王者の鼓動、今ここに列を成す   作:小金さん

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ランキングに乗っていたとのコメントをいただきました。
言われるまで気が付きませんでした。
これもすべては読んでくださる皆様のおかげです。ありがとうございます。
ここはストレートに感謝の投稿です。
 
 


クラシック級/7月前半:現在地

  

 

「はじめまして、サイレンススズカです」

「スズカのトレーナーの不動遊星だ。よろしく」

「あ、はい。キングヘイローです……よろしくお願いします?」

 

 キングヘイローは混乱していた。

 思わずかしこまって頭を下げるくらいに混乱していた。

 

 合宿初日は移動やら施設の紹介やらレクリエーションやらで恙なく終わった。

 同部屋になったクラスメイトと話をしている間に消灯時間となり、朝を迎える。

 虫の鳴き声と遠くに聞こえる潮騒の音が心地よい、なんとも清々しい朝だった。

 早朝特訓のあったこのひと月と比べると天地ほども差があろう。

 

 部屋が分かれてしまったハルウララがちゃんと起きられたか心配しつつ朝食を食べ終える。

 呑気にしてられるのもここまでという上級生の言葉を聞きながらトレーナーの下へ向かうと、そこに今をときめくウマ娘が待っていた。

 唐突すぎて混乱するのも無理はない。

 

「えっと……?」

 

 理解が追い付かない。

 目の前にいるウマ娘は現在、最もトゥインクル・シリーズを騒がせているウマ娘だ。

 中距離を中心に数多くのレースを熟し、その殆どで大差をつけての勝利。

 付いた異名が“異次元の逃亡者”だ。

 最高速度はそれなりといったところだが、短距離のようなペースで中距離コースを駆け抜けていく様はまさしく異次元の走り。

 そこからラストスパートではまだ加速できるというのだから常識の二文字が通用しない。

 大逃げと言えばサイレンススズカ。

 そう考えるウマ娘ファンは多いことだろう。

 

 そんな偉大な先輩がどうしてキングヘイローを待っていたのだろうか。

 ようやく頭が回り始めて大男を見上げる。

 

「ジャック・アトラスだ」

「違う。違わないけども!」

 

 そういうことを求めているのではないと頭を振る。

 ぶおんぶおん。抗議のカールヘアがジャックを襲った。

 

「言っていただろう、他のトレーナーの力を借りると」

「聞いてたけど! サイレンススズカ先輩だとは言わなかったじゃない!」

「遊星の奴に言え」

 

 無茶苦茶である。

 基本的に完璧なトレーナーだが、時折抜けたところを見せるのもこのトレーナーである。

 久々に炸裂したわ。

 そう頭を抱えるキングヘイローに遊星は苦笑しながら提案をする。

 

「とりあえず一本走ってみないか? お互いを知るにはこれが一番だ」

「そうだな、百の言葉を交わすより価値がある」

 

 お互いを理解し合うならデュエルだ。

 そんなノリでトレーナーコンビは頷きあってコースの申請を行う。

 さすがに合宿の稼働初日朝一番からコースを使おうという人はいなかったのかあっさりと予約が取れた。

 視線で会話をしつつスマホをしまい込み、レース場へと向かう。

 

 言葉もなしにズカズカと進む男二人。呼吸はぴったりだ。

 その後ろ姿を見て古い友人と言っていたのを思い出すキングヘイロー。

 側にいるのが当たり前といった空気になるほどと一人納得する。

 思っていた以上に二人の仲は深いらしい。

 

「幼馴染という奴かしら?」

「どうかしら、でも考えるのは後にしましょ。置いてかれちゃうもの」

「ええ」

 

 独り言を拾われて内心驚きつつもサイレンススズカと共に歩き始めた。

 さすがに終始無言というのも気まずいが会話も難しい。

 先輩後輩で選手同士。

 距離感をどう置けばいいのか探り合いながら会話を続ける。

 気が付けばレース会場まではあっという間だった。

 

 

 

 

 

     _____ヘイロー―――――

 

 

 

 

 

 1600メートルの一本勝負。

 サイレンススズカはいつも通り逃げ切りの態勢で仕掛けた。

 少し物足りない距離。でも相手の実力を測るなら充分か。

 そう思って走り始めた。

 

 正直に言ってしまえば舐めていた。

 相手はクラシック級の、それもまだ体が出来上がってない成長期のウマ娘。

 日夜シニア級でしのぎを削っているサイレンススズカが下に見てしまうのは仕方のないこと。

 ましてや妹のように思っているスペシャルウィークのクラスメイトだ。

 どうしたって同年代のライバルたちのようには見れない。

 

 黄金世代などと呼ばれているがその中でもキングヘイローの評価は最下位と言っていい。

 才能が抜きんでているエルコンドルパサーとグラスワンダー。

 皐月賞を取ったセイウンスカイに念願叶えたダービーウマ娘のスペシャルウィーク。

 彼女らと並べてしまった時、どうしても見劣りしてしまうのがキングヘイローだった。

 

 世代最強集団に選ばれる程度の実力はあるのだろう。

 だがそれを言ったらサイレンススズカだって世代最強の一人。

 紆余曲折を経たが今では間違いなくトゥインクル・シリーズのトップクラスに位置している。

 ドリームトロフィーリーグに進出―――いやこの島国を飛び出すのはいつ頃か、なんて話も持ち上がっているくらいだ。

 

 年下はスペシャルウィーク以外の子のことはよく知らないサイレンススズカだったがキングヘイローのことも名前を聞いたことがある、といった程度の認識でしかない。

 どうしても競技者というよりもスペシャルウィークのクラスメイトという意識が先立つ。

 

 数年後にはひょっとしたらライバルに名を連ねるかもしれない、かな?

 正直なところ、それがサイレンススズカの評価だった。

 今の今までは。

 

「――――ッ!!」

 

 コーナー。

 足を入れて加速するサイレンススズカ。

 曲がり角を利用してちらりと背後を確認。

 開いていた距離がさらに空いていく。

 

 思っていたよりも距離が離れていたことにサイレンススズカは内心驚いていた。

 もっと近くに寄られていたと感じていたのだ。

 だから加速した、だが実際は遠い。

 かかっているのかと自問した。

 返ってきた自答はかかっている、だった。

 だからといって足を緩めるのも危うさを感じさせる。

 それだけの圧力がキングヘイローにはあった。

 

 一流の差しウマはレース中、独特のプレッシャーを放つ。

 “差す”の言葉通り、先頭のウマ娘を突き破るような加速が差しウマの特徴だ。

 逆転を狙う彼女たちはそのタイミングを伺っている。

 それが先行するウマ娘たちのペースを狂わせることがある。

 今のサイレンススズカがそれだ。

 とてもじゃないがクラシック級の出すプレッシャーではない。

 否応なしに認識を改めざるを得なかった。

 

 今のペースでは末脚を削っている。

 このまま行けばキングヘイローの理想通りの展開となるだろう。

 いや距離は取れている、速度を下げて距離を詰められる方が問題だろうか。

 

 どうする。

 サイレンススズカは再度自問した。

 調子はいい。2000メートルもないなら体力は持つ―――このまま往く!

 サイレンススズカは己の欲求を素直に受け止めた。

 

 先頭の景色は誰にも譲らない!

 

「くっ!」

 

 対して追いかける形となったのはキングヘイロー。

 開始直後から影さえ踏ませぬ大逃げには舌を巻いた。

 まだ加速している。

 あれで本当に最後まで持つのか、と驚嘆さえしている。

 

 勝つ為には何か仕掛けなければいけない。

 このままでは先輩の独壇場(タイムアタック)になってしまう。

 何とかしたいが何ともならない。

 これがトップクラスの実力かと歯噛みする。

 

 手札と場がかみ合わない。

 気分は手札抹殺で肥やしたくもない墓地を肥やして手札を総ざらいした感じ。

 後手に回っていると言わざるを得ない。

 

 とにかくハイペース気味で距離を保ち、プレッシャーをかけ続ける。

 ゴール前で差し切るには距離を離されすぎてはいけない。

 かといってこのペースでは肝心の末脚が残らない。

 

 どうする?

 キングヘイローは己の手札を見渡した。

 

 か細いけど勝利の道はある。優雅じゃないけれど、一か八か! ドローを信じなさい!

 

 優等生な走りじゃ勝負にならないと我武者羅に勝ち筋を引き寄せる。

 即ち、スタミナを大きく削って前に出た。

 

 私はキング、一流のウマ娘なのよ!

 

 

 

 

 

     _____ヘイロー―――――

 

 

 

 

 

 キングヘイローが短距離走染みた加速でサイレンススズカへと迫る。

 今までジリジリ詰めていたのが嘘のような思い切った加速だった。

 膨れ上がったキングヘイローの圧に呼応するようにサイレンススズカも加速する。

 

「なるほど」

 

 互いが互いに足を削り合う、そんな二人のレースを眺めていた遊星が呟いた。

 どうしてジャックが己に声をかけたのか、この走りを見れば分かる。

 冷静で賢いウマ娘のようだ。

 それでいて愚者の選択もできる。

 視野が広く、勝つ為の道筋を見つけるのが上手い。

 勝ちに拘っているのが見て取れる、良いウマ娘だった。

 

「何度見ても泥臭い走りだ」

「そうだな、ジャック好みの走りだ」

「……口を慎め遊星」

 

 否定はされなかった。

 つまりはそういうことなのだろう。

 

 折れず、曲がらず、屈せず、己の道を直走る。

 これはそういう走りだった。

 だからこそジャックの本気度も伺える。

 

「……本気でクリアマインドを」

「ああ」

 

 二人の会話が止む。

 最終コーナーを抜けるところ、レースもクライマックスだった。

 

 

 

 

 

     _____ヘイロー―――――

 

 

 

 

 

「……ッ!」

「させない!」

 

 一瞬だけキングヘイローがサイレンススズカに並ぶものの、力の差を見せつけるかのように突き放す。

 足をだいぶん削られたが相手も無理をしている。

 お互いが同じ判断を下し、自答する。

 

 ならば前を行く私が有利! このまま勝つ!

 引き寄せた手札は狙い通り! ここで決める!

 

 先行するサイレンススズカの意識が前を向く。

 ここまで来たら後はもう突っ切るだけ。後ろを気にしてもしょうがない。

 そこまで考えて一瞬凍りついた。

 前にあるのは小さな坂。

 高低差こそ低いが、長い登り坂がゴール前のストレートにあった。

 

 サイレンススズカのように長距離を一定の速度で走るタイプは坂に弱い。

 登りで落ちた速度をトップスピードまで上げるのには距離が必要だし、降りで上がりすぎたスピードは過剰になりがちで減速しなければ危ない。

 とはいえ普段ならば気にならないくらい緩い坂だ。

 ゴール目指して駆け抜けるだけ。

 だが―――

 

「まさか……!?」

 

 再三に渡る押上げで削られた足では如実に影響が出る。

 それにこちらに足を使わせたタイミングが絶妙だった。

 一息入れたいところで坂。

 はしたなくも、口汚い言葉でも吐いてやりたい気分である。

 このやろーとかばかやろーとかこんちくしょーとかそういうの。

 

 坂の途中で減速なんてしたら差してくださいと言っているようなもの。

 かと言ってゴール前までにトップスピードまで上げきることはできないかもしれない。

 最初からこれが狙いだったのかと、ほぞを噛むサイレンススズカ。

 

 対して狙い通りの展開に気合を入れるキングヘイロー。

 しかし背中を追い続けた彼女もまたスタミナを大きく消耗している。

 

 中盤で無理な攻めをしたせいか、坂を登る前だというのに心臓が痛いくらい鼓動していた。

 膝もパンパンに張っていて、呼吸も整っていない。

 我武者羅に仕掛けた反動は決して小さくない。

 だがそうでもしなければサイレンススズカは残した末脚でこの坂を登り切っていた。

 

 消耗している?

 だからどうした、勝つ為にはそうする他なかったのだから、これは必要な消耗だ。

 そう割り切ってここまで来た。

 お互い疲れている。

 こんな展開になってしまってはもうやれることはただ一つ。

 

「こん、じょおおおお!!」

 

 ドローを信じてこの展開に持ち込んだ、手札は使い切った。

 だったら後はもう耳の天辺からつま先まで根性で動かすしかない。

 このひと月の間、そうしてきたように気合いで走り切れ。

 倒れるのはゴールした後だと決めて並びかける。

 そう、ゴールはもう目の前だった。

 

 サイレンススズカの隣。

 もうないと思っていたはずのプレッシャーが今まで以上の強さで膨れ上がっていく。

 ここ一番になって悟らされる。

 彼女のことを未だ舐めていたのだ。

 欠片も考えなかった、己が負けるかもしれないなどとは。

 それが十二分にあり得ると知った時、サイレンススズカは蹄鉄で殴られるような衝撃を受けた。

 

 隣を走る少女が私の前を往く? 私の景色に割って入る?

 そんなの、許せるはずがない。

 

 トップスピードがどうとか、スタミナがどうとか、そういう小難しい話はいらない。

 理屈なんて放り投げてターフを蹴りつける。

 体を押し出す。

 先にゴールを割るのは私だ。

 

 考えるのはそれだけ。

 視界がきゅーっと狭まっていくのを感じて手足を動かした。

 集中力がいや増す。

 遊星のコーチングを受け始めてから本当に調子のいい時だけに起きるようになった現象。

 これが出た時は余計な思考が抜け落ち、感覚で全てのことが分かるようになる。

 

 勝てる。

 

 決意が瞳に宿り、サイレンススズカの末脚が爆発する。

 キングヘイローにはまるでサイレンススズカが一瞬消えたようにさえ見えた。

 これが、これこそが“異次元”の走り。

 まるで坂なんてなかったかのように加速したサイレンススズカがキングヘイローの猛追を置き去りにした。

 

 決着は静かに。

 終わってみれば二バ身差での落着となる。

 サイレンススズカを相手に二バ身は健闘したと言えるだろう。

 だがしかし、着差以上の実力差があることを他ならぬキングヘイロー自身が理解していた。

 

 己の得意とする距離での戦いだったのにも関わらず終始サイレンススズカが先行。

 かかりもあり、体力を消耗させることに成功した。

 狙い通り坂の前で足を使わせてリズムも崩した。

 展開だけならばずっとキングヘイローの掌の上だったと言える。

 その上で、一度も彼女の前に出ることは敵わなかった。

 

 完敗だ。

 端的に言って、格の違いを見せつけられた。

 

「~~~~ッ」

 

 思わず泣きそうになる。

 ここに観客(トレーナーたち)がいなければ涙をあふれさせていただろう。

 途中まで手応えがあっただけに悔しい。

 最後の最後、勝負にもつれ込ませたと思ったところでそれさえ許してくれなかった。

 

 特訓の成果は確かにあったのだ。

 それでも結果には繋がらなかった。

 心が折れそうで、足がもつれる。

 

「あ」

 

 疲れ切った体は反応してくれず、体が傾いていくのを感じていた。

 このまま無様に土をつけるのが相応しい気もしたがそれを許してくれない人物が一人。

 

「大丈夫か」

 

 キングヘイローを抱き留めたのは不動遊星だった。

 慣れない異性の匂いにドキンと胸が高鳴る。

 鍛え上げられた肉体ががっちりと少女の体を受け止め、そのまま抱き上げた。

 

「ひゃ」

「ケガをしているかもしれない、下手に動かさない方がいい」

「……」

 

 なぜかサイレンススズカからじっとりとした視線を受けつつ、コースの端へ。

 尻尾の先まで固まった状態でゆっくりと降ろされた。

 出迎えたのは準備万端といった具合のジャックだ。

 

 まず一番に頭からタオルをかけてくれたことがキングヘイローにとって何よりも嬉しかった。

 半泣きの顔を見られるなんて何が何でも嫌だったから。

 そんな少女のことを知ってか知らずか手早くシューズと靴下を脱がせてアイシングと、ケアを施しながら異常がないかチェックを進めていく。

 

「……大事ない、どうせ負けて気が抜けたのだろう」

「うぐっ」

 

 その通りとしか言えない診断にうなだれる。

 良いところなしだと落ち込む姿はまさに子供のようで、自己嫌悪のループが止まらない。

 そんなキングヘイローに顔を上げさせたのはもちろん彼からの言葉だった。

 

「これが貴様の現在地だ。

 勝負勘はシニア級にも通用したが身体能力で劣る、ならばやることは明白だ」

「……そうね」

 

 キングヘイローの瞳に火が灯る。

 己の立ち位置が明白になり、課題が浮き彫りになった。

 目指すべき先が見えた今、うじうじ悩んでいる暇などない。

 

 七月二日、朝。

 キングヘイローVSサイレンススズカ。

 第一戦目、二バ身差でサイレンススズカの勝利。

 

 ここが彼女の現在地。

 

 

 




ちなみにサイレンススズカはこの裏で遊星とお話中。
年下がどうにか必死で作った差をスペックの高さで捻じ伏せておいて、ちょっと危なかったから次は最初から本気出しますと負けず嫌いを発揮させているとか。
こいつ修羅か何かかな?
脳髄にターフ生えてそう。

次回、『何を隠そう、俺はダンスの達人だー!』にアクセラレーション!
 
 
以下蛇足です。
感想欄にて遊星とジャックの知名度ってどんなもの?という質問があったのでここでも答えておきます。

学園に顔を出した当初ならばテレビで見たことある!と騒ぎになったかもしれませんがジャックが現れて1年、遊星が現れて2年が経っています。
彼らにとってはもう遊星とジャックがいるのが当たり前です。
もちろん中には正しくそのすごさを認識している人がいますが、そういう人は「だからと言ってウマ娘でそれが通用すると思われても困る!」みたいに感じてます。
そんな状況でキングヘイローを使い潰すような特訓をしたジャックは相応にヘイトを買ってます。

スペ:田舎娘ゆえの無知。ふぁじーん。一身上の都合により遊星は好きじゃない。
グラス、エル:生まれと育ちが海外勢。日本のデュエリストチャンプ?ふーん。
セイ:他トレーナーと似た感じ。割とどうでもいい。

だいたいこんな感じです。
 
 
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