今日はキングヘイローの誕生日なので更新です。
誕生日だからって一日予定フリーにしてまで楽しみにしてたのに15時間メンテでトレーナーさんがログインできないの最高にキングらしくて好き
それと予想以上に進みが遅いので今後もストックが溜まってる場合は水曜に更新します。
おかしい、この辺りでスズカと走ってるはずがまだ6月だと……。
キングヘイローの生活は日本ダービーを終えてからその密度を上げた。
一言で表現して地獄の日々だった。
早朝、フォームのチェック。計十キロほど走り込む。
疲れた体に鞭を打ち、昼間は学業に勤しんだ。
昼休憩は唯一の息抜きの時間だ。
まぁ、何をしたところで気が付いた時には眠っているのだが。
夕方、様々な状況に応じた
合間に小休憩を挟みつつ走り続けて夕暮れ時、トレーニングは食事へ移行する。
疲れ果てて食べ物を受け付けない胃に無理やり押し込む拷問のような時間。
優雅な時間などは一かけらも存在しない。
バナナジュースは飽きたので明日からはオレンジジュースにしようと心に誓う。
これを終えた後は吐き気をこらえながらレースの勉強だ
映像を見ながらトレーナーの解説を受けたり、歴史について学ぶ。
時にはコースへ出て荒れた芝の様子をじっくりと読んだり、その荒れ芝の攻略方法を話し合う。
体感するとあればここでも走った。
胃が落ち着いて来たらコースが閉められる時間いっぱいまで走る。
強弱を付けたりしながらひたすら走る。
とにかく走る。
この時間帯になるとフォームもクソもない。
気力だけで体を動かす。
夜中の間はトレーナーからの指示も精神論が殆どを占めた。
走りながら気絶したことが何度もあったほどの苦行だった。
見かねた友人や取り巻きたちが並走してくれるようになるのにそれほど時間はかからなかった。
そして夜九時、コースから締め出されてトレーナー室へ。
そこで秘密の特訓が行われる。
特訓の後はシャワーをたっぷり浴びた。
湯船に浸かるのは溺死の可能性があるので自粛している。
実際死にかけて滅茶苦茶ハルウララに心配かけたので反省しきりである。
それも済んでしまえば、後はもう泥のように眠るだけだ。
とはいえ最初の数日は体が発する熱と痛みでろくに眠れもしなかったのだが。
もちろんこのような過密なスケジュールで体が持つわけがない。
気絶するほど走っているのだから怪我をしなかったのは運がよかっただけだ。
ちなみに気絶する時の倒れ込み方はトレーナー直伝。
クラッシュには一家言ある、と自信満々に語った彼にとうとう頭がおかしくなったのか?と心配するキングヘイローがいたとか。
無茶なトレーニングを止める声は何度もあった。
これは強くなれる特訓ではない、体を壊すだけの拷問だと*1。
しかしトレーナーは聞く耳を持たない。
ならばウマ娘を通して、とキングヘイローへ説得をするものの、求めているのは彼女の方だ。
頑なな態度はトレーナー以上に話にならなかった。
それでも日に日にやつれていく彼女を心配してスペシャルウィークたちが動く。
頼った相手は先生だった。
とうとうトレセン学園側から呼び出しがかかり、トレーナーへ厳重注意が言い渡される事態に。
だがそれで懲りるジャック・アトラスではない。
彼は理事長を前にむしろ居直ったという。
「俺が育てているのはただのウマ娘ではない、キングたらんとする一流のウマ娘だ」
教育者としてはド三流のセリフだった。
まぁ、キングだからだ!で押し通そうとしなくなっただけ大人になってはいる。
結局言っていることは同じだが。
「詰問! もし故障させたとしてご両親へ如何に説明をする!」
もちろんそんな言い訳で納得できるほど理事長も甘くはない。
大切なお子さんを預かっている身として親を泣かせるわけにはいかない。
そう説得に舵を切れば、鼻で笑うのがジャックだった。
「金一封と言ったところか」
「憤懣! 金で解決できると!?」
「ああ、よく退学させてくれたとお言葉もいただけよう」
ジャックの物言いに理事長が引っ掛かりを覚えたのはその時だ。
腰を据え、根掘り葉掘りニンジンポリポリ聞いてみれば事態の全貌に唸る他ない。
ニンジンは美味い。
結論から言うとこの異常なトレーニングは夏合宿前までの間なら許可された。
即ちひと月の間、キングヘイローはこの地獄の中で生きていくことになる。
_____ヘイロー―――――
「私のターン、ドロー! よしっ、黄泉ガエルを召喚よ!」
《ケロ》
意気揚々とキングヘイローがカードを盤面に叩きつける。
光と共に現れたのは翼を持ったカエルだ。
小さいカエルが天使の輪を頭に乗せながらのっぺりとトレーナー室を動き回る。
「それとカードを一枚伏せてターンエンド」
「ふぅん、初手に低レベルモンスターを引けるようにはなってきたか」
対するはジャック・アトラス。
腕を組んだまま偉そうにカエルを見下ろしていた。
それもつかの間、ジャックが力強い宣言と共にカードを引き抜けば蹂躙の始まりだ。
「ドロー! 俺は手札からバイス・ドラゴンの特殊効果を発動。
このカードは相手フィールドにのみモンスターが存在する場合特殊召喚することができる!」
「はいはい、その時ステータスが半分になるんでしょ。耳タコよ」
「続いてダーク・リゾネーターを通常召喚! この二枚のカードの合計レベルは8!」
ドラゴンとネズミ?が立て続けに召喚され、二体の体が重なり合っていく。
キングヘイローはこの展開に飽食気味のようで尻尾も耳も垂れ下がっている。
疲れ果てた体で付き合うにはテンションも底をついているようだ。
「王者の鼓動、今ここに列を成す。天地鳴動の力を見るがいい!
シンクロ召喚! 我が魂、レッド・デーモンズ・ドラゴンッ!!」
部屋が明々に包まれて灼熱の赤が舞う。
ど派手なエフェクトに包まれた現れたのは赤と黒に彩られたドラゴンだった。
ジャックの誇るエースモンスターのご登場である。
「カード一枚伏せ、さらに手札からパワー・ジャイアントの効果を発動。
手札にある低レベルモンスターを墓地へ送ることで特殊召喚!
その際、コストで支払ったモンスターのレベルと同じ数だけレベルを下げるが……手はあるか?」
「お好きにどうぞ?」
伏せカードの発動を確認するもののキングヘイローは涼しい顔だ。
ジャックの場には攻撃力3000と2200が並ぶ。
攻撃力100の黄泉ガエル一枚ではライフ4000など消し飛んでしまうだろう。
何もないとあればそうなるまでだ。
ならばとジャックは攻撃を宣言した。
「レッド・デーモンズ・ドラゴンで黄泉ガエルを攻撃、アブソリュート・パワーフォース!」
宣言と同時にドラゴンの拳が迫る。
初めの頃は驚きにうずくまったものだが、さすがに連日同じ光景を見ていれば慣れるというもの。
キングヘイローは焦らずにプレイングを続ける。
即ち伏せカードの開帳だ。
「ふふん、かかったわね! 罠カードを発動よ、聖なるバリア・ミラーフォース!」
「カウンター罠発動、レッド・バニッシュ」
「はぁ!? 伏せたターンは罠カード使えないんじゃなかったかしら」
ちなみに初心者にありがちな伏せたカードをすぐ使おうとしてできない、というのをキングヘイローは体験済みである。
「レッド・バニッシュは場にレッドと名の付くカードがある時、セットしたターンでも使用することができる。
そして魔法・罠カードの発動を無効にし、破壊する!」
「なにそれずるい!」
「ずるくない!」
一応、場にレッドと名の付くカードがなければ効果を発揮できないというデメリットがあり、何でもかんでも使えるわけではない。
なおアニメオリジナルカードである。
ずるい。
「手札誘発はないのか?」
「あるわけないでしょ!?」
「はぁ……」
「ため息つきたいのはこっちなんだけど!?」
処理は淡々と進められ、爆風が彼女の体を叩く。
ライフポイントが大幅に削られ、続く石巨人の攻撃に耐えきれずゲームオーバー。
今日の秘密特訓もわずか二ターンで終了となった。
なおいつものことである。
「伏せカードを見せつけておいて攻撃力100のモンスターを攻撃表示で召喚。
これでは攻撃を誘ってますと言っているようなものだ。
ならば対策されるのは当然と考えておくんだな」
「もー!」
とはいうものの、これでもだいぶんマシになったのだ。
初日は手札をすべて上級モンスターで占めてしまい何もできずに負けた。
罠カードを引ければマシ。
下級モンスターを引けたらいっそすごい、という感じだった。
それを思えばキーカードとも言える黄泉ガエルと強力な罠カードを共に引き当てたのは拍手モノである。
それでもジャックの求める水準にはまるで達していないのだが。
「だいたいこのデッキ重すぎるのよ!」
「帝デッキとはそういうものだ」
それでそれぞれ一枚ずつしか入ってない帝を初手で引き寄せすぎるのが悪い。
だが彼女にしてみれば毎度毎度高レベルモンスターを並べるジャックの手札が良すぎるのだ。
「貴方のデッキにバイス・ドラゴン何枚入ってるのよ!」
「一枚だが?」
「あーもー!!」
知ってた。
前にも同じことを言ったキングヘイローはデッキをきっちり確認している。
本当に一枚しかないのにほぼ初手で持ってくるのだ。
どうかしてるとしか思えない。確率論に喧嘩を売ってる。
そう主張したのだがジャックはそんなことはないと否定した。
「何度も言わせるな。漫然とカードを引いていては漫然としたカードを引くだけだ。
こうしたい、こうありたい。心の底からそう願い、デッキに託すのだ」
「それで好きなカードを引けたらカジノで大儲けでもしなさいよ!」
「カジノのカードでは無理だ。
もうめちゃくちゃである。
何を言っているのかまるで分からない。
思わず頭を抱えるがそれで何かが解決するわけでもない。
重いデュエルディスクを取り外して立ち上がった。
「本当にこんなことを続けてレースに強くなれるの?」
「当然だ」
その自信はどこから来るのだろうか。
ひょっとしたら他のウマ娘もこうやって陰で特訓してたりするのだろうか。
いや、さすがにそんなことはないだろう。
もしかしたら、ひょっとして……?
未だに悩むキングヘイローを見ながらジャックもまたデュエルディスクを収める。
「すべての勝負事はデュエルに通ずる。デュエルで勝負の勘所を掴むのは必須と言っていい」
「本当に?」
「俺に言わせれば、どうしてそこまで疑える?」
あまりに認識に差がありすぎる。
お互いそう思うものの、どこが食い違っているのか分からないのだから困っていた。
キングヘイローにとって
筋力トレーニングですらないこれがどうレースに関係してくるのか一ミリも理解できない。
ジャックにとってデュエルとは魂のぶつかり合いだ。
これを高めることは生物としてのステージを高めるということである。
また、デッキと語り合うことで己を知ることもできる。
時には自分の知らない自分と向かい合うことだってあるのだ
自己研鑽にこれほど適したものもそうないだろう。
デッキは己自身であり、手札は手段。ライフポイントは勝敗に直接左右するもの。
全てがレースに活用できる概念だ。
そこまで考えれば疑う余地など一片たりともない。
「……そうだな、例えば貴様はレースのスタート前、何を考えている?」
「そうね、自分や芝の状態だとか出馬してる子の走りとか、いろいろよ」
「うむ、それが最初の五枚の手札だ」
思わず真顔でジャックを見てしまうキングヘイロー。
何を言い出したんだこいつ。
そう口にされなかっただけ彼女からの信頼はまだ残っていたようだ。
「そしてレース開始と同時にドロー、お互いに場を展開しあうわけだ」
ジャックはしまったばかりのディスクを展開、シャッフルされたデッキへと手を置く。
怪訝に思いつつキングヘイローもディスクを装着。
デッキから初期手札を引こうとして視線に止められた。
「その時、漫然とカードを引くのではなくレースの時と同様に思考するのだ」
言われ、デッキを見つめながら考える。
私は差しが得意だからほとんどの場合、中盤で足を残しつつも抜け出す準備をしたい。
脳裏に描いたのは“黄金世代”の面々。
強烈な逃げ足を持つセイウンスカイと先行型のエルコンドルパサー。
この二名に突っかけつつ、スペシャルウィークとグラスワンダーたちと位置を取りあう。
より優位に立ち回れたものがレース序盤を制する。
これはジャックとのデュエルでも同じことが言える。
彼は決まって強力なカードを並べてくる。これはいわば大逃げ型だ。
それを好きにさせてしまってはこちらは勝てない。
ならばそれを邪魔しつつこちらのターンを迎える必要がある。
「だったら本当に私が欲しいカードは……」
強力な罠カードでも、キーカードでもない。
欲すべきカードはただ一つ。
吸い込まれるように手はデッキの上へ。
「私の、ターン」
ドロー。
小さくかすれて声にもならないそれは行為によって示される。
デッキの一番上からたった一枚の引き抜き。
引き当てたカードは攻撃力0のモンスター。
背筋の震える感覚があった。
高揚を伴った寒さに耳が震え、尻尾がピンと逆立った。
それはある種の快感ですらあった。
「それでいい」
何を引いたのか見るまでもないのだろう。
ジャックは満足げに頷いた。
引き当てたのはバトルフェーダー。
相手モンスターの攻撃に合わせて召喚することでバトルフェイズを強制スキップさせるカード。
大逃げの選手の頭を抑え込みつつも己の足を溜める。
まさにその状況を作るカードだった。
「逆もまた然り、レース中にバトルフェーダーほど強力なカードを引き込めるかは貴様次第だな」
ここまで言われれば察するものもある。
もともとキングヘイローの知能指数は高いのだ。
いったん紐解き始めれば理解も早い。
「手札は手段や可能性、よね」
「ああ」
即ち相手との位置、己の態勢など状況に合わせて取れる手段が今の“手札”というわけだ。
序盤は一斉スタート。
自然と“手札”は多く、そしてレースが進むたびに減っていく。
“デッキ”は己自身、つまりトレーニングで溜め込んだ知識や技量。
身体的な強さもこれにあたるのだろう。
「ライフは?」
「スタミナが一番分かりやすいだろう。
デッキ残量もある意味でスタミナと言えるか」
ゴール前に体力が切れれば負け。
大差を許せば逆転不可能なほど大きく突き放される。
「……一ミリも理解できないと思ったのは取り消すわ」
もし本当にデュエルで勝負の勘所を掴めるというのならば、今までは場当たり的に走っていただけだ。
それで勝てるはずもない。
キングヘイローの持ち味は思考から来る試合の組み立て方。
強みを自分から捨てていた。
「貴方のトレーニングだもの、無駄なわけがないわよね」
「確かに俺は一流トレーナーと自負しているが
黙って俺についてこい、キングヘイロー」
ぶるりと尻尾が震える。
それはどこか先ほどの快感に似ていた。
彼になら、そう思わせる何かがそこにあった。
「キングへの道をこの俺ジャック・アトラスが示そう!」
地獄の日々の中で行われた悪魔との契約。
吉と出るか凶と出るか。
それを知る者は誰もいない。
「よろしくってよ。貴方にこのキングを導く権利をあげる!」
ただ一人、キングヘイローにとっては夜明けの明星のようで。
それは確かな救いだった。
元キン「デュエルはレースにも通ずる!」
キング「理解したわ!」
何言ってんだこいつら。
ちなみにキングヘイローのデッキはジャックからの貸し出しです。
次回、『俺はレアだぜ』にアクセラレーション!