたった一人で立ち向かう友人の姿を見て、言葉もなく。
マスクに手をかけ、しかし外すこともないまま、静かに見ていた。
「……」
キング、アナタのその不屈に……正直嫉妬デス。
「ここ……よし、そこで……うん」
そして観客席の外、ターフの上で見守っているのがグラスワンダー。
先行するキングヘイローを己の姿と被せて観戦している。
元々脚質もレースに対する思考も似た二人だ、どうしてもレース展開は似てくる。
だからこそ己の仮想としてキングヘイローはこれ以上なく適任であった。
自分の考えと同じタイミングで、同じコース取りを行い、シンボリルドルフと戦う。
だからこそ分かってしまう。
次の仕掛け、最終コーナーで並ばれてしまうことを。
貴方はこれをどう凌ぎますか、キングさん。
「うわー、盛り上がってるねぇ……」
一番遠くの観客は学校の屋上。
おさぼりウマ娘を自称するセイウンスカイは双眼鏡を手に、レースを見ていた。
この距離では双眼鏡を使っても豆粒のように小さい姿でしか見えないが、それでも彼女には充分だった。
観察の合間に食べようと思って広げたポテチは隣に座るニシノフラワーがちまちま食べているだけでちっとも減っていない。
「ふーん、会長は最後に大きく膨らんで真っ向勝負ですか。捻じ伏せに来たねぇ」
その言葉通りになった。
シンボリルドルフは最終コーナーで距離を大きく使って加速する。
キングヘイローとも充分に距離を取って、妨害を一切させずに力で捻じ伏せる作戦だろう。
セイウンスカイがシンボリルドルフだったとしても同じ作戦を取る。
それほどまでにどうしようもない、絶対の一撃である。
だからって、諦めるキングじゃないよね?
「どーすんのさ、王様」
「ふふっ、スカイさんったら。そんなに気になるならもっと近くに行けばいいのに」
_____ヘイロー―――――
「よくぞその若さで、ここまで覇道を扱えたものだ!」
「こん、のぉ!!」
最終コーナー。
ここまでは先行のまま順調に来れたがこの最終コーナーで背後を行くシンボリルドルフが大きく膨らんで加速してくる。
振り返らずとも分かる。
今までは成りを潜めていたこの圧倒的なプレッシャー。
これこそが皇帝の実力、本懐。
温存していた末脚を爆発させんとする気配がウマ娘の本能を強く刺激する。
差される!
本能が叫んでいる。
それでも手足を動かすしかキングヘイローにできることはない。
少しでも飲まれればもうダメーと脱落してしまいそうだ。
それだけは何としても嫌だった。
だから、足を動かす。
「だが、これまでだ!」
宣言と同時に紫電が飛び散った。
いや、本当は分かっている。
この紫電は幻想で、シンボリルドルフから放たれる威圧感を可視化しているだけ。
見えている時点で多少なりとも影響を受けている。
気にしたらダメ!
紫電を振り切ったと同時、シンボリルドルフが爆発的に加速する。
まるで今まで走っていなかったかのようにグングン伸びる。
必死に走って開けた距離をあっという間に詰められ、コーナーが終わる頃には並ばれていた。
残る直線は400メートル。
トレーナーは言っていた。
最後の直線でよーいドンの差し勝負になればさすがに勝ち目がない。
それをそのまま再現された形である。
「ハッ」
歯噛みしたいのを必死にこらえ、フォームを意識する。
噛みしめたら腕の動きが悪くなってフォームが崩れるから、吐き捨てるようにして笑った。
キングヘイローが選んだのはサイレンススズカを追い続けて自然と手に入れた最速の姿勢。
バカみたいに疲れるから長時間は持たないこれで対抗するしかない。
400メートルは長い、けどこれしかないから躊躇もしない。
「く、のっ」
「ほう……!」
顔は下げない。
腕と足をしっかり振って尻尾の先まで制御してみせる。
そう意気込んで加速した。
二人が並ぶ。
抜けない、でも抜かさせない!
意地だけで体を動かしている最中、脳裏をよぎるのはライディングデュエルのクライマックス。
燃えているかのように熱いトレーナーの鼓動。
肩口に押し当てられたあの心臓の音がキングヘイローの全身を伝播した。
伝わったのは魂の燃焼、それに秘められた膨大なエネルギーの一端。
あれが私にもあれば!
このターフを焼き尽くすほどの熱量があれば!
魂を燃やせるのならば!
「私に! 力を、ちょうだい!!」
ドクンと、鼓動がターフを駆け抜けた。
不意に視界が赤く染まる。
青い空は赤く、芝生は黒いカーペットに。
太陽は陰り、分厚い雲が燃える雨を降らす。
その景色を
笑顔はそのまま歓喜を示している。
レースの土壇場、決着を目前にしたところでキングヘイローの覇道が姿を変えたのだから。
「ならばこちらも!」
だからこそシンボリルドルフは覇道を真正面からぶつけた。
雷鳴を轟かせて紫電がターフを駆け巡り、神聖な空気の支配する空間へと塗り替える。
赤い世界と青白い世界がぶつかり合い、少しの拮抗を以て雷撃が紅蓮を討ち果たす。
3/4バ身。
紅蓮が打ち砕かれたと同時にシンボリルドルフはゴールを割っていた。
キングヘイローが至ったのは時間にして僅か一秒ほど。
たったそれだけで体力の全てを使い果たした。
無酸素運動の限界を迎え、どちゃりと倒れる。
それだけでは勢い止まらずにゴロゴロと転がっていくではないか。
「……トレーナー君、もっと他に教えることがあるのではないか?」
「クラッシュ対策は大事だぞ?」
思わずゴール近くで待っていたジャックへそう投げかけてしまう。
転がり、汗に土と芝が付着して泥だらけになるキングヘイローを見て思うのはあまりに倒れ慣れていることだ。
転がる前も受け身をしっかり取れていたし、そもそも転がっているのも衝撃を段階的に殺しつつ、後続から踏まれないように退避する目的があるのだろう。
それも柵に当たらないようにしっかり外側へ転がっている。
安全に倒れるための手順が身に沁みついていなければあれはできない。
「はぁ! はぁ! ……今の、なに?」
大きな呼吸を繰り返し、わずかに見えた世界のぶつかり合いに疑問を呈す。
答えてくれる人は誰もいなかった。
「キングちゃーん!」
「はわわ、大丈夫ー!?」
「タオル持ってきました!」
倒れたままのキングヘイローへ取り巻きメンバーはお約束とばかりに王の世話を焼き始めた。
具体的には泥と草を払うことから始める。
ペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーン。
「……まぁ、いい。結果は結果だ、分かっているな?」
「糸口を掴んだ今こそ追い込みをかけたいところだが、仕方あるまい」
こうしてキングヘイローは過度な追い込みの禁止とトレーニング時間は19時までの制限をされてしまった。
菊花賞を前にこの制限は厳しいが、それに勝るやもしれぬ経験を得たのは大きい。
秋本番を前に勝利の方程式は完成しつつある。
ここまでまだ一勝もできてない主人公がいるらしいゾ。
こんな異能力バトルっぽいことしてるのは相手が会長だからです。菊花賞では普通のレースになります。たぶん。
この後カフェとタキオンが合流してわちゃわちゃする予定でしたが蛇足っぽかったんでばっさりカットです、無念。
次回、『料理できるんですけど!卵焼きくらい?作れるし!(嘘をつきました)』にアクセラレーション!