王者の鼓動、今ここに列を成す   作:小金さん

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深刻なゴルシウィークロスなので投稿です。
あのログインのたびに564個の石くれた美少女はどこ……ここ?
 
 


クラシック級/8月前半:友との語らい

 

  

「違う、考えるんじゃない。感じるんだ」

 

 そう遊星は言う。

 レース展開を考えることは間違いじゃない。

 しかしここ一番では頭でごちゃごちゃと考えていても間に合わない。

 直感の判断で動き出さなければ負ける瞬間というものがある。

 

 キングヘイローにも経験がある。

 思えば先の日本ダービーでもエルコンドルパサーは瞬時の判断でグラスワンダーとセイウンスカイの頭を取っている。

 あれがなければキングヘイローは二着だったはずだ。

 あの加速のタイミングは天才的としか表現を許さない神懸かった差しだった。

 とても考えて出せるものではない。

 

 だから彼の言いたいことは分かる。

 分かるが、できるかどうかは別問題だった。

 

「くっ!」

「もっと風を感じろ!」

 

 忠告を聞きながら砂浜ダッシュ。

 考えるなと言われても雑に走っていては砂に足を取られもつれそうになる。

 なんせ本日も朝からウマ娘たちの走り込みに使われてきた砂浜だ。

 その凹凸は普通に歩くだけで転びそうになるほど荒々しい。

 並走するサイレンススズカと当たらないように距離を保つにも思考が割かれる。

 

 カラーコーンが見えてきた。折り返し地点だ。

 キングヘイローは自然と切り返しの姿勢とタイミングを考えてしまう。

 とても風を感じている暇はない。

 正確には肌に当たる潮風をビシビシと感じているが、そこに何かを見い出す余裕はない。

 

 シャトルランのように折り返し、加速。

 砂が大きく舞い上がる。

 

 力が無駄に入ってる、立ち上がりの姿勢が悪い! もう! なんて無様!

 

 それに比べてサイレンススズカの姿勢は本当に綺麗だった。

 キングヘイローは不出来な自分ばかりが目について矯正を考えてしまう。

 

「……頭が良すぎるのも考え物だな」

「キングヘイローは視野も広い、見えすぎているくらいだ」

 

 トレーナー二人はそれぞれストップウォッチを片手に会話する。

 もちろん悪いことではない。

 最速の機能美とさえ言われるサイレンススズカを追い続けたこのひと月でキングヘイローの姿勢は格段に速いものへと変わっている。

 それは絶えず考え続け、観察し続けたからだ。

 だが長い時間をかけて矯正してきたものではないため、意識していないと途端に姿勢が崩れてしまう。

 それがキングヘイローを苦しめていた。

 

「ラスト一本!」

 

 走り切り、呼吸を整えていた二人が指示と同時に走り出す。

 この日の練習は日が沈むより早く終えられた。

 

 終了前に行ったレースは以下の通り。

 八月十日、夕。

 キングヘイローVSサイレンススズカ。

 第十五戦目、五バ身差でサイレンススズカの勝利。

 

 驚異の十五連勝だった。

 

 

 

 

 

     _____ヘイロー―――――

 

 

 

 

 

「……」

 

 キングヘイローは夕食の後、日の沈み往く海を前にして座禅を組んでいた。

 この場所は火曜のスリルなショックでサスペンスな劇場とかで犯人が追い詰められていそうな海岸だ。

 波打つ音と潮風が強く吹き付ける、とても精神統一には向かない場所を彼女は好んでいる。

 何故ならばここには人が来ないからだ。

 

 数多くのウマ娘がこの地域一帯には詰めかけている。

 日が沈むまであちこちで走り込むウマ娘の姿が見えることだろう。

 だがこの岩場は鍛錬には向かず、落ちたら死んでしまうであろう場所だ。

 好き好んでこの辺りで鍛錬をしようというのは、今のところキングヘイローだけだった。

 

 岩場の中でも平べったいところにシートを敷き、そこで足を組んでいる。

 両手は膝辺り、背筋はピンと伸びて髪の毛は一つにまとめ上げられていた。

 

 キングヘイローはこの数日、日が落ちるまでの僅かな時間をこうして過ごしている。

 胸の中にあるのは様々な感情。

 認められたい。強くなりたい。負けたくない。いいや、スズカ先輩に勝ちたい!

 そう言った想いと一つ一つ向かい合う。

 

 実はこれもジャックと遊星からのアドバイスだ。

 まずは己を知ることが肝要だと、その手段として瞑想が適していると聞いた。

 そして風の向こう側にこそ答えはある、とも。

 そう言われたからキングヘイローはこうして風の中にいた。

 

「……―――ドローッ!」

 

 唐突、風を切るような腕の振りが行われた。

 左腕にデッキはなく、その手に何が引き込まれたわけでもない。

 だがキングヘイローにはこの手札ではないという確信があった。

 

「不甲斐ないわね。それにキングらしからぬ姿を晒してしまったわ。

 笑わないでちょうだいね、セイウンスカイさん」

「あちゃ、ばれてたか」

 

 声をかけた先、崖になっているような場所からひょっこり現れたのはセイウンスカイ。

 手にはやたら長い竹竿があった。

 そう、ここで訓練する人はいないが釣り人にとっては絶好のシチュエーション。

 ウマ娘の中でも釣り好きを自称する珍しい人種がここにいるのは何の不思議もない。

 

「シーバス釣りに来てキングが釣れるのは想定外だったよ」

「どっちかと言えば釣れたのは貴方の方ではなくて? ……竹竿でバスって釣れるのかしら?」

「竿よかルアーだね、欲しいのは」

 

 言いながら見せてくるのは木を削り出して作られたルアーだった。

 パッと見た感じで市販品ではないのが伺える。

 

「貴方もしかして手作り?」

「そ、針以外全部現地調達。こんないい場所があるとは思ってなかったからさ、失敗しちゃったよ。

 来年は陸釣り一式持ってくる」

 

 どうやら持ってきたのは一握りほどの発泡スチロールに刺さっている釣り針だけらしい。

 むしろどうしてそれだけ持ってきたのだろうか。

 キングヘイローの疑問を読み取ったのかセイウンスカイはヘラヘラ笑いながら答えてくれた。

 

「だって針とナイフさえあれば大抵はこうやって現地調達できるんだもん」

「貴方、ウマ娘というより釣り娘の方がお似合いじゃない?」

「将来はそれで食ってくかなー。テレビとか出ちゃってさ、釣り番組持てたら最高かなー」

 

 需要はありそう、でも数回で逃げ出しそうというのがキングヘイローの率直な感想である。

 果たして複数回持つのだろうか。

 結局、今のように勝手気まま、独りで釣り糸を垂らしていそうだ。

 どこか彼女にはそんなイメージがあった。

 

 真面目に検討するなら定点カメラで釣ってる光景を映してるだけの長時間実況とか?

 なんて考え始める辺り、もう瞑想には戻れそうにない。

 ちなみにセイウンスカイが視聴者のこと忘れて釣りしてるだけの動画の需要なら絶対ある。見たい。

 

「っていうかルアーって手作りするものなの?」

「自分で作ったルアーでかかると最高だよ、初回は割とガチで感動する」

「ふぅん?」

「おー、キングも興味出てきた?」

「虫とかいるじゃない、絶対イヤ」

「キング、海釣りはイソメ釣りが最強だよ」

「イーヤー!」

 

 イソメの画像を見せつけられる前に立ち上がって撤収の準備だ。

 セイウンスカイが上がってきたということはそろそろ日が沈んで辺り一帯が暗くなることだろう。

 足元が見えなくなる前に戻らなければ危険だ。

 崖から落ちれば岩肌と波で簡単にミキサー体験ができてしまう。

 そうでなくても岩の段差や隙間に足を取られ、転んで骨折や足を痛めてしまえば一大事だ。

 

 ちゃちゃっと撤退の準備は整い、二人並んで歩き始める。

 どちらが言い出したことでもないが、何となくそうなった。

 

「今日何食べたー?」

「夕食ならニンジンラーメンセットとグレープジュースよ」

「ああ、あれ美味しいけどさ、凄い食べ合わせだね。

 ここのだったらニンジンカレー甘くて好きだな」

「エルコンドルパサーさんは辛くない!って怒ってたわね」

「あれさ、匙を差し出したらパクつくの可愛かったよねー」

「あら、エルコンドルパサーさんはいつだって可愛いじゃない」

 

 とりとめのない会話はどこまでも続き、気が付けば海岸地帯から抜けて辺りは砂浜に。

 太陽もとっくに沈んでお空には月がぽっかり浮いていた。

 でも目が慣れてきたら月の他に数えきれないほどの星々に気付ける。

 

「ここは星が多いわね」

「んー、晴れてると最高だねこりゃ」

 

 さざ波の音がなければ星々に抱かれているような感覚に陥っていただろう。

 それほどの星の瞬きがここにはあった。

 夜の海は驚くほどに暗い。

 だからこそ空の明るさは目に染みるほどだ。

 

「ねぇ、キング」

「何かしら?」

「皐月賞も日本ダービーも惜しかったね」

「皐月賞を取った貴方に言われたくないわよ!」

「たはは、こりゃ失敬。でも本当にギリギリだったよ。

 日本ダービーじゃとうとう惨敗、黄金世代で最下位だもん」

 

 不意に真面目な話が来たがお互い軽い調子で会話は続く。

 きっとその方がいいだろうとキングヘイローは思ったし、セイウンスカイもその気遣いに心の内で感謝していた。

 

「ステイヤーな私にとっては次の菊花賞が本命なんだけどさ。

 血気迫る表情で日に日に強くなってく皆を見てるとなんだか申し訳ないなーなんて思うわけですよ。

 特にスペちゃんとキングの二人ね、なんかもうプレッシャーが凄いじゃん」

「そ」

「そ、ってつれないなぁ」

 

 舐めるな!と叱られるか内心構えていたのに、想定外の反応でちょっと物足りない。

 そんなセイウンスカイの想いを髪の毛と一緒に払うのがキングヘイローだ。

 まとめてあった髪が解け、ふぁさ~と美しいウェーブが星空の中を舞う。

 

「ふん、誰が相手でも私は私の全力を出すだけ。

 セイウンスカイさんが手を抜いたって知っちゃこっちゃないわ。

 ただ後になってあの時は手を抜いてただけなんて言い訳したらぶっ飛ばすわよ!」

「うわー、怖い怖い」

 

 口ではそういうがセイウンスカイは何故か肩の荷を降ろせたような気分になっていた。

 自分の得意距離で決着をつけることにどこか後ろめたさがあったのだろう。

 

 だが隣にいる不屈の王は言うのだ。

 知ったことではないと。

 例えどんな距離だろうと全力を尽くすのだと。

 セイウンスカイはそこに一流の姿を垣間見た気がした。

 

「長距離を理由に貴方が手を抜くのなら普通に勝つだけ。

 本気を出してかかってくるのなら、その上で私が勝つだけよ。簡単な話じゃない?」

「もしも私が手を抜いて勝っちゃったら?」

「中距離でサイレンススズカ先輩に勝てるならその仮定を考えてあげてもいいわ」

「なにその無茶振り」

「うるさいわね、キングの今の目標よ!」

「あはは、なにそれ!」

 

 安心して思わず笑いだしてしまう。

 セイウンスカイの感じる後ろめたさなど杞憂だったのだ。

 距離で区分されている以上、それぞれ得意の距離は違って当然。

 そこを気に病むのがそもそも間違いなのであって、ただレース毎に全力を尽くせばいいのだと当たり前にいうキングヘイローの強さに甘えたかったのだ。

 さぼりがちで手を抜くことを隠さない変わり者でも、そのままでいいと言ってもらいたかったのだ。

 

 それを自覚するとセイウンスカイは徐々に顔を赤く染めていく。

 夜の帳があることを強く感謝した。

 月明りであれば赤面は見られないだろうと、あえて大きく笑った。

 笑って月を見上げた。

 

「うん、キングが友達でよかった」

 

 そしてそんなキングが相手だから私は本気で戦えるんだ。

 

「な、何よいきなり」

 

 逆にうろたえ始めるキングヘイローを見てセイウンスカイにもいつもの笑顔が戻ってくる。

 人をからかう時によくやるあの笑みだった。

 

「なーんでもなーい」

「ちょっと! からかってるのかしら!」

「きゃー、キングが怒ったー!」

「すぐ逃げるんじゃないの! もー!」

「牛だー、お牛様が出たぞー!」

「こうなったら絶対に許さないんだから!」

 

 合宿所まではしゃぎ合う二人の姿はバカップルのようだったとクラスで噂になったという。

 

 




苦戦続きのキングヘイロー。
これでもまだ心が折れないのは友がいてくれたから。
そんな彼女の友もまた、キングヘイローに救われているのです。

次回はそんな支えてくれる友人たちとのお話です。


次回、『地獄のコールに付き合う覚悟はあるか……?』にアクセラレーション!
 
 
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