菊花賞始めようと思ってたんですがこのイベント入れ忘れてたので投稿です。
間延び展開にするつもりはなかったんです!許してください(ジャックが)なんでもしますから!
「キングちゃーん! ど、どしたらいんだべー!」
「スペシャルウィークさん?」
菊花賞を目前に控え、最終調整に入っていたキングヘイローの下へスペシャルウィークが駆け込んでくる。
したっと止まるのを見れば調子は良さそうだ。
その後を追ってくるのは記者だろうか。
息を切らしながらも足を止めずにここまでくる。
「スペシャルウィークさん! あのダービーでの走り、感動しました!」
「次の菊花賞も出場予定ですが意気込みのほどを!」
記者で間違いないようだが、今更そんな取材をしているのを見るに二流の類だ。
記事を書いた際に一味足りないと感じ、何か面白いネタでも探しているといったところだろうか。
「わわっ、みなさん落ち着いてくださいー!」
数名の記者たちから録音機を向けられ、スペシャルウィークがキングヘイローの背中に回り込んだ。
キングヘイローも呆れた顔でため息を零す。
それでも振り払ったりせず、そっと尻尾で抱え込んであげる辺りデレが過剰だ。
「うぅ、ごめんねキングちゃん。私、こういう取材に慣れてなくて……。
ど、どうしたらいいんでしょう!? 何を伝えればいいべ!?」
ちょっとしたパニックに陥ってしまっている。
これではまともな取材もできないだろう。
だが相手が欲しているのは盛り上がりそうなネタだ。
このように上がっているウマ娘から強気な発言や作戦の一つでも零れれば御の字と思っている。
「……そんなの、質問されたことに答えればいいじゃない。
無理して面白いことを言おうとなんてしなくていいわ」
軽く肩を叩いてスペシャルウィークを前に押し出す。
まずは落ち着きなさいと背中を撫でつつ、深呼吸を促した。
そして数呼吸ほど時間を空けて側を離れる。
スペシャルウィークは向けられっぱなしの録音機を戸惑いながらも見つめた。
それが合図となり、記者が口を開く。
「ずばり! 貴方のライバルは?」
「ら、ライバルですか!? え、えーっと!?」
考えたこともない言葉が飛び出てきて思考は空回りする。
そこでそのまま走るのに一生懸命で考えたこともありませんとかみんながライバルですとか当たり障りのない答えをできない辺り、初々しさを感じてしまう。
これでもダービーウマ娘だというのに……。
日本ダービーを取った時はこれとは比較にならないほどマイクを向けられていたが、その時はどうしていただろうか。
思い返してみても自分の気持ちに蓋をするのに精一杯だったことしか記憶にない。
キングヘイローは人知れず、またため息を零した。
このどこにでもいそうな素朴な少女が
今、クラシック級で最も注目を浴びているのはスペシャルウィークで間違いない。
現に同じ世代最強候補とされる黄金世代のキングヘイローに視線をやる者は一人もいないのだから。
『あんなに人を惹き付ける走りを見たのは久々よ』
母親の言葉が脳裏をよぎる。
最終調整として動かしていたはずの指先がやけに冷たい。
『あの子が相手だなんて本当に残念』
知らず、奥歯を噛みしめていた。
耳を伏せ、握っていた拳を努めてゆっくりと開いていく。
『諦めという感情も沸いたんじゃない?』
この言葉を何度思い返したか。
もはや数えきれなくなるほど繰り返された言葉を先んじて蹴飛ばす。
だからこそ、菊花賞で勝って一流を証明し、世間の誰もが注目せざるをえないような、そんなウマ娘になるために―――
「やはり長距離の本命とされるセイウンスカイですか?」
「セイちゃんですか? セイちゃんからは菊花賞と天皇賞(春)に出るって聞きましたけど」
「うおお! マジか!?」
「セイウンスカイからのライバル宣言ですか!? これは熱い!」
誰も自分を見ていない現実に目をつむり、そっと踵を返した。
「ってキングちゃん!? 待って待って、一人にしないで!」
「大丈夫よ、貴方の取材の受け方、サマになってるから」
それだけ言って駆けていく。
止める間もなく、あっという間にその姿は遠くへ。
入れ替わるように現れたのは大男だ。
その男の登場にスペシャルウィークの顔が明るくなる。
ともすればキングヘイロー並みに心強い相手だったからだ。
「キングちゃんのトレーナーさん!」
「なんの集まりだ、これは」
実は彼に助けられるのはこれが初めてではないスペシャルウィークは迷いなく彼の背後へ隠れた。
威圧感のある男の登場に記者たちが一歩後ずさる。
事情を聞いたジャックはデュエルディスクを展開し、スペシャルウィークをかばうように前へ出た。
「貴様ら、正規の手順を踏んでの取材だろうな?
選手を困らせるような三流記者に取材の許可が下りるとは思わんが。
御託はいい、聞きたいことがあるのならばデュエルで資格を証明しろ」
結論から言えば噛みついてきた記者の全てをジャックはワンショットで追い返した。ワンターンツーキルゥ。
その迫力と実力に逃げ去る記者たち。
どうやら正規の手段に則っていなかったらしい。
会社名を押さえるのが先だったかと静かに嘆息した。
「遊星の奴はどうした、こういう時のための男手だろうに」
「えっと、不動サブトレーナーはスズカさんとレース会場の下見に海外へ……」
「メインのトレーナーは?」
「ゴールドシップさんにPALOスペシャル食らってダウンしてます……」
アタシが一番PALOスペを上手く扱えるんだー!と言い出したゴールドシップがトレーナーを締め上げ、死にかけたトレーナーに追い打ちで今度は逆向きで技を仕掛けるまでがセットだ。
よって正確にはOLAPを食らってダウンだがスペシャルウィークには細かいことが分からない。
何がゴールドシップの琴線に触れたのかも分からない。
とにかく今はトレーナー不在だったのだ。
「あ、あの……ありがとうございました!」
「気にするな、俺はキングヘイローの代わりだ」
「キングちゃん、どうしちゃったんだろう」
確かに話の途中で放り投げるなどキングヘイローらしからぬ態度であった。
いつもなら頼んでもいないのに最後まで面倒を見るのが彼女なのだが。
「今は放っておいてやれ、追いかけられても辛いだけだろう」
「え、えーっと……何かあったんですか?」
「何もなかった、が正しい」
その言葉だけでは分からないのだろう。
未だ困惑の色を残した表情でジャックの顔を見上げるスペシャルウィーク。
少なくともキングヘイローは彼女にこんな顔をして欲しいわけではない。
「時に人は愚かだと分かっていても止まれないことがある。俺もかつてはそうだった。
友を裏切り、仲間を捨て、偽りの頂点に立ち、満足もできず、しかしそこに固執した。
愚かなことだった。
だがあの時間がなければ今の俺はない、そう断言できる」
「……難しいです……」
「ならば分かるように言ってやろう」
そう宣言すればスペシャルウィークは耳をピンと立てて拳を胸の前で強く握る。
「教えてください!」
「貴様は難しいことを考えず、菊花賞で戦えばいい」
「菊花賞で?」
「ああ、本気でぶつかれ」
それだけが奴の救いとなるだろう、かつて遊星がそうしてくれたように。
最後までは言葉にしなかった。
だが分かりやすかったのが良かったのか、スペシャルウィークは何度も頷いていた。
頷いて、その瞳に火を灯す。
「分かりました! 私、全身全霊でキングちゃんと戦います! 走り切ります!」
周囲の人たちが何事かと見つめてくるほどの大きな声での宣言。
生憎とその言葉は届かせるべき相手には届かなかったようだが、結果は同じだ。
菊花賞でキングヘイローの命運が決まる。
それだけのことだった。
_____ヘイロー―――――
「ねぇ、トレーナー。もう少し走ったらダメかしら?」
「また会長にどやされるぞ」
「んもう!」
十月も終盤に差し掛かったこの時期、外は十九時を前にすっかり暗い。
夕方以降のトレーニングを禁じられたキングヘイローにとってはもどかしい時間だ。
それも菊花賞を目前に控えた今はなおさらだろう。
逸る気持ちも分かるがそれで無理をされたら本番に差し支える。
よってキングヘイローはトレーナーに甘えることで逸る気持ちをなんとか抑え込んでいた。
「……そう言えば、先日の休暇で貴様が暇と抜かしていたな」
「そーよ、貴方が私の提案を蹴ったことまできっちり覚えてるんだからっ」
しかも日ごろ食べているインスタントラーメンに負けたのだ。
年頃の少女としてはとてもショッキングな出来事であり、忘れられるはずもない。
今度、このトレーナー室にある分は全部撤去しちゃおうかしら。
「この恨みは絶対晴らすんだからね」
「それはどうでもいいとして」
「よくない!」
「暇潰し兼強化案を用意した。勝負服はあるな?」
言われてキングヘイローは部屋の中にある鍵付きのクローゼットを見た。
そこにクリーニングから帰ってきたばかりの勝負服がスペア共々収まっている。
「金具がついているベルトだけを持ってこい」
「分かったわ」
何をするつもりかは知らないがベルトだけならば悪さもできまいと席を立つ。
新品同様に美しい勝負服からベルトを二つ取り外す。
金具はKとHのイニシャルでできているお気に入りの逸品だ。
「これをどうするのかしら?」
「こいつの出番だ」
彼が取り出したのはスプレー缶のような何かだ。
いや表面にデカデカと金具磨きSPと書いてあるので研磨剤の類だろうと分かるが。
「どして?」
「何がだ」
「どうして磨く必要があるの? 充分綺麗だけど」
「貴様、この金具磨き
SPでスペーシアン?
分かりにくい彼の言葉を読解すると、つまり磨くのは決定事項ということだ。
その上で文句を言われるということは研磨するアイテムに不満があると理解したのだろう。
違う、そうじゃない。
「んもう! 分かったわよ、やればいいんでしょやれば!」
仕方ないと缶の前に座り込めば織り目の細かい生地が投げ込まれる。
これを使えということだろうが、生憎と何かを磨くなどという経験はキングヘイローにない。自分磨きを欠かしたことはないが。
視線でどうしたらいいかを問えばジャックはため息をついてから布を一つ取った。
この程度でイラッとしていては彼のパートナーは務まらない。
どでかいAの形をしたイヤリングを片方外して机に置く。
これで試しにやってやろうということだろう。
普通に口で説明しなさい。
そう言わないだけキングヘイローは寛大である。
「まずはこの布に液状の研磨剤を塗布する」
「ふむふむ」
「そして金具を擦る。これだけだ」
「簡単ね」
「ただし力いっぱいに擦ると表面を傷つけることがある、注意しろ」
特にウマ娘は力が強いため注意が必要だ。
研磨は撫でるように根気強く繰り返すことが肝要である。
キングヘイローは言われた通り、布に研磨剤を少しだけつけてK字の金具を擦っていく。
布で包むようにして持ち、こしこしと表面をなぞる。
変化はすぐに起きた。
充分綺麗だと思っていた金具がピカピカに輝いたのだ。
「え、すごい」
思わずまだ磨いていないHと比べる。
一目瞭然とはこのこと。
霞が張り付いているような印象とでも言えばいいのか。
その霞を拭われたKは鏡のように周囲を反射し、光り輝いている。
まだ磨いていないHはなんというか、普通だ。
綺麗だが輝いていないし、鏡のように反射している姿も曇って見える。
何が凄いというと、Kにはまだまだ霞が残っているのが分かることだ。
研磨の足りないところは霞が丸々残っているし、一番研磨したところと数回撫でただけのところでは輝きの深さが異なる。
つまり全体をたくさん磨けばまだまだ輝けるということ。
それからは黙々と取り組んだ。
どれほど集中していたかというと夕食を食べ忘れるほど。
二人静かに金具と向き合う。
うっらら~ん、うっららーん♪ ふふんふふふん、うっらら~ん、うっららーん♪
「「はっ」」
二人が意識を取り戻したのはキングヘイローの着信音が鳴り響いた時だ。
キングヘイローは素早く携帯電話を手に取り、ジャックは備え付けの時計を見た。
すでに二十時を回っている。
一時間もの間、二人は一言も喋らずに手を動かしていたことになる。
「ああ、ごめんなさいウララさん。ええ、すぐ戻るわ!」
「ところで貴様、何だその着信音は」
「ウララさんが私のためにって歌ってくれたのよ、素敵でしょう!?」
反論は許さぬという圧を受け、ジャックは顔をそらして嘆息した。
どうやらいつものお風呂の時間になっても戻ってこないキングヘイローを心配してハルウララが電話を掛けてくれたようだ。
それがなければ門限を超えるまでこうしていたかもしれない。
キングヘイローはしっかりとハルウララに感謝の言葉を述べてから電話を切る。
手早く仕上げを行い、未使用の綺麗な部分で研磨剤を拭き取れば完成だ。
感慨深さを感じる間もなくベルトをもとの位置へと付ける。
「あら、いいじゃない」
思わず言葉が漏れた。
それほど美しく仕上がっていたのだ。
今から着るのが楽しみなほど服全体が輝いて見える。
「勝負服はウマ娘にとって想いの力の代名詞だ。
それを磨くということはつまり己を磨くということに他ならない。
業者に任せたからといって手入れを怠るなよ」
「何よ、ちょっとびっくりするぐらい効果がありそうじゃないの!」
少なくとも次のレースをこれほど心待ちにするなんて、それこそ勝負服が初めて手元に届いた時以来ではないだろうか。
ワクワクとした気持ちを詰め込むようにクローゼットを閉じる。
振り返った彼女はニンマリとした笑みを隠そうともしない。
「うふふん、菊花賞の楽しみが増えたわね」
指先についた金属汚れを伸ばすように擦り、しかし尻尾は元気いっぱいに揺れている。
ともすれば歌いだしそうなほど彼女は浮かれていた。
「ああ、見せつけてやれ」
「ええ! キングヘイローがここにいるってこと、世間に知らしめてあげるわ!
おーほっほっほ!」
キレのある高笑いが響き渡った。
絶好調のままキングヘイローは菊花賞を迎えることになる。
皆さんお待ちかねッ!!
様々な試練を乗り越えてきたキングヘイロー!
その前に立ちはだかるのは二人のウマ娘!
迎えるはクラシック級の最高峰、菊花賞!
今、ライバルたちとの戦いのファンファーレが鳴り響くのです!
勝つのは最も速いのウマ娘か、最も幸運のウマ娘か……それとも―――。
次回、疾走決闘伝ウマ娘!!
『ジャック散る! キング涙の必殺拳』にぃ、レディィィィゴーッ!!