王者の鼓動、今ここに列を成す   作:小金さん

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実はつい最近になってキングの取り巻きウマ娘が二人だと知りました。
今更ですがこの作品では三名の取り巻きがいて、口調もまるで違うのでよく似た別人だと思ってください。
書きたいシーンは決まっていたのですが語彙力が足りずに苦労したので短めですが投稿です。
 
 


クラシック級/12月後半:12月25日

 

「キングー! 予約してたケーキ、受け取ってきたよー!」

「キングちゃん! フライドチキンのクリスマスセットその他諸々買ってきましたー!」

「頼んだぞ。王。」

「???」

 

 キングヘイローのトレーナー室はクリスマスカラーに彩られていた。

 彼女の取り巻きが着々と準備を進めており、テーブルにはクロスが敷かれ、その上にはジュースとコップの数々が並ぶ。

 そこに大きなクリスマスケーキとフライドチキンの箱が追加され、準備は万端と言ったところだ。

 若干一名、取り巻きメンバー鉄板の持ちネタがカワカミプリンセスに理解されなかったという悲しい事件があったが全て世は事もなし。

 平和な光景がそこに広がっていた。

 

「ウララ先輩が参加できなかったのは残念ですけどね」

「こればかりはしょうがないわ」

 

 そう、ここにハルウララはの姿はない。

 どうやらライスシャワーと商店街でお手伝いの約束が入っていたようだ。

 商店街もクリスマス商戦の真っ只中で人出はいくらあっても困らないだろう。

 そして夕方の書き入れ時が終わった後は商店街のみんなでパーティーと洒落込むはずだ。

 それを邪魔するわけにはいかない。

 

 お昼過ぎに顔を覗いてきたが二人とも楽しそうにしていた。

 あれはあれで幸せなクリスマスの過ごし方なのだろうとキングヘイローも思わされたほどだ。

 

「ウララさんが羨ましがるような素敵なパーティーにしましょ」

「はい!」

 

 ちなみにジャックの姿もないが今日はクリスマスということで丸一日お休みをもらっているためである。

 冬休みに入り、授業もないので朝から買い物に出かけたりとはしゃぎ回っているが、まだまだはしゃぎ足りない彼女たちはコップに並々とジュースを注いで並び立った。

 

「メリークリスマース!」

 

 キングヘイローの音頭に皆が続き、乾杯の音が部屋に響き渡る。

 今日は楽しいクリスマス。

 お祭りのような一日はまだまだ終わらない。

 

「んー、食べるの勿体ない」

「ケーキに乗ってるサンタさんを食べるタイミング困らない?」

「分かる」

 

 カロリー爆弾のクリスマスケーキを前にはしゃぐ者がいれば、

 

「小骨に気を付けてくださいね?」

「はいですわ! ()()ゥッ!!」

「いやその、大きな骨なら気にしなくていいとかそういうことではなく……」

()()ーッ! ですわ!」

 

 フライドチキンを骨ごと噛み砕くほどの女子力を見せつける者もいる。

 

 各々が舌鼓を打つのを眺めながらキングヘイローはジンジャーエールを背の高いグラスの中で回した。

 背にした窓の奥をちらりと覗けばトレーニングに精を出す者もちらほらと伺える。

 

 さすがにこんな日までトレーニングに打ち込んでいるのはレースが近い者くらいだ。

 主には三つの重賞がそれに当たるだろう。

 つまり、ホープフルSと東京大賞典、そして有マ記念。

 

 ここからでは見当たらないがグラスワンダーやエルコンドルパサーもきっと最後の追い込みの最中だろう。

 いや、あえて今日は休養日にしてくる可能性も充分にあり得る。

 

 もしそうだとしたら声をかけるべきだったかしら。

 

 ぼんやりと考えて、首を振る。

 余計はお節介はあれでお終いだ。

 後はもうエルコンドルパサーに任せると決めたはず。

 

 雪の降る空を見上げ続けていたグラスワンダーの姿がどうにも脳にこびりついてしまっているのが良くないのだ。

 早く有マ記念が始まって欲しいような、まだ始まって欲しくないような何とも言えない気分である。

 

「ほらほら、キングさんもお食べなさいな!」

「骨! 骨には気を付けてくださいね!」

「あら、ありがとう」

 

 ずずいと差しがされたのは紙皿に乗せられたフライドチキンだ。

 紙ナプキンを手に取ってそれを笑顔で受け取り、食べる。

 小さく口を開けてパクリと一口。

 チキンを引いて肉を割くようにして骨から外し、食べていく。

 

 手づかみで食らいつくワイルドな光景のはずなのにどこか上品で、かつとても美味しそうに食べるキングヘイロー。

 唇についた脂を舐めとるように赤い舌がチロリと姿を現す。

 見ていた二人がごくりと生唾を飲み込んだ。

 

「ん、美味しいわね、これ」

「……そ、そうですよね!」

「チェ、チェーン店でこの味が出せるというのだから凄い世の中ですわね! オホホホッ」

 

 取り繕った返事をした二人はその後すぐに背を向けて顔を突き合わせ、小声で会話する。

 

「な、なんだかセンシティブでしたね……」

「キングさんはどうしてあんなにセクシーに食べられるのかしら?」

 

 カワカミプリンセスがワイルドすぎるだけだと思います。

 ともあれそんな二人を不思議そうに見つめるしかないキングヘイローは、仕方なしに皿に乗っているフライドチキンの二本目に手をかけた。

 

 そうこうしている内にケーキの前で陣取っていた二人が切り分けを完了したらしく、ついでに写真も取り終えて満足したらしい。

 取り分けた皿の前に皆を呼び集めていた。

 

「どれがいいー?」

「当然一番食べ応えがありそうなのですわ!」

「食べ応えで言うとこれかな?」

「サンタさんは頭からバリバリ行くと食べ応えありまs―――骨よりはヤワだと思いますハイ」

 

 すっかり取り巻きメンバーに馴染んでしまったカワカミプリンセスはみんなに愛されているらしく、なんだかんだで一番大きなブッシュ・ド・ノエルを渡されていた。

 それを微笑ましく見送ってからキングヘイローは一歩前に出る。

 自然と取り巻きメンバーたちは一歩引いて小さく頭を下げた。

 

「おーっほっほっほ! 貴方たちにはこのキングのケーキを選ぶ権利をあげるわ!」

 

 要約すると“好きなの選んでいいよ”ということなのだが彼女たちは迷うことなく奥に隠してあった皿を差し出した。

 乗っているのは王冠―――もといワンカップの黄色いスポンジケーキである。

 切り分けられたスポンジケーキが王冠の形に組み上げられており、間に挟まっているクリームやフルーツはまるで宝石のようであった。

 学生のクリスマスには似つかわない落ち着いた味わいを楽しめることだろう。

 だがシンプルなのは味だけで見た目は王冠を模しており、そのインパクトは充分だ。

 

「これは……」

 

 最近商店街で流行っているというトレセン学園の生徒に向けた一品であることを彼女は知っている。

 レースで頂点を取った者への祝福の品として売り出された、小さくも珠玉の逸品である。

 もちろん祝いの品なので手間暇をかけられた一流のケーキであるのも間違いない。

 このケーキが生み出された経緯にはハルウララとナイスネイチャが関わっているのだがそれはまた別のお話。

 

「人気の品のため入手が遅れてしまってすみません」

「でも、ちゃーんと年内には間に合ったし!」

「菊花賞の祝勝会には生憎と参加できませんでしたから、わたくしとしてはナイスタイミングでしたわ!」

「キングちゃん。改めてクラシックの王座、おめでとうございます」

 

 おめでとうございます、と言葉が続いてキングヘイローの瞳が潤んだ。

 

「貴方たち……」

「さ、さ、キング! これ持って写真撮りましょ!」

「クラウンは王の手にあってこそですわね」

「こちらの椅子にどうぞ」

「自撮り棒をここに! リュミノジテ・エテルネッル!」

 

 幸いに囲われ、キングヘイローは破顔した。

 その美しさに皆は一瞬だけ押し黙り、全員がそのまま抱き着きにかかった。

 いつかの夏のようにきゃいきゃいとはしゃいで、もみくちゃになって。

 見事な出来の王冠は崩れてしまったけれどそれも愛おしくて。

 

「もー! 貴方たち落ち着きなさい!」

 

 聖なる一日はまだ、終わらない。

 

 

 

 

 

    _____ヘイロー―――――

 

 

 

 

 

「そういえば」

 

 そこはいつものカフェテリアのいつもの席。

 小説を読み終えて、その読後感を冷めてしまったコーヒーと味わいながらマンハッタンカフェは呟いた。

 

「今日ってクリスマスでしたね」

 

 静かにだが店内にはずっとクリスマスソングが流れているので何とも今更なセリフだ。

 心なしかカフェテリアの雰囲気も甘い。

 よくよく見てみればカップルもいつも以上に多いようだった。

 これにはさすがのジャックも呆れた表情である。

 

「その若さで世捨て人はどうかと思うぞ」

「そうですか?」

 

 友人が少なく、騒がしい雰囲気が苦手な彼女はこういったイベント事には疎い。

 気が付けば終わっている、というのが殆どだ。

 特にクリスマスなど、数日前……下手したら数週間前から街がそれ一色に染まっていたりする。

 クリスマスが終わって、それらが取り払われてから終わったことに気付くのがマンハッタンカフェにとって当たり前なのである。

 よって当日に気付けたのは割と異例のことだ。

 

「でもまぁ、私には関係ないことですから」

「そう無下にすることもあるまい。

 そのイベントでしか味わえない感動というものもある」

「感動、ですか」

 

 やはりどうにも縁遠い物に思えてしまう。

 だがジャックに言わせればレースに出るウマ娘こそこういったイベント事は大事にすべきである。

 感受性を高めることは即ち限界を高める行為に他ならないからだ。

 

 マンハッタンカフェの感受性は決して低くない。

 むしろ高い方だ。

 尖っていると表現してもいいだろう。

 “あの子”の背を追い続けたマンハッタンカフェの見る世界は常人とは大きく異なっている。

 だがそれは可能性でもあるのだ。

 

「そうだな、まずは味覚で味わってみるといい」

 

 店員を呼び止め、手短に注文する。

 しばらくして店員が持ってきたのはブッシュ・ド・ノエルとおかわりのコーヒーだった。

 

「……ケーキ?」

「季節感やシチュエーションというのは大事なものだ。

 クリスマスに友とケーキを食らう。

 それは何気ない日常の中のアクセント、と言えるだろう」

「ですが、この程度で感動など」

「いいから食え」

 

 “強引なんですから”と言いつつもフォークを手に取る。

 マンハッタンカフェとてケーキが嫌いなわけではないのだ。

 甘すぎるのは好きじゃないが、この店の味ならば期待が勝る。

 

 そして一口食べて、その美味しさに頷いた。

 チョコの風味の中にふんわりと香るコーヒーの風味。

 ほんの少しの酸味を感じるのは使われている豆がモカであることを思わせる。

 豊かな香りと酸味がモカの特徴なのだ。

 おそらくチョコの香りに負けないためにモカがチョイスされているのだろう。

 

 チョコとエスプレッソを掛け合わせたカフェモカとはまた違った味わい。

 コーヒーは脇役。

 あくまでスポンジ生地とクリームが主役のケーキと言うのがまたいい。

 これはお菓子屋さんでは出せない、カフェテリアだからこそ出せる、そんな特別なケーキ。

 

「美味しいです」

「そうか」

「……でもクリスマスとどんな関係が?」

「分からんのか、クリスマス期間の限定品だぞ」

「なんと……!」

 

 できれば何かにつけて食べたい味だったので驚かされた。

 日本人特攻とも言われる期間限定商品。

 その破壊力を文字通り味わされたマンハッタンカフェであった。

 

「美味しいと感じることも一つの感動だ」

 

 そしてクリスマスを感じ取るたびに微かでもこの味を思い出すことだろう。

 シチュエーションが大事というのはそういうことだ。

 

「特別な日に特別なモノを食べて、特別な時間を友と共有する。

 さぁ、これでもう貴様に関係ないこととは言わせんぞ」

「むぅ……」

 

 否定できずに唸るしかない。

 結局避けてきただけなのだと教えられる。

 

 複雑な気持ちでパクつくマンハッタンカフェとそれを無視してたった二口でケーキを食べ終えるジャック。

 そんな二人を店員が微笑ましく見守っていた。

 ウマ娘たちのつかの間の休日はそうやって過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

    _____ヘイロー―――――

 

 

 

 

 

「あら?」

 

 さすがに遊び疲れが見え始め、それでもまだトランプで遊んでいるメンバーを眺めていた時のことだ。

 キングヘイローは仕舞っていたはずの己のデッキがテーブルにあるのを見つけた。

 

「誰か出したのかしら」

 

 誰に言うのでもなくぼやいてそれを手に取る。

 ざらざらと中を見ていて見慣れぬカードがあることに気付いた。

 ちなみにカードは減っていない。

 ただこの一枚だけが増えていた。

 

「……()()うらら?」

 

 




ちなみに黄金世代のクリスマスの過ごし方は以下の通り

スペチャーン:帰郷して親孝行。また、自分がいない内にスズカさんとサブトレが急接近してないか気に病んでる
グラス:休まずに有マ記念に向けて追い込み中
エル:同上デース
ウンス:フラワーと朝から晩まで健全デート

うーん、青春してますねー
 
 
次回、『年末最後の大一番』にアクセラレーション!!
 
 
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