ゴルシウィークなので投稿します。
……ゴルシウィークってなんだ。
四名の方から同じところに誤字報告ありましたので修正しました。
ありがとうございます。
これめちゃ恥ずかしいので以後ないように気を付けます。
「氷帝メビウスに攻撃、アブソリュート・パワーフォース!!」
「きゃあああ!」
キングヘイローのライフポイントがゼロになり、バトル終了。
日課であるデュエルもそれなりに形になってきただけに負ければ悔しさも
だがここまで連敗しながら負けることを悔しめる辺り、キングヘイローの精神的タフさは異常である。
「さっきのターン倒したじゃないそのドラゴン! どうしてフィールドに戻ってきてるのよ!」
「絶対的エースモンスターを据える俺のようなデッキでは当たり前のことだ」
ジャックの言うことは間違いではないが、だからと言って当然のごとく対応できるのは彼の実力の高さがあってのこと。
デッキに蘇生手段があったとして必要な時に手札にあるかどうかは別問題なのだから。
「しかし、多少は見れるようになったな。
もし貴様のターンに二重召喚が手札にあれば俺は負けていたかもしれん」
「かも、とか言ってる時点で譲る気ないじゃない。
それにどうして帝が複数手札にいる前提なのかしら」
「いるのだろう?」
「もー!」
いる。
どういうわけかキングヘイローの初期手札にやたら来るのだ。帝が。
最初の頃はこれのせいで下級モンスターを引けずに負けていたほど。
これにはダイワスカーレットばりの「もー!」が飛び出すのも致し方なし。
この調子ではウシ娘になるのもそう遠くない。
「調子も出てきたがデュエルは当分お預けだ」
「そうね」
何故ならば明日からは夏合宿が始まるからだ。
一応秘密の特訓ということになっているのでトレーナー室が使えない合宿場ではデュエルは行えない。
同時にキングヘイローの地獄の日々もこれにて終了となる。
「俺は明日の朝一番で先入りしている。よって早朝のトレーニングもなしだ。
多少のランニングくらいは認めるが大人しくしておけ」
「分かってるわ」
「それとこれはまだ確定事項ではないのだが、夏合宿の間は他のトレーナーの力を借りることになる」
他のトレーナーと聞いてキングヘイローが首を傾げた。
長い髪と尻尾が揺れる。
彼が他のトレーナーと仲良さそうに喋っているところを見たことがない。
顔にはそう書いてあった。
「奴の力を借りるつもりはなかったのだが、貴様のためならば仕方あるまい」
「お知り合いかしら」
貴様のためと言われ、尻尾がぶんぶん揺れる。
そんなこと露知らずに平然な顔をして話を促すキングヘイロー。
かつて口より尻尾の方がよっぽど雄弁と評したクラスメイトがいたが、キングヘイローがツンデレという概念に謝る日もそう遠くないだろう。
「古い友人だ」
「貴方の友人……想像つかないわね」
「フン、俺以上の頑固者だ」
「貴方以上の?」
想像がつかなさ過ぎていっそ混乱している。
きっと人間でもウマ娘でもないに違いない。魚介類とかそういうの?
そんなキングヘイローを置いてテキパキと準備を進めていくジャック。
朝一番に出るのなら準備は今日中に済ませなければならないだろう。
それを見て妙なことを考えている暇はないとキングヘイローが覚醒する。
「私も準備をしなくちゃ! 朝から慌てて準備なんて優雅じゃないものね」
「水着、体操服、ジャージの三点は二セットずつ用意しておけ。それと避暑地だから夜は冷えるぞ」
「了解。じゃあおやすみなさい、トレーナー」
「ああ」
そっけない返事を返し、ジャックは作業に没頭した。
どのように再会するのか、ずっとそれを考えていた。
_____ヘイロー―――――
「おはよう、ジャック」
「遊星、貴様……」
一晩頭を悩ませていた再会はバスの手前であっさりとなされた。
そこには数多くのトレーナーと先生方が次々とバスに乗り込んでいた。
時間ぎりぎりに来たジャックを待ち受けていたのが不動遊星。
友であり、仲間であり、最大のライバル。
彼がさわやかな笑みでジャックを出迎えたのだった。
無視をするようにバスへ乗り込めば平然と後をついてくる。
遊星にしても今日はがっつり話し込む気なのだろう。
ジャックが狭い椅子に体を押し込めば隣に遊星が座る。
逃げ場などなかった。
逃げるつもりもなかったが。
「久しいな遊星」
「ああ、変わりないようで何よりだ」
「お互いにな」
まさかの先制攻撃に戸惑ったジャックだがいざ話してみれば言葉は止まらなかった。
お互い積もる話もあったのだろう。
話は自然とどうしてトレセンにいるのか、トレーナーになったのかに至る。
「俺は孤児のウマ娘の面倒を見たのが始まりだった」
聞けば彼女らの行く末を想い、改善させるために競技者として鍛え上げたのだという。
そして僅かな育成期間にも関わらず次々と結果を出していくウマ娘たち。
そのトレーナーとしての手腕を買われ、トレセン学園にスカウトを受けたらしい。
「彼女たちの努力の賜物であって、俺の力じゃないとは言ったんだ」
「しかし周りは放っておいてくれない、か……貴様らしいな」
「かもな」
そして一人のDホイーラーとして、スピードに魅せられた一人の人間としてウマ娘という生物に惚れ込んでいた彼はこのスカウトを大いに悩んだという。
地元を離れたくない。
そう考える遊星の心を大きく揺さぶったのはチーム戦というあり方だった。
絆の力を信条とする遊星にとってそれはどうしようもなく魅力的な響きである。
絆の力を手にした彼女たちが果たしてどこまで行けるのか。
見てみたいとそう思うのに時間はかからなかった。
「そうして悩む俺の背を押してくれたのがラリーだった」
「ラリーが?」
「ああ、この街は俺たちに任せてくれと……大きくなったよ」
「そうか」
言われ、夢想するジャック。
記憶の中のラリーはともすれば少女に間違われるほどの幼い子供だった。
その子が遊星の背中を押したというのだ。感慨深くもなる。
どうやらラリーはクロウが街を去った後、彼の代わりに子供の世話を焼き、護り、闘ってきたらしい。
見た目はまだまだ小さな子供だが数多くの困難を生き抜いた彼は下町の顔役に収まりつつある。
かつての遊星のように。
「だから五年の間だけと契約を交わして俺はここにきた。
今ではチームスピカでサブトレーナーをやらせてもらっている」
「貴様がいると色々と便利だろうな」
「ありがたいことによく言われる」
よく言われるどころではなく、遊星が抜けたら回らなくなるレベルで大活躍をしている。
そのため、遊星がいつ抜けてもいいように彼の担当領域をドンドンと狭めている最中なのだ。
「最近になってサイレンススズカというウマ娘の担当トレーナーになった」
「噂には聞いている、ここ最近レースを荒らし回ってると」
「トロフィーでチェスでもできそうな勢いだ」
どうも今は走るのが楽しくて仕方ないらしい。
ただ、レースに出すぎているせいで他のウマ娘とのコミュニケーションが減りつつあるのが専属トレーナーの最近の悩みだとか。
「噂なら俺も聞いてるぞ。ここ最近朝から晩まで走り続けているウマ娘がいるらしいな」
「……遊星、俺がウマ娘を本当の意味で知ったのは二年前だ」
水を向けられ、今度はジャックが語り始める。
とあるデュエルの大会に出場したジャックは当然のように優勝を収めた。
特に語るところもない大会だったらしい。
そのデュエル大会はウマ娘のレース会場で開かれたものだった、というくらいか。
小高い表彰台の上からは会場がよく見渡せた。
この広い観客スペースを埋め尽くすという彼女らの走りに興味も出る。
どうやら明日にはレースがあるというので翌日は軽食を食べながらちょっと観戦していくか、その程度の認識だった。
しかしそれを見て頭をパワーツールドラゴンに殴りつけられるような衝撃が襲った。
「所詮は走るだけ、ライディングデュエルのスピードと熱狂には敵うまいと思っていた」
「ああ」
よく分かるとでも言いたい遊星の表情。
彼も当初はそうだったのだろう。
だが蓋を開けてみればどうだ。
そこにある熱量はライディングデュエルに勝るほど苛烈だった。
単純に競う人数が多い分だけそこから発せられる熱はとてつもないことになっていた。
「ライディングデュエルの、一対一の勝負ではあり得ない想いの丈がそこにあった」
もちろん一対一でしか成しえない熱というのもある。
だが決して軽んじていいモノではないと、勝負に生きるジャック・アトラスだからこそ一目で分かった。
「そして走ることのレベルの高さ、これにもまた驚かされた」
「ああ」
「未来のライディングデュエルの王者として、見て見ぬふりは出来ぬと思ったものだ」
彼女らのことを知らねばならぬ。
その使命感に突き動かされ、勉強を重ねる。
そんなある日、彼はクロウと再会したという。
「奴にお前のことを聞かされた時は腸が煮えくり返るような思いだったぞ」
クロウから聞かされたのは遊星がトレセン学園でウマ娘のコーチをしているというものだった。
先を越されたと、そう机を叩いた。
負けていられぬと資格を取得し、トレセン学園へと採用されたのが去年のこと。
「そこで俺はキングヘイローと出会った」
「なかなかのじゃじゃウマだと聞いている」
「フン、結果も出しておらんのに一流を自称するのだ。
下らん女だと、口先だけの小物だと思ったがな……覚悟だけはあった」
遠い目をしている。
わずか一年前の出来事だが濃密な日々がその長さを増大させているのだろう。
「だから俺も奴の覚悟に応えたい。遊星、力を貸せ。貴様の力が必要なのだ」
「俺の?」
遊星の目がわずかに開かれた。
ジャックがここまで言うとは思ってもいなかったのだろう。
かつての仲間に頼られている。
思わず頷きそうになった遊星を止めたのは今の立場だった。
「勿論、と言いたいところだが……俺にも担当ウマ娘がいる、彼女のことは放っておけない」
「ほう、貴様と交渉をすることになるとは……だがどうしても貴様が欲しい」
「俺はレアだぜ?」
その展開も読んでいたのだろう。
遊星の言葉を無視し、ジャックは自信満々に言ってのける。
「貴様の担当ウマ娘にこのジャック・アトラスが! 直々に指導をしてやらんでもない」
「だが」
「どうせ困っているのだろう? ―――ダンスレッスンに!」
「ぐっ」
乗りに乗っているサイレンススズカ。
彼女の唯一の欠点と言えばそう、ウイニングライブの出来だった。
容姿は整っており、レースを終えたテンションで行われるライブでは高揚した様子が大変艶っぽく、レースで見せた異次元の強さとは別の愛らしさに参ってしまうファンも多いという。
だが、目の肥えたファンからまだ足りないという声もあるのだ。
原因は明確だった。
彼女にとってライブは余禄でしかない。
もちろんセンターで踊ることはウマ娘の本能が満たされる行為でサイレンススズカも大好きだ。
ファンの期待に応えたい想いもあり、ダンスレッスンだって真面目に取り組んでいるし、本番だって手を抜いているつもりはないのだろう。
だが同時に、先頭で走り切った快感に勝るモノではないと知っている。
その認識が表現に滲み出てしまっているのだという。
何とか改善しようとトレーナーチームが一丸となって頑張っているものの成果は未だ乏しい。
そもそも当人は努力を怠っているわけではないのだから当然だ。
どちらかといえば期待値が高すぎることに問題があった。
レースならばあれこれと指摘し、サポートできる遊星もダンスばかりは……。
「ダンスは……苦手だ」
「だから、それをこの俺、ジャック・アトラスがサポートしてやろうと言っているのだ!」
「……できるのか?」
「ことエンターテインメントで俺にできぬことはない!」
その言葉が真実かどうかは置いておいて、彼が鍛えたウマ娘のダンスはどうだったか。
言うまでもない。
輝いていた。
ちらと目にしただけで記憶に残る程度には。
「……分かった」
「交渉成立だな、遊星」
「ああ」
がっちりと手を薙ぎ合う二人。
前方からは小さくも黄色い声が上がった。
他の同乗者から見れば優等生な遊星と問題児のジャックが仲良さそうに話しているというだけでも気になるもの。
それも二人が中々の美丈夫とあれば女性の目が集まるのも無理はない。
ちなみにキングヘイローの過剰な特訓のせいでジャックを嫌っているトレーナーは多い。
だがここで耳を
ジャックの持つウマ娘に対する熱量は本物だ。
何も理由を聞かずに判断するのは早計だと思い改めた。
「しかしジャックがトレーナーの道を選ぶとは意外だったな」
「俺にも色々とあるのだ。だいたいそれを言ったら貴様があの街を出るとは―――」
合宿所まではまだまだかかる。
彼らは移動時間の殆どを会話に費やしたという。
_____ヘイロー―――――
「ちょっとスペシャルウィークさん! バッグ一つが丸々お菓子ってどうなってるの!?」
「えへへー……あ、でも半分はニンジンだよ!」
「そういう問題じゃなーい!」
「スペちゃんはスケールが違いますね、バスに段ボール箱持ち込もうとする人は初めて見ました」
「しかもあの中身、ニンジンだったはずデスよ」
ニンジンひと箱を持ち込もうとした挙句、手持ちバッグの一つは食べ物が占拠しているとなってはさすがのクラスメイト達も呆れるほかない。
ちなみにセイウンスカイはバスに搭乗して早々寝てしまっている。
この騒ぎの中でも眠っていられる辺り、年季の違いを感じさせた。
「それにしてもキングさん、今日はいつもより肌艶がいいですね」
「あら、このキングのお肌はいつだってツヤツヤよっ」
「今朝は早朝トレーニングなしになったって聞いたからそれじゃないかな?」
「睡眠時間は大切だということですね」
年頃の少女たちは話題に事欠かない。
美容にレッスンに勉強にファッションにテレビ番組にプロレスにうまぴょいに。
故郷の話、家族の話、自分の夢、今日のお昼ご飯、そしてこれからの夏合宿。
まるで話題が尽きる様子がない。
途中エルコンドルパサーのペットの餌やりで騒ぎが起こったがそれさえも笑い話にしてバスは進む。
トレーナーとの特訓に明け暮れていたキングヘイローには充実した時間だった。
向こうについたら取り巻きのメンバーと一緒に遊ぶ時間を作ろう。
そう考えて、気づいた。
最近あのメンバーに構ってあげられてないことを。
一流のウマ娘にふさわしくない、己のことで手一杯だったと今更になって気づいた。
「……私は一流のウマ娘よ、一流なんだから……」
ぼやいて窓から天を見上げる。
真夏の太陽がサンサンと輝いていた。
気が付けば夏もすぐそこ、あのままでは見落としていたであろう四季の移ろいを感じた。
この夏は一流に相応しい合宿にしてみせる。
そうぼやいて、唐突にクラスメイトから押し倒された。
「もー! 今度は誰かしら! まったく決まらないじゃない!」
「酔っ……た。キン……ぉくすりぃ……」
「ちょ、エチケット袋はここよ!
持ってなさい、それとまずはゆっくり呼吸して―――」
辛そうなクラスメイトの背中をさすりつつ、テキパキと指示を出す。
一流の保護者の姿がそこにあった。
本当は交渉代わりにバスの中でデュエルさせるつもりでしたが無駄に長くなりそうなのでカット。
二人とも立派なトレーナーになったと思ってここはどうかおひとつ納得ください。
次回、『罠カードオープン! 異次元の邂逅!』にアクセラレーション!