王者の鼓動、今ここに列を成す   作:小金さん

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ウ魔王様、暑すぎるのなんとかなりませんか?
ところでグラス、キミはヒーラーじゃなくてアタッカーの間違いじゃ――
【返事がない、ただのしかばねのようだ】
 


クラシック級/12月前半:サクラの軌跡

 

『強い! 強い! 強すぎる! キングヘイロー二着から三バ身突き放し今ゴール!

 下見ついでに杯を奪取! これが彼女の覇道かー!?』

 

 とまぁ、そんなわけで高松宮記念が行われる中京レース場を走る目的で参加したGⅢレース、朝日新聞杯を難なく制したキングヘイローは自分の部屋でその成果に戸惑っていた。

 GⅢ、重賞の中では最も格下とは言え、列記とした重賞の一つ。

 しかも相手の大半はシニア級であり、その試合をあまりにもあっさりと取ってしまった。

 ホテルを予約していないくらいあっさりと。

 

 今までの苦労は何だったのだろうか?

 そう思わずにはいられない。

 

 菊花賞以外の重賞をどれ一つ取れなかった彼女は今回のレースも良くて入賞どまりだろうと想定していた。

 短距離用に体を鍛えあげている最中でとても中距離用には仕上がっていない。

 目的はあくまで下見であり、シニア級の実力を測れれば重畳くらいに考えていたキングヘイローにとってこの成果は望外の代物である。

 

 だがジャックに言わせれば取れて当然とのことだった。

 それがまた彼女の困惑を加速させていた。

 部屋に戻り、今こうしてベッドの上でうんうん唸っているのもそのせいである。

 

 これまでキングヘイローが出場してきた重賞はどれもライバルたちの姿があった。

 今回はそれがない上にビッグネームもないから余裕だろうと言われていた。

 だが普通に考えればそんなはずはない。

 

 シニア級とクラシック級では試合の経験値がまるで違うのだ。

 身体能力も子供から大人になりかけのクラシック級とは違い、大人の骨格と全盛期の筋力を纏った選手ばかりである。

 栄えある中央レースに登録されている選手なのだから倒して当たり前の雑魚なんて存在はあり得ない。

 

 それなのにあっさり勝ててしまったのはどうしてか。

 しばらく頭を悩ませたキングヘイローはやがて考えるのを諦めて枕に顔をうずめた。

 

 今日のところは私が絶好調だった、ということにしましょう。

 

 相手は強い。

 その上で今日は私が上回っただけ。

 そう結論付けて携帯に手を伸ばす。

 だらしない姿、なんて思いながら動画を開いた。

 

 それはもう何度見たかもわからない動画だ。

 11月に行われた今年のJBCスプリント、ダートの1200メートルのGⅠレース。

 優勝したのはサクラバクシンオー。

 目標と宣言した高松宮記念でぶつかることが想定される強敵の一人だった。

 

 サクラバクシンオーはゲートを一番に飛び出してハナを取るとそのまま驀進。

 ダートを力強く蹴りながら前へ前へ。

 グングン伸びる。

 見ていてなんとも気持ちいい走りをするウマ娘だった。

 

 彼女の走りを眺めている間に勝負は残り200メートルのデッドヒート。

 追い縋る他のウマ娘たちに土をひっかけるような驀進はそのままゴールを果たす。

 二バ身差。

 終わってみれば誰一人影を踏ませない完璧な逃げきりを見せた。

 まるで誰にも先頭譲りたくない誰かさんのようである。

 

「はぁ……ちょっと早すぎじゃない?」

 

 誰に言うでもなくぼやいた言葉を耳で払って動画を閉じる。

 キングヘイローはあの逃げ足に追い縋り、最後の最後で差す筋力を身に付けなければならない。

 長距離コースであった菊花賞とは対照的なステータスが求められる。

 それでも不思議とできないとは思わなかった。

 

 そうよ、私は菊花賞を取ったキングよ! やれないことはないわ!

 

 だけどダートだけは勘弁な!

 彼女自身は気付いていないが菊花賞を、初めての重賞を取ったことでその才覚を開花させていた。

 たった一つの勝利が自信となり、またウイニングライブやハルウララの宣言を通じて母の言葉を乗り越えたことで迷いも振り切れた。

 その走りが朝日新聞杯での勝利であり、キングヘイローの今の実力なのである。

 

 一度の勝敗がウマ娘を変える。

 これは半ば常識のように語られる言葉であるが、いざ己が経験すると分からないものらしい。

 自覚もないまま彼女は強者の道へと乗り出していた。

 

「うっららー! ただいまー!」

「おかえりなさい、ウララさん」

 

 元気よくハルウララが扉を開けた瞬間、だらしなく寝そべっていたキングヘイローは一瞬で椅子に座り、優雅にティーカップを手にしていた。

 キングはだらしない姿を見せない。当然です。

 

 ちなみにハルウララはお風呂上りでほかほかの湯気をまだ身に纏っていた。

 髪の毛は湿っていないようだがボサボサのままである。

 これで寮の中を歩いて来たのかと思うと頭を抱えたくなるキングヘイローだった。

 

「んもう、仕方のない子ね」

 

 隣にあるハルウララの勉強机から椅子を引っ張り出し、パシパシと叩く。

 手にはティーカップではなく半月型のつげ櫛があった。

 それで理解したハルウララは勢いよく座り込んでキングヘイローに背を向けた。

 

「おねがいしまーす!」

「はい。お客様、かゆいところはないですか?」

「お耳のところがかゆいかも?」

 

 そう言って甘えてくる彼女と一緒に時を過ごしているうちにサクラバクシンオーのことはすっかり忘れていた。

 ただただ、毎日努力を重ねるルームメイトを労ってやりたいと、その思いで手を動かした。

 

「あ! キングちゃん勝ったんだよね! おめでとー!」

「それは夕食の時に聞いたわ。でもありがとう」

 

 夜はそうして更けていった。

 

 

 

 

 

    _____ヘイロー―――――

 

 

 

 

 

 一度の勝敗がウマ娘を変える。

 それを体験しているのは何もキングヘイローだけではない。

 ここにも一人、それを経験し、しかし昔から変わらず驀進を続けるウマ娘がいる。

 そう、サクラバクシンオーその人である。

 

 今から二年前。

 彼女はとある少女と二人きりで模擬レースを行った。

 理事長からの要請ということで二つ返事で受けたサクラバクシンオーは幼いと表現してもいい少女と走り、勝利した。

 

 勝って当たり前である。

 相手は子供のサクラバクシンオーから見ても子供であり、手足の短さとその筋力差はいかんともし難かった。

 それに当時クラシック級でスプリント負けなしの若き女王であるサクラバクシンオーと、よりにもよってスプリント勝負を行ったのである。

 猿も木から落ちるというが、落ちたところで負けないくらいに実力差があった。

 

 だがそれでもその一戦がサクラバクシンオーを変えたのである。

 

 戦った後、サクラバクシンオーは折角の一騎打ちだったので挨拶をしようといつもの笑顔で振り返った。

 振り返って、固まった。

 経験からして、こういう時に相手は泣いているか悔しそうにしているか、あるいは実力差を痛感して呆然としているかだった。

 だがこの少女は違った。

 

「もう一度お願いします」

 

 ギラついた目で、次は勝つと言外に言っていた。

 息も絶え絶えで肩で呼吸をしているような状態。

 どう見ても全力を出し切った後の体で、それでも次は勝つと。

 

 サクラバクシンオーも呼吸は乱れていたがまだまだ走れそうだ。

 全力を出したわけではないので当然だが、流していたわけでもない。

 先の試合はレースとして成立していた。

 だからこそ驚かされる。

 

 相手はまだ小学生の中頃で、果たして自分が同じ年頃の時に同じことができただろうかと自問する。

 答えは明白だった。

 無理だ。

 トゥインクルシリーズで走るウマ娘たちは全てがサクラバクシンオーにとって憧れの存在であり、その年頃では手の届かない存在だった。

 それとレースをすることなどできるはずもないし、できたところでレースとして成立するかどうか。

 その上で、惨敗した直後に次は勝つなど……とてもではないが言えなかった。

 

 この時、サクラバクシンオーは初めてスプリントで負けた。

 

 結局笑止ッ! 勝負は一度きりであるからこそ身魂を投げ打って行うものである!と一喝されてお流れになった。

 それでもサクラバクシンオーは負けたのである。

 

 それから彼女の不調は続いた。

 年を越しても持ち直すことができず、トレーナーは大変な苦労をすることになる。

 幸いと言っていいのか、サクラバクシンオーが狙うようなレースは当分なく、休息の日々が続いた。

 

 そうして時は流れ、学級委員長として新学期に胸を高鳴らせていたころ、彼女との再会を果たす。

 小学生だったはずの彼女はトレセン学園の制服に身を包み、笑顔でこう言ったのだ。

 

「次は負けませんから」

 

 挨拶なども交わしたはずだ、名前もその時に初めて聞いた。

 それだというのに、覚えているのはその言葉だけである。

 あと覚えていることと言えば、気が付けば()()()()()()()()()ことくらいだろう。

 

 それを機にサクラバクシンオーの調子は徐々に上がっていき、京王杯スプリングカップにて優勝。

 調子を完全に取り戻したスプリント女王はトレーナーにこう宣言した。

 

「では次のレースはプロキオンSと参りましょうか!」

 

 トレーナーは困惑した。

 無理もない、プロキオンSとはGⅢの短距離()()()()()()なのだから。

 ダートなどろくに適性がないことは分かり切っていたはずだ。

 それでもやると断言する彼女を説得するために一度ダートを走らせてみれば、これがまた強かった。

 結果を出されてしまえば否とも言えず、結局そのままサクラバクシンオーはプロキオンSを制してしまう。

 いや、それどころか半年後のGⅠダートレースであるJBCスプリントさえも制してしまった。

 

 彼女は芝とダート、双方において、完全な意味での“スプリントの覇者”になったのだ。

 

 そのきっかけは小学生とのレースで負けたことだった、など誰が信じられるだろうか。

 ましてやスプリントの覇者であるサクラバクシンオーを下すのがその小学生だった少女などと、いくらなんでも出来すぎていて、まるで漫画の世界の出来事のようである。

 それでもそれは事実なのだ。

 サクラバクシンオーにとって揺るぎのない真実なのである。

 

 そして此度もまた彼女の前に立ちはだかろうとする存在がいる。

 キングヘイロー。

 同じ王の名を持つウマ娘であり、サクラバクシンオーと同じ志を持つライバルである。

 即ち全距離制覇。

 

 無敗という訳にはいかなかったが、未だにスプリントの王冠はサクラバクシンオーの頭上で輝いている。

 これを譲るわけにはいかない。

 まだマイルですら勝ち越せていないというのに、唯一手にした短距離でさえ奪われるわけにはいかないのだ。

 もう志で負けるのは嫌だ。

 だからこそ思う。

 

 勝つのはこのサクラバクシンオーです! あなたに勝って私こそが全距離制覇と参りましょう!

 

 だから来いとJBCスプリントの記者会見で宣言した。

 学級委員長として受けて立ちましょう!と。

 バクシンの道は譲らない。

 ライバルである少女と共に薙ぎ払ってみせると豪語した。

 

「スプリントの花冠は、ここにありますとも……!」

 

 彼女の名はサクラバクシンオー。

 燦然と輝くスプリントの覇者である。

 

 




この小学生やばい奴ですね。
ニシノフラワーっていうんですけど……え? ウンスのベッドでゴロゴロしてた? 人違いじゃないですかね。

というわけで内容薄めですがライバル紹介回でした。
バクシンオーやべー奴だわって少しでも感じてもらえればと思います。

別件ですがよしのんをどうにか出せたと思ったところに凛ちゃんとちとちとで死にそうです。助けて。


次回、『キング×グラス! そういうのもあるのか!』にアクセラレーションッ!
 
 
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