11月後半なのにジャパンカップのシーン書かないで俺は何してるんだろう……。
というわけでゴルシらしさを少しでも感じていただければ、という投稿です。
「よう、ヘイロー! あんたデュエリストだったんだって?
じゃあアタシと勝負すっか!」
「???」
殆ど喋ったことのない先輩にさも友人であるかのように話しかけられ、しかも芝の上でデュエルを持ちかけられたキングヘイローは混乱の極みにあった。
何せ今はシャトルランの最中である。
話しかけてきた相手がトレセン学園の要注意人物筆頭ゴールドシップだったこともあり、警戒すればいいのか注意すればいいのか走りに集中すればいいのか分からなかった。
分からなかったがとりあえず走るのは止めない。
トレーナーからの指示もないので次のカラーコーンへ走り込む。
「へへっ、シンクロが席巻してるこのご時世に帝デッキとは恐れいったぜ!」
シターンシターンと長いストロークで並走するゴールドシップは涼しい顔だ。
一分間続けているキングヘイローに比べれば余裕があって当然だが、スプリントスタイルの彼女について来れるのは尋常ではない。
動揺しつつも次のカラーコーンへ。
「でもよ、水臭いぜヘイロー!
なんでデュエリストなの黙ってたんだ、アタシたちの仲じゃねーか! うぇいうぇーい!」
赤の他人ですが????
走ることに精いっぱいでなければそう言い返していたところだ。
それにしても何故ゴールドシップはこれだけのスピードで走っているのに喋る余裕があるのだろうか。
呼吸の妨げになる喋りなんて流しながら走っている時ぐらいしかできないものだ。
つまりまだ全力ではないと?
そう考えた瞬間、キングヘイローの脚に鋭さが蘇った。
「ラスト!」
トレーナーの声。
ぶっ倒れるつもりで走り、ゴールドシップを突き放す。
コーンを超えて転がるようにして倒れた。
「ふん、悪くないタイムだ」
でしょうよ!
ぜーぜー呼吸しながら瞳でそう返事する。
半瞬ほど置いて戻ってきたゴールドシップは少し物足りなさそうだ。
中途半端に走ったせいで気持ち悪いのだろう。
もう十本ほど走りたいと顔に書いてある。
「ま、いいや。そっちはそのうちやるとして……やっぞ! デュエル!」
「……なんで????」
ようやく出せたキングヘイローの疑問は黙殺され、ゴールドシップに引きずられて裏庭へと連れ込まれた。
用具を片付けたジャックも当然のようにその後を追う。
「ん? 私がおかしいの?」
ジャージを土で汚しながらぼやいたがやっぱり誰も返事をしてくれなかった。
_____ヘイロー―――――
「コンディションもよくなさそーだし、ガチデッキでやるのはまた今度な」
「シャトルランをやった直後でコンディションがいいわけないでしょ……」
返事をしたキングヘイローをべしゃりと捨て置き、ゴールドシップは適切な距離を取る。
ともあれお互いジャージ姿でデュエルディスクなど持っていないこの状況でデュエルなどできるのだろうか?
そんな疑問を抱いたキングヘイローを他所にゴールドシップは左側頭部に付けている茶色いヘアカフス(?)を外して左腕にセットする。
「は?」
カシャカシャジャキーン!ゴルシィ!
なんか変形してデュエルディスクになった。
流れるように右側頭部のヘアカフス(?)をスライドさせるとそこからデッキが現れた。
デュエルディスクにセットしてシャッフルボタンを押す。
これで準備は完了だ。
デュエルディスクが元の形状より倍以上に膨れ上がっていることとかデッキケースの割には薄すぎることとか、そんなどうでもいいことはゴールドシップには関係ない。
よく見たら左側頭部にヘアカフス(?)が復活してることと同じくくらいどうでもいい些末な問題だった。
ただ、キングヘイロー的には問題大ありというだけで。
「おう、ヘの字はどうすんだ?」
「ん???」
混乱から立ち直る暇もなく携帯してるのが当たり前みたいな言い方に戸惑うキングヘイロー。
デュエルディスクどころかデッキすら携帯していない彼女には無理難題だった。
とりあえずトレーナー室に戻っていい?
そう聞こうか悩んだ彼女に投げ渡されたのはデュエルディスクとデッキケースだ。
投げたのは当然ジャックである。
「愚か者め、デュエリストたるものデッキは常に携帯していろ」
「普通にトレーニングの邪魔じゃない?」
「ゴールドシップを見習え」
「優等生のゴルシちゃんだぞ♪ いぇい♪」
なんかもう白目をむいて卒倒したい気分だ。
とにかく始めないことにはこの頭の痛い空間が終わらないのだと気づき、手早く準備を終える。
やぶれかぶれってこういうことかしら。
言葉にはせず、ため息として吐き出した。
だがそれを契機に気分を切り替える。
ダラダラとした気持ちでデュエルをしたら無様を晒すと知っているからだ。
「まぁ、いいわ。やるとなれば先輩でも容赦しないわよ!」
「そうこなくっちゃな」
互いに向かい合い、構える。
一拍の間があって二人同時に息を吸う。
「「デュエル!!」」
キングヘイロー LP4000
「私のターン!
汎神の帝王を発動。手札の帝王の深怨を墓地に送ることで二枚ドロー!
そして墓地に行った汎神の帝王の第二の効果を発動するわ」
ソリッドビジョンによって映し出された三枚のカードは帝王の烈旋、再臨の帝王、真帝王領域だ。
効果はそれぞれ相手モンスターをリリース素材にできる魔法カード、帝ステータス専用蘇生の魔法カード、特定の条件下でエクストラデッキからの召喚を封じるフィールド魔法だ。
他にも細々とした効果はあるが大よそそのような認識で構わない。
「ほーん、三積みはまだできてねぇ感じな……あるある」
「さ、どれか一枚を選びなさい。貴方が選んだカードをデッキからドローさせてもらうわ」
「ほいじゃ烈旋で」
バーンと指鉄砲で帝王の烈旋を打ち抜くとビジョンが砕け散る。
キングヘイローのデッキからカードが一枚だけ飛び出し、それを引き抜けば帝王の烈旋だ。
手札は潤沢。
一瞬だけ悩むそぶりを見せ、キングヘイローは裏守備表示で召喚した。
「ターンエンドよ」
ゴールドシップ LP4000
「……ま、この分じゃいいとこ
「?」
訝しむキングヘイローを他所にゴールドシップはこの時初めて己の手札を見た。
瞬間、顔が歪む。
舌も出して変顔をしているがどこか怒りの感情がこもっていた。
「
相変わらず枚数を数えているようだがそれが何を指し示しているのかキングヘイローには理解できない。
首をこてりと倒し、尻尾も興味深げに揺れている。
ゴールドシップが今使っているデッキは大変に特殊なデッキである。
どのようなデッキかというと、最初の手札で相手の力量を測れるというものだ。
格下相手にしか通用しないがゴールドシップはこのデッキのキーカードを何枚呼び込めるかで相手の実力が殆ど正確に分かるという。
キーカード以外も判断基準になるが、単純に言えばキーカードの枚数が多ければ多いほど実力差が開いているということだ。
枚数がそのまま実力差、つまりこの場合はゴールドシップが二枚上手ということである。
逆に言えば二枚ほどの差しかないということであり、対戦相手を過小評価していた己にドロップキックをしたい気分のゴルシちゃんだった。
「かーっ、無礼てかかって最後の最後で本気になっちゃった会長を笑えねぇぞこれ。
……ま、いいや。この感じだと上振れて二枚ってとこだよな。誤差誤差。
今から引けばノーカンノーカン」
本当に誤差かそれ?
ともあれ切り替えたゴールドシップは改めてドローフェイズに取り掛かる。
「あ、そうそう。聞き忘れたんだけどよ」
ドローフェイズに取り掛かれ。お願いだから。
「何かしら?」
「デュエル初めてどんくらいだ? 五年か六年ってとこだろ」
「いいえ? 半年くらいかしら」
デッキの上に置かれた指が動きを止める。
またしてもゴールドシップは読み違えたのだ。
それも今度は誤差で済まされる差ではない。
小さな子供のころからやっていたというのと、つい最近始めましたではその重みがまるで違ってくる。
半年。
たったそれだけの期間であと二枚のところまで詰められている。
その事実にゴールドシップはキレた。
「はぁ~~!? 一年未満のトーシローにゴルシ様が二枚差!?
ざっけんなよオラー!! 明日の朝刊乗ったぞテメー!!」
「な、何か気に障ること言ったかしら!?」
「アタシは自分に嫌気が差してんだー!
チッ、これ終わったらトレーナーとマグロ漁だな! マックイーンもつれて!」
なんやて!?
マグロ、ご期待ください。
というわけでホープフルSを目前にマグロ漁が決定した二人のご健勝を祈りつつゴールドシップはカードをようやく引いた。
「ドロー! アタシは手札から魔法カード、プレゼント交換を発動するぜ。
こいつがなくちゃパーティーは台無しだろ?」
「プレゼント交換?」
「お互いデッキからカードを一枚選び除外すんのさ。
そしてターンエンド時に除外したカードを
「……はぁ?」
素っ頓狂なカードもあったものだとぼやきながらキングヘイローは何を渡すか考える。
利敵行為にならないカードがいいがこれが中々難しい。
渡すにはもったいないが再臨の帝王をデッキから選び取った。
ゴールドシップの方はデッキをセットしたまま一枚だけを抜き取り、確認もせずに除外した。
それで大丈夫なのかと疑問に思うがゴルシのやることだし気にしてもしょうがないよ。
「そんで、悪いがこっからはリアルマジで行かせてもらうわ」
リアルガチの間違いでは?
「うるせぇ! アタシは手札から魔法カード、星の金貨を発動!
アタシの鬼引き見てやがれ!」
「マジって話だし、今度はちゃんとしたカードでしょうね?」
「聞いて驚け、アタシのカードを二枚渡すことでアタシは二枚ドローできんのさ」
「!?」
キングヘイローは聞いて驚かされた。
だってまたしても相手からカードが贈られるとは思っていなかったからだ。
投げ渡されたカードをキャッチして確認するとレベル1の通常モンスターが二枚。
ステータスを見てもただのゴミカードでしかない。
いかにも不要なカードを渡しましたと言った様子だ。
「まさか最初から押し付けるためだけにデッキに採用してるとか?」
「おう」
そんなはずないと思いつつも言った言葉を肯定されてしまい、キングヘイローは閉口した。
奇妙奇天烈なカードばかりデッキに採用しているようだが勝つつもりはあるのだろうか。
「そんでこいつがゴルシちゃんの鬼ドローちからよ! ドロー!」
引き入れたカードを見てニヤリと笑ってみせた。
渾身の引きを得たゴールドシップはカードを二枚伏せる。
「こいつらを伏せてアタシはターンエンド。
そしてお楽しみのプレゼント交換の時間だオラァ!」
宣言と共に巨大なプレゼントボックスが二人の前に二つ現れる。
華やかなファンファーレと共にリボンが解かれ、中から出てきたのはカードだ。
キングヘイロー側にあるのはやはりレベル1の通常モンスターである。
「……まったく、
疑問に思いつつぼやいた言葉に反応したのはデュエルを眺めていたジャックだ。
驚愕の表情をゴールドシップへと向けていた。
もし彼女がやろうとしていることがアレならば、伏せられたカードはおそらく―――
「この勝負、すでに終わっているのか」
「へぇ、何を伏せたのかわかんのか? やっぱアンタはつえーんだな」
「ちょ、ちょっと何よ! 今から私のターンなのよ! ちょっとは応援しなさい!」
「終わった勝負に興味はない」
「もー!!」
キングヘイロー LP4000
伏せカードがなんであろうと踏み倒すまで。
そう判断してドローしたキングヘイローに待ったをかけるのはゴールドシップだ。
「もーもードローに罠カードを発動すっぞ、天使の涙!
ついでに替え玉天使の涙! バリカタでよろしく店長!
さぁ、お楽しみはこれからだ!」
「今度は何?」
「自分の手札を相手に一枚渡してライフを2000回復させる!」
「つまりまた二枚こっちに来るのね」
「おう!」
またしても投げられたカードはレベル1の通常モンスターだ。
これで
じゃあもう一枚は頭かしら?
そう思って……追加のカードが飛んでこないことに疑問を抱いた。
「何して―――」
「次はちゃんとしたデュエル、しようぜ?」
顔をあげた瞬間、目の前にいたゴールドシップが耳元で囁いてきてキングヘイローの全身を撫でるような感覚が駆け抜けた。
反射的に振り払うと闊達に笑いながら離れていくゴールドシップの後ろ姿が見える。
「な、何だったのよ……」
誤魔化すように耳を撫でながら手札を確認すると新しい一枚が差し込まれていた。
それは今までと違ってレベル3の効果モンスターであった。
何気なくテキストに目を通す。
このカードと「封印されし者の右足」「封印されし者の左足」「封印されし者の右腕」「封印されし者の左腕」が手札に全て揃った時、デュエルに勝利する。
「……は?」
本日何度目かの“は?”が飛び出した。
何故ならばテキストを信じる限り、キングヘイローは勝利条件をそろえている。
どういうことかを聞こうとした瞬間、勝手にデュエルディスクが輝きを放つ。
召喚音が立て続けに鳴り響き、背後に鎖を付けられて封印されている巨人が姿を現したのだ。
空間と鎖を引きちぎり、その巨体の全てを晒す。
その威圧感はレッド・デーモンズ・ドラゴンを凌駕していた。
「こ、これがエクゾディア……?」
「そう、こいつこそが最強のモンスター、封印されしエクゾ―――」
セリフの途中で拳が叩きつけられ、ゴールドシップは爆発して吹っ飛んで行った。
ゴルシー!?
怒りの業火エクゾード・フレイムによりぶっ飛んだゴールドシップは倉庫の扉をぶち破り、ダイナミックお邪魔しますを慣行。
そのまま平均台の上を滑って跳び箱二十段を鎧袖一触にし、倉庫そのものを揺らした。
それっきり、周囲は静まり返ってしまう。
「………………な、なんだったのかしら」
相変わらず疑問に答えてくれる人はいない。
文字通りぶっ飛んだ奴だった。
しかしゴールドシップの弾丸訪問の音を聞きつけてやってきた男はいた。
唐突にいなくなったゴールドシップを探しにきていた遊星だ。
「ゴールドシップはここにいたか」
いた。いるではない。
放っておけばまた姿を消すだろう。
遊星は手を挙げて簡単に挨拶をすると倉庫へと歩き出した。
「待て遊星。あの女、ただ者ではないな」
「それはウマ娘としてか、それとも」
「デュエリストとしてだ、今しがたのデュエルでは実力の底がまるで見えん」
とてとてと寄ってきたキングヘイローから五枚のカードを受け取り、事情を察した遊星はしばらく考えるそぶりを見せた。
そして一つ頷くとこう表現した。
「俺の知る限り、トレセン最強のデュエリストだ」
「なに?」
飛び出してきた言葉は信じがたいセリフだった。
人口の多いこの学園で最強というのはただ事ではない。
特に超一流のウマ娘が勢ぞろいするこの学園ではデュエリストとしても一流というウマ娘も少なくないことが予想できる。
「俺も何度か負けかけている」
「貴様がか?」
「ああ」
スピカのサブトレーナーとして就いたのも最初の一戦でゴールドシップに目を付けられたというのが大きく影響している。
チームに参入してからは度々デュエルをする仲だ。
ちなみにデュエル中とその後のデッキ調整中は大人しくカードを触っているのでトレーナーからは大変感謝されているとか。
「キングヘイロー、彼女は何枚だと言っていた?」
「二枚がどうとか?」
「……そうか。それだと大会で立派な成績が残せる程度の腕前ということだ」
それがどれほど凄いことなのかはキングヘイローには分からない。
だが立派な成績と言われて悪い気はしない。
ふふんと鼻も高々である。
つまりそれほどの実力者から二枚上手とするゴールドシップの実力はプロ級ということだ。
遊星を倒しかけたという実績からも間違えた尺度ではないように思える。
プロ級のデュエリストが辻デュエルを仕掛けてくる魔境、それがトレセン学園である。
こ、こわい……。
「あのようなお遊びデッキを携帯しているような奴だ、まともなデュエリストではないと思っていたが」
「強すぎてまともにデュエルができないからあんなデッキを作ったと言っていた」
それでもあのデッキで実力差が開きすぎる相手だと初手で五枚揃えてしまってゲームにならないのだが、そうでなければ“いかに相手の手札で遊べるか”という別のゲームが始まるというわけだ。
まともな感性では扱いきれぬ、いいや組むことすらできないデッキである。
今回出番がなかったが本当はエクスチェンジも使い、3ターンほどかけてエクゾディアを完成させるという。
1ターンと少しで完結させたのは自分にキレた彼女なりの向き合い方だったのだろう。
「……なんにせよ迷惑な人ね、遊びたいのなら他の方法でもいいのに」
後になってこのセリフを聞きつけたゴールドシップと将棋をすることになり、連敗記録を刻むキングヘイローだったがチェスで一勝拾ったことで彼女から認められることになったという。
これはそんなお話。
「よう、サブトレじゃねーか! ちょっと(騎空士用の)船準備してくんね?」
「ああ」
……ゴールドシップは今日も元気にトレセン学園を謳歌していた。
ゴルシ主人公のデュエル物語書きたいなという妄想を背景にできたお話です。
ゴルシの言動トレスが難しすぎて諦めましたが。
ちなみに学園ではゴルシと同格の実力を持つナカヤマフェスタというウマ娘がいますが彼女も遊び用のデッキとガチデッキを使い分け、そのどちらでも遊星が勝利しています。
次回、『マグロ』ご期待ください
※ウソです