王者の鼓動、今ここに列を成す   作:小金さん

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来週のアプデでロブロイちゃん来るみたいですね。
汚いなさすがサイゲきたない
年末年始を前にこれはあまりにもひきょう過ぎるでしょう?
あ、投稿です。
 
 


シニア級/4月前半:三女神の手招き

 

「何度見てもやっぱカッケぇ! ジャックのデュエルがまた見られるのが楽しみだぜ!」

 

 チーム部屋で独り楽し気にしているのはウオッカだ。

 昨日行われた桜花賞でダイワスカーレットと共に激闘を果たし、世間を騒がせた少女も練習の合間では動画を見て騒ぐただの学生だ。

 生憎の敗退となったが順位は二位と大健闘し、広く世間に存在感を知らしめた。

 一位を奪ったダイワスカーレットは呆れた顔でウオッカを見下ろし、スポーツ飲料を飲んでいる。

 

 本日はレースの疲れを抜くために軽く体を動かしてお終いだ。

 週末に本番(皐月賞)を迎えるトウカイテイオーは今頃追い込みと称して汗を流しているところだろう。

 だというのにウオッカは着替えもそこそこに携帯の画面に夢中だった。

 

 こんなんでも強いってんだからまったくもー!って感じよね。

 

 努力しているのは知っているが、自分ほどストイックではない。

 それをよく知っているダイワスカーレットはウオッカのことが嫌いで仕方なかった。

 

 バカで雑でアホで何かとアタシに突っかかってきて、でもここぞという時の集中力はすごくて……。

 

 ダイワスカーレットが自分とウオッカとの努力量の差に嫌気が差したのも一度や二度ではない。

 僅か一年という付き合いだが数えきれないほど自己嫌悪してきた。

 ウオッカが凄いことを誰よりも知っているから。

 だからこそウオッカには負けたくないと努力も重ねてきた。

 それが桜花賞での勝敗を分けたと彼女は考えている。

 

 今後も競うことは数多くあるだろうが負けるつもりはない。

 そう改めて思った桜花賞。

 

 その直後にこれである。

 ウオッカはダイワスカーレットの覚悟とは裏腹にデュエルのことで頭がいっぱいなのだ。

 一言いってしまいたくなるのも無理はなかった。

 

「アンタね、さっさと着替えなさいよ」

「へーへー、わーったよ……ったく、母ちゃんじゃあるめぇし」

「何よ!」

「なんでもねーよ」

 

 ぶつくさ言いながらも着替え始めるウオッカ。

 側に置いたウマホは画面が付きっぱなしで、止められた動画が目に入った。

 それは少し前にジャック・アトラスがライブ動画でプロ復帰を宣言したものだ。

 桜花賞が終わるまでは見るの我慢すると言っていたので同室のダイワスカーレットも見るのは控えていたがニュースになっていたので大まかな内容は知っている。

 

 高松宮記念が終わった直後にジャックがプロ復帰を宣言し、プロデュエリストたちに宣戦布告したこと。

 あとは貴重なキングヘイローの素顔が垣間見られた映像といった内容だった。

 

「ねぇ、これ頭から再生していい?」

「お? いいぜ」

 

 許可も出たので携帯を手に取り、最初から再生する。

 きりっとした顔でプロ復帰を宣言。

 元ファンとしては嬉しい話だが()()から遠のいた今の彼にダイワスカーレットはときめけない。

 

 どのような路線でプロ復帰するのかを公言しようとしたところで勝負服のキングヘイローが扉から入って来る。

 そこでダイワスカーレットは気付いたが撮影しているのは選手の控室だ。

 キングヘイローが泥だらけで濡れた姿のまま入って来たのを見るに、本当に高松宮記念が終わった直後なのだろう。

 肩を怒らせながら“表彰台に来ない専属トレーナーなんて聞いたことないわよ!”と怒っているのも当然というかなんというか。

 

『それで、サクラバクシンオーは強かったか』

『強いなんてもんじゃなかったわ、スマートに一人で勝つのはすぐ諦めたもの』

『だからニシノフラワーを誘ったか』

『乗ってくれなかったら負けてたわね』

 

 やっぱりあの二人の追い上げは事前に話を通してたわけじゃなかったのね。

 

 意外なところで拾えた情報に頷きつつダイワスカーレットは画面に寄った。

 正直今はデュエル云々よりもレースの方に意識が行ってしまう。

 もっとこの二人の話を聞いてみたかった。

 

 話はトントンと進んで短距離の今後について語り合っている。

 無駄もなく要点だけ話してる様は普段してるケンカ姿を知らなければ秀才コンビという印象が強い。

 

『サクラバクシンオーを倒す手段を実例として得たことが大きいだろうな』

『そうね、そこはすごく感謝されたわ、こんな勝ち方があるんだって』

『なまじニシノフラワーが単独で勝利したせいで独力で勝つイメージが先行しすぎ、短距離界隈は高速化が進んでいた。

 そこに貴様は一石を投じたわけだ』

『さすがのサクラバクシンオー先輩も1対17で潰せるのなら、今後は駆け引きが重要になって来る……』

『これからのスプリント界隈は荒れるだろう』

 

 サクラバクシンオー先輩が強すぎたせいである意味レースが単調になっていた。

 そこを突いた作戦だった、ということか。

 ほうほう、とダイワスカーレットは頷き、鱗が目から零れ落ちるような感覚を覚えた。

 

 すごい、レースにはまだこんな斬り込み方もあるんだ……。

 

 己を鍛えるだけではない。

 こういう戦い方もある。

 努力を重ねるのが趣味と言っても過言ではないダイワスカーレットは新しい研究の着目点を知り、尻尾をぶんぶんと揺らした。

 

「そこから先はキング先輩が可愛いだけだぜ」

「可愛いだけ?」

 

 着替え終わったウオッカが顔を突き合わせるように画面を覗き込んできていた。

 耳が触れ合うような距離。

 だが二人にとってはどうってことない距離でもある。

 

「動画取ってるって気付いて照れだすんだ」

 

 ウオッカの説明通りの事態が起きた。

 携帯のカメラが自分たちに向けられているのを知った彼女が己の姿を恥ずかしがり、急いで携帯を取り上げる。

 画面が揺れて、ジャックの足元が映る。

 どうやら画面を見てこれがライブ映像だと気付いたのだろう、絶句している様子が伝わってくる。

 それからお説教が始まり、不意にライブ映像が途切れた。

 

「……なんていうか、最後はいつもの二人だったわね」

 

 よく見ていた二人の光景が目に浮かび、何故か安堵しているダイワスカーレットがいた。

 ジャックにお説教するキングヘイローの姿はトレセン学園にいれば誰しも一度は見たことのある光景だろう。

 その印象が強かったが、思い返してみればキングヘイローのお説教はいつも生活のあれこれに関連したものだった。

 レースに関したお説教は一つもない。

 先ほどの会話からもトレーナーとしては優秀なのが伝わってくる。

 

 だというのにプロ復帰を目指すのはどうしてだろう。

 ダイワスカーレットの感想はそこに終着した。

 

 高松宮記念を勝利した以上、キングヘイローは間違いなく歴史に名を遺すウマ娘だ。

 そのトレーナーであるということは、ある意味でトレーナーとして最上級の栄誉を得たといっても良い。

 それを投げ捨ててまでデュエリストとしてプロになる理由。

 いや、それさえも彼は過去に得ていた。

 

 トレーナーとして、デュエリストとして。

 どちらも超一流であると証明した彼がもう一度デュエリストとしてトップを目指す理由とは何だろうか。

 

 キングヘイロー先輩を()()にするのではなく、あくまで自分が()()になりたい?

 

 そこまで考えて、あまりに自分に寄りすぎた考え方だなと苦笑した。

 これ以上は考えても分からないと結論を出し、ウオッカに携帯を突き返す。

 

「ありがと、それじゃ部屋に戻るわよ」

「へーへー」

「はいは一回!」

「はいよ、帰りに購買寄ってこうぜ」

「しょうがないわね」

 

 手早く荷物をまとめ、二人並んで歩き出す。

 桜花賞という一生で一度しか経験できない勝負の場でバチバチにやり合った後でも変わらぬいつもの光景がそこにあった。

 

 

 

 

 

    _____ヘイロー―――――

 

 

 

 

 

 新入生たちが未だ慣れぬ学園生活に振り回されている春先の季節、時刻は夕方。

 夕暮れが春の温かさを引き連れて、夜の涼しさを呼び込む頃合い。

 キングヘイローは三女神像の前にいた。

 

「あら、どうして私はこんなところに……」

 

 当人も気づかぬ内にここまで来てしまった様子で少々戸惑っていたが、三女神の像を見上げてる間に落ち着いたようだ。

 尻尾をゆらゆら風に流しながら三女神の顔を眺める。

 思えばこうやってじっくりと観察したことはなかった。

 三体の顔を見るためにぐるりと噴水を回る。

 

「お三方とも方向性の異なる美女揃いね、いろんなコーデが似合いそうだわ」

 

 血筋を感じさせる独り言を呟き、ふと足を止めた。

 それからぼけーっと突っ立ってしまう。

 

「貴様、唐突にいなくなったと思ったらこんなところで何を―――」

 

 遠くからそれを見ていたジャックは何をしているんだと呆れ、一歩踏み出したところで違和感に気付いた。

 三女神の方向から異様な雰囲気を感じ取ったのだ。

 思わず右腕をさするジャック。

 

「……」

 

 かつてはそこに赤き竜の痣があったが、今はそれもない。

 だがそれをさすった無意識の行動が己の防衛本能であったことを悟るには充分だった。

 

「ただの像ではないのか?」

 

 訝しみ、これ以上踏み込むことができなくなったジャックはデッキを握りしめ、覚悟を決めようとした。

 歩き出す直前に声を投げかけられる。

 

「ストップ、そこまで」

「貴様は……」

 

 言葉を投げ込んだのはニシノフラワーのトレーナーである。

 名前を思い出すことはできなかったが顔見知りの登場にほんの少し緊張感が失せる。

 タイミングを逃したとも言う。

 

「貴様はあれが何か分かっているのか」

「分かってるかと聞かれると困るけど、どうなるかは知ってる」

「言ってみろ」

「なんでそんなに偉そうなの、一応同期じゃん」

「知ったことか、今重要なのはそこではない」

「そーですね」

 

 あくまで俺様のまま話を進めるジャックに、仲良くなろうとするのは諦めたのかトレーナーは通路脇の石段に座り込む。

 植え込みなどもあるがそこはキングヘイローの様子をギリギリ伺える位置だ。

 

「結論から言うと、強くなる」

「あれでか?」

 

 惚けた様子で三女神を見上げているだけにしか見えない。

 あれでどう強くなるというのか。

 そもそもキングヘイローは高松宮記念で格上のサクラバクシンオーと同格のニシノフラワーを倒し、一段と実力をつけている。

 彼女らを打倒したという自信がウマソウルにいい影響を及ぼしているのだ。

 ジャックはこれ以上の急激なパワーアップは安田記念を勝たずにはあり得ないと考えている。

 それが覆るというのだろうか。

 

「この時期の夕暮れにここへ独りやってくる子はみんなああなる。

 そして気が付けば強くなっている、これが結論だ」

「何故それを知っている」

「去年もこうしてここで見てたから」

 

 疑いたくなるような言葉だが否定することもできない。

 深堀りするしかないと考え、ジャックは先を促した。

 

「去年はウチのシノさん―――ニシノフラワーとスペシャルウィーク、あとサイレンススズカとタイキシャトルも来てたかな?

 俺が見た限りじゃその程度だけど、どいつも一流選手だ。それが強くなるってんだから困ったもんだよ」

 

 いやシノさん来ちゃったから文句言えないんだけどさ。

 なんてぼやいて、三女神を遠い目で見つめている。

 

「とにかく悪いもんじゃないよ。少なくともここに通ってるようなウマ娘にとっては」

「始まりのウマ娘、だったか」

「守護神様が力を分け与えてくれると思っとけばいいんじゃないの」

「……」

 

 思案するような顔を見せるジャック。

 それを意外なモノを見るような眼で見上げてくるのがニシノフラワーのトレーナーだった。

 

「あんた、こういうオカルトを信じるタイプにゃ見えなかったけどな」

「俺は死者とデュエルをしたこともある、女神に唆されてパワーアップなどむしろメジャーだろう」

「そっすか……」

 

 何言ってんだコイツという表情を隠そうともしなかったが、三女神のせいで人生の迷子になったこともあるこの男としては反応に困る言葉であった。

 やはり元トッププロともなるとそういう経験もしているのだろうか。

 一般庶民でしかない彼には冗談なのかさえ判断がつかない。

 

「それで、貴様はここで何をしている」

「敵情視察……ってだけでもない」

 

 言ってみたが納得の色を見せなかったジャックの無言の圧力に負けて言葉を続ける。

 

「俺には幼馴染のウマ娘がいてさ、中央の選手になったはいいけど、故障したらしいんだよね。

 選手生命を断たれるどころか命にかかわるような怪我しちゃってて。

 なのにウマソウルが悪い方向に作用しててさ、故障を隠して出場しちゃって、しかも勝っちゃうんだよ。

 まぁ、それに気付けなかった周りが悪いって話なんだけど、それは置いといて。

 とにかくこのままじゃまずいと気付いた俺は三女神に頼み込んだわけ。

 何とかしてくれって」

 

 唐突に始まる追想はどこか要領を得なかったが話の流れは理解できる。

 つまり彼は過去に三女神の奇跡を体験しているということだろう。

 だがそこで話は想像の斜め上を走り出した。

 

「気が付けば幼馴染はウマ娘じゃなくなってた。

 周囲もそれを当たり前みたいに受け入れてて、生まれた時からヒトでしたって扱いだった。

 記録は変わってないけれど、記憶はすっかり差し代わってて。

 でも当人と俺だけは覚えてた」

「何故三女神はヒトにした、回りくどかろうに」

「故障を治してもまた故障したら同じことを繰り返すって判断じゃない?

 それに感情を力にするっていうウマ娘特有の不思議パワーであいつは故障の不利を覆してた。

 ウマ娘じゃなくなればそんな無理も通らなくなるってことだったんだと思う。

 実際ヒトになってすぐぶっ倒れたし、そのまま手術コースだった」

 

 どれほど重い故障だったのだろうか。

 それを覆すほどの想いとはどれほどのモノだったのだろうか。

 察することはさしものジャックでさえ敵わないことである。

 

「とにかく、ここで肝心なのは俺と当人だけは覚えてたってこと」

「……つまり、ここで何か不可思議なことが起きた場合に備えていたということか」

 

 そこまで事情を語られれば納得する他ない。

 例えこれが作り話だったとしても三女神による手招きは目の前で起こっている事実だ。

 フォローしようという人物がいることは決して間違いではないだろう。

 

「何故他者の協力を得ようとはせんのだ」

「いやいや、こんなこといきなり言われて納得する方が珍しいでしょ」

「そうか? いや、そうかもしれんな」

 

 自分の人生が一般的でないことを承知しているジャックは頷く他ない。

 ともあれ害しようとしていないのであれば干渉も不要だとジャックは歩き始めた。

 丁度そこでキングヘイローが正気を取り戻し、混乱したように周囲を見回している。

 

 何を幻視したかは分からない。

 しかし今必要なのは彼女が何を見たかではない。

 どれほどの力を授かったのか、だ。

 

「キングヘイロー、鍛錬は終了と言ったが続行だ。併走するぞ」

「え、トレーナー? いつの間に……」

「相手はニシノフラワーだ、シューズの準備は良いか?」

「は!? なんで!?」

 

 唐突に振られた併走依頼に目をむくトレーナーだが、ジャックは鼻を鳴らして指し示した。

 その方向にはぽけーっと三女神を見上げるニシノフラワーの姿がある。

 

「シノさんナンデ!? まさか今年も!?」

「…………ふぇ、トレーナーさん?」

 

 未だ覚醒の途中なのか、ぽけーっとした目のままのニシノフラワー。

 その矮躯に滑り込むようにして近づき、ペタペタとあちこちを触るトレーナー。

 お耳と尻尾確認ヨシッ! トモの張りヨシッ! 可愛いおめめヨシッ!

 

 そんな様子に戸惑っていると徐々に覚醒してきたのだろう。

 パチクリと状況を見回していた。

 

「えーっと……何事でしょうか、これは」

「レースだ、フラワー。やれるか?」

 

 ジャックに言われ、視線を向けたのはもう一人のウマ娘。

 つまり対戦相手はキングヘイローだと理解し、ニシノフラワーの瞳に火が灯る。

 

「やれます!」

「キングヘイロー!」

「ええ、よくってよ」

「俺の意見は聞いてくれないんですかね!? 別にいいけどさぁ!!」

 

 夕暮れ特有の物悲しさなど一瞬で吹き飛ぶような騒がしさを三女神は微笑で見つめていた。

 ウマ娘の未だ解明されていない想いの力とその奇跡のような超常現象。

 ジャックはどこかモーメントの七色を思い出していた。

 

 




三女神に対して深く触れるつもりはありませんが今後の展開次第では触れていく展開もあるかもしれないので伏線として貼っておきます。
回収できなくても許してください。
次回はしばらく勝ち星を得ていない二人による真剣勝負。
黄金世代はターフに並び立てばいつだってバチバチです。


次回、『星雲VS怪物二世』にアクセラレーション!!
 
 
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