誤字報告いつもありがとうございます。
助かってます。
単発で飛ぶ方のマックイーン引いたので投稿です。
「今年はやっぱりサイレンススズカだろ」
「いやいや、今年はなんといっても黄金世代だね。クラシックの話題を独占してるのは伊達じゃないよ!」
「確かに黄金世代も捨てがたいが俺はやっぱりメジロ家の秘蔵っ子が気になるね」
「あら、ジュニア級ならテイオーで決まりじゃない」
ガヤガヤといつも以上に騒がしい海岸。
ベルトパーテーションで仕切られた向こう側には記者やウマ娘ファンが詰めかけていた。
今日から三日間はトレセン学園で貸し切りとなっている海岸の一部が解放され、撮影などが解禁される。
合宿の間で取材が行われるのもこの三日間だけとあり、記者たちも真夏の熱気に負けない熱意で詰めかけていた。
下世話な話をすれば美少女たちの水着姿が撮り放題ということもあって熱心なファンやそうでない者も駆けつけて、毎年大盛り上がりを見せている。
その盛り上がりっぷりは臨時の屋台が出されるほどだ。
いつしか夏祭りもこの三日間にかぶせて行われるようになり、今年も盛況な様子だった。
今夜はきっと綺麗な花火が打ち上げられることだろう。
「絶対今年こそはジャックに取材を取り付けちゃうんだから!」
「そう言えばトゥインクルさん家はどこ狙いだっけ」
「ああ、あの名物記者ね、そういや最近見ないな」
「見た目だけなら美人なんだけどなぁ」
「嫁には欲しくないタイプだよな」
「ひどーい、乙名史さんに言っちゃおー」
「じゃお前乙名史が美男子だったら夫に欲しいか?」
「記者たる者として“たられば”には興味ないわね」
記者たちがこうしてワイワイしていられるのも近くに取材対象が来ないためだ。
張る場所を変えるか否か、その判断にこそ取材者の手腕が問われるというもの。
そしてそんな彼らの耳に少女の声が飛び込んできた。
「菊花賞で栄光を掴む! そのウマ娘の名前はー?」
「「「キングヘイローッ!!」」」
「おーっほっほっほ! そう、私の名前こそ、キングヘイローよー!!」
わざわざ声の届く距離、それもカメラの射線が空いた場所での騒ぎだ。
涙ぐましくも露骨なアピールである。
彼らは礼儀とばかりに一枚だけ写真に収める。
無駄に写真写りが良い。
苦笑が漏れる中、記者のウマ娘がキングヘイローとその取り巻きの会話を聞き取った。
「あの、トレーニングしなくていいんです?」
「あー! ダメダメ! へっぽこポニーちゃん! そこはキング最高ーっ!って言わないと」
「キング最高ー!」
「良くってよ!」
ダメである。
思わず記者のウマ娘もあきれ顔だ。
「あれが噂のご令嬢ね」
「金持ちって話だけどやりたい放題だな」
「いわゆる親の七光りって奴でしょ、マジであの子の親凄いんだから。
私の現役時代だともう現役卒業してたけど生きる伝説みたいな扱いだったんだよ」
「現役て、デビューしてすぐ沈んでったろ」
「うっさいわね、タマ蹴り潰すわよ」
「「「怖っ」」」
ともあれ涙ぐましい努力も評価には至っていない。
むしろデビュー前の後輩を無理矢理言うことを聞かせているようにしか見えなかった。
真実は後輩たちによる善意100%の応援なのだがそれを知るのは内部関係者ばかりだった。
その時、逆側の方から歓声とシャッター音が響き渡る。
「おおおー! スペとウンスだ!」
「ラッキー!」
スペとウンス、この場にいる誰もがその愛称で理解した。
理解してカメラをその方向へ向けた。
カメラの先にいたのはスペシャルウィークとセイウンスカイ。
言わずもがな、皐月ウマ娘とダービーウマ娘のコンビである。
気のせいか彼女たちがキラキラと輝いて見えた。
「はぁっ、はぁっ……! いたいたーっ、セイちゃーん!」
「……ややー、スペちゃんじゃないですか。そんなに急いで何かお困り~?
ちなみに今日の釣りのベスポジは海岸裏の岩場がですねー」
セイウンスカイはどうやらこの先にある出店に用があるらしく、財布をお手玉にして歩いていた。
キングヘイローのように取材待ち待機しているわけではないのでここで取材を持ちかけても無駄だろうことは想像に安い。
そんな彼女に何を言うのか、スペシャルウィークへ俄かに視線が集まる。
「ううん、今日は釣りじゃなくて、併走をお願いしたいんだ!
私、皐月賞で見たセイちゃんの走りが忘れられなくて!」
ストレートすぎる要求にセイウンスカイがたじろぐ。というか眩しさにやられている。
放っておけば浄化されてしまいそうだった。
「ううーん、これは直球。さすが主人公娘。さすスペ。
でも残念でした! 手の内見せないのがおさぼりウマ娘のポリシーなんでっ!」
言うや否やぴゅーっと駆け出すセイウンスカイ。
それは砂場であることを忘れさせる見事な走りだった。
記者たちのフラッシュを焚く手も止まらない。
「わっ、速い……! でも私だって!」
多少の出遅れなど気にしないとばかりにスペシャルウィークが後を追う。
再度焚かれるフラッシュ。
捕まえるだけならばスペシャルウィークの方が断然に有利。
すぐに捕まるだろうと誰もが思ったがセイウンスカイの逃げは想像のそれより長続きした。
その事実に唸る記者たち。
「セイウンスカイ、仕上がってきてるなぁ」
「うーん、俺はやっぱりスペシャルウィークのまっすぐさが好きだな。
彼女の背景を考えると、まだまっすぐでいてくれる事実に涙出そう。周りに愛されてきたんだなぁって」
「それにセイウンスカイをライバル視してるってのもストーリー性あって今日も飯が美味い」
「華もあるし、記事にしやすくて助かるわー」
そんな風にして盛り上がる記者たちを遠くから見つめるキングヘイローがいた。
_____ヘイロー―――――
「たった一度の走りであの二人は名前すらも呼ばれるのね……」
「貴様も名前で呼ばれたいのか?」
木陰から声をかけたのはキングヘイローのトレーナー、ジャック・アトラスだった。
タンクトップ姿で涼んでいる姿は無駄にウマ娘たちの視線を引き寄せている。
だが注目されるのに慣れきっている二人はそんな些細なことは気にしない。
「ええ、だって私には“キングヘイロー”という名があるのよ。
“誰かのご令嬢”だとか私には不必要な呼び方……そう思わない?」
不遜ではなく不必要。
その言葉が彼女の生き様を物語っている。
期待した返答はなかった。
ただ、外から彼女を呼ぶ声がする。
「キングさーん!」
「カワカミさん!? どうしてここに!」
現れたのは栗毛色の少女、カワカミプリンセス。
取り巻きのメンバーと楽しそうに会話しているのを散見するデビュー前のウマ娘だ。
実はキングヘイローのファンを公言しており、もはや取り巻き控えメンバーと言っても過言ではない。
実際、前のダービーではキングヘイロー直々にライブチケットを配られた一人でもある。
「どうしてってわたくしだってトレセン学園の生徒ですもの、合宿に来てもおかしくないはずですわ」
「んもう、そうじゃなくて! だからこそ貴方は真面目にトレーニングを」
「はい! なので! キングさんと一緒にトレーニングをしようかと!」
元気いっぱいに言い返されてしまえば絶句する他ない。
キングヘイローも自覚しているがどう見たってこれはトレーニングではない。
そこに参加したいというのだろうか。
それとも逆にトレーニングへ連れ出そうと?
混乱するキングヘイローにカワカミプリンセスは畳みかける。
「うふふっ、わたくし先ほど聞きましたの! 貴方が菊花賞を制するという宣言を!
わたくし、自ら勝利できると自信満々なお強い方とトレーニングしたいですわ!」
「……ちょっと貴方、色々とピュアすぎない?」
ちょっと将来が心配になる子である。
「地獄のコールに付き合う覚悟はありますか?」
「大丈夫、恥ずかしいのは最初だけ」
「カワカミちゃんもやろう!」
「ちょっと!? どうしてやらせようとしてるのかしら!?」
取り巻きからのこっちおいで宣言にうろたえるのは他でもないキングヘイローだ。
ジャックはため息を零して昼寝の態勢に入る。
休憩時間くらいは好きに過ごせばいいということだろう。
「ごくり……地獄のコール、これこそがヒミツの特訓ですのね……!」
「カワカミさん? 貴方つられてツボを買うタイプでしょう?」
カワカミプリンセスはとっくにやる気だ!
本当に将来が心配になる子である。
どうしてキングヘイローはこういう不器用な生き方しかできない子に好かれるのか。
これが分からない。
ところで話は変わるが類は友を呼ぶという言葉があるのをご存じだろうか。
「……まったく、この子たちったら……もー!」
結局そこで折れてしまうからキングヘイローはキングヘイローなのだろう。
早くツンデレという概念に謝って。
「いいわ! そんなに望むのなら私のコールに付き合う権利をあげる!」
「きゃー! キングの権利をあげる発言だわ!」
「これであと十年は戦える」
「キングのお墨付きです」
「やりましたわ!
これにてめでたくカワカミプリンセスも取り巻きメンバーに加入と相成ったのである。
「ところでトレーナーさんは参加しませんの?」
「ダメよ、彼、一度も参加してくれたことないんだから」
タッグを組んで一年と半年。
それだけの時間があってまだ一度もキングコールに付き合ってくれないジャックである。
彼の言い分では「やりたいものにやらせればよい!」とのことだった。
「シャイな殿方なんですわね」
「正直これやりたがるのは変人だと思う」
「ウソでしょ!?」
「でもキングちゃんが楽しそうだから私これ好き」
「え!?」
「「分かる」」「分かりますわ!」
「ええ……」
意外な事実も判明したところでキングコールは再開された。
その脇、眠ると決め込んだジャックの側にしゃがみ込むウマ娘が一人。
「あの、トレーナーさん。止めなくてもいいんですか?」
サイレンススズカその人だ。
記者たちから見えないように木の陰から現れた。
午前中はチーム全体で遠泳を行っていたはずだが、ジャージに着替えているのは万が一にも水着姿を撮られたくないからだろう。
トレセン学園のスクール水着は色気の感じづらいデザインになっているがボディラインはどうしても出てしまう。
細すぎる体形がややコンプレックスの彼女には何が何でも撮られるわけにはいかないのだ。
「構わん」
「でもどう見たって逆効果じゃ……」
再三に渡ってキングヘイローの名を叫んでいるが誰一人取り合ってくれない。
この暑さの中で騒ぎ続ければ罵声の一つも飛んでくるだろう。
そうなる前に辞めさせるのはトレーナーの仕事でもあるはずだ。
だがジャックは一切動こうとしなかった。
「菊花賞が終わるまではキングヘイローのやることに口を出さない。そういう“契約”だ」
「契約、ですか……」
双方が納得してるのならいいですけど。
そう零して騒いでいる彼女らを見る。
コールアンドレスポンスはなんとも楽しそうだ。
記者たちの目がなければ一度くらいは参加してみたいと思う程度には。
「……そっか、じゃれ合ってるんだ、あれ」
気分転換やストレス発散に繋がっているのだろう。
取り巻きたちは半分笑いながら応答し、キングヘイローの高笑いのキレも増すばかりだ。
そのうち我慢ができなくなってカワカミプリンセスが飛びつき、キングヘイローが砂に埋もれる。
そうなってしまえばあとはもう取り巻きたちによる抱き着き、倒れ込みが行われた。
キングヘイロー特大の「もー!」が響き渡る。
それはサイレンススズカの言うように、まるで子猫たちのじゃれ合いだった。
「遊星の奴はどうした」
「あ、そうです。遊星さんは荷物を取ってくるだとかで今日は朝からいません」
「そうだったな」
短すぎる返事も慣れたものだ。
どうやらジャックはテコでも動く気がないらしい。
立っているのも何だし、木陰で涼ませてもらおうと彼の隣に座り込み、溜まった熱を散らすように髪をかき上げた。
それは生暖かい風が潮の匂いと混ざっていくのが分かるような気さえする穏やかな時間だった。
「こうなったら反撃よ! みんなでカワカミさんを押さえなさい!」
「ラジャーです!」
「アラホラサッサー!」
「なんだっけそれ?」
「ズルイですわズルイですわ! せめて一人はこっちにくださいまし! キャー!」
波の音に紛れて少女たちのはしゃぐ声がする。
「ふふっ、ホントに楽しそう」
僅かな休憩時間は、こうして少女たちのじゃれ合いを見ている内に終わってしまうのである。
_____ヘイロー―――――
「大変だ、明日の分の日焼け止めがなくなりそうなんだった」
「あったよ、日焼け止め!」
「でかした!」
今日も騒がしい合宿所の一部屋。
ひと月ほど前は連日死んだように突っ伏していた彼女たちも体力がついてきたのか、それとも単純に慣れて効率的に過ごせるようになったのか、最近は消灯時間までキャイキャイはしゃいでいる。
そのおかげでキングヘイローの独り静かな時間はないに等しくなったが、この騒がしさを歓迎している自分に気付いてからは好きにはしゃがせていた。
それはそれとしていい加減うるさすぎるので静かにさせようかと思ったところでノックの音が部屋に響く。
開きっぱなしの扉から小首をかしげて顔を覗かせたのはエルコンドルパサーだ。
少しだけ落ち込んだような視線で呼びかけられ、キングヘイローはため息と共に立ち上がった。
「少し風に当たってくるわ」
「セイの次はエルとデート?」
「ひゅー! キングモテモテー!」
「茶化さないの!」
消灯までには戻っておいでよーという軽い言葉を聞きながら二人そろってエントランスへ。
道中も会話はない。
エルコンドルパサーはそのままバルコニーまで行ってしまう。
のんびりと追いかけてみれば数日前と同じような星空が出迎えてくれた。
「……」
柵へと手をかけ、エルコンドルパサーはまだ言い辛そうに月を見上げる。
何か言おうかと思ったキングヘイローだが、無理に場を繋ぐ必要もないと黙って柵に背を預けた。
さざ波と少女たちの声、そして時折虫の音が聞こえる。
八月も終わりが近く、夜は大分涼しくなった。
半袖で過ごすには過ごしやすいというよりもはや肌寒いと言えるだろう。
キングヘイローは纏っていた夏用のストールをエルコンドルパサーの胸元にかけた。
二人で使用するには短いが、くっついていれば暖かい。
触れ合った肩のぬくもりがあれば充分だ。
「ありがとデス」
「やっと喋ったわね」
「……は、はは……そうデスね。だんまりはエルらしくありません!」
「静かになさい、っとにもう」
耳元で叫ぶんじゃないわよとキングヘイローがぼやけば元気な声でエルコンドルパサーが言い返してくる。
いつもの雰囲気が戻ってきたかと思って顔を覗き込めば真剣な眼差しが月を見上げていた。
「エルとグラスは菊花賞を辞退することにしました」
「そ」
「ケ!? それだけデスか!?」
「うっさいわね……何となく予想はしてたのよ」
何を言われるかとドキドキしていれば想定していた話を持ち込まれただけだった。
むしろ何故そんな程度のことでこれだけ雰囲気を出せるのだろうか。
心配して損したわ、という言葉をぐっと飲みこんでキングヘイローは言葉を続ける。
「どうせジャパンカップでしょう?」
「うう、お見通しデスか……」
「貴方は散々海外進出を口にしていたもの、内心狙ってるのは知ってたわ。
グラスワンダーさんもそうね、お目当ての相手と戦うには最短距離でしょうし」
そちらに集中したいというのは充分理解できる。
重賞中の重賞と言っても過言ではないジャパンカップだ。
そこへクラシック級の二人が参加枠に滑り込んだというだけでも驚きだが、あの二人ならばという思いもある。
自分たちとの決着を付けずにという不満もあるのだが門出を祝いたいという思いの方が強い。
「今グラスワンダーさんは?」
「スペちゃんたちに話してるところデス。
明日の取材でエルたちはこのことを発表しマスがその前にみんなには伝えたかったんデス!」
だから手分けをして伝えたと、そういうことだろう。
キングヘイローは華奢な少女の肩口へ頭を預けた。
「……そう、寂しくなるわね」
「ごめん」
「いいのよ。それにお別れってわけじゃないもの」
エルコンドルパサーは数年後にも海外進出を果たすだろう。
いつかは来るであろう別れの時。
だが今はまだその時ではない。
「グラスワンダーさんにはジュニアチャンプの称号を奪われたおっきな借りがある。
貴方にだって私は勝ち越せてないんだから……」
「デスね! エルは強いので!」
「ふん……だから、決着は菊花賞ではなく他のレースでつけさせてもらうわ」
最も強いウマ娘を決めるクラシック級最大のレースでこそ道は違えたが、これからも走り続ければ何度だって道が交わることだろう。
その時にまた勝った負けたとはしゃげばいい。
だからこそ今は祝福の言葉を贈るのだ。
「出走おめでとう、お二人の活躍を心から応援してるわ」
「うん、ありがとデス」
「それとね、彼女と一緒に出るのなら、あの子の目を向けさせるのは貴方の役目よ?」
言葉は返ってこなかった。
ただ片腕でぎゅっと頭を抱きしめられる。
それが答えだった。
キングヘイローも軽く抱き返す。
「……うーん、ハグってなんだか恥ずかしいデスね」
「貴方が雰囲気を出すからでしょ、おバカ」
「最初にこれ使って雰囲気出したのはキングの方デスよ?」
「文句があるならそのストールを返しなさい!」
「やーデース!」
神妙な空気もそれっきりだ。
零距離のまま始まる口喧嘩一歩手前の応酬。
消灯時間になり、先生に呼び出されるまで二人はそうしていた。
そうやって笑いあっていた。
夏合宿も終わりが近づく、そんなある日の出来事だった。
ロマンチックなシチュエーションになると無駄にムード出したがるお年頃です。
もちろん後日クラスのみんなから散々からかわれることになりました。
私のことは遊びだったんだね!とセイもノリノリ。
スペは半分くらい本気にしました。
その横でグラスはタンポポ茶をキメてました。
そこまで書くと一万字を余裕で突破しそうだったので無情のカット。
さて、伏線回が続いたので次ははっちゃけるぞー。
次回、『ライディングデュエル! 遊星VSジャック!』にアクセラレーション!
水曜更新、間に合わなかったらすまん!